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ボク異世界転生してた!

怒涛のように前世の、正確に言えばゲームのジルベスター様関連の記憶が一気に流れ込んできた。

そのゲームをやっているときのボクの感情も一緒に蘇る。

ボクがどんなにジルベスター様が好きだったか。

ジルベスター様が悪役にされ、断罪されて、どれほど悔しかったか。


時間にしては1分くらいだったと思う。

膨大な記憶を受け入れたせいで「カチコーン」と固まったボクに、お兄さまがおずおずと声をかけてくれた。


「……君……?クリス?大丈夫かい?どうかしたの?」


ハッ!



意識を取り戻したとたん、かあああっと頭に血が上る。


お、推しが!!ボクの名前を呼んでくれたああああ!

前世の推しが、ボクの目の前に居てボクのことを心配してくれてるううううううう!!


「ひゃ、ひゃいいいいっ!だ、大丈夫でしゅっ!!」


は!そういえば、まだご挨拶もしてないよっ!なんたることだっ!!


大慌てでガバリと90度のお辞儀。なんならいっそ五体投地してもいい!


「あ、改めてご挨拶もうしあげますっ!ボ、ボクはっクリストファーともうしましゅ!クリスとお呼びくだしゃいっ!

あの!あの!ジル兄さまとお呼びしてもよろしいでしょおかっ!!!」


「よろしくお願いしまーっす!」とばかりにお辞儀の姿勢のままお義兄さまの前に手を付き出した。

あ、あくしゅ!握手してくださいませえええええっ!!


勢いに押されたお兄さま。

「あ、ああ。よろしく、クリス」とちょっと引きながら、それでも遠慮がちにボクの手を握ってくれた。


ああああ!!推しの握手!

白魚のような指先の冷たく滑らかな感触ときたら!


感動のあまりボクは自分の手をぎゅっと胸元で抱きしめる。

あ、感動のあまり涙まで出てきた…


「ボク、もう一生手を洗いませんっ!!」


「いや、洗おうね⁈本当にどうしたんだ?大丈夫か⁈」


はわわわわ!

推しが!ボクの心配を!


あああ!神様、ありがとうございます!ありがとうございます!!

ボクがここにいるのはジル兄さまに出会うためだったんですね!


天を仰ぎこの世界の神に感謝をささげるボク。



ボクの突然の奇行にみんな唖然。

そんななか、気を取り直したお母さまが乾いた声で必死で言葉をひねり出した。


「……こ、この子ったら、ずっと『お兄様』に憧れていましたの。ジルベスター様にお会いするのを楽しみにしていたものですから……っ」


お母さまのフォローがむなしく響く。


「そ、そうか……。う、うむ!そ、それは良かった!」

「わ、私も、一人っ子だから、弟が出来て嬉しいと思う」


ジル兄さま、優しい!

やっぱりジルベスター様は悪役なんかじゃあなかった!優しい素敵な人だった!


ゲームでは、ボクの推しは濡れ衣をきせられて断罪された。

きっとボクは、そんな推しを護るためにこの世界に来たのだ。

お任せくださいっ!

ボクがジル兄さまをしっかりとお護りいたしますのでっ!

ボクがいるからには断罪なんて絶対にさせませんからっっっ!!


「ジル兄さまっ!!ボク、ボク、絶対にジル兄さまを護り(まもり)ますからねっ!!ご安心くださいっ」


鼻息も荒く拳を握って誓う。


「どんな敵が来ても、すべてボクが返り討ちですっ!意地悪な人とか!嘘つきとか!」


フンスフンスと胸を叩けば、ジル兄さまのクールなご尊顔からするりと表情が消え……


「ふ……っ……ふふ……っははははっあはははははっ!」


え……⁈

推しが………ボクの推し、氷の令息が笑っている⁈

ゲームの中だけでなくリアルでもレアなようで、ボクはもちろん、お義父さまやジェームズさんまで目を見開いて驚愕の表情でジル兄さまを凝視。


「「ジ、ジルベスター(様)が……笑った……⁈」」


そんなボクたちにおかまいなし。

笑いすぎて涙まででちゃったジル兄さま。

目元を拭いながらまだ笑っている。


「く、クリス、って呼んで、いいんだった?

クリスは……とてもかわいいのだな?ふ、ふふふ。

私を……私を……っ君が護ってくれるのかい?い、意地……ふっふふっ……こほん、意地悪な人や…う、嘘をつく人…から……っ?」


「はい!ジル兄さまを陥れようとする悪い人とか!嘘つきとか!」


「……悪い人……っ…嘘つき……っ」


口元を覆って俯きふるふると震えるジル兄さま。

お義父さまもお母様も何故かボクからそっと目をそらし震えている。


ボクにはできないと思っているの?

推しを護るためならなんだってできるんだからね!!


憤慨しながら鼻息も荒く「お任せを!!」と断言すれば、ジル兄さまがコホンとまた咳をした。

なんと!少し顔が赤くなっているように見える。

風邪⁈もしかして風邪でしたか?


「だ、大丈夫ですか?喉痛いとかですか?ハチミツを舐めるとよいそうです。ジェームズさんにお願いしますか?お熱とか有りませんか?」


慌てて下から覗き込めば、「大丈夫」とようやく手をどけてまたお顔を見せてくれた。


「うん、すまない。少し驚いただけだから。

もう大丈夫だ。

クリスが私を護ってくれるの?私が君を護るのではなく?」


言いながらなんと!ひょいっとボクを抱っこ!!

ほわあ!推しがボクを抱っこしてくれているっ!!


ボクはジル兄さまの体温と匂いを最大限に摂取し、記憶にしっかり留めるべく笑顔をガン見しながら、それでもキッパリ断言した。


「はい!!どんなことがあろうと!

ボクがジル兄さまを護ります!」


両手でしっかりとジル兄さまのお顔を包み、目を見て誓う。

ボクの心からの気持ちなのです。

だってボクはきっと貴方のためにこの世界にきたのだもの!


「ボクはジル兄さまが大好きなので!

だってジル兄さまは最高のお兄さまなのですから!!」


そんな俺の目の前で、ジル兄さまがほわりと笑った。

まるで桜の蕾が花開くような優しい笑顔。

さっきまでとは違って、見た人すべてが幸せになるようなそんな笑顔だ。


「……うん。クリス、ありがとう。出会ったばかりだけれど、私もクリスが大好きになった。

私の弟になってくれて……本当に嬉しい」


優しく抱きしめられたボクは……


「ふわあああああああ……」


と、か弱い叫び声をあげて気を失った。


「く、クリス⁈」

「クリス、どうしたの⁈」

「と、とりあえず、サロンへ!ソファに寝かせよう!」


ご、ごめんなさい、大丈夫です………

推しの供給が過多すぎました………。






これがボクとジル兄さま(ボクの推し)の出会い。

氷の令息の氷が解けた瞬間だった。





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