ジルベスター様旋風2
ボクがちゃんと否定した「ボクとお兄様が愛を叫びあっていた」という間違った噂は、ボクの素晴らしい熱弁にもかかわらず修正されませんでした。
何故ならば……そう、お兄様ご自身が否定なさらなかったから!
どうしてなのですか、お兄様!ボクなどに愛を叫ぶなど、お兄様の恥になってしまいますよ?
お兄様にも「しっかり否定してください!『クリスが私に大好きを叫んでいただけです』って!」とお願いしたのですが、にっこり笑って「言いたいように言わせておけばいい。私がクリスを愛していることに間違いはないのだからな?」と頭を撫でられて、おしまい。
なんという器の大きさ!
お兄様くらいになると他の人になにを言われようと気に留めないということなのですね!知ってた!
ええ!了解です!
大丈夫、ボクがしっかりと否定すればいいことですので!
お兄様はそのままの度量の深い素晴らしいお兄様のままでいらしてください!
というわけで、ボクは毎日積極的に「ボクの方がお兄様が大好きなのです」アピールをしております。
ボクの努力の甲斐があってか、入学から半年たった今では、お兄様の素晴らしさは学園でも当たりまえのように受け入れられ、ボクが廊下を歩いているだけで色々な方が声をかけてくださいます。
「クリスくん、昨日ジルベスター様がね、体術の授業で歴代トップの記録を出したらしいわよ?さすがよねえ!」
「ええ?!そうなのですか?教えてくださってありがとうございます、先輩!
さすがはお兄様です!ふわあああ!見たかったですっ!」
「クリス、ジルベスター様なら先ほど図書室で見かけたぞ?勤勉な方だよな!」
「そうなのですか?あとで行ってみます!ありがとうございます!
そうなのです、お兄様はとっても勤勉なのです。邸の書棚にもたくさんの本があるのですが、全て読んだのですって!凄いですよねえ!」
「クリスくん、この前君の兄上にノートをお借りしたんだけど、凄く見やすくて助かったよ!おかげで追試にならずにすんだ。これ、お礼に!」
「え?ええ?ボクに下さるのですか?お兄様にではなく?」
「あはは!ジルベスター様はクリスくんが喜ぶのが一番嬉しいはずだからな!それ、人気のカフェの菓子。そんなに甘くないから一緒に食べな?」
「えっと、えっと、一緒にということであれば喜んでいただきます!
お兄様は甘いものは苦手なのですが、でも、甘くないお菓子は召し上がるのです!ご存じだったのですか?
食べる時にちょこっとだけお口の端が嬉しそうにあがるのが、とってもお可愛らしいのですよボク、お兄様のそんなお顔を見るのが大好きなのです!
えへへ!お気遣い頂きありがとうございます!」
こんな感じで、学年問わず「今日のお兄様情報」を下さったり、お兄様への感謝の気持ちを伝えて下さったりするのだ。
そう、もうこれは「ジルベスター様旋風」と言っても過言ではありません。
学園のあちこちでお兄様への好意が飛び交い、お兄様への感謝がささげられているのですから。
お兄様が皆様に慕われているのを実感できて、ものすごく嬉しい!
これって既にお兄様の「悪役ルート」は壊滅したのでは?
だってもうお兄様のことを「冷酷」なんて言う人はおりませんし。
どちらかというとお兄様の印象は「整った怜悧な美貌なのに、ほほ笑むお顔はとてもお可愛らしい」「冷たそうに見えてとてもホットなお方」という風に変わっております。
なによりも「面倒見がよく、弟をとても大切にする優しいお兄様」というのがすっかり定着致しました!やったあ!
アイク様やシス様、ウエイン様のアイウ攻略対象の先輩方(もう三馬鹿なんて呼んだら失礼ですからね。とっても良いお友達になりました!優しくて頼りになる先輩方です)とも打ち解け、親友ともいえる気軽なやり取りをなさっておりますし。
これなら断罪されるなどということもないでしょう!
あとはピンク頭を退けるだけですね!それくらいこの素晴らしい絆があればきっと楽勝です!
今日もニコニコ顔で先輩方からお兄様情報をいただくボクの横で、ティムとリオが同じくニコニコしながら待っていてくれております。
「えっと、二人ともお待たせしてしまってごめんなさい」
「あはは!いいよ。クリスもすっかり学園の有名人だね?」
「?有名なのはお兄様ですよ?だってボクのお兄様は…
「はいはい、クリス、そこまでにしようね?授業に遅れちゃうだろう?」
「あ!そうでした!ありがとう、リオ!後でお兄様たちに会いに行きましょうね?シス様にも会いたいでしょう?」
「ふふふ。そうだね。クリス、お気遣いありがとう」
ぽんぽん、とリオに頭を叩かれ、どういたしまして、と笑い返す。
リオとシス様は、血縁ではありますが、直接の血の繋がりはないのです。
リオのお父さまとお母さまには長いことお子ができなませんでした。それで遠縁のお家から後継として赤子をもらって養子にしたのです。それがイクシス様。
ところがその翌年妊娠が判明。まさかの実子誕生!そう、それがリオなのです。
そういう意味での「血縁だけど血の繋がりは無い兄弟」なのでした。
勿論ご両親はシス様とリオ二人とも同じように扱っているのでしょうが……。
通常は長子が後継となるのだけれど、血の繋がらない長男と血の繋がった二つ下の実子。兄弟の年齢の近さもあり、親戚筋には「長子を実家に帰して次男を後継にすべきだ」という人もいるのでしょう。
お二人の立ち位置は微妙なようです。
「兄上は私にどこか遠慮しているふしがあってね。私はもっと兄上と親しくなれたらと思うのだけれど、なかなか、ね。
私としては兄上に当主となっていただきたいんだ。兄上が継いで私が傍でお支えするという道もあるしね?
ふふふ。兄上はとてもお可愛らしいだろう?できればその道を選んでいただきたいと思うのだけれど……。
それもあって私は少し警戒されているのかもね?」
「?そうなのですか?ボクは公爵家を継がれたお兄様のことをずっとお支え出来たらと思うんです!何ができるかはわかりませんが、たくさん勉強してお兄様のお力になれたらなって。
リオも一緒に頑張ろうね!シス様にもきっとリオ君の気持ちは伝わると思いますよ?」
「うーん……リオの言っていることとクリスの言っていることってちょっとずれているような気がするんだけどなあ……。まあ、これだけは言っておく。リオ、無理強いは良くないと思うよ?」
「確かに、無理やりはダメですよ!仲良くなりたくても、押し付けてはダメです!」
「ふふふ。そうだね?無理強いはしないよ?ゆっくりいくつもりだから大丈夫。こうみえて気は長いんだ」
「……やっぱりずれてる気がするなあ……」
とにかく、ボクもリオも「お兄様と仲良し大作戦」決行中なのです!
ボクの方は正確には「お兄様が大好き大作戦」なのですけれど、似たようなものですからね。
ちなみにティムのところは妹さんが二人。五歳と三歳なのだそう。いつもお世話しているからかティムにとても懐いていて可愛いのですって!
「お人形遊びに付き合わされるのだけはちょっと困る」なんて言いながらもその表情はデレデレ。
ティムの妹さんもお兄さまが大好きなんだね!ティムはとっても優しいから、分かる!
ボクにとってのジル兄さまが、妹さんたちにとってのティムなんだろうな。
「兄弟仲良しってとっても素晴らしいですよね!
頑張りましょうね!」




