☆40話 好きな人☆詩織side
そこは放課後の教室。
私は少し眠ろうと机に顔をふせていた。
ガラ……
教室のドアがあいて、誰かが入ってきた。
「望月…!?」
驚いたようなその声は、まぎれもなくあなたの声。
あなたとケンカ中だった私は顔を合わせ辛くて寝たふりをしていた。
あなたは忘れ物を取りに来たみたい。
隣で机の中をあさる音がした。
音がやみ、ドアが開く音がする。
だけど、あなたはそのまま出て行かずに、なぜか私の方に向かってきた。
あなたの手が、そっと私の髪に触れる。
そして、小さな声で、初めて私の名前を呼んでくれた。
「詩織」
驚いて、心臓が強く鳴る。
あなたは私がおきていることに全く気がつかず、私への気持ちを話してくれた。
「おまえのこと、すっげぇ好きだから」
恥ずかしそうなあなたの声が耳にとびこんできたとき、
私はすごくうれしくて、もう寝たふりなんかできなかった。
突然目を開けた私に驚くあなたを、強く強く抱きしめる。
「私も…私も、響くんのことが大好きです……!!」
9月になり、新学期が始まって数日が立ったある日。
また、すごくリアルな夢を見た。
きっとこれも……
私自身の記憶………
私は少しづつ、本当に少しづつ、なくした記憶を取り戻し始めている。
「うれしいことのはずなんですけど…少し、怖いんですよね……」
私は大きなため息をついた。
鈴さんはきょとんとして私を見る。
「なんで??ええことやん。何を怖がることがあるん??」
「だって…なんだか今の私がだんだんとなくなっていってしまいそうで……なんとなく私が消えてしまいそうな気がして……」
「ふーん……そうなんやー……。記憶喪失ってのもなかなか複雑な感じやねんなぁ」
鈴さんは腕組みしながら私の隣の机の上に腰かけた。
「でも、ホンマに詩織と響はらぶらぶやってんなぁー。まぁ今もそうやけど!」
突然からかわれて、頬が染まる。
「そ、そんなことありませんよ……」
確かに夢の内容はそんな感じでしたけど……
だけど……
「大体…今はらぶらぶなんかじゃありませんよ」
「…また響がおまえのこと好きとちゃうとかいいだすんか??」
鈴さんはうんざりとしたように言った。
私はコクリと小さくうなずく。
だって……
滝沢サンは私じゃなくて、記憶がなくなる前の私が好きなんですもの……
鈴さんは大きなため息をついた。
そしてびしっと人差し指を立てる。
「ええか??もし仮に響がおまえのこと好きとちゃうかったらやで??それやったら普通、おまえのためにいろいろしてくれへんやろ。おまえ、週1で病院ついていってもらったりしてるんやろ??」
「ええ……まあ……」
「おまえのことが好きとちゃうかったら絶対そこまでしてくれへんって!だから安心し!」
鈴さんはにぃっと明るく笑った。
「…そうですよね!!」
鈴さんのその笑顔を見ると、本当に安心できます。
私が滝沢サンのことで鈴さんに相談すると、鈴さんはいつもこうして私を励ましてくれる。
だけど、いつも私ばっかり鈴さんに相談を聞いていただいて、なんとなく悪い気がします……
何か私も鈴さんの相談にのることができたらいいんですけど……
そう思ったところでふと思いついた。
「あ、そういえば鈴さんは好きな人とかいないんですか??」
もし鈴さんに好きな人がいるんなら、相談も聞くことができますし、応援することもできます!
「好きな人??」
鈴さんはきょとんと私の言葉を繰り返した。
「そうですよ!もしかして碧さんですか!?」
私は冗談交じりに聞いてみた。
まぁ、違うと思いますけどね。
碧さんと鈴さんの関係って好きとかそういうものじゃなくて、親友って感じですし!
けど鈴さんの反応は予想外のものだった。
「碧…??」
鈴さんは顔を耳まで赤く染めた。
へ…??
もしかして…的中ですか??
