第二章:終焉とお伽話
「あぁあッ…!」僕は布団から飛び起きた。 全身の毛穴から汗が出る。体は震え。視界は涙で滲む。
「はあはぁ…あぁあ…」呼吸が荒く上手く息ができない。
僕は頭を抱える。「僕は死ん…ああぁぁぁああぁ」 後ろから足音が聞こえてきた。 足音の主は、綺麗な黒髪を揺らし、僕の後ろにしゃがんだ。 そして、僕の震える体に手をまわし軽く抱きしめた。
「大丈夫。犀兎は生きてるよ。」優しい声だ。その手はとても温かい。「ここは…?」「犀兎の部屋だよ。だから安心して。」「あぁ…そっか…」気持ちが安らぐ。「今回は…何を見たの?私たちの予知?それとも他の人の過去?未来?」その声の主は僕を優しく抱擁したまま、あやすかのように聞いてきた。
「今回は…他人の未来視だった…僕たちが協力関係を結んだ連合国の精鋭隊の一人の視点を見た…」僕の声は震えていた。
「あんなに…幸せそうだったのに…嫌だ…僕は…あんなこと…」僕は内容を思い出し、再び震えた。
「絶望だよ…あんな兵器…何万どころじゃないッ!改造されれば何億人もの人々を余裕で殺せる。まるで空亡だ…人が作り出した妖魔…うッ」突然吐き気が僕を襲った。
だが、「大丈夫。大丈夫。」彼女はゆっくりと話しながら僕を抱きしめる。
「豊穣魔法:<夢への加護を>」三葉は詠唱をした。
途端、体が軽くなった。
「ありがと…三葉…楽になったよ…毎度ごめん…」彼女に対し感謝をつぶやく。
「ううん。全然いいよ、犀兎の能力<夢知>のせいなんだから。」
「私はこの隊の副隊長として隊長の犀兎のことを守るのは当然。そして、個人的にも犀兎を守りたい!」三葉は僕の顔を覗き込んで笑った。
まぁなんと恥ずかしいセリフを普通に言えるのだろうか。と、思い再び彼女を見ると赤面していた。
恥ずかしかったのか……
「まぁ…この<夢知>にも早く慣れないとな…」
「よし、三葉。一応、休憩取れたから、会議を始めよう。掠実と桑棘を会議室に呼んでくれない?」
「僕は汗で濡れたシャツを変えてから行くよ。」
「わかった犀兎。呼んでくる。またあとでね!」三葉は勢いよく立ち上がり、にこっとし去ってった。
彼女の笑顔は花のように美しくかわいかった。 そして僕は、気配がなくなった事を確認し、自分の両手で顔を叩き「僕もがんばんないと。」そう思い立ち上がった。
僕が会議室に着いたときには皆座っていた。
この場所は本来一部隊15人以上で使っている部屋なので僕ら4人で使うと、とても広く感じる。
「二人とも来るの早いじゃん。」少し驚きながら僕は、桑棘と掠実に言った。
「あぁ、ちょうど俺と掠実が会議室行こうと思ってたら、三葉とばったりな。そーだよな?掠実」「うん。そうだよ。」掠実が茶髪の短い髪を指でクルクルさせながら桑棘に頷いた。
「で、犀兎さんよ?今日は何について話すんだ?」桑棘が尋ねてきた。
「まぁ大体わかるでしょ。」そう僕は冷たく言葉を放ちながら、会議室のプロジェクターを操作し、前に立った。
「今後僕たちが参戦する戦争についてだ。」真剣な顔で僕は言った。
「ちッ、戦争なんてばかばかしい。」桑棘は呟いた。
「私だって嫌だよ…でも、上の人たちの決定で…」三葉は悲しそうに言い返した。
「まあこればっかりは仕方がない。僕たちもこの戦争を早く終わらせられるようがんばろっ」僕は言った。
「よし。これから少数精鋭第零部隊コードネーム<花園たちの夢>の会議を始める。」
「「「はいッ!」」」
【会議が始まり数十分経過~】
「よし。今日はここまで。みんなお疲れ様。」
「ったく疲れたぜ。なんで、また俺たちが・・・」桑棘が愚痴をゴニョニョ唱えていた。
「各自、地図を頭に入れておくことと、いつでも戦闘できるように準備をしておいて。解散!」
「じゃ、またあとでね~犀兎」「あぁ、またあとで」彼女に手を振った。「面倒。面倒。・・・」掠実も桑棘と同様に呪言のように繰り返し唱えていた。
会議が終わり皆出ていった会議室で僕は明日以降の資料などを確認するためプロジェクターに接続してあったパソコンを見ていた。
どこからか湧いてきた眠気に必死に抗いながら操作をしていた。
