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純情恋模様  作者: karinko
68/78

★37話 記憶喪失★響side

その日、別に催促するつもりで言ったわけじゃない。


ただ、なんとなく言っただけ。


『そういえば明日オレの誕生日だったっけ』


何気なく言ったその一言のせいで……


詩織は事故にあった。




突然、詩織の母親から電話がきた。


詩織の母親から告げられたのは、


……詩織が事故にあったということ。


わざわざ連絡をくれた詩織の母親にお礼を言い、オレは急いで病院に走った。


病室にかけこむと、そこにはすでに詩織の母親と父親がいて…


そして白いベッドの上に詩織が横たわっていた。


頭には包帯が巻かれ、頬に大きなガーゼが貼られている。


「わざわざきてくれたんですね。ありがとうございます」


詩織の母親はオレに向かってにっこりとほほ笑んだ。


目は赤く腫れていて、今までずっと泣いていたんだな、とぼんやりと思った。


「…詩織は、大丈夫なんですか??」


オレは状況が飲み込めなくて、ぼんやりと言った。


「一応一命はとりとめたらしいが…頭を強く打ったらしく目を覚ますかわからないらしい」


…………!!


「……そうですか」


オレはぽつりとつぶやくと、病室をでた。


あの場にいたくなかった。


目を覚まさないかもしれない??


嘘だ。


そんなわけない。


きっとこれは夢だ。


絶対に…


そうに決まっている……


そう自分に言い聞かせながら帰ろうとしたとき、後ろから詩織の母親に呼びとめられた。


「滝沢くん」


振り返ると詩織の母親が手に何かを持ってこちらに歩み寄ってくる。


「今日、誕生日なんですよね?おめでとうございます」


……なんだ、そんなことか。


「…ありがとうございます」


そんなのどうだっていい。


「これ…詩織の鞄の中に入ってたんですけど…ちょっとつぶれちゃってますが、一応あの子からの誕生日プレゼントみたいなんで…受け取ってあげてください」


「……!!」


オレは詩織の母親に差し出された物をゆっくりと手にとった。


少しつぶれた小さな袋、詩織の丁寧な字で書かれたバースデーカード。


そして袋の中に入っていた黒いシャーペン。


オレはそれをぎゅっと握りしめた。


…そうか。


詩織はこれをオレに届けるために……


オレが余計なことを言ったせいで……


詩織は事故にあった……??


「…ありがとうございます」


オレは詩織の母親にお礼を言って病院をでた。


……なんであんなこと言ったんだろう??


別にオレの誕生日なんてどうでもいいのに……


本当に何気なく言っただけなのに……


そのせいで、詩織がこのまま目を覚まさなかったら……


オレのせいで、詩織が目を覚まさなかったら……


考えがどんどん悪い方向に進んでいく。


オレは慌てて首をふった。


いや…


まだ詩織が目を覚まさないと決まったわけじゃないんだ。


きっと明日には目を覚ますに決まっている。


そんなオレの予感は的中した。


次の日、オレは朝から病院に行った。


眠っている詩織の隣に座って、何度も詩織の名前を呼ぶ。


何時間そうしていたんだろう??


詩織の瞼が少し動いた。


そしてゆっくりと瞼をあける。


「詩織!!」


詩織が…目を覚ました……!!


オレは安堵の息をついて、そっと詩織の髪をなでた。


「良かった…もう目ぇ覚まさないかと思った」


本当に…


もし目を覚まさなかったらと何度思ったか……


でも、目を覚ましたってことはもう大丈夫だよな??


足とか手も骨折してるわけではないようだし……


良かった……


安心するのも束の間。


詩織はオレをじっと見ると、おずおずと言った。


「あなたは…誰ですか??」


「えっ…??」


思わず目を大きく見開く。


オレのことが…


分かってない……??


…いや、


オレはくっと笑った。


「こんなときに冗談言うなよ。オレのこと忘れたのか??」


そう、冗談に決まってる。


詩織もよく目覚ましてすぐに冗談なんて言えるもんだよな。


「あなたは私の知り合いですか??」


だけど詩織は困ったような表情で言った。


「…おい、本当に冗談はやめろよ」


まさか…


本当に忘れてるなんてこと……


「…ごめんなさい。本当に知らないんです」


真剣な声。


冗談を言ってる声じゃない。


ということは…


本当にオレのことを忘れてる…??


状況をうまく飲み込めない。


「…そうか」


何がなんだかわからなくて、オレはただぼんやりとそうつぶやいた。


そして詩織に微笑みかける。


「分かった。…また来るよ」


全く理解できない。


どういうことだよ?


