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17朝を迎える

「お前みたいなやつ、オレ以外、恋人にするわけないだろ。お前の良いとこなんて、その顔と身体だけで、性格が最悪だ。暗くて根暗で陰キャな奴なんか、いくら容姿がよくても、引き取り手なんてないぞ。恋人になってやったオレに感謝するんだな。ああ、もし恋人ができたとしても、それはお前の身体だけが目当てで、すぐに捨てられるのがオチだな」


「オレはお前以外にほかの女を作る。当たり前だろ?お前と話していてもまったく面白くない。だが、お前はダメだ。お前みたいなやつは、ひとりの男に尽くすのがお似合いだ。そもそも、お前みたいな不器用なやつ、誰も身体以外、見向きもしないだろうが」


「やあねえ。顔だけ良い女なんて。彼は私のことを性格も容姿も全部好きだって言ってくれているけど。ご愁傷様」


「顔がいいって、便利ねえ。中身がクズでも男が寄ってくるのだから。ああ、羨ましいこと」


「あれが噂の顔だけ女。社内の男、たぶらかしているみたい。顔がいいって、罪よねえ。性格はアレだけど」


 同棲中の彼や、顔も知らない彼の浮気相手、今まで私をバカにしてきた女性たちが口々に私に罵倒を浴びせてくる。


「私は……」


 彼らに反論しようと口を開いた。



「夢か……」


 嫌な夢を見た。目が覚めて、いつも見る天井とは違うことに気づいて、ここが自分の家ではないことを思い出す。昨日の夜、弟の家を訪ねて、そのまま泊めてもらったのだった。布団から起き上がると、隣のベッドでは、アリアさんが抱き枕を抱えてすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。


枕元にあるスマホで時刻を確認する。まだ朝の5時30分だった。冬の朝は日の出が遅い。まだ外は真っ暗だろう。カーテン越しからも陽の光はなく、部屋は暗かった。


「5時半か」


 起きるにはまだ早い。とはいえ、一度目が覚めてしまったら、もう一度眠れる気がしない。そもそも、ここは自分の家ではないので、二度寝することに抵抗がある。たとえ寝ることができたとしても、またあの悪夢を見るのなら、起きてしまった方がいい。


 スマホを閉じようとしたところで、ふと昨日の夜、彼に送ったメッセージに既読がついたかどうか知りたくなった。SNSの彼とのやり取りの画面を開くが、既読はなかった。当然、返事もない。私のメッセージだけが残っていた。返事が来ないのは予想できたが、少しだけ胸が痛んだ。


「散歩にでも出かけようかな」


 弟の家では勝手が違うが、洗面所の場所は昨日使ったので覚えている。ちらりとアリアさんのベッドを確認するが、起きる気配はない。私はコッソリと化粧用具をもって、部屋をでて洗面所に向かった。



「お、オハヨウゴザイマス」

「おはようございます」


 目が覚めてしまったのは私だけではなかったようだ。部屋を出て廊下を歩いていると、ルリさんがちょうど部屋から出て来た。目が合ったので挨拶をすると、相手も頭を下げて挨拶を返してくれた。手にはスマホを持っていたので、誰かと連絡を取るために部屋から出て来たのだろうか。


「昨日はすみません。僕が嫌なら、すぐに作戦変更にしてもらっていいですよ」


「とんでもない!私こそ、人気モデルのルリさんにこんな面倒なことを押し付けてしまって申し訳ないと」


「そんなに自分を卑下しない方がいいです。特にダイヤの前では。僕やアリア、他の人の前でもやめたほうがいい。真珠さんは素敵な人です。もし、あなたをバカにするような人がいるのなら」


 その人とはさっさと別れたほうがいい。


 最後の言葉には妙な威圧感があった。私はその言葉に反論することができなかった。弟もそうだが、どうして彼らは自分にそこまで自信があるのだろうか。私にはどうしても理解できない。自分を卑下しないようにと言われても、私には弟と比較されるのが当たり前だった。弟と3歳差で年齢が近かったため、顔は似ているのに弟は性格も明るく優秀で、私は顔だけが取り柄の根暗な姉と言われ続けてきた。


「ちょっと、電話がかかってきたので出てもいいですか?もしもし、ルリですけど」


 暗い思考の海に沈みかけていたが、ルリさんの声ではっと我に返る。今はこんな暗いことを考えていてはいけない。この暗い考えからおさらばして、新しい自分になるためにも、彼と円満に別れなくてはならない。


とりあえず、朝の散歩でもして気分をリフレッシュしよう。ルリさんが電話している間に、私は洗面所に向かい、化粧をして家を出る支度をすることにした。



【少し、散歩に出かけます。1時間ほどで戻ります。真珠】


 何も伝言を残さずに外に出るのも悪いので、スマホで弟たちにメッセージを入れておく。昨日、SNSアプリに私のための別れ計画のグループを作った。私、弟、アリアさん、ダイヤさんの4人のグループだ。そこにメッセージを入れたので誰かしらが見てくれるだろう。


「僕も散歩に付き合ってもいいですか?」


 玄関で靴を履いていたら、ルリさんに声をかけられた。化粧に時間がかかり、ルリさんの電話は終わっていたようだ。ひとりで散歩して気分をリフレッシュしようと考えていたので、返答に困る。


ルリさんのことは嫌いではない。どちらかというと、好みのタイプだ。彼と別れるためにルリさんは、仮の恋人として私と付き合うふりをしてくれる。ひとりでの散歩も捨てがたいが、ここは一緒に散歩したほうが無難かもしれない。


「いいですよ」


「ありがとうございます」


 私たちは2人でこっそりと家を出た。玄関を出るとまだ外は薄暗かった。時刻は6時過ぎ。2月の日の出は7時近いので太陽が出るまでには時間がある。冬の刺すような寒さが身に染みる。持ってきたマフラーに顔をうずめて外に向かって歩きだす。隣にいたルリさんは手袋をした両手に息を吹きかけていた。



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