幽霊 : 序章
『――今日の自動人形占い〜!』
高いビル達が並びそびえ立つ街の中。
高いビルの壁に埋まった大きな液晶からだ。画面越しに綺麗なお姉さんが活気溢れる声で放ったのは、皆なら聞き覚えのない単語だろう。
それでも、街ゆく人々は愉快にその液晶を毎朝の糧とするため視線を預けるのだろう。
『最下位は〜……ごめんなさ〜い。タイプ《剣》の方の皆さんです。今日は不幸の始まりでしょう〜。ラッキーアイテムは、煙管!それでは九位の発表に……』
また次へまた次へとその数字を言う度に信号の示す白線の上の人々の声は大きくなる。
また一人、また一人と別々の道へ歩んでいく。制服に身を包んだその姿は、学生と言っただろうか。
――その各々が背負う武器がなければの話だが。
ある人は、腰に剣を携え。ある人は銃を装備している。
平和な街並み。制服に身を包んだ道行く学生達、活気ある声。そして武器。
なんとも珍妙で神秘的な光景だろうか。
「待って〜!」
その異様とも平常とも言える光景にたった一つのアクションが起きる。
制服の上にあひる系のインバネスコートを着た一人の少年が、大きな声を上げている。息を切らし足取りも悪くなっている。
その少年の前にいたのは……猫だ。
一匹の三毛猫。その首には赤の輪を着けており、平気な顔で街中を駆け走る。
「おっしゃ!捕まえた!って!えぇ〜!どこ行くの!?」
少年の飛びかかった先には猫はおらず、ただ冷たいアスファルトを抱きしめる。
消えたはずの猫の視線はもう上にある。近くのダクトをの上をつたってどこかに行ってしまったようだ。
「うぅ〜、このまま逃がしたら、昼飯代どうしよう……くっ!こうなったら最後までやけくそだァ!」
路地裏での少年と猫の葛藤。
それを知る者は誰もいないのだ。
その二人だけの鬼ごっこを猫は魚ではなく桜の花びらを咥え楽しく笑うのだった。
――――――――――――――――――――――――
――桜が宙を舞っている。
春の終わりを告げる儚い象徴。春が終わると同時に若き芽の彼らはその門を通るのだ。
季節は既に入学式だ。新入生からしたら人生のターニングポイントとなる一日だろう。
だが、在校生もとい進級しただけの生徒からしたらそこまでのイベントなのだ。
変わったのは窓から桜を見る位置が少し低くなったことと、周りのクラスメイトの騒がしさのタイプが変わっただけだ。
そうだ。暇なのだ。とてつもなく。
疑似花見など、楽しめるのは精々人生くたびれた大人達だろう。暇と思春期のワクワクに挟まれたお年頃達には退屈の2文字が浮かび上がる。
俺、神木 幽真は美しくあれと咲き乱れる桜に大きな溜め息を吐く。
桜からしたら、なんとも失礼な行為だろうか。
「ようっおはよう。」
「……」
今、俺が挨拶を無視した嫌味な奴と思ったか?残念、声が大きいが今の挨拶は俺に対してじゃない。近くの席の友達に声をかけたのだろう。
なんとも、不愉快で失礼だ。声のボリュームという言葉を知らないのか?謙虚に生きる日本男児かすら疑う。
「おはよう、基」
「そういえば聞いたか?3組の錫成の話。」
「うん、名前持ちになったてね。」
「あぁ、俺も噂だけだから名前は知らないけど。」
(名前……)
――名前。
愛称ではなく、二つ名に近い存在。
名前について話すには少し振り返らないといけない。
悠久の時代、まだ『学校』があった時代だ。その時代には入学と共に支給される武器…自動人形も無く。まだ彼方の凶兆もない平和な時だ。