鈴さんははっとして首をぶんぶんとふった。
「いや!違う!碧なんてそんなわけ…!!」
「顔、耳まで真っ赤ですよ??」
私が指摘すると、鈴さんは両手で頬を触った。
そして視線をおとしながらぼそっとつぶやいた。
「…うん。ウチは碧が……好きやねん」
恥ずかしそうにうつむく鈴さん。
そんな鈴さんがとても可愛く見えた。
やっぱり鈴さんにもこういう女の子な所あるんですねー♪
「告白しないんですか!?あっ!もしかしてもう2人は付き合っているとか!」
私はおもしろくなって聞いてみた。
なぜか、鈴さんの表情が悲しそうな表情に変わる。
「告白…な。まあ、そんなんしても無駄やって分かってるから」
悲しそうな声。
「…どうしてですか??」
私が尋ねると、鈴さんはにっと笑った。
「だって碧には好きな奴おるもん!」
「え……!そう…なんですか……??」
鈴さんは笑顔のままうなずく。
「だからウチはただの幼馴染のままでええねん!そうしたら碧のそばにおれるし!」
その笑顔がすごく痛々しくて、私は鈴さんから視線をそらした。
…私、余計なことを聞いてしまいました……
「…鈴さんは、碧さんの好きな方が誰なのか分かっているのですか??」
鈴さんは一瞬とまどうような表情を見せた。
だけどすぐに笑顔に戻る。
「…さあ。誰やろ??そこまでは知らん。ただなんとなくおるかな?って思って」
…ということは、
それは鈴さんが勝手に思ってるだけってことですか??
それなら全然大丈夫じゃないですか!!
「それじゃ私、碧さんに本当に好きな人がいるのか突き止めて見せます!もしいなかったら鈴さん、碧さんに告白してくださいね!?」
私は席を立ちあがっていった。
鈴さんは驚いたように私を見上げる。
「わ、分かった……」
よし!
私、鈴さんの役に立ってみせます!
必ず碧さんの好きな人がいるかどうかを突き止めて見せますよ!!
「和泉の好きな奴??」
滝沢サンは怪訝な顔で私を見た。
私はにっこりとうなずく。
「はい!どうやら鈴さんが碧さんのことを好きみたいなんですよー。だけど鈴さんったら碧さんに好きな人がいるって勝手に思っちゃって…だから滝沢サンがつきとめてください!」
「なんでオレが……」
「だって滝沢サン、碧さんと仲いいじゃないですか!」
滝沢サンは即座に大きく首を振った。
「いや、別に仲良くしてるつもりなんて全然ないんだけど……」
「でも同じクラスですし!お願いします!」
私が必死で頼み込むと、滝沢サンは渋々とうなずいてくれた。
やっぱり滝沢サンは優しいです!
…あ、そういえば…
「あの…それで、私、また夢を見たんですけど……」
一応報告した方がいいかと思い、私は小さな声で言った。
「夢?また何か思い出したのか!?」
滝沢サンはさっきまでと一変して、すごくうれしそうな表情になる。
それにチクリと胸が痛んだ。
滝沢サンに夢のことを話すと、滝沢サンは少し頬を染めた。
「ああ…あのときの…な。あんなの思い出さなくてもいいのに」
そう言いながらも滝沢サンの表情はうれしそう。
やっぱり……
あの夢の中の私がとても幸せであったように……
あの夢での出来事は滝沢サンにとっても大切な思い出なんでしょうね……
そう思うと胸が締め付けられる。
「じゃあなんとか聞いてみるから。またなんか思い出したら言えよ??」
「はい…」
私はなんとか笑顔を作って滝沢サンと別れた。
教室に帰ると、鈴さんが1人でぼんやりと外の景色を見ていた。
そんな鈴さんに声をかける。
「鈴さん!滝沢サンに碧さんの好きな人を調査してもらうように頼んできましたよ!!」
鈴さんは私の方を見て、悲しそうに笑った。
「そうか…ありがとうな」
やっぱり、鈴さんらしくない笑顔。
いつもの鈴さんなら、碧さんに好きな人がいるって分かってても告白しちゃったりできると思うのに……
「鈴さん……何か…あるんですか??私、なんでも聞きますよ??」
鈴さんは少し目を見開いて、そしてしばらく考えるように黙り、やがて口を開いた。
「多分…全部話したらめっちゃ長くなると思う。それでもいい??」
「はい!全然大丈夫です!」
「それじゃ…放課後、ちょっと話聞いてもらおっかな!」
鈴さんはまた、無理やりに笑顔を作った。
放課後、私と鈴さんはみんなが帰るのを確認してから教室に2人で残った。
滝沢サンには用事があると言って先に帰ってもらっている。
これでどんなに長い話でもオッケーです!
「それで…どんな話なんですか??」
私が尋ねると、鈴さんはためらうように視線をそらした。
「何かあるんだったら言ってください!何かあるんだったら私、鈴さんの力になりたいです!」
鈴さんは私を見てふっと笑った。
「…ありがとう。ホンマに詩織はええ友達やわ」
鈴さんはまた少し黙ると、口を開いた。
「…ほんまはウチな?碧の好きな人知ってるねん」
鈴さんは唇をかみしめた。
そして声を震わせながら言う。
「碧の好きな人は……奏……ウチの、双子の姉ちゃんや」
いきなり話とびましたけど……
もうパソコンする時間とかなくなりそうだし、
どうしても鈴と碧の話がしたくてだいぶはしょりました。
今回碧、名前だけしかでてきてませんね(-_-;)