舞踏会2
こうしてお兄様の「姫」として認められたボクは、その日の舞踏会から「姫」として正式にお兄様のエスコートを受けることになった。
エスコートを頼んでいたティムには、試合の前に「クリスを姫に指名したい。その時にはエスコートは私となる。すまない」と伝えてくださっていたのですって。さすがの根回しです!
でも……いくらアイク様との婚約解消の布石なのだとしても、お兄様の横に立つ権利をボクが頂くだなんて。本当に良いのでしょうか?
好意を持つ方がいないからといって他の人を選ぶと面倒なことになるから?
確かにそういう意味では「弟」であるボクが一番安全なのかもしれませんが……。
「お兄様、ボクを姫にしてしまって良かったのですか?」
ボクだってそれなりに可愛いとは言って頂けますが、お兄様の輝きに比べたら月とスッポン、薔薇とぺんぺん草。
弟として横に立たせて頂くならまだしも、婚約者の代わりにエスコートされるだなんて、おこがましすぎて。
申し訳ないが過ぎます。
今ならまだ変更できるかもしれません。
ボクとしてはお兄様への配慮のつもりだったのですが……
その言葉をどう受けとったのか、お兄様はその形のよい眉を顰め、涼やかな美貌を曇らせてしまわれました。
「勝手に指名してしまってすまない。だが、クリス以外に姫は考えられなかったのだ。先にクリスに確認しておくべきだった。嫌だったか?」
「と、とんでもない!お兄様にされて嫌なことなどありません!嬉しいです!
でも、いくら婚約解消のために必要だからと言って、ボクなんかを『姫』にしてしまって良いのかと。
だって、本当なら婚約者以上に愛する方を選ぶものなのでしょう?
将来のお兄様のお相手に申し訳なくて……」
しょんぼりと肩を落とすボクの頭に、温かな感触。
お兄様がそっと手を置いたのです。
「クリス?私はきちんと『私が婚約者よりも愛する相手』を選んだのだが?クリスは、私がクリス以上にアイクを愛していると思うのか?」
「!!い、いえ!それは無いです!アイク様よりもボクの方がお好きだと思います!」
だって、アイク様よりも大事にして頂いているってい自信はあるのだもの。
だからこれだけは胸を張ってお伝えすると、お兄様はニコッとほほ笑まれました。
「うん。良かった、ちゃんと伝わっていて。『その通りです』と言われたら立ち直れないところだった」
「ボク、お兄様がボクを大切に思ってくださっているってちゃんと知っております。お兄様だってボクがお兄様を大好きなこと、知ってらっしゃるでしょう?」
「ああ。知っている。とても嬉しいと思っている」
「えへへ。良かったあ!ボクもです!」
ぎゅっと抱き着けば、お兄様もお返しとばかりにぎゅっとしてくださいました。
ああ、推しの抱擁……プライスレスです!
「ね?問題ないだろう?私はきちんと婚約者より愛する相手を選んだ。それがクリスだというだけだ」
そう言われたらそんな気がしてきました。
つまり、ボクが「姫」で全く問題ないということですね!
「はい!理解できました!ボク、『姫』に選んで頂けて嬉しいです!皆さんに認めて頂けるように頑張りますね!」
でも一つ問題が………
ボクはこそっとお兄様に打ち明けた。
「あのね、お兄様。ボク、ダンスがまだ上手じゃないのです。先生に教わって入るのですが……あの、リズム感というものが無いようで……。頑張りますけれども、足を踏んでしまったらごめんなさい」
足を踏まれるととても痛いそうなのです。
レッスンのあと先生がご自分の足を撫でながら「次からはモフモフのお靴を履いて踊ってみましょうか?」と冗談じゃなさそうに言っておりましたもの。
けっこうドキドキしながら打ち明けたのですが、お兄様は「そんなことか!私はこれでも鍛えている。クリスの一人や二人足に乗せたところで痛くもかゆくもない。それにクリスは羽根のように軽いからな」と笑ってくださいました。良かったあ!
舞踏会があるのは夜。
今日だけは着付けのために使用人さんが学園に入ることが許されるので、あちこちに主人を待つ使用人さんが衣装を抱えて大行列です。
着替えるための部屋がたくさん用意されていて、学生が爵位の順に順番で着替えることになっております。
ボクの順番は、公爵家ということでアイク様の次。
お兄様がまずお着換えになられて、それからボクになります。
着替えて出てこられたお兄様を見て、思わず「うわあ……」
言葉になりません。
なんて。なんてカッコいいのでしょうか。
こんな12歳がこの世に存在した良いのでしょうか?
この世界の人は、みんな年齢よりも上に見えます。
例えるなら、日本人とアメリカ人くらいの違いがあって、子供でもかなり大人びているのですが……。
それにしても限度があります!
お兄様のカッコよさは、逸脱しております。
既にこれで完成形!完璧です!
お兄様の瞳の色である濃紺を基調にボクの髪の色である金糸でツタの刺繍が入ったお兄様の衣装。
クラバットにもボクの瞳の色である水色を取り入れてくださっております。
先ほどまでのアーマー姿とは一転!
洗練された貴族そのもの!優雅で気品に溢れたそのお姿はなんとも煌びやか。
衣装自体はお兄様らしく派手でなくシックに纏められているのですが、それを身に纏う「中の人」が衣装に箔を与える、というミラクルを起こしておるのです。
ピタリと足に添ったトラウザースが、長いおみ脚に程よく乗った筋肉を引き立てております。
全体的にシャープで細身なラインなのですが、それでも貧相に見えないのは、鍛え抜かれた筋肉のバランスあってこそ。
きゅうと絞られたウエスト、パツンと張った胸筋。その逆三角形の完璧さには数学者すらひれ伏すことでしょう。
「お、お兄様……さいっこうに……素敵ですう……」
は、鼻栓を!!鼻栓をくださいっ!!!
危ないところでした。試合後すぐに手配しておいてよかったです。
せっかくの衣装にシミをつけてしまうところでした。
ちなみにボクの衣装にもお兄様の色が取り入れられております。
瞳の色である水色を基調に、お兄様の色である銀糸のツタの刺繍。しかも胸のおリボンが濃紺なのです。
お兄様がデザインしてくださったものなのですが、今思えば「兄弟だからお揃い」なのではなく「エスコートをする」つもりでお揃いで仕立ててくださったのでしょう。
お兄様ったら!!




