☆41話 双子☆詩織side
「ウチには奏っていう双子の姉ちゃんがおるねん。
ウチらと碧は同じ日に同じ病院で生まれた。
家も隣どおしやったから、ウチらはほんまの兄弟みたいにずっと一緒やったんや……」
鈴さんは目線を落としながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
ウチと奏は小さいころからめっちゃ男っぽい性格で、ケンカも得意やった。
だから幼稚園とか小学校の頃は碧と3人で悪ガキ共をこらしめたりしながら楽しんでた。
そのおかげで、ウチと奏はしょっちゅう女の子に告白されたりしててんけど…(笑
もちろん、碧もしょっちゅう女の子に告白されてた。
その頃はそれも全然気にならんくて、逆にはやしたてたりしてた。
ほんまに、その頃のウチらは親友っていう言葉がぴったりで……
どんな時でも3人一緒で、それがめっちゃ楽しかった。
「オレらは何があっても3人一緒や!大人になってもずっーーーっとやで!」
無邪気に笑ってそう言った碧の言葉を、ウチはずっと信じていた。
ウチらはずっとずっと親友やって。
この気持ちはずっとずっと変わらへんって。
ずっとずっと信じてたのに……
中学に入って、ウチらは成長して……
親友じゃいられなくなった。
それだけじゃ、どうしても足りない。
どうしようもない気持ちが生まれてしまった。
……碧が好き。
そんな気持ちがいつ生まれたのかはわからへん。
だけど、たしかに言えることは、中3の頃にはもうその気持ちは生まれていたこと。
ウチはなんとなく碧のことを意識していた。
けど、その気持ちがはっきりとしたのは、中3の秋の終わりのある事件。
奏はもともとかしこかったけど、夏休みが終わってからますますかしこくなった。
同じ双子のはずなのに奏とウチの成績は比べ物にならないくらいに違っていた。
碧も奏と同じようにかしこくなっていって、ウチだけ2人に追いつかれへんかった。
春に受験をひかえていたウチはそれにだんだんとストレスがたまっていて…
そして、中間テストの結果が返ってきたとき、それが爆発した。
「なんで!?なんで奏ばっかりそんな点数とれんの!?」
奏ばっかりいっつもいい点数とって!
お母さんとお父さんに褒められて!
やのにウチは全然あかん!
このままやったら奏と碧と同じ高校行かれへん!
奏と一緒のはずやのに……
なんでウチだけあかんの!?
「だって…ウチはいっぱい努力したんや……」
「ウチだってした!」
ずっと奏と一緒に勉強してた!
奏だってしってるやんか!
「きっと生まれる時に、奏がウチの才能を吸い取ってもうたんや!おまえのせいでウチは全然あかんのや!」
1人で生まれてきたら……
ウチはもっとかしこくなって、碧と同じ高校に行けたかもしれんのに……!
「奏なんか生まれてこやんかったら良かったのに!」
ウチはそう叫んで家を飛び出した。
外は暗くて、冬が近いせいか、風が少し冷たかった。
ウチは感情に身をまかせて、行く場所も決めずただ走っていた。
気がついたらウチは公園におって……
なんとなく、ブランコに座ってゆらゆら揺れてみた。
ほんまに…
ほんまにこのままやったらウチだけおいていかれる………
ずっと3人で一緒におられへんようになる………
嫌や…
そんなん嫌やぁ……!!
「なぁ、こんな夜に何してるん?」
うつむいていると、突然声をかけられた。
顔をあげるといつの間にか数人の男にかこまれている。
…何や?こいつら。
「…別に。おまえらに関係ないやろ」
ウチは今いらついとるんや。
余計な声かけんなや。
「そんなん言わんと、暇なんやったら遊びに行こうや」
ぐっと強く腕をひっぱられた。
ウチはその手をふりはらおうとする。
だけどうまくいかなかった。
…あれ??
こいつめっちゃ力強い…!?
ウチはブランコから立ちあがって掴まれてない方の手で男に殴りかかった。
だけどそれも簡単に止められる。
そして両手を掴まれた。
「や、やめろ!!」
もがいてももがいても手は力強い力で掴まれている。
なんで…!?
小さい頃はケンカなんか得意やったのに…!!
手を振り払うことさえできひん……!
力が全く違う……!
ウチがもがくのをあきらめた時、
ふいにウチを掴んでいた男の手がはなれた。
え…!?
