ボクの部屋3
部屋の奥に置かれていた真っ白な大きなベッドは、なんと天蓋つき!物語に出てくるようなベッドだ。
ベッドの天蓋には様々な星が描かれており、まるで小さな宇宙のよう。
横になって見上げれば夜空を眺めているような気持ちになれそう!
敷かれた寝具には、濃紺と水色のカバーがかけられていた。
そして……
「あああ!ネコ!おっきなネコさん!!」
そう、枕元に大きなネコのぬいぐるみが!
しかも抱きしめて眠るのにちょうどいいサイズ!
ボクは急いで駆け寄ってネコさんをぎゅむっと抱きしめてみた。
「ほわああああ!ふっかふかあ………」
柔らかくもちもちした最高の肌触り!
うっとりと頬を擦り付けていると、「気に入ったか?」とジル兄さま。
「もしかしてこれ、ジル兄さまが?」
キラキラとジル兄さまを見れば、お兄さまは照れたように目をそらした。
「……子供はみなこういうものが好きだと聞いたのでな」
あ゛ーーーーー!!
あ゛ーーーーーーーーー!!
ボクはもう辛抱溜まらず、たたたっとお兄さまに駆け寄ると、ドカン!
ネコさんごとお兄さまのおみ足にしがみつく。
「好きですっ!!ネコさんもだけど、ジル兄さま、大好きーーーーっ!!」
もう!!もう!!お兄さま、最高です!その優しさ、プライスレス!
お気遣い満点ではないですか!!
「お部屋もとっても素敵です。
ベッドで横になると、きっと夜空の星を眺めている気持ちになれますよ?
お兄さま、一緒に試してください」
ほらほら、とベッドに誘導し、えいやっとお兄さまをベッドにドーン!
「く、クリス?」
焦ったような声を出すジル兄さま。
すかさずボクもお隣に寝転がって「ほら」と天蓋を指さした。
横についていた紐をひっぱると、ファサっとベッドの天幕が降り、まるで小さな隠し部屋だ。
見上げた先には満天の星空。
「………ふわあ……やっぱり素敵だったあ………。お兄さま、とても素敵なベッドですね。
お外で夜空を見ているような気持ちになれます。
こんな素敵なものをお兄さまと一緒にみられるなんて、ボクは幸せものです」
「……………」
あれ?お返事がない。
「ジル兄さま?どうかなさいましたか?」
「いや……………」
お兄さまは不思議そうに胸を押さえて首を傾げていた。
「⁈胸が痛いのですか?苦しいとか?」
「痛い……訳ではないと思うのだが……」
「ええ……?どうしたのでしょう?」
大丈夫だろうか?酷い痛みではないようだけれど……。
そっと手を伸ばして撫でてみる。手当っていう言葉があるくらいだし、きっと少しくらいは効果があるはずだ。
この優しいお兄さまの痛いのがなくなりますように。
それと…………どうか笑顔を取り戻して、みんなに誤解されなくなりますように。
「……いたいのいたいの、とんでいけー」
「なんだ?それは」
「えっと……おまじない?お兄さまの痛いのがなくなるように」
物語みたいにヒールが使えたらよいのだけれど。
昔は魔法を使える人が沢山いたというが、魔法はとうの昔に絶えてしまったから。
「魔法は使えませんが、祈ることはできますから。
お兄さまの痛いのが無くなるように、祈りをこめたんです」
祈りをこめて撫でていると、お兄さまから驚いたような声があがった。
「……まさか、クリスは魔法が使えるのか?」
「え?使えませんけれど?だって魔法は前時代のお話ですよね?
でも、そうおっしゃるということは、少しは良くなられたのでしょうか?」
「……なんだか……ここがとても温かくなった。
それに……身体が……どこか楽になったような気がするのだが……」
ここ、とボクの手に手を重ねるお兄さまは、なんだか迷子の子供のような表情をしていた。
「ふふ。良かった。
もしもそうなら、それはボクの大好きが伝わったから、かな?
知っていらっしゃいますか?大好きってすごい力を持っているんです。
悪いものを倒せるし、悪魔だってやっつけます。
とにかく、最後は愛の力が全てを救うのです!
どんな物語でもそうなっているでしょう?」
「そうなのか?……うむ。クリスが言うと本当にそのような気がしてくるな。
愛の力が全てを救う、か。確かにその通りだ。
母上と知り合って、父上はとても幸せそうなお顔をされるようになった。
暗かった我が家がとても明るくなった。母上の愛は確かに我が家を救ってくれた。
……ふっ。クリスは私を救ってくれるのだったか?」
「はい!もちろんです!ボクはジル兄さまのためにここに来たのですから!
神様がそうしてくれたのだと思います!」
断言すると、重ねられた手がぎゅっと握られた。
お兄さまがボクの方を向く。
じいっとボクを見つめ、まるで騎士の誓いのような言葉を紡いだ。
「…………ならば、クリスのことは私が救おう。
どんなことがあろうと、クリスのことは私が守る。どんな困難があれど救ってみせよう。
クリス、この兄を信じてくれるか?」
その夜空のような深い紺の瞳が、カーテンの帳の中できらりと光る。
ああ。まるで夜空に輝くお星さまみたいだ。
ジルベスター様はずっとボクのお星さまだった。ジルベスター様のことを思うだけで世界が眩しく見えたの。
信じてくれるか?答えなんて決まってる!
「もちろん!ボクがジル兄さまを信じないことなんて只の一度もありませんから!
ボクがどんなにお兄さまが大好きなのか、お見せできないのが残念です」
過去に集めたジルコレクションを見せられたらいいのに!
「どうしてクリスがそこまで私を思ってくれるのかは分からないが……。
クリス、君の大好きを疑ってはいない。
自分でも不思議なのだが……むしろ私は、クリスのことは誰よりも信じられると思っている」
嬉しくて涙がでちゃうことってあるんだね。
ボクはお兄さまにバレないようにこっそりと鼻をすすったのでした。