そこから数十年経ち、いや今から15年前と言った方が早いだろうか。
……凶兆が来たのだ。
幼くまだ物心すら覚えていなかった俺でも覚えている。画面越しのあの惨状を。歴史に残る大事件を。
まさに阿鼻叫喚、地獄と化した画面を今でもフィクションだと信じている。
何十何万人にもが血に汚れ土の味を思い出した。その事件を人々は「散桜事件」と呼んだ。戒めのためにだ。
そこからは思いの外、国は早かった。
この日本から学校を無くし今自分が立っているたった一校の学園を立てた。
そして、その凶兆……いや、常識の調律者に対抗すべく武器を開発した。そして、それを学園の全生徒に配ったのだ。自衛のためだとか。
だが、武器を手に入れた青いもの達が自制する訳もなく。
青い春が表とすれば。あっという間に、鮮血と臓物に塗れた裏の世界の基盤が完成した。
裏の世界で名声を上げた存在。言うなればbadstudent。その者に戒めの十字架として刻むのが、刻印ではなく名だったという話だ。
「例の新聞だろ?」
「うん、学区内新聞。最初はなんの冗談かと思ってたけど」
「意外だな。あいつは誠実な子だと思ってたが。」
「誠実……ねぇ。そんなやつこの学園にいるのかね?」
今、現状の学園はほぼ崩壊寸前のようなものだ。本来の目的の常識の調律者の鎮静、それによる被害者、死傷者の減少。この学園の当初は門を開いた思惑通りに動いていた。
だが、比例するかの如く自動人形を持った生徒、暴徒による殺戮、テロ、虐殺、それに加え常識の調律による被害……
常識の調律の被害は治まったもの、死傷者数は散桜事件より増えている。現に入学時の8000中値が卒業頃には3000まで減っているのだ。
誰もが死にたくないと願うだろう。だから技術や力、自動人形を磨くのだ。
生き残るために、例え裏の世界に身を置こうとも生きていけるように。
「どうしてこの桜は桃色なのだろうか。これが表の学園としたらその根には人の傀儡が眠っている。そしてその桜は段々と濃い赤に変わるのか……」
俺には、名がある。持つだけで力の証明たる名がある。
学園がこの腕を認めた証がある。
言うまでもない――
――暗黒卍最上龍だ。
喑炎に染まりし、俺は生まれた頃から強すぎたのだ。最上龍を刻まれた俺の左目。
その力は、友と呼べる好敵手を引き寄せない。
俺は悲しき龍の名を刻まれた戦士だ。
タイプ《剣》:電磁砲式の自動人形と罪を背負い血を自ら被る者。
(ふっ今日も解放されし左目が疼くぜ。封印が解かれた今、力を抑えるのも疲れるってものだ。)
悲しみと憎しみと少しの龍の鱗を背負い陰に生きるもの
俺の涙はとっくに枯れ、怒りの火は燃え尽きた。喜びの光は陰に飲まれ楽しいという心は現実に塗り替えられた。
感情など、知らない間に身体が捨てていた。あぁ、神よ彼方の神よ。何故貴方は俺だけにこの試練を与える。
俺を……解放してくれ。
――――――――――――――――――――――――
「――はい、ということで、今日から転舎してきた……」
「堀水 茜……探偵さ」
手の添えられた鹿撃ち帽、キリッと決めたポージングは途中まで喋っていたクラスメイトの視線を一気に集める。
そして格好つけたはずの自己紹介は、片手に抱き抱えた猫の眠たい声に打ち消されたのだ。
(やべぇ奴が来た)
皆よ喜べ、祝え。
陰を背負った最上龍、感情復活の時である。
「はい、ということで探偵の茜くんだ。慣れてくれ」
(いや、無理だろ)
「はい、茜君はそこの席ね」
(しかも俺の前かよ!)
