★38話 転校生★響side
「どうしましょう…すごく不安です…」
隣で詩織が不安そうにオレを見上げた。
「大丈夫だって。おまえの友達もいるんだから」
そう励ましても、やはり詩織は不安そうな顔のままだ。
…まぁ、友達っつっても、全部忘れてんだからわからねぇか。
詩織は軽く教室の方を見たあと、やっぱり不安そうな表情でオレを見た。
そんな詩織に軽く微笑みかける。
「大丈夫。休み時間になったらオレのとこにきたらいい」
「はい…」
詩織はなんとか覚悟を決めたのか、下を向いて教室のドアに手をかけた。
「それでは…またあとで」
「ん、じゃぁな」
オレは詩織に背を向けて自分のクラスの方に向かった。
途中で気付かれないようにそっと振り返る。
詩織はためらいながらも、なんとか教室に入ったようだ。
オレはほっと軽い息をついた。
ま、たしか中川と鳥山も同じクラスだったと思うし、大丈夫だろ。
オレが教室に入ると、真っ先に笹川がかけよってきた。
「滝沢クン!詩織ちゃんの様子どうだった!?」
笹川は、詩織が事故にあって記憶喪失になったと話してから、毎朝同じ質問をしてくる。
オレは自分の席に着きながら答えた。
「今日学校きてるぞ」
「ホント!?じゃ会いにいかないと!!」
笹川は顔を輝かせると、教室を出ようとした。
「おい!」
オレが笹川を止めようとしたとき、タイミングよくチャイムが鳴る。
「あ…チャイムなっちゃった…」
笹川は残念そうに時計を見る。
オレは内心ほっとしながら言った。
「今日はわざわざ詩織に会いに行くなよ。詩織もいきなりいろんな奴に声かけられたら混乱するだろ??」
ただでさえ、詩織が記憶をなくしてから初めての学校だってのに……
「そっか…そうだよね…」
笹川は少しうつむくと自分の席についた。
しばらくして教室に担任が入ってくる。
担任は淡々と今日の連絡を伝えた後、突然転校生がうちにクラスにきたと言い出した。
教室が少しざわめく。
転校生…??
うちの学校に??
ってことは、相当頭いいんだろな。
うちの編入試験って多分難しいだろうし。
一体どんな真面目くんが来るんだ??
ぼんやりとそう思い、かすかに期待しながらドアの方を見る。
「和泉!入ってこい!」
担任の声とともに教室のドアが開く。
教室が一気にざわめいた。
オレも思わず目を見開く。
入ってきたのは迷彩のバンダナを頭にまいた金髪の男。
服装もだらしなく、ズボンにチェーンをつけていて、とてもかしこそうには見えない。
こいつ……
本当にちゃんと試験受けて入ってきたのか…!?
転校生は担任が紹介しようとする声をさえぎってバカでかい声で言った。
「よぉ、諸君!今日、諸君らの運命は非常にいいぞ!なんせこのオレと同じクラスになれたという栄えある日やからな!」
教室が静まりかえる。
…何言ってんだ?こいつ。
転校生はオレらの反応を見るとやれやれといった調子でため息をついた。
「はぁ…やっぱトカイのもんはあかんなぁ…そんな気ぃつかわんでももっとオレに出会えたことを喜べばええのに…」
いや、みんな引いてるだけなんだけど……
てか、関西弁??