「鈴!大丈夫か!?」
耳に入ったのは碧の声。
そして目に映ったのは碧の姿。
「おまえいきなり何すんねん!」
どうやら碧は私を掴んでいた男の背中を思い切りけったらしい。
男は背中をおさえながら碧を睨んだ。
碧はにっと笑った。
「あ?いや、悪いなー!そいつに用あってな。邪魔やったからついやってもうた!」
男達が碧に殴りかかった。
けど碧は軽々とそれをよけて、代わりにカウンターをくらわせる。
「鈴!いくで!」
男達が倒れているうちに碧はウチの手をつかんだ。
2人で逃げるように公園をでて、だいぶ逃げたところでへたりこむ。
「あー、疲れた!ひさしぶりにこんな運動したわー!」
隣で額の汗を拭きながら笑う碧。
ウチはそんな碧の隣で小さく三角座りをした。
「……余計なことせんでええのに。あんなんウチだけでもどうにでもなったわ」
碧はきょとんとウチを見て、にっと笑う。
「よぉ言うわ!オレがこんかったらやばかったくせに!」
……たしかにそうや。
ウチは、知らんうちによわなってたんか……
碧は小さいころから変わらず強いのに……
ウチは全然……
ウチは膝に顔をうずめた。
やっぱり…
ウチはやっぱり…
何も…何もでけへん……
ぽんっ。
突然肩を軽く叩かれた。
「何気にしてんのか知らんけど……はよ家帰ったれや。奏、泣いてたで?」
奏…泣いてたんや……
そういえばウチ、奏にひどいこと言ってもうたもんな……
けどしゃーないやん。
奏はウチの才能とかを全部すいとったからあんなにかしこいんやから……
そんなん言われて、当然やん……
「鈴、知ってるか??奏、いつもおまえが寝てる間もずっと努力してんねんで??」
「え…??」
「ほら、オレとおまえらの部屋隣やろ?オレが夜更かしした日も、おまえらの部屋はずっと電気ついてるもん。んで、このまえ声かけたらおまえ寝てたし……いっつもそうなんとちゃうか??」
…そういえば、
奏はいつもウチが寝よっていっても、まだあとちょっととか言って勉強してたな。
なんや、そうか。
ちゃんと思い出せば簡単なんや。
奏はウチよりもいっぱいいっぱい努力してるからかしこいんや。
それやのにウチは……
なんの努力もせんと奏にひどいこと言って……
ほんまに…
最低や……
奏に合わせる顔があらへん……
涙が目にいっぱいにあふれだした。
止めようにも止まらなく、とめどなくあふれてくる。
そんなウチの肩を、碧はそっと抱いてくれた。
「好きなだけ泣いてええ。そんかわり、めいいっぱい泣いたら奏に謝りにいこな??」
ウチは何度も何度もうなずいた。
碧はウチが泣きやむまでずっとそばにいてくれた。
悲しいはずなのに、心のどこかでそれが幸せだと感じた。
そのときウチははっきりと気がついたんや。
ウチは碧のことが好き。
はっきりと、そう気がついてしまったんや………
結局ウチは奏と碧とは違う高校に行った。
必死で勉強したけど2人にはとても追いつけなかった。
それでもウチらの関係はほとんど変わらなかった。
近い高校を選んだから帰りはいつも一緒やったから、ウチらはまた3人一緒でおれた。
ただ……
変わったのはウチらの気持ち。
ウチは碧が好き。
そして…
きっと奏も。
ウチが碧が好きって気がついた時、奏の気持ちにもなんとなく気がついた。
だって、奏が碧を見る時の目が、表情が、違っていたから。
「……なぁ、奏ってもしかして碧のこと、好きやったりする??」
ある日の夜。
ウチは奏に尋ねてみた。
「へ……??」
奏は顔を耳まで真っ赤に染めた。
「な、なんや!?いきなり!!そ、そんなわけないやろ!?」
「奏、顔、耳まで赤いで??」
奏は目を見開いた。
そして恥ずかしそうにうつむきながら小さくうなずく。
「やっぱり!奏、わかりやすいわー!!」
ウチは奏を指差して大笑いした。
奏はむっとしたようにウチを睨む。
「…鈴はどうやねん??」
そしてためらいがちにそう聞いてきた。
顔が熱くなる。
「んー…まぁ、ウチもかな」
ウチは照れ笑いしながら答えた。
「そうか…」
少し、気まずい沈黙が流れた。
…どうしよ。
ウチ、変なこと聞いてもうたかも……
……でも、
でも、
どうしても奏の気持ちを確かめたかったんや……
「…鈴は」
奏が不意に口を開いた。
「鈴は、碧と付き合ったりしたいん??」
……!!
