ジルベスター様旋風
そう、翌日登校したボクたちを待っていたのは、学園中の好奇の視線。
いつものようにお兄様に手を引かれて馬車を降りれば……
「お兄様、なんだかボクたち……みんなから見られていませんか?」
あちこちから視線を感じるのですが、ボクがそちらを見るとすいっと視線をそらされてしまうのです。
こ、こ、こ、これは……
「はわわわ!い、いじめ?これってば、イジメなのでしょうか?ボク、皆さんに嫌われるようなことをしてしまいましたか?どうしましょう!」
半泣きでお兄様に問いかけると、お兄様が優しい笑顔で断言してくださいました。
「私のクリスが人に嫌われるようなことをするはずがない。だろう?」
近くの生徒に向かって問いかければ、慌てたようにうんうんと頷いてくださいます。
「ほ、ホントですか?ボク、皆様に何か失礼なことをしてしまったのでは?」
「どうだ?答えてやってくれ」
「そ、そんなことありません!」
「ではなぜ私たちを見ていたのだ?」
「あ、あ、あの、あの、お二人の仲がとても良ろしいので!素晴らしいなあ、と……!!」
!!そうだったのですか?
「お兄様、お兄様、ボクたちの仲良しが素晴らしいのですって!えへへ!嬉しいです!」
「か、可愛…
「もう行ってよい。ありがとう」
「は、はいっ!失礼いたしましたぁっ!」
お兄様に聞かれた方はスタタタタっと行ってしまわれました。
仲良しって言ってくださって嬉しかったのでもう少しお話が聞きたかったのですが、仕方ありません。
ボクは先程とはうって変わってご機嫌に。
お兄様の手をきゅっと握ってにこにこです。
「ふふふ。良かったな、クリス。みな私たちの仲をうらやんでいるだけだったようだぞ?
言った通りだろう?クリスはとても良い子でこんなに可愛いのだ。クリスを嫌うようなものはおるまい」
そ、そこまでではないと思う。お兄様ってば!
実際のところ、お兄様がほほ笑むたびに回りから「きゃあ!」だの「わあ!」だのといった歓声が上がっておりますので、視線の大半はお兄様のファンの方だったのだと思います。
ボクに、というよりもお兄様に向けられた視線だったのでしょう。さすがはお兄様です!
でも「仲が良くて素晴らしい」と言って頂いたのは嬉しかったので、お兄様には内緒。
「ボクたちの仲をうらやんでいる」ということにしておきましょう。
せっかくだから、とボクを教室に送り届けてくださったお兄様。
「昼に迎えに来る」と言い残して三年生の教室に去って行かれました。
ああ、後姿もカッコよ!背筋がピンと伸びた凛々しきお姿は、人混みの中におかれましても隠し切れぬ高貴な輝きを放っております。
飛び級でお兄様と一緒に学園に通うことができて本当に良かった!
ゲームは高等部から始まるから、初等部の制服を着たお兄様なんて見たことがありません。レア中のレアです。
といっても、学校に入学されてからは目が皿になるくらい見つめてきたお姿ではあるのですが、学園という場でこのお姿を見ることができるなんて感慨がひとしお。眼福極まれり、です。
お兄様のお姿を見えなくなるまで見送っていれば、最後にこちらを振り帰り優しく目を細めて手を振ってくださいました!
素晴らしきファンサです!!
「生きててよかった!!」
心から感動に浸っていると、呆れたような声が。
「おはよう、クリス。何を拝んでいるの?」
「あ、リオ!おはよう!えっと、お兄様の尊いお姿をお見送りしていたんです。
リオはシス様とご一緒なのですか?仲は深まりましたか?」
「あー……。うん。本当に君たちは仲がいいね。
私の方は……どうかなあ?仲良くなれたらいいと思っているんだけどね?」
話ながらさり気なくボクと手を繋ぎ席に誘導してくれるリオ。リオもボクと同じ弟なのに、なんだか行動がお兄ちゃんっぽい。
リオの中ではボクは「面倒をみてあげないといけない小さな子供」のようです。
ひとつしか違わないのですけれどもね!