一体、どこの世界でも転校、転舎は奇っ怪なイベントが殆どらしい。いや、これはイベント自体が奇怪なのではなく転舎してきたやつが奇怪なのだが。
いるかよ普通転舎初日に猫連れてくるやつ。
「よろしくね〜。俺探偵〜」
「あ、あぁ、知っているというかさっき自己紹介しただろう。」
「何故知っているっ!?まさか君も探偵……?」
「だから、さっき自己紹介しただろ。鳩かお前は」
「いや、探偵やぞ」
「やかましいわ」
信じられない。そもそも探偵なぞいたところで実力主義のこの学園で通じるとは思えない。
殺人事件が多いのは真実だが、そこから探偵という発想は普通ないものだ。
「ねぇねぇ、茜君って探偵って本当?」
「本当、本当。」
「じゃあさ、今までどんな事件解いたの?」
「フッ聞くかい?」
「え〜?聞く聞く〜」
クラスのギャルと呼ばれる人種が探偵(自称)に声をかけた。流石興味と狂気の世界で生きる者と言わんばかりだ。
クラスの連中が投げかけた質問に耳を傾ける。盗み聞きはやぶさかでは無いがしょうがない。
もしかたら、この男。黒の手腕の使いなのかもしれない。だとしたら少しでも有力な情報を……
「まずは、宇都宮プリン殺害事件」
(待て、それはなんなのだ?プリンが"殺害されたのか?それともプリンで"殺害されたのか?というか宇都宮どっから顔出したんだ。)
「それと、鳥取砂丘車海老発砲事件」
(もう訳わかんねぇ。)
「へぇ〜、凄いじゃ〜ん!」
(こいつはこいつでおかしいだろっ。)
結局、傲慢を捨てての聞き耳も今じゃ腐り落ちた耳だったもの。有益な情報はひとつも出なかった。
その代わりにプリンが三回も殺されていた。
プリンの犠牲にカラメルの涙を流し授業が始まった。……が、そこから転舎生、堀水 茜の行動には流石に目に余るものがあった。
一限目では異様に黒板が見やすい前からいびきが聞こえたり。
体育の時間では、サッカーにおいてパスのはずが窓ガラスの割れる音が響いたり
挙句の果てには、屋上にいる姿を激写され怒られていた。
「……ルール厳しいなこの学び舎」
(いや妥当だろ。)
「やっぱり屋上のロマンは無くさない方がいいと思うんだよなぁ……」
やはりこの男、この学園を乱そうとしている?本当に黒の手先の者なのか?こんな奴が?
「ねっ君もそう思うでしょ?」
「分かるか、そもそも俺に聞くことでは……っ!?」
「そう、君に話していたんだよ?神木 幽真君。」
「何故俺の名前を!?」
「ふっふっふっ……そうさ、俺は探偵」
「貴様ぁ!」
「その教科書を使ったのさ」
「バリバリ答えみてんじゃないか、推理をしろよ推理を」
だとしても、この男、急に俺に話しかけてきた。
俺の正体がバレた?何故こんな男に……
まさか!この男の左目、俺と同じく隠している向こうは包帯にデコが施された偽装だが俺の目はそう欺けない。
此奴、黒の手先どころじゃない、その上位集団。
暗黒の主導者の者か!?
「まぁまぁ、幽真君。そんなことより話があるんだけど……少しお茶してかない?」
「……あぁ、分かった。」
どちらにせよ、此奴が怪しいヤツなのは確かだ。
堀水 茜。にたりと笑うその嘘くさい愛くるしいフェイス……その裏側を暴いてやる。
――――――――――――――――――――――――
「幽真君さ、俺の助手にならない?」
「……なに?」
食器がカチャカチャと当たる音。人同士が会話する音。食券機などの機械音。
全ての音に邪魔をされて尚、その言葉ははっきりと聞こえた。
「だから、俺の助手にならないかって聞いてるんだよ。」
「助手だ……?」
一体全体何を言っているんだこいつは。
……はっ!まさかこいつ俺に愚者を語る全知者を裏切らせようと画策しているのかっ!?
「どういうつもりだ。」
「ただ、君がいいと思っただけだよ。ほら幽真君って目がいいでしょ」
「っ!どうしてそれを?」
目がいい?こいつまさか俺の左目のことも知っている?
探偵と言うことを忘れていたが、あの冗談が冗談では無いとすれば推理して当てたとでも言うのか?ノーヒントで?
まさかな。ただ俺の視力がいいと思っているだけだろう……いや、少なくても探偵と名乗る程の実力、そんな奴が視力がいいだけで助手を選ぶ馬鹿な訳が無い。
だとすれば、こいつは俺の解放されし左目《喑炎魔境の瞳》の存在に気がついているというのか?
