アイク様、ご乱心
大会トップスリーは「皆の声援を受けながら最後に入場する」というのがこの舞踏会のお約束。
ということで……
そろそろみんな会場入りしたかな、というころ。
ようやく僕たちの入場です。
司会者の方が声を張り上げ名を読み上げます。
「舞踏大会、優勝者!ジルベスター・クライスと、その『姫』であるクリストファー・クライス!」
ひゃああ!みんなの視線が一斉に!
一瞬ビクッとしたボク。お兄様が「大丈夫だ」というように繋いだ指先をトントンとしてくださいました。
うん。そうですね。お兄様とご一緒なんだもの。怖いものなどありません!
「準優勝!ウエイン・バインドと、ティモシー・モーリス!」
んん?!ティム?!
バッと後ろを振り向けば、ドヤ顔ウエイン様に強引に腕を掴まれたティムが死んだ目でぐったりとしております。
ボクのエスコートが無くなったティム。なんとまだエスコート相手を決めていなかったウエイン様に捕まってしまったようです。
これは……申し訳ないとしか………。
「三位!アイクリッド・セイファー殿下!ご婚約者のジルベスター様は優勝者の権利である『姫』の指名を遂行された。そのためアイクリッド様は特例としてエスコート無し!」
そ、そうか!ピンク頭と出会うまではお兄様をエスコート、ピンク頭と出会ってからは婚約者を無視してピンク頭を腕にぶら下げていましたから……
お兄様をエスコートできない、かつピンク頭もいないというイレギュラーが起こると一人になってしまうのですね。
なんとなく側近であるイクシス様に頼むのだとばかり思っておりましたので、ちょっと意外です。
イクシス様は………あ!会場におります!リオと一緒です!
そういえばリオが誘うといっておりました。
アイク様より先に兄弟ペアで入場されていたのですね。そういうことでしたか!
ボクが姫となったばかりにアイク様に申し訳なかったかな、とチラリとアイク様に視線をやれば……
ん?
んんん?
アイク様、どうしてそんなにボクを見つめていらっしゃるのですか?
ボクへの視線に気付いたのか、お兄様から不穏な空気が漂い始めました。
アイク様もお兄様もいったいどうしたのでしょうか?
と、突然アイク様がニコッとほほ笑まれ、声を張り上げました。
「ここで私から、本来エスコートするはずであったジルベスターに頼みがある。良いだろうか?」
お兄様に返事をする隙を与えず、すらすらと言葉を続けます。
「私は、ジルベスターの権利として『姫』を認めた。
しかし、その結果、エスコートする相手を失ってしまった。さすがにそう簡単に選ぶわけぬはゆかぬのでな。そのことはジルベスターも理解してくれるだろう。
そこでだ。どうか私にも君の選んだ『姫』を共にエスコートさせて貰えないだろうか?
無理を言っているのは理解している。しかし特例ということで、勝利を逃し、婚約者を失う憐れな敗者に、情けを憐与えて貰えないか?もちろん、私に正式な相手が決まるまででかまわぬ。頼む」
思わぬアイク様の言葉に、司会の方も言葉を失った。
つまりはアイク様はこう言ってのけたのだ。
「ジルベスターが婚約者以外の『姫』を選んだことで、実質的にアイク様とジルベスター様の婚約は解消となる」のだと。そのうえで「今のところはアイク様の婚約者は未定。これから新たに婚約者を探すことになる」のだと。
正式な「婚約解消」ではないが、そうとっても構わないということ。
アイク様!この機に乗じて陛下の許可を取る前に周りを固めてしまうのですね!
そして婚約者不在の間は……
あれ?
え……?
ボク?ボクを簡易的に婚約者代わりにすると?!
はああああ?!
つまりは「ジルベスターの『姫』だけど、兄弟だから婚約者じゃないよね?なら、この際私の婚約者が決まるまでその代理をお願いしちゃうね!いいよね?だってジルの婚約解消のためだもん。ね?」ってこと?!
隣のお兄様からとんでもない怒気がアイク様に向かって放たれております。
そりゃそうです。
だって『姫』の共有だなんて、聞いたこともありません!
しかもあんな言い方をされたら、絶対に断れないじゃないですか!!
「なんてことを言い出すんですか!正気ですか?」と目で訴えれば、にこっと甘く微笑まれてしまいました。
アイク様?!いいかげんにしてください!
ギリイ、と横から不穏な音が致します。
お兄様、そんなに歯を食いしばるとせっかくの素敵は歯が痛んでしまいますっ!!
「………………仕方がありません認めましょう。しかしクリスはあくまでも私の姫。あなたの姫ではない。それをお忘れなきように。私の代わりの婚約者が早く見つかりますことをお祈り申し上げます」
「良かった!では……」
スタスタスタ、とアイク様がボクの右横に並びました。
お兄様と繋いだ反対側の手を「ふふふ。これからよろしくね?姫」とご自分の腕に。
正式なエスコートの形です。
ボ、ボクはどうしたら………
オロオロしていると、「ごめんね?でも、チャレンジせずに後悔するよりいいのかなって。微笑んで頷いて?」とアイク様が小声で囁かれました。
言われたようにニコッとほほ笑んで頷けば、左側から冷気が漂います。
ぎゅうううっと強く強く手が握られました。
お、お兄様……ちょっと痛いです……
「ありがとう!では、皆、この舞踏会を楽しもうではないか!」
まだ唖然としたままの司会者を無視し、さっさと開会を宣言するアイク様。
わあああっ!!
会場は一気にお祭りムードに。
あちこちから困惑に満ちた視線や嫉妬に満ちた視線がボクに注がれます。
一部からは心配そうな視線も。
ああ………どうしてこうなってしまったのでしょうか。
左にお兄様。右にアイク様。
二人に手を取られたボクは、なんとなあく死んだ目になったティムに共感を覚えたのでした。
なんてこと!!




