☆34話 復讐☆詩織side
「響くん、大丈夫ですか…??」
今日ひさしぶりに響くんが学校にきた。
けどクラスに入った途端に倒れたらしくて…
今は保健室のベッドの中。
「ん…今はなんともない」
響くんはそう私に微笑みかけてくれる。
だけどそれがすごく無理しているように思えて……
私はぎゅっと拳を握りしめた。
…どうしてですか??
響くんはどうして学校に来るだけで、こんなことにならなくちゃならないんですか…??
どうして響くんの日常がこんなにもうまくいかなくなるんですか…??
…それはすべて、桜井サンのせい。
「響くん…私がきっと……してみせます」
「は?詩織??」
桜井サンがすべて悪い。
なのに桜井サンが普通に日常の生活を送れるなんておかしいでしょう??
響くんはあなたのせいで学校にくるのも大変なのに……
あなただけなんにもないなんて、私が許さない。
2時間目。
今日は家庭科の調理実習。
私はこっそりと果物ナイフを持ち出した。
そして次の休み時間。
桜井サンを屋上に呼び出す。
「何の用ですの?詩織さん」
見下すように私を見る桜井サン。
そうですよね。
私はどうせあなたみたいなお嬢様じゃないです。
ただの普通の高校生です。
あなたは親の力でどんなことでもできるけど、私は何もできない。
だけど、私はあなたと違って自分自身で動くことができるんですよ?
「桜井サン…私、ここであなたにひどいことされました。私だけじゃなくて…一樹クンも…」
桜井サンはふんっと鼻で笑った。
「そうでしたっけ?そんなこと忘れてしまいましたわ」
「…それどころか、あなたは響くんをたくさん傷つけた。そうですよね…?」
あんな真っ暗な部屋に閉じ込めて…
響くんの日常を奪って……
私から響くんを遠ざけた……
「私はあなたを絶対に許さない。そう決めたんです」
桜井サンはくすっと笑った。
「そういえば、そんなこと言ってましたわね」
私は桜井サンをフェンスにむけて思い切り突き飛ばした。
「きゃっ!?」
ガシャンッ!
フェンスが大きな音を立てて、桜井サンが驚いたように私を見る。
私は桜井サンをフェンスに押さえつけて、調理室から持ち出した果物ナイフを手にとった。
途端に桜井サンの表情が恐怖にひきつる。
「え……何するつもり…??」
「…決まっているでしょう?あなたが響くんにしたことと同じことです」
響くんはたくさんあなたに傷つけられたんですから……
あなたも同じだけ傷つくのは当然でしょう??
いや、それ以上に傷つけてあげます。
あなたがもう笑うことさえできなくなるくらいに……
「私にそんなことしたらどうなるか分かっているの!?」
桜井サンは必死になって抵抗してきた。
そんな桜井サンのリボンをほどき、手をフェンスに縛り付ける。
私も力はないほうだけど、自分じゃ何もできない桜井サンと比べたら、そんなの簡単。
私は桜井サンの胸ポケットからケータイを取ってフェンスの外に放り捨てた。
「残念ですね。もうお家に連絡することなんてできませんよ?」
そっと桜井サンの頬に果物ナイフを突き付ける。
少し力をいれると、頬からぷっくりと血の玉がでてきた。
「痛いっ!やめて……!」
じわっと涙をうかべる桜井サン。
それを見て少し躊躇する。
だけどすぐに首をふった。
…ダメです。
響くんはきっと同じようなことを桜井サンにたくさんされた。
桜井サンが同じことをされるのは当然です。
それなのにどうしてそんな顔するんですか??
そんな顔すれば許してもらえるとでも思っているんですか…!?
…甘いです。
私は響くんのためにあなたを傷つけると決めた。
だから…
あなたのこと…許すはずがないでしょう…??