付き合う…??
そりゃ…
そりゃ、叶うんやったら、付き合いたいに決まってる。
「…うん。…奏は??」
「…ウチは…わからん……」
奏はウチの方を見ず、どこか遠くを眺めるようにして言った。
「ウチ、正直わからんねん。まず、ほんまに碧のことが好きかどうかもわからん。『好き』っていう気持ちが、親友としてなんか、鈴の気持ちと同じなんかわからんねん。……けど、もしこの気持ちが鈴の気持ちと同じやったとしても……」
奏はウチの方を向くと、少しさびしそうに笑った。
「ウチは付き合いたいとか思わへん。ウチはそんなんじゃなくて…ただ、鈴と碧と、ずっと3人一緒でおりたい。ウチは、鈴も碧も同じくらい好きやから」
奏の言葉に、胸が締め付けられるような感じがした。
不思議と涙がこぼれた。
やっぱり……
ウチと奏は全然違う……
碧と付き合うなんて………
そんなんしたらきっと今みたいに3人一緒でおられへんようになるのに……
ウチは奏のことなんか全然考えんと、
簡単に碧と付き合いたいなんて思ってしまった。
奏はちゃんとウチのことも思ってくれてたのに……
「鈴!?何泣いてんの!?」
奏はウチを見て驚いたように目を軽く見開いた。
「ごめん…奏、ごめんな…?ウチも……ウチも、奏と碧とずっと一緒におりたい……」
「鈴……」
奏はうれしそうに笑ってウチをぎゅっと抱きしめた。
「うん…ずっと一緒におろな?ウチらはずっと一緒や」
奏は優しくウチの頭をなでながら言った。
その時、ウチらは決めた。
絶対に、碧にこの気持ちは伝えない。
そうすれば、ウチらはずっと3人一緒でいられる。
実際、そうすることでウチらの関係は保たれていた。
だけど、ずっと3人でいるうちに、ウチはあることに気がつき始めていた。
……もしかしたら、
碧は、奏のことが好きなのかもしれない……
そう思い始めたきっかけは、ほんの些細なこと。
ウチらは夏休みに暇つぶしで、ぶらぶらと商店街を歩いていた。
「あづい~!!この暑さ異常ちゃうん!?どないなっとんねん!」
奏は手でぱたぱたと自分を仰ぎながら言った。
「だから言ったやろ!?冷房聞いてるコンビニで雑誌立ち読みしよって!ったく、何が悲しくてこんな暑い中外あるかなあかんねん……」
「アホか!そんな恥ずかしいことできるわけないやん!そんな行きたいんやったら1人で行ってこいや!!」
ウチは思いっきり碧の背中を叩いた。
「痛っ!おまえはなんですぐそうやって叩くん!?ってか、奏!いつの間にアイス食っとんねん!?」
「フッフッフッ…ウチは常にすばやい行動を心がけてるのだよ。あー!やっぱ夏はアイスやわ!」
奏はいつの間にかそばの駄菓子屋で買ったらしいスイカバーをなめながら見せびらかすように言った。
「ええなぁ!ウチも買うー!」
ウチは奏と同じスイカバーを買った。
そして封を開けながら碧の方を見た。
「碧、アイス買えへんの………」
碧を見て、ウチは思わず言葉をつまらせた。
碧は奏を見ていた。
幸せそうにスイカバーをなめている奏を、
今までみたことのないくらい……
とても、
とても優しい顔で。
ズキ……
胸が強く締め付けられる。
だけどウチはそれに気がつかないふりをした。
「碧!アイス買わんの!?」
少し大きめの声で言うと、碧ははっとしてウチを見た。
「あ、ああ!そうやな!オレも買うー!」
そう言ってアイスのケースをあさりはじめる碧。
ウチはそんな碧をじっと見た。
…碧は、奏のことが好きなんかな……??