時計を見ると17時30分を指していた。「いつもは……眠く、ない…のに…」頭が前後に揺れ動く。 そして、何故か体に力が入らなくなり、何者かに意識が奪われるような感覚で、僕は夢の中に堕ちて行った。
◆
「ねぇ***今夜の寝る前のお話はなにがいい?」
物語が頭の中で再生された。
「うーん…お母さんが何か決めてよ!お母さんが好きな話を聞きたいよ僕は」美しい銀髪の少年は布団に入りながら母に言った。
「わかったわ、んー。じゃぁ、豊穣の神様のお話なんてどうかしら?」母親らしき人物も銀に輝く綺麗な髪をしていた。
「なにそれ!ほしようほしようのカミサマ?面白そう!聞きたい!」少年はバッと手を挙げ声を出した。
蝋燭が微かに揺れる。
「こーら、***夜なんだから大声上げないの。あと、ほうじょうね。」何故か名前のところだけノイズがかかり聞こえない。
「ごめんなさーい。でもここら辺には誰もいないよ?」少年は窓を見つめた。
外の森は月と星の光で少し照らされ、木でできているこの家は風でミシミシと音を立てている。
「そーいう問題じゃありません!もうほら、お話してあげますから。」
「ねぇねぇ、ほうじょうのカミサマってどんなカミサマなの?」少年は尋ねた。
「それはね、とっても優し…いや、いいわ。お話を聞けばわかるわ。」
「はぁーい」僕は疑問になった。なぜ母が言葉を詰まらせたのか。
「あ、豊穣の神様の前に1つおとぎ話を話をしましょうか。今から1000年…いやそれ以上も昔のお話でね・・・」
【人統暦429年】の現在より3500年以上前。
かつて、この世界には6つの大陸があった。
その内の3つの大陸は人が支配していた。 いや、かろうじて支配し暮らしていた。
そして、他の3つの大陸にあるのは「魔」だ。
その「魔」は目に入った生物を全てを破壊していった。
いつからか、「魔」は<亡魔>と呼ばれるようになった。
<亡魔>の形はバラバラであった。
虎や狼また、人に似たのも居たそうだ。<亡魔>は人を喰らえば強くなり、知恵をつける。
その時代の人々にとっては毎日が恐怖に侵されていた。
そして、人々は神を崇め助けを乞うた。
ある時を境に<亡魔>の遭遇率がさがっていった。
人々は不思議に思った。
中には<亡魔>が自滅していったのではと言う者も現われてきた。
しかし、それは甘い、甘すぎる考えだった。人を喰らい知識を貯め込んだ<亡魔>が群れで人類に攻めてきたのだ。
人々はただただ逃げることしかできなかった。抵抗は虚しく。滅びる運命と思えた。
だが、奇跡は起こった。
突然、空間がグニャリと曲がった。
刹那、物凄い発光が起こり視界ともども、世界を真っ白に包んだ。
視界が戻り、その曲がった空間を見つめる。
そこには少女が居た。
神が生まれたのだ。この星に。
その生まれた神は<亡魔>を一瞬で葬った。大群だろうと関係ない。
その神が裁きを与えた瞬間に<亡魔>は浄化されるように消えていく。
消えた途端周りの木々が活性しているようだ。
まるで、この星の栄養になっているかのようだ。
銀の髪を揺らし、敵を葬る彼女の姿は美しく優雅であり、人々の目を奪った。
誰かが言った。「星が生き返る…星生だ…星生の女神だ…!」
その後、彼女は逃げようとする<亡魔>の群れを壊滅させた。
そして、この世界に一時的な平和が訪れたのだった。 だが、これは人々にとっては歓喜であったが、星生の女神にとっては壮絶な物語の始まりだった。
「ねぇお母さん知ってるよ僕。せいせいのカミサマって悪いカミサマでしょ!」少年は母に言った。「え、どうして?どうしてそう思うの?***」母は驚いた顔をした。
「だって、本に書いてあったの」「本?」「うん。本にね!ちゃんとは読めてないけど…確か、せいせいのカミサマは王子様をさらって王国を壊して、逃げたカミサマって書いてあったよ!」「もしかして、ほうじょうのカミサマって悪いカミサ…」「ねぇ。***。」母の声のトーンが少し下がった。 少年は怒らせたのかと思い身を構えた。