「化けの皮を剥いだな。このへそ曲がり探偵が」
「ん?んー……うん。そう、化けの皮」
「ふふっはははっ!やはりな!この喑炎魔境の瞳を持つ俺の気は欺けないぞ!」
「そうそう、ぶらっくえでぃしょん、えでぃしょん」
「ふっ、いいだろう。貴様が暴れるまで近くで見といてやろう。お目付け役と言うやつだ。」
「よしっ助手確保」
「助手では無い監視役だ!」
実際、探偵ごっこに付き合ってやるまでだ。何時でも牙を向けるが良い。我の龍黒砲がその牙焼き払ってやろう。
と息巻いていたのだが。
「――自動人形の暴走事件?」
「そっ、僕は今ある事件を追っているんだけど、その情報をお金を通じず教えてくれる代わりに今回の事件の真相を解いて欲しいってクライアントから直接仕事が舞い込んできてね。」
「そんなの、何処かの発電所や研究所がポカして有害な電波を撒いているというのではないのかね?」
「神木君……自動人形にWiFiは通ってないよ?」
「違うなら違うと言いたまえ!いちいち悪意のある言い方をするな!」
生徒一人一人が必ず持つ武器、自動人形。
常識の調律者への特効薬であり護身用の武器だ。製造方法、制作過程共に不明。
生徒間では数年謎とされているが、首を突っ込む物好きは早々いないもので、今では有名なお蔵入りの謎とされている。
それに、自動人形暴走事件。
少しくらいなら僕も聞いた事がある。
第一辺りで起きる自動人形の起動プロセスの遅延や無視、それに起動認証が発動場合もあるとか。それにより、第一辺りでは最近事故が多発しているとも聞く。
そもそも、接続デバイスの自動人形が通信環境や電波妨害など受けるはずがない。
だと言うなら、やはりこの探偵の言っている人の手によって起こされている可能性が高いのか。
「まぁ、十中八九、人のせいだとして、まず絞れるのは……」
どっちにしろ自分の考えは否定された。こいつさっき俺の事助手って言ったよな?
「なぁあんた、ちょっといいか?」
「ん?」
顔を上げた先、ニヤけた顔があった。にったりと笑う不気味な顔。……これは、あれだ。あれに似ている。
「君が、茜君?」
――カツアゲされる時の顔だ。
「そうだけど?それが何?」
「俺、友達から聞いたんだけど、君って探偵ってまじ?」
「あぁ、本当だよ。」
「えっ、まじだってよ。」
「くふっ、子供でもまともな嘘つくのにな。」
「くくっ……そういうなって、ぷっ……」
「……」
その声は残念だが聞こえている。関係の無いこちらまで聞いているだけで腸が煮えくり返る。
だって言うのに茜は無表情だ。いや少し微笑んでいる。
まるで子供のイタズラを許す寛大な心のようなものを見ているようだ。馬鹿にされても睨まない。不気味な感じと大人しげな雰囲気が意外に情景にマッチしている。
「それでさぁ、俺ら最近金が足りなくて優しい優しい転舎生ちゃんならお金貸してくれるかなぁって。」
「悪いけど、ごめんね。今、僕の財布の中身使い切っちゃった。あぁご馳走様」
「あ゙あ?」
「いやぁ最近仕事が全然来なくって参っちゃうよね。お互いそこんところ頑張って行こうね。」
「てめぇ、舐めてんのか?あぁ?おい。」
「舐めてないよ、僕が舐めるのは渦巻きタイプの飴とお偉いさんの靴ぐらい。それに、喧嘩を売るほどのいい品物も揃ってないしね。」
「てめぇ!!」
先程のニヤついた顔はどちらへ行ったのか額に血管を描く男達は、懐から武器を取りだした。
これが例の自動人形だ。
剣の形状や銃の形状。メリケンサックやはたまた鎖までその姿形は人によって変わっていくもの。
向けられる凶器に全身の血が引く音がした。
「自動人形きどっ……」
――パァンっ!!
