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ボクの部屋

それから、ジル兄さまがボクをお部屋に案内してくれた。


「荷物はもう運ばせてある。

部屋は勝手に用意してしまったのだが、よいか?

気に入らないようなら変更もできるし、模様替えもできるから安心して欲しい」


氷の令息とか表情筋が死んでるとか言ったの、誰?

表情筋、めっちゃ仕事していますけど⁈

今だって目を優しく細めているし、口元だってゆるりとしたカーブを描いている。



「はい!ありがとうございます!」

「いい返事だ。クリスはとても元気がいいな」


当たり前のように頭を撫でられた。お兄さま、優しすぎない?


「……ボク、ボク、もう頭洗いませんっ!」

「ははは!またそのようなことを!それは不衛生だ。髪はきちんと洗いなさい」

「ジル兄さまがそうおっしゃるのであれば、きちんと洗いますっ!」

「ふふ。うむ、そうしてくれ」


またしてもポンポンと頭を撫でられた!


どうしよう。こんなに推しに優しくされていいのだろうか……。

前世でどんな徳を積んだのだろう、ボク。

でもよく考えたら、転生しても推しの記憶しかないような前世のボクが、そんなに最後のご褒美的な……?


「クリス?」


気付けばジル兄さまがボクを覗き込んでいる。

心配そうにボクに伸ばされた手を思わずガシっと掴んでしまった。まるで命綱のように。


「あの、あの、ボク、死んでも悔いはありませんのでっ!

あっ!悔いはありましたっ!

だって、死んだらお兄さまをお護りできなくなっちゃいます!

どどど、どうしましょう⁈」


軽くパニックだ。だって死ぬだなんて考えたことはなかった。

まだ5年しか生きていないんだもの。せっかく推しに会えたのに!


そんなボクにジル兄さまが珍しく声を荒げた。


「いや、死なないだろう⁈クリスは死なぬ!

それとも、やはりどこか身体が悪いのか⁈

医者を呼んだ方が良いのではないか?

大丈夫だ。私がついている。

決してクリスを死なせたりはせぬからな!」


ガバリとボクを抱きかかえそのまま下に運ぼうとするお兄さまを、ボクは慌てて止めた。


「大丈夫です!身体はまったくもって健康です!」


「……本当か?無理をしてはいないか?」


「ホントです!ボクあんまり風邪もひきませんしっ!

お母さまは『天然さんは風邪ひかないのよ』って言っていました!

深層のご令息?ではないからだと思います」


胸を張って自慢すれば、ようやくジル兄さまがボクをおろしてくれた。

よかった!信じてくれたみたい。


ジル兄さまのパニックでボクのパニックも収まった。

自分より慌てている人を見ると逆に落ち着くものなんだね。

というか、冷静なお兄さまがあんなに慌てるとは思わなかったな。

それだけボクと仲良くなってくれたということでしょうか?そうなら嬉しい。


ほっとしたのもつかの間。

今度はジル兄さまが震えだした。


「……天然さんは……っ……風邪を…ひかない……っ。

あ、ああ、確かに、深層の、ご令息では……っ……ないようだな」


「お兄さま?大丈夫ですか?発作とかですか?」


「……ふう。………こほん。ああ、大丈夫だ。問題ない」


ボクよりもお兄さまの方がよほど心配だ。どうされたのだろうか?

もしかして、ボクみたいに緊張しているとか?


「えっと、なにか緊張されていらっしゃるのでしょうか?

あの、ボクもこんな立派なお屋敷ですし、ボクは伯爵家の子でこちらのお家は公爵さまなので、とても緊張したのです。

でもお二人ともとても優しい方だったので、大丈夫になりました。

なので、ボクがいうことではないのかもしれませんが……お兄さまも緊張しないでください。

なんといっても、ボクたちは家族ですので!」


きゅっとお兄さまの手を握り締めて一生懸命に伝えれば、お兄さまがまた優しく微笑んでくれた。


「……ああ。そうだな。私たちは家族なのだからな」


あと、これも言っておこう。お伝えすれば、少しくらいはお兄さまの気持ちが軽くなるかもしれないから。


「お母さまから、お義父さまもお兄さまも表情筋が死んでいると聞きました。

お顔が動かないから誤解されやすいけどお二人ともとっても優しいのよ、って。

でも、ボクはそんなことはないと思います。お二人とも、特にお兄さまはお顔もばっちりです!

表情筋もいいお仕事をされていると思います!

どうかご安心ください!」


安心すればもっともっと表情筋が活躍するようになると思いますので。

リラックスですよ!


拳を握って力説すると、またお兄さまの発作が起こった。

口元を押さえてふるふると震えていらっしゃる。

もうこの発作はそういうものとしてスルーしたほうがいいのかもしれない。

そのうちに緊張も解けて発作が起こりにくくなると思うから。

それまでは、見て見ぬふりをしてあげよう。








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