詩織がオレのこと忘れてるなんて……


病室をでると、ちょうど詩織の母親と父親にでくわした。


「…詩織、目ぇ覚ましたみたいですよ」


そう言うと、詩織の母親と父親は目を輝かせた。


「そうですか!!良かった……」


詩織の母親はうれしそうにほっと息をつく。


「それで、様子はどうだった??」


詩織の父親に尋ねられて、オレはにっと笑った。


「普通でしたよ。ただ……」


『あなたは…誰ですか??』


知らない人間を見るような目。


「オレのことを忘れてるみたいですけど……」


オレはぼそっとつぶやいて2人のそばを歩きすぎた。




その日の夜、詩織の母親から電話がかかってきた。


あの後、詩織はもう一度検査してもらったらしい。


そして結果は…


―――記憶喪失。


しかも高校に入ってからの記憶をなくしているらしい。


ということは…


オレとの記憶を丸々全部ってことだ。


それで、詩織がオレに会いたいと言っているらしい。


オレは不安を覚えながらも、次の日詩織に会いに行った。


オレは詩織の寝ているベッドの隣の椅子に腰かけた。


「詩織……」


詩織のオレを見る目は本当に、他人を見るような目。


その目を見るのが嫌で、オレは詩織と視線を合わせないようにした。


「…ええと、お名前を教えていただいてもよろしいでしょうか??」


「…滝沢響だ」


「滝沢……響……サン??」


まるで初めて知った言葉のように、オレの名前を繰り返す。


詩織は本当にオレのことを忘れているんだなと思った。


けど…


じっと詩織を見る。


だけど、目は合わせないように。


見た目は詩織と何も変わらない。


こうやって見てると、やっぱりみんなでオレに嘘をついているとしか思えない。


もしかしたら詩織がオレのことを忘れてるなんて、嘘なんじゃないか……??


そんな淡い期待を抱いてしまう。


「…おまえ、本当にオレのこと忘れたのか?」


詩織の返事に、ほんの少しの期待をする。


「はい…」


そんな期待は詩織の一言ですぐにつぶされた。


「そうか……」


本当に……


忘れたんだな。


そう思うと同時に、詩織はもうオレの知ってる詩織じゃないと思った。


今ここにいるのはオレの知らない全くの他人。


……そう本当に思えたのなら、


どんなに楽なんだろうか……??


「ええと…私、高校でどんな感じだったんですか??そういうのも全然わからなくて……」


突然尋ねられて、オレはうつむいていた顔をあげた。


「…そうだな」


どんな感じだったと言われても…


あんまりうまく言えない。


詩織はどんなだったのだろう…??


オレは最初から一つ一つ思いだして、口にしていった。


第一印象は変な奴。


オレを見て急に泣き出したりする。


多分詩織はオレが苦手だったんだろう。


オレも詩織が苦手だった。


まあ怖がられるのはまぁまぁ慣れてたし…(理由はわかんねぇけど…)


人づき合いとかも苦手だったから、高校でもずっと1人でいようと思っていた。


けど、そんなオレの考えはすぐに詩織に壊された。


オレのことを怖がってるくせに、なにかとオレにかまってくる。


わけわかんねぇから聞いてみたら、理由はオレが1人でいるからかわいそうだとか。


見下されてる感じが無性に腹が立って……


けど結局オレは詩織にかまってもらってることがうれしかったことに気付いて……


詩織はオレの話に適当に相槌を打ちながら聞き入っていた。


「でな?おまえ、前にオレが1人だからわざわざかまってやってるみたいなこと言いながら、誰とも話すなとか言ってくるんだよ。わけわかんねぇだろ??」


「そうですね…すっごく矛盾してます…」


「だよな!まぁ…でもそれがなんかうれしくて……」


そのとき、オレは詩織が好きだって気付いたんだ。


まぁ、本当に今思いだしたらかなり矛盾してることだよな……


「…ありがとうございます。今日はもういいです。また聞かせてもらいますか??」


詩織が突然話を切り上げた。


「…ん、分かった」


そうか、


ずっと話聞いてるってのも疲れるよな。


オレは病室をでて、そばにあった長椅子に腰かけた。


はぁっと大きなため息をつく。


こらえてきた気持ちがあふれだしてきた。


「全部…全部忘れたのかよ……」


さっき詩織に話したことも…


それから、オレと付き合った後のことも…


全部、全部忘れたってのか…??


瞬きをすると、温かいものが頬を伝った。


オレはそれをこらえようとせずにただぼんやりと空を見つめていた。

なんか結構暗い話になってしまいました…

まぁこの人は結構ネガティブなんで……

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