そんな考えが頭をよぎる。
だけど、ウチの心はそれを否定した。
…ううん。違う。
きっと今のはたまたまや。
そんなん…
絶対に違う。
ウチは碧の気持ちを見ないようにした。
碧の気持ちを知るのが怖くて。
ウチが1人になるのが怖くて。
…大丈夫。
ウチには奏との約束がある。
奏もきっとあの約束を守ってくれる。
だから…
だからウチらはずっと3人一緒でおれるんや……
これから先変わることなく、ずっと一緒に……
だけど、そんなウチの願いは一瞬で崩れ去った。
それは、高2の春のこと……
ウチらはいつものように待ち合わせして3人で家路についていた。
「あいかわらず碧は髪ボッサボサやなぁー。なんでなん??」
「うるさいわ!おまえもいっつもよぅその趣味の悪いバンダナつけるよなー?」
碧は奏の迷彩色のバンダナを指差してケラケラと笑った。
それは、ウチらが小学生の頃に、父さんがウチと奏があまりにも似てて、まわりの人がよく間違えるからと言って誕生日に奏に渡されたものだった。
奏はそれを気にいって、小学生の頃から今までずっとつけている。
「はー!?これのどこが趣味悪いねん!?そうや!おまえもこれしたらちょっとは髪の毛マシになるんちゃうかー!?」
奏はバンダナをはずすと、無理やり碧の頭にまこうとした。
「ちょっ!やめろや!」
碧は必死にそれに抵抗する。
ウチはその様子を見て笑っていた。
…その時、車がきていることになんか気がつかなかった。
ブーッ!!
突然大きなクラクションの音が鳴る。
ウチは驚いて音の方を見た。
車がウチのすぐ目の前にせまっている。
やばい…!!
早く逃げな…!!
だけど足が動かなかった。
どうしようもなく、ぎゅっと目を固くつぶる。
その時だった。
「鈴!!」
奏の声が聞こえたかと思うと、誰かがウチを思い切り押した。
同時にドンッ!という大きな音がして、体に強い衝撃が走り、体が地面に打ち付けられる。
体がズキズキとして、どこも動かせなかった。
「奏!!鈴!!」
碧が叫ぶ声が聞こえる。
なんとか目をあけると、ぼんやりとした視界の中に奏の姿が映った。
奏は血だまりの中で横たわっている。
か…なで……??
なんで……
なんで奏からあんなにいっぱい血がでてんの……??
救急車のサイレンの音がした。
救急車の中から人がいっぱいでてきてウチと奏を担架にのせる。
「奏!奏!!」
かすれていく意識の中、奏のそばで何度も奏の名前を呼ぶ碧の姿が目に映った。
…ああ、
やっぱり、碧は……
ウチはそのまま意識を失った。
「奏はウチをかばってくれた。だからウチは助かったけど…奏は……」
鈴さんは言葉を切った。
少しの沈黙のあと、言葉を続ける。
「奏は…目を覚まさんかった。奏は目を覚まさんまま…ずっと病院のベッドの上におる」
私は黙って鈴さんの話を聞いていた。
あふれだしそうになる涙をなんとかこらえながら。
「ウチがここに引っ越してきたのはな?ここに設備のいい病院があるって聞いたからなんや。もしかしたら奏の様態がよくなるかもって。……碧は、奏のそばにおりたいって言ってきかんくて…でも引っ越しなんてできんから、親に無理言ってウチの家におるんや」
「そう…なんですか……」
まさか……
鈴さんと碧さんにそんなことがあったなんて……
2人ともとても明るいから……
そんなことがあったなんて思いもしませんでした……
「碧のバンダナはな?元は奏のやねん。碧は奏の物を身につけることで少しでも奏と一緒にいようとしてるんや。しかも、碧は毎日奏のいる病院にかよってる。ウチも毎日かよってるけど…碧はウチよりもずっと長い時間、面会時間ギリギリまで奏の所におる」
鈴さんはポロポロと涙をこぼし始めた。
「だから…だからウチは…できん…碧に気持ちを伝えるなんて…碧と奏の気持ちが分かってるのにそんなこと……絶対にできん…」
「鈴さん…」
鈴さんは涙をふくと、にっと笑った。
「…ごめん。話聞いてくれてありがとう!ってことやから、ウチは碧に告白なんてせーへんで!!納得してくれた??」
「はい…変なこと聞いてしまってごめんなさい……」
「なんであやまるねん!ほんま詩織は謝ってばっかやな!よし!んじゃかえろか!」
鈴さんは鞄を手にとると、教室のドアの方に向かって歩き始めた。
これから…
鈴さんはまた、病院に……
奏さんの所に行くんでしょうか……??
そう思うと、その後ろ姿がひどく痛々しく見えた。
今回はほとんど鈴が話しているという設定です。
話の筋道があんまりたっていませんでしたが……
どうしてもこれが書きたかったので(^_^;)
あと、時間があれば奏sideと碧sideも書きたいとおもってます。
多分ふたつとも全然違う話になると思います(^-^)
ちなみに『奏』は『かなで』と読みます。