ってことは関西の方から………
「まぁしゃーない!とりあえず自己紹介やな!」
転校生は1人で言いながら、コホンと軽い咳をした。
そして親指を自分の方に向ける。
「オレは和泉碧や!みんなよろしくな!!」
短い沈黙のあと、担任の「は、拍手」という一言でパラパラと小さな手を叩く音が鳴る。
オレは片手をあげて笑ってるそいつを見て大きなため息をついた。
こいつ…
絶対バカだ。
しかもオレのかなり苦手なタイプ。
絶対かかわらないようにしよう……
そう誓ったのも束の間、すぐにそれはかなわなくなる。
「じゃぁとりあえずそこの席についてくれ」
担任にはオレの隣の席を指差して言った。
げ……
席、オレの隣かよ…
い、いや、
別に隣だからってどうってことないよな。
かかわらなきゃいいだけなんだし。
転校生は席に着くと、なぜかオレの方に笑いかけてきた。
「よろしくな!」
オレは横目で転校生を見て、軽く頭を下げた。
そして休み時間。
「なぁ!」
突然和泉に声をかけられた。
とりあえず無視する。
けど和泉はしつこくオレに声をかけてきた。
「おい!聞こえてんか!!おまえや!おまえ!!」
いや…
分かってるけど…
オレはこれ以上はうるさそうなのでしぶしぶ応答した。
「…なんだよ??」
和泉は突然顔をオレの方にぐっと近づけた。
そしてじーっとオレを見る。
な、なんだ?こいつ……
「おまえってさ、無愛想な顔してるよな!」
和泉は突然そう言ってにかっと笑った。
はぁ!?
いきなりなんでそんなこと言われなきゃなんねぇんだよ!!
オレは抗議しようと口を開きかけたが、これ以上かかわるのもいやだったので、ふいっと顔をそむけた。
「…まぁな」
そのとおり、オレは無愛想だよ。
てかわざわざそんなこと言うためにオレに声かけたのか??
用が済んだならどっかいってくんねぇかな……
けど和泉はなおもオレに話しかけてきた。
「なんでそんな顔してんの!?そんなんで友達できんのか!?」
でかい声でそう言いながら顔を覗き込んでくる。
「関係ねぇだろ」
「いや!オレはそーいうのほっとかれへん!…そうや!」
和泉は突然ぽんっと手を叩いた。
「オレが友達なったるわ!多分おまえ、友達いなさそうやし!」
どんな原理だよ…
なんでそんな風になったんだ??
「別にいい」
オレはいいかげんうっとうしくて席をたった。
けど和泉はオレの後をついてくる。
んだよ…
うっとうしいな……
「じゃぁさ!オレから頼むわ!友達なってくれ!オレまだこの学校で友達おらんのや!!」
「無理」
とりあえず即答。
こんなやつと友達なんて絶対にありえない。
絶対に毎日が地獄化するにきまってる。
「ええやんか~!別に減るもんとちゃうやん!むしろ増えるもんやで!!」
和泉はしつこくオレについてくる。
とりあえずチャイムが鳴ってなんとか逃れることはできたが…
なぜか和泉の中ではもう、オレは『友達』になってしまったらしい。
次の休み時間になると、オレの横で1人で話しだす。
まぁオレはほとんど話を聞かずにぼんやりと外の景色を見てたんだが……
そして昼休み。
そういえば詩織、昼一緒に食べようとか言ってたよな。
そう思い少し待っていたが詩織がくる気配はない。
中川達とたべてるのかと思い、オレはとりあえず弁当を広げた。
食べようとすると、和泉がオレの方に机をくっつけてきた。
「響!一緒に食べよか!!」
なんでいきなり呼び捨てになってんだよ………??
オレは深いため息をつきながらも、無視して箸を手にとった。
机は(無理やり)くっつけているが、別段話すこともなく(和泉は1人で話していたが)昼食を終えたオレは、やっぱり詩織が心配になり和泉が食べているすきに慌てて詩織のクラスに行った。
「おい、詩織!」
詩織を見つけて声をかけると、詩織はきょとんとした様子でオレを見た。
「滝沢サン??」
オレは詩織に何も変化がないことを確認して軽く息をつく。
「なんだ。別に普通だな」
詩織は不思議そうに首をかしげる。
そして突然詩織の隣にいた奴が目を輝かせた。
「うわっ!この人めっちゃかっこええやん!誰!?もしかして詩織の彼氏!?」
そいつも見たことがない奴で、関西弁だった。
「いや、その…」
詩織はとまどいながらオレを見た。
オレは思わず顔をしかめる。
もしかしてこいつも転校生か??
