プロローグ
ーー負傷し、重くなった体で僕は歩いた。
或る方角の空には無数の魔法陣が浮き上がる。
また、或る方角の空には何かが炸裂し夜空を埋める。
今が夜だと忘れるほどの輝きだった。
辺り一帯からは様々な音が届く。
怒り悲しみ痛みによる人々の叫び声。
魔術や銃声、爆弾などによる炸裂音が轟く。
街は壊れ草原は焦土と化す。
戦争は惨い。ただそれだけだ。
◆◇
「あぁ…また…また…ダメだった…。」
下を見つめ僕は崩れ落ちた。
目の前には一人の女性が倒れていた。
その姿は、あまりにも残酷だった。
服は焼き焦げ、体は爆風によりボロボロに傷つき血が流れていた。
僕は彼女を抱きしめる。
涙雨。大粒の雨が僕らを打ち付ける。
「……ーーー」彼女の口が動く。
「いま…回復…魔術を…」
「だい…じょう……ぶだ…よ…」声は擦れ震えていた。
「……?」呆気にとられ声が出なかった。
「いいの……もう…間に…合わない…から…。」
「そんな……」
彼女の口元が綻び
「せい…と…あい……して…る…」伸ばした手は僕の顔の目の前に来て触れることなく力尽きた。
雨音などのノイズは僕には届かなかった。
どこからか足音がした。
泥濘を駆ける音。
そして、声が聞こえた。
「居たぞ!こっちだ!」
「あのケープ…ミドラスの」
武器を所持した兵士が僕らを包囲するように近づく。
「銀髪…あいつは!」
「厄災だ!ここでやつを仕留めれば、俺たちは英雄になれるぞ!」
「いいか!やつが弱ってるからといって油断するな!一斉にかかるぞ!」
兵士が駆け出す。
「はぁ……。」虚ろな顔を上げ奴らを見た。
「消えろ…。」
ㇷ゚シュンッ!
なにかが風を切る音と共に兵士の上半身が飛び、周りの兵士も次々と倒れて行った。
僕の周りに赤色の雨が降り出す。
邪魔者が消え再び彼女をみる
「ごめん…。三葉…。また…僕は……。」
「……あ?…また?…そうだ…戻ろう…過去に…僕になら…できるはず…やり直そう…」
「あ…でも魔術の代償が…代償…代償…あぁ代償は敵の命だ!」
精神は壊れ奇妙に笑いながら僕は立ち上がり、敵を目指し歩きだした。