☆37話 記憶喪失☆詩織side
……り……おり……
誰かの声が聞こえて、私はゆっくりと瞼をあけた。
眩しい光が目に飛び込んでくる。
そして私の顔を覗き込むきれいな男の子が見えた。
「詩織!!」
男の子は小さな息をつくと、そっと私の髪をなでた。
「良かった…もう目ぇ覚まさないかと思った」
すごく優しい目。
私の髪に触れる手もすごく優しくて…
でも…
わからない。
この人は……??
「あなたは…誰ですか??」
「えっ…??」
男の子は目を大きく見開いた。
だけどすぐにくっと笑う。
「こんなときに冗談言うなよ。オレのこと忘れたのか??」
忘れた…??
忘れたというか…
もともと知らない人のような……
いえ、でもこの人は私のことを知っている。
ということは…
「あなたは私の知り合いですか??」
男の子の顔から笑顔が消えた。
「…おい、本当に冗談はやめろよ」
「…ごめんなさい。本当に知らないんです」
どんなに考えても…
私の記憶の中にはこの男の子がいなくて…
本当にもともと知らないとしか考えられない……
「…そうか」
男の子はぽつりとつぶやくと、私に微笑みかけた。
「分かった。…また来るよ」
それはさびしそうな笑顔で、私はそれをどこかで見たような気がした。
「まっ…!」
病室を出て行こうとする男の子を呼びとめようとして、ふと思いとどまる。
…もしかしたら、あの人は病室を間違えただけなのかもしれない。
見覚えがあると思ったのはきっとただの勘違いです。
パタンと小さな音を立てて扉が閉まる。
私はそれをぼんやりと見つめた。
…だけど、
どうしてあの人は私の名前を知っていたんでしょうか??
やっぱり、私の知り合い??
だけど見覚えがありませんし……
もしかして伊吹の友達でしょうか??
伊吹が私のことを紹介して私を知っているとか。
けど、たとえそうだったとしても、いきなり会ったこともない人を呼び捨てにするでしょうか??
………それに、
これは自意識過剰なのかもしれませんが……
あの人の私を見る目は……
とても優しくて…
あんな目、普通簡単にはできない。
あの人はきっと私のことを特別な何かって思ってくれてる……??
…なんて、
やっぱり私は自意識過剰すぎます。
…本当に、あの人は誰だったんでしょうか…??
「詩織!」
聞きなれた声がして、扉が勢いよく開いた。
「お母さん、お父さん…」
「やっと目が覚めたんですね!良かった!」
お母さんはうれしそうに笑ってぎゅっと私を抱きしめた。
「まったく…いつも車には気をつけろっていってただろう??」
ぶつぶつ言いながらも、お父さんはうれしそうな表情をしていた。
「ごめんなさい…だけど、大丈夫ですよ」
私はにっこりと2人に笑いかけた。
そしてふと思った疑問を口にする。
「…あれ?でもどうして私、病院なんかにいるんですか??」
「覚えてないのか?おまえ、車にひかれたんだぞ??」
少し怪訝そうな顔をするお父さん。
そんなお父さんを見てお母さんはくすくすと笑った。
「事故のことを覚えてないことはよくあるんですよ。だから気にしなくても大丈夫です」
「…まぁ、そうだな」
お父さんも少しほっとしたように笑う。
なんだ。
私は事故にあったんですか。
だから病院にいるんですね。
それじゃしばらく入院ですかね??
「あ、でもあれですね…今は丁度高校受験がせまっているというのに、入院しなくちゃいけないなんて…」
私が何気なく言うと、2人は顔を見合わせた。
「…え??何言ってるんですか?詩織。高校受験はもうとっくに終わったじゃないですか。あなたはもう高校二年生でしょう?」
「…終わった??二年生…??」
私は首をかしげた。
お母さん、何を言っているんでしょうか…??
私はまだ中学三年で、今は受験勉強の真っ最中だというのに……
お父さんははっとしたような顔をして、お母さんに何かを耳打ちした。
お母さんの表情が驚きに変わる。
「え…??それじゃ詩織……」
「…なんですか??」
2人の反応に、少し怖くなってくる。
私…
何かおかしいこと言いましたか…??
