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キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!  作者: をち。
幼年期

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勝者の権利

ああ、どうしよう。

お兄様のお姿を目に焼き付けたいのに、涙で曇って見えません。

ハンカチは既にびしょびしょ。

クラスメートや周囲の方々が提供してくださいましたが、それも入場の際に……。

というわけで、必死で袖や襟元になんとか涙を吸い取らせているのですが、それももう……。

制服ってどうしてこう吸水性に劣るのでしょうが。もっと「吸水力2倍!」とか「いざというときに役立ちます」なグッズがあればいいのに!!


「お゛お、お゛、おに゛いさま……っ!すご、すごかっだでずううっ!ずびっ……がっごよぐで……ずず……っ」


ああ!素晴らしさを吐き出したいのに、鼻が詰まってなんてもどかしい!



「ほら、クリス、これでちーんしな?」


リオが素敵なハンカチをくださいました。

え?こ、こんな可愛らしいハンカチ?リオのじゃないですよね?これはどなたの……

きょろきょろと見回せば、10メートルほど離れたところにいらっしゃる女性が、にこにこしながら手を振っております。

皆さんの手から手を渡ってボクのところにまで届いたようです。

なんてお優しい!


「い、いいのですか?」


汚してしまうのに、申し訳ない……。

躊躇するボクに、女性もその周りの方々も力強く頷いてくださいました。

ありがたい!

皆様の温かな励ましに力を得たボクは、おもいきって「……ちーん!」

ああ!ようやくこの思いを吐き出せます!ありがとうございます!!


「お兄様は神でした!ウエイン様という筋肉の塊と対峙しながら、一歩も引かぬその丹力!

ギリギリで技を見切るその卓越した思考と技巧たるや!

しなやかかつ優雅にひらりひらりと攻撃を躱す様は、まるで蝶!その流麗な剣捌きは、戦いの中にありながらもまるで至高の舞いのようでした!舞踏大会であることを忘れてしまいそうでしたもの!

それにしても、剣を踏み台に軽々と宙を舞った重力を全く感じさせぬその動き!背中に輝ける翼の幻が見えました……。

ああ、自分の語彙力の無さがもどかしいですっ!」


一気にお兄様の素晴らしさを語っていると、「きゃあああ!!」という悲鳴が起こりました。

え?どうしたの?


「クリス」


促され他方に視線をやれば……



「ジ、ジル兄様!」


試合を終えたばかりのジル兄様が、ボクのいる観客席の手すりのすぐ下までわざわざいらしてくれておりました!

な、な、なんてこと!

お疲れでしょうに、まだ汗も引かぬお身体で!


慌ててギリギリまで駆け寄るボクに向かって、お兄様が満面の笑みを見せます。

曇天の雲さえ吹き飛ばすような輝かしき笑みに、思わず「うっ」と胸を押さえてしまいました。


「クリス、勝ったぞ!」


少年のように無邪気な笑顔!

あの表情筋が死んでいたお兄様が、このような笑顔を……!

うりゅ、と瞳がまた霞んでしまうのを、急いで目をしぱしぱさせて耐えました。


「お兄様、素晴らしい試合でした。この試合はまさに学園の歴史に残るものとなるでしょう!

ああ、さすがお兄様です!分かってましたけど!

最高にカッコよくって、ボク、倒れそうになっちゃいました」


「ふふ。良かった。頑張った甲斐があったな」



お兄様はボクを試合の熱冷めやらぬ瞳で見つめたまま、スッとまた地面に片膝を付きます。

そして二本の剣をボクに向かって両手で掲げるようにして持ち、それを並べて地面に置いた。


「クリストファー・クライス様。

此度の武術大会での勝利、君に捧げたい。

私の『姫』になって欲しい。

私は君を護る剣となり、盾となろう。

どうか私に、君の一番そばで君の手を取りエスコートする権利を」


そのまま空いた片手を胸に当て、赦しを請うように頭を垂れた。


これって……これって………

物語でよくある王子さまがお姫様に求婚するシーンみたいですっ!!


