表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純情恋模様  作者: karinko
72/78

★39話 複雑な気持ち★響side

詩織が記憶をなくしてから数日がすぎて、いつの間にか夏休みになっていた。


詩織はあいかわらず記憶を取り戻す気配はない。


どうしてもこのまま詩織は記憶が戻らないんじゃないかと不安になる。


今までのオレとの思い出がなくなってたとしても、


詩織は変わらず詩織だって分かってるのに……


なぜか、オレは詩織を詩織だと思えない……




「すいません!遅れてしまいました!!」


詩織はオレの方にかけよってくるとぺこりと頭をさげた。


「オレも今きたばっかだから大丈夫だよ」


一応そう言っておいたが実は10分程度は待っていたりする。


まぁ変に気をつかわせるのも悪い気がしたので、オレは一応そう答えておいた。


今日はどういう経緯か、なぜか和泉と天音と海に行くことになっている。


オレ的には2人とも苦手な部類なんだが……


どうも詩織が仲良くなってしまったらしく、初めは行く気がなかったが詩織に半泣きできてくれと頼まれ、和泉に半場強引に約束をこぎつけられ、結局オレも行かなくてはならないことになった。


海、か……


そういえば、去年も詩織と2人できたよな……


……詩織は当然それも忘れてしまったんだろうけど。


オレ達は待ち合わせの時間に大幅に遅れて海についた。


「遅い!どんだけ待たせるんや!!」


天音が腰に手を当てて怒鳴る。


「ったく…オレらはちゃんと5分前行動したっちゅーのに……」


はぁ…と大きなため息をつく和泉。


「ごめんなさい…私のせいなんです……」


詩織はしょんぼりと落ち込んだ様子で頭を下げた。


そんな詩織の肩を和泉がポンっと叩く。


「いや、違うで、詩織。おまえも悪いがそこまで悪くない」


詩織はきょとんとして和泉を見た。


何を言い出すんだろうとみていると、突然びしっと人差し指を刺される。


「ほんまに悪いんはあいつや!!」


「は?オレ??」


突然のことに思わずきょとんとする。


なんでオレになるんだよ?


詩織には悪いけどオレは一応時間通りに着いたはずだが……


「そや!普通、時間どおりに彼女の家まで迎えに行くのが男とちゃうんか?ん??」


和泉はからかうように言った。


そんな和泉を天音が思い切りたたく。


「何言うとんねん!おまえ、寝坊せんようにってウチに家まで迎えにこさせてたやん!!」


「いや…それは…」


和泉は焦ったように視線をさまよわせた。


詩織がぷっとふきだす。


やっぱこいつらバカだな。


オレはあきれながらも笑顔をうかべた。


くだらない話をしながら浜辺におりると、そこはすでに人でいっぱいだった。


うわー……


オレ人ごみ苦手なんだけどな……


正直泳ぐのも苦手だし、もう海はいいんじゃねぇか??


「おい!なにしとんねん!こっちやこっち!!」


ぼーっとつったっていると、和泉が怒鳴るように言った。


和泉達の方を見ると、狭いスペースにかなり無理やりシートを敷いている。


い、いつの間に場所とってたんだ……??