「詩織、今おまえは何歳だ??」
「…??15ですけど…」
え?
そうですよね??
それで今、私はすごく賢い高校に行こうと勉強中で……
「…分かった」
お父さんはうなずくと、お母さんを連れて病室を出ていった。
その後、私はお医者さんにいろいろなことを聞かれて、レントゲンをとられたりした。
「どうやら高校に入ってからの記憶がないようですね」
どうやら、私は軽い記憶喪失になっているらしい。
お母さんとお父さんによると、私は目指していた高校に無事入学し、もう二年生になっているそうだ。
…本当に、全く覚えがないんですけど。
「それでですね。初めに病室に男の子がいたでしょう??」
「はい…」
あのきれいな人…ですね。
「あの子は詩織の彼氏なんですよ??」
「えっ!?そうだったんですか!?」
全く覚えていません……
それに…
あんなきれいな人が私の彼氏だったなんて…
信じられないです……
「あ、そうだ!もう一度あの子呼びましょうか??高校のこととかいろいろ聞けると思いますし!」
「え…で、でも…」
少なくとも今の私はあの人のことを全く知らないのに……
ちゃんとお話できるでしょうか??
少し不安に思ってしまう。
だけど…
もう一度、あの人に会ってみたい。
そう思った。
「はい…。お願いします」
次の日、あの男の子がきた。
「詩織……」
男の子は不安気な表情で私のベッドの隣の椅子に腰かけた。
この人が…
私の彼氏だったんですか…??
こんなに目が覚めるほどきれいな男の子が……??
「…ええと、お名前を教えていただいてもよろしいでしょうか??」
「…滝沢響だ」
「滝沢……響……サン??」
どこかで聞いたことのあるような名前のような気がした。
滝沢サンはうなずくと、じっと私を見た。
とくん……
心臓が少しだけ強くなる。
「…おまえ、本当にオレのこと忘れたのか?」
少しさびしそうな声。
「はい…」
「そうか……」
滝沢サンは悲しそうにうつむいた。
気まずい沈黙が流れる。
私は慌てて滝沢サンに質問してみた。
「ええと…私、高校でどんな感じだったんですか??そういうのも全然わからなくて……」
「…そうだな」
滝沢サンは顔をあげるとゆっくりと私のことを話してくれた。
口元にはほんの少しの笑み。
そしてその口からでてきた私は、私の全く知らない私。
全く知らない自分がそこにいた。
「でな?おまえ、前にオレが1人だからわざわざかまってやってるみたいなこと言いながら、誰とも話すなとか言ってくるんだよ。わけわかんねぇだろ??」
「そうですね…すっごく矛盾してます…」
「だよな!まぁ…でもそれがなんかうれしくて……」
少し照れたように笑う滝沢サン。
滝沢サンは本当に楽しそうに前の私のことを話してくれる。
きっと…
それだけ私は滝沢サンに大切にされてたんですね……
なぜか少しだけ胸が締め付けられるような感覚がした。
「…ありがとうございます。今日はもういいです。また聞かせてもらいますか??」
これ以上聞くとこの変な気持ちが更に大きくなってしまいそうで、私はそう言って滝沢サンに笑いかけた。
「…ん、分かった」
滝沢サンも私に微笑みかけてくれて…
ドキッ…
心臓が強く鳴るのを感じた。
滝沢サンが帰った後、私はベッドの上で1人、さっきのよくわからない気持ちについて考えてみた。
ほんの少し前までは前の自分ことで頭がいっぱいだったのに…
なぜか今は滝沢サンのことで頭がいっぱい。
どうしてでしょう??
ほんの数分あの人とお話しただけなのに……
滝沢サンが前の私が好きだった人だから??
だから変に意識してしまっているのでしょうか??
……いえ、なんとなく、そんな理由ではない気がします。
私はきっと、前にもこんな気持ちを感じたことがある。
私はきっと……
また、あの人のことが好きになってしまったんですね……
すっごく展開早い…(汗
いきなりまた好きになっちゃいました(;一_一)
うーん…
これからどうしましょう……