★43話 大事なこと★響side
「ちゅーか、響!おまえ関係ないのになんでずっとおんねん!!」
天音が落ち着いたあと、和泉について病室をでると突然そうつっこまれた。
「いや……なんとなく、でるにでれねぇ雰囲気だったし……」
「まぁええけどさぁ……」
少しの沈黙が流れる。
……聞いていいのだろうか??
あの天音に似ていた少女のこと。
少女と和泉と天音との関係のこと。
オレがためらっているとそれを察したのか、和泉がぽつりと言った。
「…なんか、いろいろ知りたそうな顔やな」
そして突然にっと笑う。
「話したろか!?オレの過去編的なこと!!」
無理やりに笑顔をつくる和泉がひどく痛々しく見えた。
「…いや、いいよ」
無理に話させるべきじゃない。
全く何も知らなかったオレでも分かることがある。
それは、さっき和泉に聞いた『好きな奴』があの少女であること。
きっと今和泉がオレに話してくれようとしている話には少女もでてくるのだろう。
たった今いなくなってしまった人のことをわざわざ話させるわけにはいかない。
「はは!別に気ぃつかってくれんでええよ!!ってか……」
和泉は少しうつむいた。
「奏との思い出を振り返りたいねん。別にめんどかったら聞かんでもええ。だから…」
和泉は顔をあげてさみしそうに笑う。
「ちょっとだけ、話させてくれ」
オレは戸惑いながらもうなずいた。
「…ありがとうな。響」
和泉はどこか遠くの方をじっと見つめながら話し始めた。
「さっきの女はな?鈴の双子の姉ちゃんで奏っちゅうねん……」
オレと奏と鈴は生まれたときからずっと一緒やった。
あいつらはまぁ双子やから当然やけど、オレがなんで一緒やったかっていうのは単純であいつらの両親とオレの両親がめっちゃ仲が良かったからや。
鈴、今はまだましやけど小さい頃はめっちゃ男みたいやってんで??
もちろん奏も。
女のくせにめっちゃケンカ強くて、幼稚園、小学校のころはオレらは悪ガキをこらしめるヒーロー的な存在やったんや!!
とにかくオレらはずっと三人一緒でそれがめっちゃ楽しかった。
「オレらは何があっても3人一緒や!大人になってもずっーーーっとやで!」
オレらやったらずっとずっと一緒におれる。
ずっと仲が良い『親友』のままで。
小さくてまだなんも知らんかったオレは、それがほんまに叶うと信じて疑ってへんかった。
中学にあがっても、オレの気持ちは変わってなかった。
アホみたいやけど、本気で何も変わらんままあいつらとずっと一緒におれるって信じてたんや。
「なぁ、蒼!おまえってさ、鈴と奏のどっちかと付き合ってたりするん??」
男友達にそんなことを聞かれることもあったけど、
「んなわけあらへんやん!あいつらはただの親友やで!!」
オレは決まって笑いながらそう答えてた。
オレが鈴か奏を好きになる??
そんなこと絶対にない。
だってあいつらとオレには恋愛とかそんな気持ち以前にもっと強い絆があるねんから。
けど中3のときに、そう信じていていたオレの中に想定外の気持ちが生まれた。
その気持ちが生まれたのはもう受験も近くなってきた秋の終わりごろ。
見えへんかもしれんけど、オレはこれでも毎日机に向かって勉強してた。
そんなオレの家に突然奏が訪ねてきたんや。
そのときオレは何も不思議に思ってなかった。
たまにわからへん問題があったときとかに、鈴と奏はようオレの家にきとったから。
だから、今回もしれやと思った。
けど玄関のドアをあけると、あきらかに奏の様子が違うことに気がついた。
蒼白した奏の顔。
「奏??どうしたん……??」
オレが戸惑いながら尋ねると、奏の目から突然涙があふれた。
「あ、蒼……、鈴が、鈴が………!!」
震える声で何かを必死に訴えようとする奏。
足ががくがくと震えていて今にも倒れそうだった。
「鈴!?鈴がどうしたん!?」
「鈴が……どうしよ……!ウチのせいで!!」
奏は完全に取り乱していた。
そんな奏を見てオレは驚きを隠せないでいた。
どちらかというと、奏は鈴よりもしっかりしててオレ達の中のお姉ちゃん的な存在やったんや。
オレと鈴のどっちかが落ち込んだとき、励ましたり助けてくれたりしたんはいつも奏やった。
そんな奏が、少しオレらより大人びていた奏が……
「蒼…助けて……!!」
泣きじゃくってオレにすがっている。
理由はわからへんけど、こんなにも取り乱してオレに頼ってる。
思わずオレは奏を抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫やから…とりあえず落ち着け……!!」
奏の体はびっくりするくらい細くて柔らかかった。
小さい頃は身長を競い合ってたのに、奏の体はすっぽりとオレの胸の中におさまってた。
初めて、オレ達はもう昔とは違うってことを実感した。
「蒼……」
まだ震えている奏の体をさらに強く抱きしめる。
どうしよ……
……めっちゃ可愛い。
「……何が、あったん??」
もう一度オレが尋ねると、奏はかすれそうな声で言った。
「さっき鈴とケンカして……それで鈴が出ていって…それ、結構前やねんけど、まだ鈴、帰ってきてへんねん……」
奏の声がさらに震えて、かぼそくなった。
「どうしよ……!もし鈴になんかあったら……!!」
鈴が……!!
