★40話 好きな人★響side
「響ぃー!おはよーさん!」
背後からバカでかい声がしたかと思うと、突然抱きつかれる。
「…おはよ」
オレはその手を振り払いながらつぶやいた。
「ったく、今日もあいかわらずつれへん奴やなぁ…」
はぁっと大きなため息をつく和泉。
なぜかこれが最近の朝の行事になってしまっている。
オレも妙な奴になつかれたもんだな……
そう思い、ため息をついた。
「あ、そういや響!美術の提出物ちゃんとやってきたか!?」
ん……
そういやそんなのあったっけか?
「多分やったと思うけど……」
「オレは結構自信作やで!ちょっと見てくれ!」
和泉は自信満々に鞄の中をあさりはじめた。
「どや!めっちゃうまいやろ!?」
そう言って見せられたのは……
……お世辞にもうまいと言えない風景画。
「…すげぇな。ピカソよりもすげぇかも」
「ホンマ!?いやー!照れるわぁ!!」
和泉は満面の笑みで頭をかいた。
いや……ほめてないけどな……
「んじゃオレ、他の奴にも見せてくるわ!」
そう言って和泉はクラス中の奴に声をかけ始めた。
そんな様子を見てまた小さなため息をつく。
ちょっと調子のらせちまったな……
まぁいいか。
オレは和泉から目をはなし、窓の外の景色を見た。
季節はもう秋の初め。
詩織が記憶をなくしてから、2か月近く。
2か月というと短い気がするが、オレにとってはすごい長いような気がする。
詩織は徐々に記憶を取り戻し始めているようだが、それでもまだ不安だ。
もしかしたら記憶の断片しか思い出せないままでいるかもしれない。
最近は全然前の記憶の夢を見た、という話もないし……
これ以上はもう、思い出さないのかも……
オレは不安になる気持ちから目をそらすように、窓から目をそらした。
「和泉の好きな奴??」
詩織はにっこりとうなずく。
「はい!どうやら鈴さんが碧さんのことを好きみたいなんですよー。だけど鈴さんったら碧さんに好きな人がいるって勝手に思っちゃって…だから滝沢サンがつきとめてください!」
へー……
まぁなんとなくそうっぽいとは思ってたけれども……
いや、でも……
「なんでオレが……」
「だって滝沢サン、碧さんと仲いいじゃないですか!」
オレは即座に首を大きく振った。
いや!
そんなこと全然ない!
はっきり言ってうっとうしい!
ってかそんな風に見られてたのか!?
「いや、別に仲良くしてるつもりなんて全然ないんだけど……」
「でも同じクラスですし!お願いします!」
同じクラスだからって……
無理やりだな……
そう思いながらもオレは渋々とうなずいた。
詩織はうれしそうににっこりと笑う。
「あの…それで、私、また夢を見たんですけど……」
そして突然小さな声で言った。
「夢?また何か思い出したのか!?」
詩織はなぜかうつむきながら、夢のことをはなしてくれた。
詩織とケンカして…
それで、1人で帰ろうとして、忘れ物を思い出して取りに行ったら詩織が教室で寝てて……
普段言えないことを1人言のつもりでつぶやいてたら実は詩織が起きてて……
思わず顔が熱くなる。
「ああ…あのときの…な。あんなの思い出さなくてもいいのに」
よりによってそのことを思い出さなくても……
あんときはかなり恥ずかしかったな………
オレは頬の熱を隠そうと話題を変えた。
「じゃあなんとか聞いてみるから。またなんか思い出したら言えよ??」
「はい…」
詩織はにっこりと笑った。
教室に戻ると、とりあえず和泉に声をかけた。
「和泉、いきなり変なこと聞いてもいいか??」
「ん?別にええけど……」
「おまえって、好きな奴いる??」
和泉の表情が一瞬固まった気がした。
けどすぐに能天気な笑顔になる。
「別におれへんよー。なんで??」
「いや…なんか詩織に聞けって言われて…」
天音がおまえのこと好きらしいから……
というのはなんとなく言い辛かったので、とりあえずそう言っておいた。
「詩織??なんで……あっ!」
突然和泉ははっとしたような顔をした。
そしてぽんっとオレの肩に手をおく。
「そうか…なんか悪いな…うん。ごめん」
妙に深刻な声で謝られる。
「まさか詩織、オレのこと好きやなんて……」
「いや、違うだろ」
オレは思わずつっこんだ。
勘違いにも程があるだろ……
大体……
よっぽど天音のことを言いそうになったが、なんとか思いとどまる。
「いや、本気でそうかもやで?だって詩織はお前とのことほとんど忘れてんやろ??だからその可能性もあるやん!」
「…まぁ、そうだけど」
和泉のいうとおりだ。
詩織がもし和泉のことを好きになってたって……
別に、おかしいことはない……
「いや、そこまで本気に取られても……」
和泉は苦笑いしてぽんとオレの肩を叩いた。
「冗談やて!詩織はちゃんとおまえのことが好きや!オレには分かる!これでも勘は鋭い方なんやで?」
「…そうだといいけどな」
本当に……
詩織がちゃんとオレのことを好きでいてくれたらいいと思う……
だけどその前に……
オレは…
オレ自信は詩織のことがちゃんと好きなんだろうか……??
「…なぁ、和泉。ちょっと変なこと言ってもいいか??」
「何や?」
オレは初めて、ずっと心の中で思っていたことを口にだした。
「……オレ、詩織が詩織と思えないんだ」
「何で??詩織は詩織やろ??」
和泉は不思議そうに言った。
「けど…どこか…詩織じゃない気がする……」
なんでオレは和泉にこんなこと言ってるんだろう??
こんな奴にこんな話しても適当に返されるだけだ。
けど……
それならそれでもいいと思った。
適当に流してくれたらいい、そう思っていたのに……
「オレにはよぉわからんけど……でも、それってお前が勝手に思ってるだけやろ??」
和泉は以外と真剣に答えてくれた。
その表情からはいつもの能天気な笑顔が消えている。
以外な反応に驚きながらもオレは和泉の言葉に耳を傾けた。
「詩織は別に動かれへんわけでもない。しゃべれんわけでもない。ちゃんとお前としゃべって、笑って……それでええやん」
和泉は目を伏せると、小さな声で言った。
「…そんな事さえ叶わん奴がおるんやから」
「…和泉??」
和泉は目をあげてにっと笑った。
「まぁ、仮にそんな状況になってもうたとしても、生きてるだけでええやん!生きてさえいれば、おまえの言葉はちゃんと詩織に伝わるんやから!」
なんとなく、それは和泉が自分自身に言っているように聞こえた。
けど、妙に和泉の言葉に納得する。
…そうだな。
詩織はあの時死ななかった。
身体的にも、ほとんど影響はなかった。
それだけで十分なのかもしれない。
…たとえ、オレとの思い出を忘れてしまったとしても。
なんかずっと響と碧が話してるだけの話ですね(-_-;)
もうちょっと碧の性格をだしたかったんですが……
なんだか妙に暗い話になってしまいました…(^_^;)