思わず本当のお姫様になったみたいな気がして、胸がキュンキュン、心臓がどぎゅんどぎゅん。

かああ、と頭に血が上ってしまいました。


尊くも凛々しいそのお姿にあちこちからため息が漏れております。


ですよね。

ボクもまるで映画の中にいるみたいだと思ってしまいました。


だって。


ボクが姫だなんて!

まさか、本当にボクでよろしいのですか?


姫って、婚約者の代わりになるみたいな、婚約者じゃない好きな人を堂々とお相手にできる権利みたいなものでしたよね?

アイク様との婚約解消狙いだからといって、弟をお相手に選んでしまってもよいものなのでしょうか?

確かに兄弟愛も愛の一種ではありますが………。



!そうか!

アイク様の婚約者であることから逃れるには、これしかないということなのですね!

お相手がいない今、ボクを選べば角がたちませんものね!

理解しました!


どのみち、お兄様の望みならばボクの答えは決まっているのですけれども。



一瞬でここまで考えつつ、ボクは全力で両手で大きく上に〇を作った。

だってお兄様のお願いですよ?

もちろんお受けいたします!ふつつかな姫ではございますけれども!


「勿論です!お兄様の姫だなんて、光栄です!

ボクでよろしければ、ぜひ!

お兄様にはつり合いませんが、鋭意努力致しますので!!

ボクもお兄様の剣になって盾になれるようにがんばりますね!

…えっと……頼りなくて申し訳ないのですが、筋肉が付くまでもう少しだけお待ちください」


ふんっ、と細腕で力こぶを作って見せれば(見えなって?よく見てください!ほら!あるでしょ、筋肉!)、目を丸くしたお兄様が嬉しそうに「ふは!」と笑った。




そんなお兄様を見たボクは、無意識に手すりを乗り越え、お兄様に向かってダイブ!


「お兄様!優勝おめでとうございますっ!!」


待っていたかのように両手を広げたお兄様、難なくボクを受け止めてくれました。


「ありがとう、クリス!最高の勝利だ!」


ぎゅむっと抱きしめて……頬にキス!


えええ?!み、み、み、みんな見ておりますのにいいっ!!


うわーーーっ!!

大歓声が起こります。


え?皆さま、よろしいのですか?

「あなたみたいなちんちくりんが姫だなんて!」とか言わなくてよろしいのですか?


思わず挙動不審な態度であわわしてしまいました。

そおっと一番近い前の席に目をやれば……リオもクラスメートも、高学年の皆様までにこにこと手を振ってくれております。


お兄様のファンらしき方々は?

ちらりと「ジル様」呼びしていた方々を見れば、目に涙を浮かべてハンカチをギリイ。こ、怖っ!

あ、あれはいけません。今回のこととか関係無しに、あんな怖い方はお兄様にお勧めでません。論外です。


ふるりと身を震わしているのをどうとったのか、お兄様がそっと耳元で囁かれました。


「ふふふ。これでクリスと私は公認になったね?」


ひい!イケボです!少し掠れたような艶やかな低音。思わず耳を押さえて真っ赤になってしまいました。



そんなボクをよそに、いつの間にか傍に来ていたアイク様。

スッと片手をあげて会場を黙らせます。

さすが王族の威光です。


会場中の視線が自分に集中したのを確認すると、満足そうにひとつ頷き、こう宣言されました。


「あー、皆も知っての通り、ジルベスターの現在の婚約者は私だ。その私、アイクリッドが認める!

舞踏大会優勝者の権利として、クリストファー・クライスをジルベスターの姫とし、その扱いを婚約者と同等のものとする!」


すかさずウエイン様が続けます。


「異論のあるものは俺が相手になる!名乗り出るように!」


しーん。


ですよねー。

お兄様が規格外なだけで、ウエイン様だってかなりの実力者ですもの。

異論があっても名乗り出れるはずがありません。そこに待つのは死です。



こうしてボクはお兄様の「姫」となったのでした。

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