ジルベスターの異変
供給過多で目を回しただけだったから、ボクは割とすぐに目を覚ました。
が。
……ど、ど、ど、どうしよう!
大変なことになってる!
ソファみたいなところに寝かされているんだけれど、なんと、推しがボクの頭を膝に乗せ、ボクの手を握っている!
あまりのことに戻った意識をもう一度失いそうになった。
でも「医者を呼ぶのだ!」(お義父さま?)だの「濡れタオルを頂けますか?」(お母さま?)だの大騒ぎする声が聞こえたから、根性で目を開けた。
お医者さんなんて呼ばれたら恥ずか死ぬ!!だって、お医者さんの前でボク「推しの供給過多で!」なんて言うの?無理無理無理!
「待ってえええ!ボク大丈夫だからあああああ!!!」
「うわっ!」
いきなり叫んだボク。
驚いたジル兄さまが、思わず「うわっ!」
推しの「うわっ」頂きましたー♡
って、そんな場合じゃあなかった!
「クリス!良かった!」
すっごく心配かけたみたいで、一斉にみんな集まってきた。
お母さまはもちろんだけれど、会ったばかりのお義父さままでかなり心配してくれているようだ。青ざめたお顔に汗が浮かんでいる。
「クリス、とても心配したのよ?まさか倒れるなんて!
いったいどうしたの?もう大丈夫?
どこか痛いとか苦しいとかは無い?」
お母さまがボクの髪をそっとかき上げ、顔色チェック。
「大丈夫。どこも痛くないし、苦しくないよ?」
だから心配しないで、と言ったんだけれど、それでもお母さまは納得しない。
「だって倒れたのよ?何でもないはずないでしょう?
あら、少しお顔が赤い気がするわ。お熱でも出てしまったのかしら?」
するとすかさずジル兄さまがボクの額に手を当てた。
ひえ!
かあああ、っと一気に体温が上がったボク。
ジル兄さまは、心配そうに形のよい眉を顰めた。
「確かに少し熱い気がしますね。顔も赤い。
もしや、クリスは身体が弱いのですか?気を遣わせ、無理をさせてしまったのかもしれません。
ジェームズ、毛布を持ってきてくれ。それと、熱さましの薬湯を頼む!
医者を迎えに出してくれ!」
「ジルベスター、医者に予め準備しておいて貰うよう、馬車より先に早馬を出そう。その方が早い。
ゆっくり休めるよう、クリスはベッドに寝かせたほうがいい。私が運ぼう」
「いえ、父上、クリスは私が」
テキパキと指示を出すジル兄さまとお義父さま。
あああああ!!ち、違うんですうううう!!
ボクは生まれつきとっても丈夫だし、熱じゃなくって萌えなんですううう!
これは恥を忍んで言うしかない。
「ごめんなさい!本当に大丈夫なんですっ!
あの、あの、えっと、嬉しすぎて頭がボワンってなっちゃっただけですのでっ!
ジル兄さまがあんまりにも素敵すぎて、嬉しいがボクのキャパシティを超えちゃっただけなのです!」
ピタリと皆が動きを止めた。
しーーーーん。
泣きそう……こんな初対面になろうとは………。
ボクの馬鹿………っ!
やがて無の表情でお義父さまが口をひらいた。
「……ジェームズ、一旦医師は保留だ」
そして今度はボクに向き直り、真剣な表情でこうお聞きになったのでした。
「クリス、確認させて欲しい。特に気分が悪いだとか身体の不調は無い、ということで良いのか?」
表情がない?こんなに分かりやすく「心配だ」と書いてあるのに。
ボクはそのお気遣いが嬉しいやら申し訳ないやら。とにかくいたたまれない……。
「はい。元気いっぱいです……単に興奮しすぎただけなので…」
「……つまり……ジルベスターとの対面が嬉しく興奮しすぎたゆえ気を失った、ということで良いのだろうか?」
「……仰る通りです……。ジル兄さまの笑顔があまりにも素敵でいらしたので………素敵の供給過多で……」
「素敵の供給過多……」
ああ……こうして言葉にされてしまうとなんて恥ずかしいんだろう。穴があったら入りたい……。
だってお兄さまのあの笑顔!あの抱擁も反則だよ!
守りたい、推しの笑顔!
ちらりと見えたお母さまは、呆れかえった顔をしている。
きっと後から叔父さまとかに「クリスったらね、初顔合わせで……」とかって告げ口されるやつだ。
ジル兄さまのお顔?とても見る勇気は無い。
初対面からこんな……!
恥ずかしい義弟でごめんなさいジル兄さま……!!
下を向いて心の中でひたすら詫びていると、そっと頬に手を添えられた。
そのまま優しく伏せた顔を上げられる。
「は?ふえ?あ、あの、あの、ジル兄さま……?」