奏の話を聞いてオレも思わず焦ったが奏にそれを気取られないように笑顔をつくった。
奏の体をゆっくりと解放する。
そしてそっと奏の頭をなでた。
「心配すんな!オレ、探してくるわ!オレが絶対連れてかえってきたるから!!」
奏は少し落ち着いたようで袖で涙をぐっと拭き取り、いつもの笑顔で笑った。
「…うん!んじゃ、ウチも探してみる!」
なぜか、いつも見ているはずの笑顔が驚くほど可愛らしく見えた。
顔が熱くなる。
オレは慌てて奏に背を向けた。
「おまえは家におれ。おまえまでおらんくなったら今度は鈴が心配するやろ!」
「……わかった。ありがとうな、蒼」
オレは鈴を探しに家を飛び出した。
少し肌寒い秋の夜風がほてった顔を冷ますのにちょうど良かった。
それから、オレは奏のことを意識するようになった。
どんなに鈴と奏を同じ『親友』として見ようと思っても無理やった。
ちょっとした奏の仕草が可愛く見えたり、ちょっとした言動ですごくうれしくなったりした。
それでも、オレはまだ信じようとしてた。
いや、信じたかった。
あの時のオレの言葉がほんまに叶えられると。
けど高校になって、オレと奏が同じ高校、鈴が違う学校に進学したとき、
オレはやっとオレ達はずっとこのままではいられへんということに気がついた。
鈴と離れてからもオレ達は変わることなく待ち合わせをして一緒に家路についていた。
高1の夏くらいまではオレ達はオレの気持ち以外何も変わってなかった。
だけどある日、いつものように中庭で奏と昼飯を食ってた時。
「…あんな、蒼。ウチ、今日告白されるかも」
奏が唐突に言った。
胸がしめつけられるように痛くなった。
…何を焦っとんねん。
奏が告白されるなんて、小中学生のときは何も感じてなかったやん。
「…へぇ、そうなんや。良かったやん!」
オレは平静を装い、笑顔をつくった。
「……うん。なんか手紙で呼び出されて。今日放課後教室にきてって」
「そうなんか!まぁがんばれよ!」
そう返事しながらも、頭の中にはぐるぐるといろんな考えがまわっていた。
奏は受け入れるんかな??
そうしたら奏は他の男と付き合うん??
そしたらオレは……
キーンコーンカーンコーン
ちょうど、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
奏は立ち上がり、オレに笑いかけた。
「…だから、今日は一緒に帰られへん。鈴に伝えててな!」
「…うん」
立ち去ろうとする奏。
その背中を、無意識にオレは抱きとめていた。
「え…蒼……??」
奏は固まって驚いたようにオレの名前を呼ぶ。
自分でも何をしているのか分からなかった。
「嫌や。やっぱ行かんといて」
分かってる。
今からオレが言おうとしていることは絶対に言ったらあかんこと。
オレが信じたかった関係を壊してしまうこと。
けど、言わずにはおれんかった。
オレは恋愛感情ってのをあまくみていた。
こんなにどうしようもない気持ちがあるなんてこと、知らんかった。
「オレ……おまえのこと好きやねん……!!」
それからオレと奏は鈴に隠れて付き合うことになった。
オレが一番維持したかった関係を壊したのはほかでもないオレ自身。
それほど、オレは奏のことが好きやった。
そのうち、鈴の気持ちに気がついてしまった。
鈴もオレを好きって思ってくれてること。
けど、オレは気付いていないふりをした。
それどころか、もっともっと奏と2人でいたいと思ってた。
オレは奏だけが欲しかった。
『オレらは何があっても3人一緒や!大人になってもずっーーーっとやで!』
小学生のころ、そう言ったのはオレ。
そしてそれを壊そうとしているのもオレ。
オレは最低なやつやと思った。
きっとそんなオレにばちがあたったんやろなぁ……
高2の春。
オレの大事やったものは2つとも奪われそうになったんや。
その日、オレ達はふざけあいながら3人で家路についていた。
いつもの楽しい時間。
それを壊すかのように、
プーッッ!!