「その星生の神様のお話はね。物語の途中までしか、書かれてないのよ。」母は優しい声で言った。「?」僕は二つの意味で驚いた。「ふふ、(?)でしょ?」母は少し笑いながら言った。
「豊穣の神様と星生の神様はね、同じなのよ。」
「***。この世界はね、広いのよ。この深い森を抜けた先には、人が住んでいるのよ。そして、海を越えた先には。もっともっとたくさんの人がいるのよ。」母は楽しそうに、そしてどこか遠くを見つめ僕に言ってきた。
「この私たちが居るこの南の大陸。ミドラスの人はね。豊穣の神様って呼ぶのよ。そして、海の向こうの人は、星生の神様って呼ぶのよ。」「ねぇお母さん。星生の神様って結局どうなるの?」僕は質問した。
「それはね、また今度にしよか。もう寝る時間よ。おやすみなさい」母は蝋燭を消した。「うん…わかったぁ。おやすみお母さん。」
シュンッとノイズが走り僕の意識はポツンと途絶え、闇へ飲まれて行った。
◆◇
「おい、起きろ。起きろって」 僕は肩を揺さぶられ少しずつ意識が覚醒する。
「あ…あれ…僕は…お話を…」「はぁ、何寝ぼけたこと言ってんだ?犀兎。って…なんで泣いてるんだよ。」
「え…あ、ほんとだ…」僕は顔に手を当て気付いた。
「どーしたんだよ」桑棘が心配そうに聞いてきた。「いや、なんか、とっても昔に…体験したような…懐かしさが…」
なぜだろうか。さっきまで、大切なものを見ていたような気がするが思い出せない。
「てか、お前会議終わってからずっとここで寝てたのかよ…まぁいい。ほら、お寝ぼけさん一人じゃ危ないから俺が一緒に連れて行ってやる。今日は三葉と掠実が飯作ってくれてるぞ。」
時計の針は19時ちょうどを示していた。
「あぁ、うん。ありがと。」僕は桑棘に連れられ部屋に戻った。
◆◇
この星には大きく分け二つの力が存在している。
一つは、科学だ。この世界の科学は「相手を蹴落とし、蹴り落され」を繰り返し進歩していった。
そして、二つ目は「星脈」から力を得て戦う者たちだ。
「星脈」それはかつてこの世界に生れし神が、己の力をこの星に注ぎこんだことにより生まれたものだ。
その「星脈」は一部の人間にも身体的影響を与えた。
「星脈」による影響は様々であった。
常人よりも遥かに逸脱した身体能力や、魔術のようなものを操る者もいた。
その影響を受けた者たちを「星生を受けし者」と呼ぶ。
だが、この何千以上という歴史の中で「星生を受けし者」の名が出たのは、ほんの数百年ほど前の話だ。
そして、この「星脈」の影響を受けた者の中にもイレギュラーは存在した。
この世の理さえ捻じ曲げる、超越した能力を持つ者だ。
その能力を持つ者は過去に一人しか確認できていない。
そいつは、「銀のーーーーーーーー」
人の世界は、様々な村や町そして国で成っている。
この世界もそうだ。
4つの大陸に大きく分け4つの国になっている。
「殺戮の科学で繁栄し。西の大国家<聖ルミナス>」
「侵略の科学で繁栄し。北の大国家<アクト>」
「防衛の科学で繁栄し。東の連合国<ゲステア>」
「星生の加護で繁栄し。南の大陸<ミドラス>」
<ミドラス>その地は百年ほど前まで人類は到達できないと思われていた。
理由は単純明快だ。
自然の脅威に対抗できなかったからだ。
だが不自然だった。
その脅威は消えることなく、あり続けるのだ。
何千年の月日と共に。
科学の力でさ無慈悲に打ち消される。
この3大国家は未踏と思われる、この大陸を手に入れたくて必死だったのだ。
だが、奴らは愚かだ。
千年以上前この場所で、世界で起こった悲劇を。
世に絶望を与えた<亡魔>のことも。神も。全て、理不尽に。不自然に。忘れ去って…
◆◇
世界はイタズラか。
一刻一刻は遊戯なのか。
でも、これは人が知れるような事ではない。
世界とは面白い。何があるかわからない。
想いとは不思議だ。だって…交差するのだもの。
そして…
ある者は誓う。「次こそは、大切な者を亡くさない。自分の未熟さで。」
ある者は請ふ。「この理不尽な世界に、心の拠り所を得るために。」
ある者は進む。「その悲しみ、失望で自分を蝕むしばみながら。」
ある者は欲す。「破滅の道…絶望を噛みしめながら…。」