おかしい。怖いより先に疑問が浮かんだ。
自動人形の起動の合図。
それは簡単だ。自分の自動人形に向けて「起動」と呼べば電源が入り五秒後に使用可能となる。
『五秒ルール』これは、もし自動人形を使った望まぬ対人戦闘となった場合相手に逃げる隙や助けを呼ぶ隙を与えるための国が着けた救済措置。
……そう、だからおかしいのだ。相手が自動人形を起動する前に銃声が鳴り響くことは。
「……へ?」
「少なくとも手持ちの鋼はこれしかなくてね。ごめんね。」
その手に持つ物は黒金の光を靡かせ暗雲の残火を漂わせている。自動人形と呼ぶにはあまりにも小さく、対の席からでも臭う火薬の匂い。
「本物の……銃?」
自動人形が非常識を殺すものだとしたら、今、彼が手に持っているものは常識を殺すものだと瞬時に理解した。
自動人形が支給されたと言えど法は変えられない、銃などは未だに規制されているものだ。
「お前、それ……それが何なのかわかってんのかっ!?」
「生憎、僕の武器はこれしかなくてね。なら法より命を取るのは僕にとって最善だよ。」
「は、はぁ!?お前、今俺らに向かって発砲したんだぞ!?」
「発砲って……そもそも自動人形と何が変わるの?どちらにせよ人を殺せるところは変わらないだろう?」
「ぐっぐうぅ……」
「そうだ。僕は先程、本物の銃より恐ろしいものを複数個突きつけられそうになった。僕は、その狂気に当てられパニックになり、思わず護身としてその引き金を……」
カツアゲした生徒の額に冷たい感触が感じる。ひんやりとした硬い物質。それは、数秒後の自分を実感させるには十分だった。銃身の青い熱が額から身体全体に流れ込んでくる。
茜の中性な顔立ち、そのぷっくりした唇は水っけを含み弾いた。
「ばぁん」
「……ひぃ!」
よく見れば、その指はトリガーガードを通していなかった。最初から威嚇目的と言うことだったのだろう。
だが、カツアゲした本人達はその事実に気づくことはなく、その蒼氷とした顔は伝染していく。
「お、お前ら、帰るぞ!」
「うわぁぁぁ!」
「覚えてろよ!」
わかりやすいほどの捨て台詞。よく見る展開にこんな僕でも流石に苦笑を浮かべてしまう。
「逃げ、て行った……。」
「ふふ、……かった」
「?茜君?」
「あぶ、危なかったぜ」
「危なかったって、これからどうするのだ?こんな公衆の面前で銃なんか出して、やはり貴様の正体は……」
「いやいや、まさか。音だけのゴム弾だよ。」
「っ!」
――かっこいい。
自分でも驚いた。これは本音だ。
かっこいいだなんて、本心で人に思ったことは無い。久しぶりだなんて臭いことは言えないのだ。
だから本当の言葉だ。本当の言葉で伝える。
「凄いんだな。茜君は」
「幽真君……違う口調でも喋れるんだ。」
この後、一大事を聞き付けて食堂に先生達が訪れたが茜君のゴム弾の事は知っていたらしく。
茜君が公衆の面前で怒られるぐらいで終わったのだ。
また数分前と同じ食卓の景色に戻った。鼻の奥にこびりついた火薬の匂いももう取れた。
肉の香ばしい匂いに鼻腔を擽らせるその時だった。
「なぁ、少しいいか?」
「んえ?」
「はい?」
声がした。今度は嫌気含んだ声は無い。
だが重たい声だ。揺るがない全くの不動の声。テーブルに浮かぶあまりの影に感嘆の声後出る。
顔を上げると、そこには影とは比較にならない男がいた。
簡単に言ってしまおう。デカすぎる。その巨人とも呼べる体格を覆う大盾を背負う顔がわざわざ僕達に話しかけたのだ。
その飲み込んだ固唾は妙に苦い味がした。
「盗み聞きして悪いとは思っている、だが、先程の自動人形暴走事件について私も参加させて欲しい。」
「……何?」
「どうして?」
「私の人生は自動人形に救われた。もしもその犯人が自動人形をなにか悪いことに使うのだとしたら許せない。参加させて欲しいとは言ったが訂正させて欲しい。」
筋肉の鎧を纏った男は重く静かく語りかける。
「探偵よ、この事件一緒に解かせてくれないか。」
「……メリットは?」
「自動人形暴走事件の詳しい説明と……それに関与する、とある亡霊について」