銀翼の騎士
ボクの言葉に、お兄様は当たり前のようなお顔でこう仰ったのです。
「クリスが来ているとアクアが教えてくれてな?
ふふふ。会えてよかった。クリスの顔を見ることができただけで、力が湧いてくる気がする」
微笑みながら、ボクに向かってスッと手を伸ばすお兄様。
ボクも手すりに身を乗り出してえいやっと背伸び。
やった!お兄様に手が届きました!
ボクの指先に優しく触れながらお兄様がほほ笑みます。
「落ちないようにするのだぞ?」
「大丈夫です!ちゃんと足もついておりますから!
お兄様、お兄様、試合、頑張ってくださいね!一番前で応援しておりますから!
お兄様が勝ちますようにって、お祈りしております!たくさんパワーを送りますね!」
「ふふふ。とても心強いな。……クリス、試合の前に伝えたいことがある。よいか?」
「?はい。なんでしょうか?」
お兄様はボクの目をじっと見つめながら、王子様がお姫様にするみたいにボクの指先にそっとキスをなさいました。その瞳孔がぱあっと開き、紺の色を濃くしております。ああ、まるで星を宿した夜空のようです。
その輝きに魅入られてしまい、言葉もでません。
「私は君に誓う」
スラリと腰に差した双剣を抜き、両手を高々と天に掲げました。
「私は必ず勝つ。そしてその勝利をクリスに捧げよう」
その言葉と共に、さあっと光が剣に降り注ぎ四方に散りました。
幾重にも連なる光の輪に彩られたお兄様のお姿は雄々しくも神々しく。
剣から放たれる光がまるで戦いを司る織天使の双翼のようで。
余りの感動に胸を押さえながら、溢れ出る涙をそのままに、何度も何度も頷くことしかできなかったのでした。
その後、どうなったのか覚えていません。
なんとか気絶はせずに耐えきりましたが、気が付いた時には涙と鼻水とでぐしゃぐしゃな顔をしたまま、ハンカチの上に座り込んでいました。
「クリス?!どうしたんだ?え?!何があったの?!急いで食べて追いかけて来てみれば……なんで泣いてるの?誰かにイジメられた?私に話してごらん?」
ハッと気づけば慌てた顔のリオに抱え上げられ、ハンカチで顔をぬぐわれておりました。
お、お母さまみたいです。
「はっ!ち、ちがいます、違いますっ!」
慌てて手を左右に振るボクに、リオは怖い顔。
「誰を庇っているの?
君の兄上ほどではないが、私にもそれなりの力はある。任せてくれないか?
君みたいな小さな子をいじめる卑劣なヤツなど、庇う必要はない。でしょう?」
可哀そうに、と頭まで撫でてくれるのですが……ボク、誰かにイジメられるような小さな子なのでしょうか?
でも、心配して急いできてくれたんですね。優しいね。リオ。
そんなリオに言いにくいのですが……
「えっと……えとっ、ボクいじめられておりませんっ。お兄様にお会いして……」
「え?!ジルベスター様?え?!ジル様が君に何かするとは思えないんだけど……」
とたんにリオ、ものすごい困惑顔になってしまいました。
「何があったの?」
それでも優しく問いかけられ、あまりの申し訳なさに穴があったら入りたい……。
「……お兄様が……尊すぎて………」
「はあ?」
こんなに渾身の「はあ?」は聞いたことがありません。
「ですから……あの、あの美しくも尊いお兄様の、アーマーを纏われた貴重なお姿を一番に拝見することが叶いまして……」
話しているうちにまたあの至上のお姿が脳裏に浮かんできました。
「輝かしいミスリルのアーマーが陽の光を反射し、お兄様の周りに幾重もの光の輪を作り出しておりました!そのお姿はまさに大天使セラフィムがご降臨されたがごとし!
あまりの神々しさに目がくらむほどだったのです!
それに、それに……!!いつもは降ろしていらっしゃる髪を後ろで高く結っていらっしゃいました!その麗しい首筋がむき出しになっていたのです!
あれはダメですっ!目の毒ですっ!貴重なショットではありますが、皆さんの目に、と思うと……!あああっ!
それでお兄様がボクの手をとってこう……勝利を誓われて……」
言いながらボガンと顔が赤くなる。
「双剣を天に掲げられたお兄様のお姿は……まさに、まさに大天使さながら。剣から四方に光が反射し、まるで大きな翼を背負われているようで……」
ほう、と感嘆の息が漏れてしまいました。
あ、キスについては内緒です。なんだか勘違いしてしまいそうで、恥ずかしいんだもの。
「……ああ。もういい。大体分かったから。……なんというか……うん。……幸せそうでよかったよ」
リオの目が死んでおります。
身の置き所がない気持ちというのはこういうことを言うのでしょうか?
でも、あんなお兄様を目にすれば誰もがボクみたいになると思うのですが……。
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