突然バカでかいクラクションの音が鳴った。
「鈴!!」
同時に奏の声。
ドンッ。
大きな鈍い音がした。
……何が、おこったんや……??
視界に血だまりの中で倒れている奏と鈴の姿がうつった。
「奏!!鈴!!」
頭が真っ白になった。
何これ、何これ。
なんで2人が…!?
見ていた誰かが病院に連絡してくれた。
すぐさまに駆けつけてきた救急車が2人を担架に乗せる。
オレは何も考えられないまま奏のそばにかけよっていた。
「奏!奏!!」
いくら名前を呼んでも、奏は返事をしない。
隣で運ばれている鈴を見た。
鈴もぐったりとして動かなかった。
嫌や……
なんで……??
なんで2人が………
まとまらない思考が頭の中をぐるぐると回る。
2人がいなくなったら…オレは…オレは……
なんでオレだけ無事なん??
奏が死ぬ?
なんで…なんで……なんで………!!
オレは救急車に乗せてもらって奏と鈴と一緒に病院にいった。
2人の手術中ずっと祈ってた。
どうか、2人とも助かりますように。
もう、奏だけが欲しいなんて思えへんから。
小さい頃に誓ったことを守るから……
お願いやから………!!
……オレの願いを、神様は聞き入れてくれなかった。
手術の結果、鈴は助かったが奏は意識が戻らないままだった。
医者はこれから意識が戻る可能性はほとんどないと言った。
それでも、オレは信じようと思った。
いつか、いつかきっと、奏の意識は戻る。
それでまた3人一緒にいられるようになる、と。
「それで、今日おまえが見たとおり、それは半分叶って半分叶わへんかったってことや」
「………」
無表情にそれだけを話し終えた和泉はオレの方を見てふっと笑った。
「…もし、オレが奏だけを手に入れたいと思わずに、3人でずっと一緒にいたいって思ったままやったら、神様はあんなひどいことせーへんかったんかなぁ??」
「………」
オレは何も言えなかった。
何を言っていいのかわからなかった。
「いや、オレがあのとき、奏と鈴の代わりにひかれてたら良かった。それやったらあんなに辛い思いせんですんだのに……」
「………」
「響」
和泉はまっすぐにオレの目を見た。
「さっきもいうたけど…おまえの大事な奴はちゃんと生きてそばにおる。たとえ、今の詩織がおまえの好きやった詩織じゃなくても、それでも詩織は生きている。それが詩織や思われへんなんて、贅沢言ったらあかん。」
和泉はオレから目をそらし、少しうつむく。
「オレには……もうおらんのや」
「和泉……」
少しの沈黙のあと、和泉はさっきまでの表情がウソのように明るく笑った。
「あ、心配せんといてな!大丈夫やで!オレにはまだ鈴がおるから!」
それはいつもの和泉の笑顔だと思った。
多分、和泉は本気でそう思っているのだろう。
自分の大事なものはまだすべて消えたわけじゃないと。
「……ありがとな」
和泉の強さに自分がどれだけ弱かったのかを知らされて、オレは思わずそう言った。
こいつは、本気で好きだったやつをたった今なくしたばかりだ。
それなのにもう立ち直って前を見ている。
一緒に残された大切なものを大事にしようと考えている。
それなのにオレは……
詩織がオレとの思い出を忘れているだの、今の詩織は詩織だと思えないだの……
なんてくだらないんだろう。
少し違っても、たしかに詩織は詩織のままでオレのそばにいるのに。
「なんで響がありがとうやねん!こんなにしょーもない話を聞いてもらったオレの方がありがとうやし!」
「いや、おまえのおかげで分かった。ありがとう」
和泉は少し目を見開いて、そしてふっと笑った。
「…うん。じゃぁはやく詩織のとこに行ってき」
オレはうなずいて病院をでた。
きっと詩織はもう家に帰っただろう。
だけど、明日まで待つ気にはなれなかった。
はやく今気付いた気持ちを詩織に伝えたかった。
だいぶ重くなってしまいました(;一_一)
蒼すごくいいやつですね(*^_^*)
文章にまとまりがないのはいつものことなので許してあげてください<m(__)m>




