7流されるまま……
「真珠はとてもきれいだね。俺はそんな真珠と付き合えて本当に幸せ者だ」
「アリガトウゴザイマス」
あれから、私はやばい男と知りながら、マッチングアプリで出会った葛谷真という男と付き合っていた。
出会って2回目の夜、私たちは一夜をともにした。彼は行為の最中、私をきれいだと褒め称えた。確かに私はモデルをしたこともあり、外見だけは人に誇れると言ってもいい。そのため、きれいだと褒められてもあまり心に響かない。私にとって、きれいだと言われるのは当たり前のことである。
夜が明けた次の日、彼は私に正式に付き合いたいと告白してきた。ここで断ればよかったものの、私は昨晩の疲れから思考が鈍っていて、つい、告白を受け入れてしまった。
そこからはなし崩し的に付き合う事になり、弟がいる手前、なかなか彼との別れを切り出せなくなってしまった。彼は私のあいまいな態度を肯定と受け止め、付き合い始めて3か月後、同棲をしないかと持ち掛けてきた。
夕食を共にして、ホテルで一夜を過ごした日のことだ。行為が終わり、ベッドで横になっていたら、彼が起き上がり、唐突に話し始めた。
「そろそろ、付き合い始めて3か月が経つね。どうかな、俺は真珠とこれからもずっと一緒に居たいと思っているんだけど」
「はあ」
「そこで考えたんだけど、僕たち、同棲したらどうかと思って」
「同棲」
「そう、こうやって、休日に会うのもいいけど、俺は毎日、真珠と顔を合わせたいなって」
「少し、考えさせてください」
「そうだね、俺達にとって、大事な話だからね。今日も楽しかったよ。それと、今日も真珠はとてもきれいだった」
彼は、付き合い始めてすぐに私に対して遠慮がなくなり、敬語だった話し方が砕けた話し方に変化した。恐らく、こちらが普段の話し方なのだろう。そして、私の事を呼び捨てするようになった。しかし、私は話し方を変えることはなかった。そもそも、別れようと思っていた相手に馴れ馴れしく話しかけられるはずもない。
さて、付き合って3か月も経てば、もうすぐ30歳になる私も、すでに30代の彼も結婚が視野に入ってくる。同棲をすることで、お互いの良いところも悪いところも見えてくる。結婚を考えているのなら、同棲は避けては通れない道だろう。
とはいえ、私は彼との将来は考えていない。3か月も優柔不断に彼と会い続けた私は、彼に期待を持たせている。それをはっきりと断らなくては、このまま同棲が始まり、最終的に結婚を持ち掛けられそうだ。
別れるなら、これが最後のチャンスだ。しかし、いきなり同棲を断り、別れるなんて話をしても、彼は納得しないだろう。考えるふりをして、次回、やんわりとお断りしよう。
そんなことを思っていたが、結局、私は流されるままに彼との同棲を始めてしまった。理由は簡単だ。
「ねえ、姉ちゃん、今の彼とはうまくいっているの?」
「私も気になります。お姉さんには幸せになってもらいたいです」
弟とその恋人であるアリアさんのせいだ。彼らはことあるごとに、私と彼の仲の進捗状況を聞いてくる。そして、決まって2人はその時、甘々な雰囲気を醸し出しているのだ。そのため、意地になって彼との付き合いを続けている。
(だって、言い出しにくい。彼と別れた、なんて言ったら、『今度は僕たちが姉ちゃんの恋人を見つけるよ』って張り切りそうだし)
ということで、本当は自分の弱い心が原因なのだが、弟たちのせいにして、今日まで彼とお付き合いを続け、ついには同棲することになってしまった。
弟たちは、自分たちのせいで私を不幸せにしていることをわかっているだろうか。過剰な心配が私をどんどん、幸せから遠ざけていることに気付いてほしい。
こうして、私と彼は同棲を始めることになったが、彼はとんでもないクズ男だと発覚するのに時間はかからなかった。
『今日は会社の飲み会で遅くなるから、夕飯はいらない』
『今日から出張だから、家に帰らない』
『会社の同期の家で飲んでくる』
『結婚式に参加してくる』
同棲を初めてすぐは、彼は家事を積極的に手伝ってくれた。私も彼も仕事をしているので、手伝うという表現はおかしいが、それでも役割分担して協力して家事を行えていたように思う。
しかし、同棲を初めて1か月を過ぎた辺りから、彼の帰りが遅くなり始めた。そして、それと同時に家事をすることがなくなった。