カタンと椅子に座ると、リオはそっとボクを手招き。
「?」
「あのね、私のことよりも……クリスの方はどうだったの?
昨日ジルベスター様と校内で愛を叫びあってたって噂になってるんだけど、ホント?」
ん?
今何かおかしなことが聞こえたような……
「リオ、ボクの聞き違いだったらごめんね?ボクとお兄様がなんて?」
するとリオはニヤニヤしながらずいっとボクのお耳にお顔を近づけてきました。
「だからね『昨日クリスとジルベスター様が、愛を叫びあってた』って。何をやったの?」
え?えええー?!それは誤解です!
どうしてそんなことに?!
ボクはきっぱりと根も葉もないうわさを否定した。
「そんなこと言ってません。愛を叫びあっていたのではなく、大好きを伝えていただけですよ?」
パチパチ。
リオが目の前でお手手をパーンされたネコみたいなお顔になった。
「?え?あれ?私がおかしいのかな?……それってどう違うの?
っていうか、噂は本当だったんだね。さすがはクリス!」
「?いえ、だから本当じゃありませんよ?愛を叫んでいたのではなく、大好きを叫んでいたんです」
「??」
「???」
なんだか話が通じないみたい。
「愛はね、特別な時に伝える大切な言葉でしょう?
大好きはね、いつでもたくさん言っていいんです。素敵だなあとか、嬉しいなあ、とか、カッコいいと胸がきゅんでいっぱいになって溢れて『大好きー』ってなるでしょう?
大好きって、伝える時も伝えられる時も嬉しいので!ボクはお兄様に大好きを沢山伝えると決めております!」
「……うーん……分かるような分からないような?」
ええ?どうして分からないの?
ボクはガタンと椅子から立ち上がり、熱弁
「大好きは、推しに捧げる至高の言葉なのです!
ボクのお兄様は大変素晴らしい方で、どれだけ言葉を尽くしてもその素晴らしさは語り尽くせません。
そうするとどんどんそれが積もっていくでしょう?
『大好きー!』って吐き出さないといっぱいいっぱいになってしまうのです!分かりますか?」
「推し、というのは好きな人ということかな?」
「推しは推しです!なんというか……至高の存在?その存在全てが素晴らしいと思える方のことです」
するとボクたちの会話が聞こえていたらしいご令嬢が「ハイ」と手を挙げてくれた。
「私、分かる気が致しますわ!素晴らしい物語を読んでおりますと、その……王子様などが出てまいりますでしょう?自分とは関りがないのですけれど、その至高の存在に憧れ、胸をときめかせ、彼の活躍をひたすらに願う……。それが推し。そしてこの溢れんばかりの感情こそが『大好き』なのでは?」
胸の前でその物語であろう本をきゅっと抱きしめている。
彼女は本が大好きな、前世でいうオタク枠の女性、コレット様。
「!!そうです!それです!!」
思わずコレット様に走り寄って手に手を取り合ってぴょんぴょん。
これってば推し友!推し友ができたのでは?
「ボクの推しはお兄様なのです!
ジルベスターお兄様はとってもカッコいいのですが、それだけではなくとてもお優しいのです!
以前は表情筋が死んでおりましたが、無事に復活致しましたので!
その笑顔はまさに大天使!輝かんばかりなのです!」
「あ、俺それ聞いた!クリスの兄上、以前は『氷の令息』って呼ばれてたんだぜ?何があっても顔色一つ変わらないからって。でも、クリスが来てからは『氷の天使』になったらしいぞ?氷のように冷たく整った容貌なのに、天使のような微笑みを浮かべるからだってさ」
「そうなのです。よくご存じで!お兄様の微笑みは大天使さながら。お兄様と過ごせる幸せをボクは毎日噛みしめております!」
そこからボクは推しへの愛を語りに語った。
そのかんばせの美しさだけでなく、その心根の清らかさを。
深淵なるお心を。慈愛を。
ご拝読頂きありがとうございます♡
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お優しいお言葉ですと作者のモチベーションが爆上がりして踊り狂います。