しかも多分苦手なタイプだ……
オレ、関西の奴には相当縁がねぇな…
「おっ!鈴!おまえ、このクラスやったんか!!」
背後から一番聞きたくない声が聞こえた。
…出た。
「碧!」
詩織の隣にいた女が目を輝かせる。
「和泉……」
「なんや!鈴のとこいくんやったら声かけてや!オレら友達やろ??」
和泉はそう言いながらぽんぽんと肩を叩いてきた。
いや…
鈴とかしらねぇし…
まず友達じゃねぇし……
「えっ!?碧、詩織の彼氏と友達なったん!?」
鈴とかいう奴は驚いたように目を見開く。
いや、勝手に理解されても困る。
「え?この子、響の彼女!?めっちゃ可愛いやん!ってか、なんかすごい偶然やな!お互い同じカップルの友達なるとかな!!」
「やんなぁ!それめっちゃ思ったわぁ!!」
勝手に2人で盛り上がりはじめる。
無理だ…
オレ、こういうのホント無理だ……
「詩織、あいつと友達なのか…??」
「え、ええ。まぁ……」
詩織は苦笑いで答えた。
…よくあんなやつと仲良くできるよな。
……やっぱ記憶をなくした詩織だからか…??
前の詩織なら絶対に嫌がりそうなのに……
……やっぱり違うんだな。
「あっ!そういやオレ、響の彼女に自己紹介してへんかったよな??」
和泉は詩織の方に向き直ると、にっと詩織に笑いかけた。
「鈴と一緒に転校してきた川崎碧や!!よろしくな!!」
「は、はい。よろしくおねがいします」
詩織は困ったように笑いながら軽く頭を下げる。
そしてオレも少し気になっていた疑問をぶつけた。
「…というか、鈴さんと碧さんはどちらも大阪からきたんですよね??もしかして双子ですか??」
双子…とは少し違う気がするが……
それでも友達同士が偶然同じ高校に転校してくるなんて考えにくい。
ここから大阪ってすげぇ遠いし……
「双子…双子、とちゃうよ」
一瞬、和泉の表情が変わった気がした。
あまりにも和泉に似合わない表情に驚く。
…なんだ??
双子に何かあんのか「ただの幼馴染や!両親が仲良くてなぁ!オレのオトンが転勤なって、んで鈴んとこのオトンがさびしいゆうてな、ついてきよったんや!」
和泉はすぐにいつもの表情に戻って言った。
「はぁ!?違うで!!おまえのオトンがさびしいからついてこいゆうたんや!!」
すかさずに鈴という女が訂正する。
和泉はケラケラと笑いながら言った。
「まぁどっちでもええやん!とりあえず鈴の友達はオレの友達や!ええと……」
「望月詩織です」
「そうか!じゃ、詩織!仲良くしてな!」
和泉はにっと詩織に笑いかけた。
「はい!」
詩織もにっと和泉に笑いかえす。
オレは詩織のその笑顔を見ながら小さく微笑んだ。
…まぁ、こいつらがオレに合うか合わないかは別として……
詩織にもとりあえず友達ができたんだ。
これで学校で不安な思いをすることはないだろう。
そう思いながらも、小さな不安が頭をよぎる。
だけど……
もし、詩織が何かの間違いで、和泉のことを好きになってしまったら…
いや、和泉じゃなくても、他の奴を好きになってしまったら……
今の詩織は、記憶をなくす前の詩織とは少し違う気がする。
他の奴を好きになる可能性は、十分にある。
こんな風にどんどんと詩織のまわりの環境が変わっていって……
いつか、詩織に新しい好きな奴ができたとき、オレはどうするんだろうか??
オレはふと詩織を見た。
困り顔ながらも、笑顔な詩織。
…まぁ、それでもいいか。
オレは詩織が笑顔でいてくれたらいいんだ……
碧の性格がかなりの痛い性格になりました。こんな人は実際にはいないと思いますが…(^_^;)