そう思っているのに…
そう思っているのに……
手がそれ以上動かなかった。
桜井サンの私を見る怯えた目が響くんに重なって……
それ以上手を動かすことができなかった。
「…どうして…ですか…??」
手がカタカタと震える。
どうして…
どうして私は何もできないんですか…!?
ただこの人がしたことと同じことをしているだけなのに…!!
どうして手が動かないんですか…!?
どうしてこんなに震えてしまうんですか…!?
私はきっと桜井サンを睨んだ。
ぎゅっと果物ナイフを持っている手をもう一方の手で握る。
そしてそれを大きく振り上げた。
その時…
ドアが開く音がした。
「やめろっ!!」
耳にとびこんでくる大好きな声。
「響…くん…??」
どうして響くんが…!?
私が呆然としている間に響くんは私から果物ナイフをとりあげた。
そして桜井サンを縛りつけていたリボンを外し始めた。
「どうして…?どうして桜井サンを助けようとするんですか…??」
響くんは何も言わず作業を続ける。
桜井サンはうれしそうに響くんを見た。
「滝沢クン…!やっぱりあなた…」
響くんはそんな桜井サンを強く睨みつける。
「黙れ。ほどいてやったから早くオレの視界から消えろ」
「ひ……」
桜井サンは目を大きく見開いて逃げるように屋上からでていった。
響くんはそれを見届けると、今度は私を睨みつけた。
そしてあきれたように言う。
「…おまえ、何してんの?」
「……私はただ…桜井サンにも響くんと同じ思いをしてもらおうと……」
私はうつむいた。
響くんの顔がまともに見れない。
なんだか自分がとてもいけないことをしていた気がした。
「オレ、そんなことして欲しいって言った?」
私は首を横にふった。
そんなこと…
響くんは一言も口にしていません……
ただ…
私の気がおさまらなくて……
響くんだけが傷ついたっていうのが許せなくて……
だから…
「私は…響くんのために……」
「オレのためを思ってんなら、そんなことするな!」
響くんに思いきり怒鳴られて、涙があふれた。
「おまえが桜井と同じになってどうすんだよ!?あんな奴ほっとけばいいんだ!」
涙が頬を伝う。
「……ごめんなさい」
小さな声で謝ると、響くんは小さなため息をついて私の頭を軽く叩いた。
「…まぁ、おまえの気持ちはうれしいけど…もう自分が汚れるようなことするのはやめろよ」
顔をあげると、響くんが優しい表情で私を見てくれていた。
「ふぇ……」
余計に涙があふれてポロポロとこぼれおちた。
響くんはそれを見て慌てたように言う。
「な、なんで泣くんだよ!?」
「ごめんなさい…ごめんなさい…!!」
私…
私どうかしてました…
響くんが傷ついたんだから、桜井サンも同じだけ傷ついていいなんて…
そんな考え方…おかしいですよね……
もうすぐで私…
桜井サンと同じになるところでした……!!
「響くん…ありがとうございます……!!」
響くんは困ったように笑って私の頭を撫でてくれた。
次の日、響くんのクラスで桜井サンが転校したと話されたらしい。
「良かったですね!これで私達も安心できるというものです!」
「んー…まぁ意外とおまえのおかげかも……」
…そうですね。
私はいけないことしましたけど……
結局良い結果になったのでよかったのかも…!
あ!
いや、そんなこと思ってしまうなんて!
私って以外と性格が悪かったのでしょうか……
ま、まぁ一件落着ですよね!
とりあえずこれで、響くんと私に普通の毎日が帰ってくる……
「えへへ♪」
「…何笑ってんの??」
怪訝そうな顔をする響くん。
私は笑顔を返した。
「なんでもありませんよ!」
これからもなにごともなく響くんがそばにいてくれる。
それ以上に幸せなことなんて考えられません。
私、今すごく幸せです。
最近すごく怖い話になってきました;
詩織はこんな怖い子じゃないのに……
ちなみに今回は響sideはナシにします。
なんとなくすっごく短くなりそうなので…(-_-;)