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リーデル姉妹の結婚③

 宿場町まで半日かけて歩き、そこから馬車に乗る。いくつかの都市を経由して、ついにセナンに着いたのは三日後のことだった。


 アークナイツ邸は街から随分離れた山の中にあった。お屋敷の前に立った私は、その巨大さと荘厳さに呆然とする。我が家の四倍、いや五倍は大きい。しかも、この規模が数ある別邸の一つにすぎないなんて……。大金持ちって凄いなあ……。


 圧倒されながら、私は開け放された門をくぐり、屋敷へと続く道を歩く。


「失礼します」


 私は巨大な扉を開け、屋敷の中に踏み入った。


「ランカ・リーデルです。ダレン・アークナイツ様の妻として参りました」


 精一杯張った声は、巨大なエントランスに吸い込まれて消えいく。そして、誰も出てこない。これはさっそく嫁いびり的なものが始まってる?


「こんにちは! ランカ・リーデルです! ダレン・アークナイツ様の……」


 大声で叫んでいると、

「聞こえておりますよ。元気な方ですねー」

と、階段の上から男性がひょっこり顔を出した。


「遠路はるばるご苦労様です、リーデル家のお嬢様。私はダレン様の側近、ハンジと申します。何卒よろしくお願いいたします」


 階段を降りてきた男性は、私の前に立つとぺこりとお辞儀をする。おお……。目の前に立たれると、身長が凄く高い。服の下にもしっかり筋肉が感じられ、精悍な人、という印象。年の頃は二十代かな。黒い短髪はオールバックにしている。そして——面白いくらい無表情だ。


「さっそくですが、ダレン様はあなたを妻とは認めないとおっしゃっています。自分は結婚などしない、と。しかし、帰っていただくわけにもいきません。よって、お嬢様にはしばらくの間、客人として屋敷に滞在していただきます。ついてきてください」


 スタスタと歩き出す彼に、私は大人しく付き従うことにした。通されたのは、屋敷のはずれにある一室。かなり質素で小さな部屋だった。


「くれぐれも屋敷内をうろつかないでください。食事も私が部屋までお運びしますので。分かりましたね」


 ぴしゃりと扉を閉め、ハンジ殿は去っていった。私は一人放置される。


 どうやらダレン様は私と会うつもりすらないらしい。なるほど。嫌われてるな、私。私はこの状況を端的に理解した。


 しかし、なめてもらっては困る! なんたって私はしぶとさの化け物。旦那様と幸せになるという鋼の意思を持ってやってきている。そちらが動かないなら、こちらから行動を起こすまでだ。


 ハンジ殿の言いつけを無視して、私は普通に部屋を出た。屋敷の廊下を歩けば、美しい壺、巨大な絵画、年代物らしき甲冑など、高そうな調度品が大量に並んでいる。流石お金持ちだなあ、と貧乏なのでいちいち感心してしまう。


 それにしてもこの屋敷、人の気配がまるでしない。メイド一人、護衛一人ともすれ違わない。これは流石におかしいんじゃないか。貴族に使用人がつかないはずがない。


 いぶかっていると、とある部屋の中からふと笑い声が聞こえた。扉を開けると、楽しそうに盛り上がっている男女の集団がある。おや、いないと思いきや、ちゃんとメイドも護衛もいるじゃないか。


「すみません、少しいいですか?」


 私が話しかけると、全員が一斉に振り返る。


「本日嫁いできたランカと申します。ダレン様がどこにいらっしゃるか教えていただけませんか?」


 彼らは私に視線を忍ばせながら、仲間内で何やらひそひそ言葉を交わす。と思いきや、次の瞬間彼らは爆笑した。心底馬鹿にした笑いだった。


 なるほど。いじめられてるな、私。ここまで統制をとって嫁いびりとは、我が夫は相当意地が悪いらしい。


「ありがとうございました」


 それだけ告げると、私はまた屋敷を歩き出した。こうなったら、もう何があってもダレン・アークナイツを見つけ出してやる! 私は激しく燃えていた。


 私は屋敷の奥へ奥へと入り込んでいく。採光すらまともにされていない暗がりをずんずん進んで——


「ここだ!」


 バンっと扉をあけ放つと——え? 目の前には美しい庭園が広がっていた。花が咲き乱れ、小川が流れ、鳥たちが囁きを交わす。まるでおとぎ話みたいな、とてもきれいな場所。


 私はおずおずと庭に踏み入っていく。少し行くと、紫色の花が咲き誇る花畑が目に飛び込んだ。見とれていた私は、その時、花畑の中にうずくまっている人影があることに気が付いた。


 陶器のようにしみひとつない真っ白な肌。銀糸のように透き通った長い髪の毛。ほっそりしたシャープな輪郭に、薄い唇。未だかつてお目にかかったことのない物凄い美人だ。


 全体的に色素が薄いその人物は、真っ白な前合わせの衣装と合わさって、どこかこの世のものじゃないみたいだった。風が吹けばふっと消えてしまいそうな儚い雰囲気の中、その瞳だけが炎のように赤くて——


「……ダレン様?」

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