舞踏会3
お兄様の後で衣装に着替えたボクは、驚いてしまった。
どうしてかというと……
聞いていたものとデザインが変わっていたから。
少しデザインを変えて基本的にはお揃いで色違い、というのは同じなのですが………
燕尾服のように丈が長めの上着がお兄様。
逆に丈を短めにキュートにしたものがボク。
というはずだったのです。
なのに……
ええ?!ウエストから下に布が足されておりました!
上半身はスッキリと、ウエストから下は、バックにいくつものドレープを作り、ふんわり。まるでドレスのようなシルエットです。丈は膝上ですけれど。
全体的になんともエレガントな仕上がりとなっております!
「ええ?!」
驚くボクの声が聞こえたのか、部屋の外から「ははは!」というお兄様の楽しそうな笑い声が聞こえました。
「……お兄様、とっても素敵なのですが……ボク女の子みたいじゃないですか?」
なんだか少し恥ずかしいです。
モジモジするボクを上から下までじっくりと眺め、ご満悦なお兄様。
「うん。やはりとても良く似合っている。『姫』にふさわしい。とても可愛いぞ、クリス」
ですから、カッコいいがいいのですってば……。
ボクはお兄様をお護りするナイトになりたいのに……。そりゃあまだ力は足りておりませんけれど、伸びしろだと思っておりますので。そこはブリードさんもおりますし、知恵をお借りしてなんとか!
ちなみに、ブリードさんはバスケットに入れて使用人さんに預けました。
ダンスをするから、懐に入れたままだとブリードさんが酔ってしまうかもしれませんので。
よく眠っているみたいだったけれど、一応「目を覚ましたらおやつを上げてください」と頼んでおきました。
「『姫』にふさわしい、ということは、最初からボクを姫に指名なさるおつもりでこのデザインにされたのですね?」
だったら先に言っておいてくれたら!そうしたら、ボクだってもっとカッコよく「謹んでお受けいたします」だとか、「勝利を捧げるのがボクなどでよろしいのでしょうか?役者不足かもしれませんが、お兄様のご栄光に影を落とさぬよう精一杯務めさせていただきます」だの、何かカッコいいセリフを考えておきましたのにっ!
一寸恨めしいきもちで「じとー」と睨むと、「そんな可愛い顔をするものではないぞ?」とほっぺをぶにっとされてしまいました。
今のは「怖い顔」です!
会場には既に正装した多くのご令息、ご令嬢が。
見慣れたクラスメートの姿もちらほら。
普段子供のような方が、正装した今日はちょっとだけ大人に見えます。
ご令嬢も、ソワソワと頬を染めてエスコートを受けているのがとてもお可愛らしい。
「ふふ。みんな楽しそうですね」
「クリスは楽しくないのか?」
「ボクですか?とってもとっても楽しいです!だってお兄様とご一緒できるのですから!」
本来ならエスコートする側の肘にエスコートされる側が手をそっと乗せて入場するのですけれど。
ボクとお兄様の場合は、きゅっと手を繋ぐ形に。
「姫」ではあるのですが「ボクはお兄様の家族です」「弟なのです」って「特別」を皆様に見て頂きたくて。お兄様にわがままを言ってしまいました。
繋いだ手をぶんぶんと振ってお兄様を見上げます。
「えへへ。お兄様、ありがとうございます」
「残念だけれど、正式なエスコートはまた今度に取っておくことにしよう」
上に挙げた手に「ひょいっ」とキスを落とすお兄様の瞳は会場を照らす明りを反射しキラキラと輝いております。
濃い夜空の瞳に落ちるいくつもの星の煌めき。
なんて美しいのでしょうか。
「…………」
思わず言葉もなくその瞳に釘付けに。
ゲームの中のジル様はとても素敵でしたが、当然ですけれど、こんなに近くでその瞳を見つめるなんていうことはできませんでした。
ああ。あの頃のボクもお兄様のことが大好きでしたけれど、今みたいに胸が苦しくなったことはありませんでした。
大好きで幸せで嬉しくて。ジル様の悲しみに涙し、苦しみに胸を痛め、その報われぬお立場に怒りを覚え。
ボクの毎日はジル様でいっぱいでしたが、それでも、こんな風になるなんて思っておりませんでした。
幸せで幸せで苦しい、なんて。なんて贅沢なのでしょうか。
「……ご褒美?」
あのボクをイジメた幼馴染にすら、そのおかげで今があるのだと思えば感謝したくなるほどです。
「……クリスに意地悪をするものがいるのか?」
すうっとお兄様の目が細められました。
ボク、心の声を口に出してしまったみたい。
「違うんです。あの、こんなに幸せでいいのかな、って。前世とかで嫌なことがあったりして、その頑張っていた分のご褒美が今なのかなって思ったんです」
なんて言うんだったかな。
「塞翁が馬」だっけ?確か……幸せか不幸せかは分からない、みたいな意味。
幸せと不幸が縄のように編み込まれていて交互にやってくる、とか?
でもね、ボクはこう思うんです。
哀しいとき。辛いとき。苦しいとき。
そう言うときって「もうダメかも」って思うでしょう?
ボクもそう。安全なお布団の中で小さくなってお部屋の中に籠っていたあの頃。
ジルベスター様というボクの推しに出会った。
誰がなんといっても、悪役なんかなじゃい。とっても素敵なボクのお星さま。
ジル様がボクの世界を広げてくれたの。
親友を運んでくれたの。
毎日を「楽しい」って思わせてくれた。
幸せはね。交互にくるのじゃないのです。
「どんなに辛いことがあっても、大丈夫だよ。いつかきっとご褒美があるからね。もうちょっと頑張ろうね」だと思うのです。
不幸だと思ってたことでも、いつかきっと「幸せ」に変えられる日が来るからね、ってことなのかなって。
「つまりは……ボクは今とっても幸せで嬉しいということです!」
お兄様は「……そうか」と、繋いだ手をぎゅっと握ってくれました。




