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19惹かれ合う

「私と話すよい機会、と言いましたけど、話すだけだったら、こんな面倒ごとを引き受ける必要、なかったのでは?」


 今回の件は、私の男を見る目がなかったことが原因だ。つまり、私が原因で起こった不始末であり、本来なら弟たちを巻き込むことはなかった。とはいえ、弟は私の為にやる気を出してくれているし、恋人のアリアさんも乗り気である。


 味方ばかりだとは言っても、赤の他人であるルリさんまで協力的である必要はない。しかも、やってもらうのは憎まれ役もいいところだ。損することはあっても、得することは何もない。


「そうですね……。初めはただ、興味本位で協力しようかなと思っていました。ダイヤとは仕事仲間で親友なので」


「初めは?」


「エエト……」


 ルリさんと弟が仕事仲間であり、仲が良いことはわかった。興味本位という理由も納得できないわけではない。しかし、ルリさんとは一晩一緒に過ごしてみて、とても優しく気遣いができる人だと感じた。それが興味本位で弟の頼みを引き受けたと思うとなんだか違う気がした。


 そして、ルリさんは聞き捨てならないことを言った。思わず聞き返してしまったが、それに対して、ルリさんは少し戸惑った表情をして、私を見下ろす。私も女性にしては身長が高いが、やはり現役モデルの男性には身長は敵わない。


「そうですね。正直に言うと、今は純粋に真珠さんの力になりたいと思っています。そして、出来れば真珠さんと……」


 ルリさんは最後の言葉を濁し、あいまいにほほ笑む。私とどうしたいというのか。いや、この後に続く言葉は。


(ありえない。ルリさんが私と付き合いたいと思うなんて)


 この一晩で私はルリさんに惹かれていた。しかし、私と同じ感情をルリさんが持っているとは限らない。もし、私の予想が間違っていたら、ただの自意識過剰人間となってしまう。なので、この件は深く追求しないことにした。


「あ、ありがとう、ございます」


 とはいえ、私の力になってくれることには感謝する。イケメンモデルのルリさんに言われると、たとえそれが嘘でもとても力強い。


この計画がうまくいったら、私は晴れて彼と別れることができる。そしてその後、ルリさんと会う事はないだろう。


「別れた後も、私と、会ってくれますか?」


 ルリさんと会えないことを考えてしまい、思わず、今後のことを尋ねてしまう。すでに私はルリさんのことを好きになっていて、別れることを寂しいと感じていた。


「どうして、そんな寂しいことを言うんですか?まるで、今の彼氏さんと別れたら、もう会わない、みたいな雰囲気ですけど」


「だって、私はもう、モデルではない、ただの一般人です。そんな私が超人気モデルのルリさんと気軽に会うわけにはいかな」


 ブーブー。


「ああ、ダイヤから電話みたいです。もしもし、ああ、今、真珠さんと朝のデートをしていたよ。それは楽しみだ。今から一緒に戻るよ」


 私の言葉はルリさんのスマホのバイブ音によって遮られる。どうやら、弟が私たちの帰りが遅いのを心配して電話してきたようだ。まったく過保護な弟である。スマホで時刻を確認するが、まだ家を出てから15分程しか経っていない。


「目的地の公園は見えていますけど、帰りますか」


「はい」


 歩きながら話していたら、目の前に公園の入り口が見えた。しかし、弟からの電話により、せっかく公園まで来たのに帰ることになってしまった。とはいえ、2月の朝はまだまだ寒いので公園に長居も出来ないだろう。


「先ほどの言葉ですけど、僕はこれからも真珠さんと会って話したい。一緒に食事をしたり、いろいろな場所に行ってみたりしたいです。だから、僕の迷惑になる、とか考えずに気楽に僕と会ってくれたら嬉しい、です」


 行きましょう。ルリさんはさりげなく私に手を差し出す。思わず、その手を取ってしまう。しかし、よく考えたらこのままではルリさんと仲良く手をつないで帰ることになってしまう。朝と言っても、まったく人が通らないわけではない。


「あ、あの、手をつなぐのはさすがに」


「僕の手汗が気になりますか?真珠さんと手を繋げると思って緊張して……。手袋もしているので、気になるほどじゃないと思いますけど」


「い、いえ、そういうことでは」


「では、帰りましょう。ダイヤが僕たち帰りを待っていますから」


 どうして、こんなにイケメンな上に仕草まで完璧なのだろう。こんなハイスペックな相手と私は、どう見ても釣り合わない。好きだ。付き合いたいと思っていけない。この感情は心の奥底にしまい込むことにした。


 そう思うのとは裏腹に、私はルリさんの手を離すことができなかった。


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