オレは思わず唖然とそれを見ていた。


詩織も同じようにそれを見て唖然としている。


オレ達は自然と顔を見合わせくっと笑った。




「よっしゃー!海や海!!泳ぐでー!!」


「何が『泳ぐでー!』や!おまえ泳がれへんやろ!?」


「細かいことは気にせーへんねん!」


和泉と天音はごちゃごちゃと言い合いをしながら海の方に走っていく。


あいかわらず元気だな……


そう思いながらオレはシートに腰をおろした。


そんなオレを詩織が不思議そうに見る。


「滝沢サンは泳がないんですか??」


その質問に思わず少し目を見開いた。


いや…


オレ、去年泳げねぇって言ったはずだけど……


そう思ったところでふと思い出した。


そうか……


詩織は覚えてないんだったな……


「ん、まぁ…な。泳ぐのは苦手なんだ」


「そうですか…」


詩織は少し残念そうな顔をして、オレの隣に腰をおろした。


そしてうらやましそうに和泉と天音が遊んでいる様子を眺める。


「泳いできていいんだぞ?」


「え…でも……」


詩織ははっとしてとまどうようにオレを見た。


オレに気を使ってくれているのはうれしい。


やっぱり詩織は詩織なんだな、と思った。


けど、わざわざオレのために詩織に何かを我慢させるなんてなんとなく嫌だった。


「オレに気を使わなくてもいいから。行ってこいよ」


「そうですか…??じゃぁ…」


詩織は気遣わしげにオレを見ながらも、和泉達の所に走っていった。


その様子をぼんやりと見る。


詩織達は何かをしゃべってるようで、そしてなぜかオレの所に戻ってきた。


そして突然ビーチボールをしないかと言われる。


どうやらみんなでオレに気を使っているようだ。


別にほっといても大丈夫なんだけど……


そう思いながらも、せっかく気を使ってもらっているのに断るのも悪い気がしたので、オレは渋々とうなずいた。


海水浴場にたまたまあったビーチボール用のコートをかり、結構本格的な感じになる。


2対2の勝負ということになって、グーパーでチームを決めた。


結果、詩織と和泉のペア、オレと天音のペアになる。


「よっしゃ!じゃオレからいくで!」


和泉は無駄にでかい声で言い、ボールをパシンッと打った。


結構早い球だったが、天音がそれを楽々ととる。


天音がうちかえしたボールは詩織の方に飛んでいった。


詩織は慌ててレシーブの形をとる。


ボールはそのまままっすぐと詩織の手に当たった。


詩織はその手を思い切りふりあげる。


ボールはゆるやかな軌道を描いて後ろに飛んでいった。


「…へ??」


詩織がきょとんとする。


そ、そういえば……


詩織って結構運動オンチだったって気もする……


「詩織…めっちゃヘタやん……」


和泉があきれたようにつぶやいた。


こいつは本当、思いっきりストレートに言うな……


詩織は恥ずかしそうにうつむいた。


そんな詩織に和泉がにっと笑いかける。


「まぁええわ!オレにまかせとけ!」


「ごめんなさい…ありがとうございます……」


詩織は深く頭を下げた。


その様子が、なぜか妙に腹が立った。


その後、詩織はほとんど何もすることなく、和泉が1人で1チームという風になっていた。


天音は結構うまく、オレもそれほど下手でもないはずだったが、和泉は1人で十分にそれに対応する。


オレはいつの間にかむきになっていて、ビーチボールを終えた後にはすっかりダラダラと汗をかき、息を切らしていた。


気がつくと、あたりはすっかり暗くなっている。


「どうしましょう?もう帰りますか??」


「いや、まだや。まだオレ達にはやらなあかんことがある」


和泉は妙に深刻そうな顔で腕組みをして言った。


なんとなく真剣に和泉の言葉に耳を傾ける。


「まだ花火してへん」


けど和泉のその一言で、真剣に聞いていたオレがバカだったんだと気がついた。


「おまえバカだろ?もう帰らねぇと……」


オレがため息をつきながら言うと、天音が目をキラキラとさせて言った。


「いや、でもしようや!夏休みくらい帰んの遅くなってもええやろ!?ウチら高校生やし!」


「いや、でもな…」


高校生っつっても帰るの遅くなって良い理由にはならねぇと思うぞ…??


詩織だってそう思うよな??


オレはそう問いかけるように詩織を見た。


けど詩織も目を輝かせている。


まさか……


「大丈夫ですよ!やりましょう!」


「おまえもかよ……」


オレはもはや、あきれることしかできなかった。


「まぁええやん!ここは空気読もな!んじゃオレ近くのコンビニで花火買ってくるわ!」


「あっ!ウチも行くー!!」


和泉と天音はさっさと近くのコンビニに花火を買いに行く。


「あー…もういいや。あとで一樹に何言われるか……」


オレは1人ごとをつぶやきながら浜辺に座りこんだ。


絶対一樹に「望月センパイと何してたんだよ!?」とかマジな顔で言われるに決まってる……


あいつなんだかんだ言ってまだ詩織のこと好きみたいだからな……


記憶なくなったって言ったらちょっとチャンス!みたいな顔してたし……


あーあ……


あいつが納得するまで説明すんのめんどくせぇな……


「まぁいいじゃないですか!1日くらい大丈夫ですよ!」


詩織はそう言いながらオレの隣に座りこんだ。


「そうか??」


1日くらいって問題じゃねぇんだけどな。


オレはそう思いながら苦笑いした。


オレ達はぼんやりと海を見つめていた。


あれだけいた人はほとんどいなくなり、波の音だけが聞こえる。


それがやけにさびしい感じがした。


「あ、そういえば!私、今日変な夢みたんですよー」


詩織が不意に口を開いた。


「変な夢?」


詩織は今日見たらしい夢のことを話し出した。


……それは、オレの記憶の中にはっきりと残っているものだった。


―――詩織がオレに告ってくれた時のこと―――


オレは目を見開いて詩織を見た。


それって……


記憶が……


「いや!その!けどこれは夢であって…私はべ…!!」


オレは思わず詩織を強く抱きしめた。


「それ…夢じゃねぇよ……」


「へ…??」


詩織は間の抜けた声をだす。


それは……


本当にあったこと……


オレとお前の大事な思い出だ……!!


「記憶…戻ってきてんだな……!!」


オレはうれしくて、強く強く詩織を抱きしめた。


詩織の記憶が戻ってきているのかもしれない。


もう戻らないのかもしれないとあきらめかけていた中に、光がさしたような気がした。


しばらくぎゅっと詩織をだきしめていると、不意に詩織がオレの肩を抱いて、じっとオレの目を見てきた。


「キス…してください……」


予想外の言葉に思わず目を見開く。


そして気がついた。


ああ……


やっぱり、この詩織はオレの知っている詩織じゃない。


詩織はこんなに淡々とこんなことを言わない……


オレの目の前にいる詩織は頬も染めていなかった。


どうして……


詩織は高校での記憶をなくしただけのはずなのに……


こんなにもオレの知っている詩織と違うのだろう……??


オレはそう考えながら、そっと詩織に口付けた。


詩織はオレの唇に強く自分の唇を押し付ける。


いつの間にか詩織の手がオレの背中に回っていた。


詩織にされるがままになりながら思う。


詩織とこんなキスしたの初めてだ……


そういえば、オレはまだ、詩織とキスしたの3回目くらいだっけか……


クリスマスの時と、バレンタイデーの時……


詩織はそのことも覚えていない……


「詩織……」


息継ぎの合間に詩織の名前を呼んだ。


オレにとって……


大事で、特別な名前。


オレが呼んでいるのはきっと、目の前の詩織じゃない。


オレは目の前の詩織の中で眠っている『詩織』の名前を呼んでいた。


オレの声は『詩織』に届いているんだろうか??


もし届いてるんなら……


はやく、目を覚まして欲しい……


もう一度……


オレの名前を呼んで欲しい……

響の心情書くの難しいです……

詩織は案外かきやすかったりするんですがね……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