☆★初恋★☆一樹side
顔、良し。
性格、まあまあ。
成績、上の中。
おまけに女の子大好き。
突っ立ってるだけでも女の子がよってくる。
そんなオレが初めて恋したのは…
兄ちゃんの、彼女。
「なぁ、なんで兄ちゃんは彼女作らないんだよー??」
「めんどくさそうだから」
何度聞いても同じ答え。
そのたびにオレはため息をつく。
もったいないなー…
兄ちゃんは結構顔良いし(オレほどじゃないけど…)、頭もすげぇいいから女の子よってくるはずなんだけどな。
…まぁ、ちょっと目つき悪いけどさ。
でも兄ちゃんに女の子が寄ってこないってわけじゃないみたいなんだ。
兄ちゃんが片っ端から無視してるだけなんだよな……
めんどくさいって別にそんなことないと思うけど。
オレのためならなんでもしてくれるし、遊ぶのだって楽しいし。
めんどくさくなったら他の奴にすればいいだけなのに。
本当にもったいないなぁ…
と、そんな風に心配してたわけなんだけど……
兄ちゃんは高校生になって、やっと彼女を作った。
今まで全然彼女作ろうとしなかった兄ちゃんが作った初めての彼女なんだ。
きっとそこらにはいない上玉なんだろな。
少し興味があった。
初めてその姿を見たのは、オレが受験勉強まっしぐらの2月の初め。
珍しく兄ちゃんが風邪引いた日。
兄ちゃんの彼女がうちにお見舞いにきた。
父さんも母さんも家にいなかったので、当然オレがでる。
家の前にいたのは…まぁ、まずそこらにはいない可愛いらしい女の子。
耳の上で二つにくくっている長い髪。
大きな目。
すべすべしてそうな肌。
スタイルも見た感じまぁまぁ良い感じ。
ホント上玉捕まえたなぁ…
あの彼女作るのめんどくさいって言ってた兄ちゃんがね。
感心しながら、その望月サン(インターホンでそう言ってた)を兄ちゃんの部屋に連れていく。
兄ちゃんは望月サンを見た瞬間、慌てて上半身をおこした。
ちょっと顔をしかめてるけど、なんとなくうれしそう。
オレ、邪魔かな??
そう思い部屋をでる。
驚いたことに、望月サンはうちに泊るといいだした。
…まぁ、別にこんな可愛い人なら大歓迎だけど。
なんかオレに夕食まで作ってくれたし。
父さんと母さんがいないときは夕飯は兄ちゃんまかせだからな。
オレ料理とか無理だから。
暇だし、ちょっと望月サンをからかってみた。
「だって…望月サンって可愛いし、性格もいいし…完璧じゃないですか」
そう言ってみると、望月サンは耳まで顔を赤く染める。
そして兄ちゃんにおかゆ持っていくとか言って二階にあがってしまった。
ふーん。
純情そうで可愛らしいじゃん。
さらに望月サンに興味がわいた。
で、兄ちゃんの部屋から望月サンが戻ってくるのを待ってたわけだけど…
これがなかなか帰ってこない。
何してんのかな??
もしかしたらやってんの??
そう思いながら二階にあがってみる。
そして扉の前で耳をすませてみた。
……何も聞こえねぇ。
そっとドアをあけてみる。
目にうつったのは、ベッドで眠ってる兄ちゃんとそのそばでひざをついて兄ちゃんの手を握って眠っている望月サン。
なんだ、2人とも寝てただけか。
そっと2人の顔をのぞいてみる。
しっかりと兄ちゃんの手を握って眠っている望月サン。
そして…
珍しく眉を緩ませて、安心したように眠っている兄ちゃん。
いっつも寝てる時もつりあがってんのに…
…それだけ、望月サンといたら安心できるのか。
そのとき、なんとなく兄ちゃんは本当に望月サンが好きで付き合ってんだなと思った。
そのうちオレは兄ちゃんの高校に合格し、始業式の日、ひさしぶりに望月サンに会った。
いや、今日から望月センパイか。
まぁその望月センパイと兄ちゃんは始業式の朝からクラス分けの張り紙見ながらいちゃついてた。
ほっんと仲いいよなぁ…
だってあの兄ちゃんがこんなに笑うとこなんて初めて見た……
そんな風に驚きながら、オレはオレで高校での新しい彼女作りにいそしんでいた。
…その日の帰り道。
女の子達とも別れて1人でぼんやりと家に帰っていた時、突然ヘルメットをかぶった数人の男達に襲われた。
一応応戦しようとしたけどオレ、ケンカとかあんま強くねぇし相手はバットもってたから当然オレはボロボロにされてよろめきながらうちに帰った。
うちに帰ったら母さんが軽い悲鳴をあげて…
だけど、兄ちゃんはオレを見て蒼白して固まっていた。
とりあえず母さんに手当てしてもらって部屋で一息つく。
すると突然兄ちゃんが部屋に入ってきた。
「一樹…ごめん…」
なんでか突然謝られる。
わけがわからなくてなぜかと聞いてみると、兄ちゃんはオレのせいなんだ、と言って今日いきなり転校生に告白されたと話し出した。
それで転校生に『あなたの大切な人達の身のまわりに気をつけて』とかなんとか言われたらしい。
何度も謝られた後、このことは絶対に望月センパイには言うなと言われた。
まぁ、兄ちゃんの大切な人と言えばやっぱ望月センパイだし、次は望月センパイだもんな。
そう思いながらうなずく。
次の日。
望月センパイはオレを見てびっくりしてたけど、オレは何も言わなかった。
どうやらその日の帰り道、望月センパイが危ない目にあったみたいで……
兄ちゃんは家に帰ってすぐに自分の部屋に閉じこもってしまった。
そして、その次の日…
兄ちゃんは家に帰ってこなかった。
初めは望月センパイを心配しすぎて、望月センパイの家にでも泊ってんのかなって思ってた。
だからたいして心配なんかしていなかった。
だけど…
次の日、兄ちゃんは学校にもきていなかった。
さすがに心配になる。
だって風邪ひいてでも勉強しようとするんだぞ?
あんな真面目でなんだかんだ言って勉強好きな兄ちゃんが学校休むわけない。
望月センパイなら何かしってるかもしれない。
オレはそう思い、放課後に望月センパイに尋ねてみた。
だけど、かえってきた答えはあまりにも予想外な答え。
「すいません。…私、昨日響くんにふられちゃったんですよね!」
思わず目を大きく見開く。
ふられた…??
望月センパイが、兄ちゃんに??
…そんなはずがない。
だって兄ちゃんはあんなに望月センパイが好きだったんだ。
もしかしたら、望月センパイは冗談でも言ってるのかなと思った。
だけど、無理に作られた望月センパイの笑顔が、それが事実であることを物語っていた。
本当に、必死になって笑おうとする望月センパイ。
それが妙に痛々しく見えて、気がついたらオレは望月センパイを抱きしめていた。
望月センパイはオレの腕の中で涙を流して…
そんな望月センパイがひどく小さく見えて……
オレは、望月センパイを守ってあげたいと思った。
兄ちゃんと別れた悲しみをいやしてあげたいと思った。
だから…
オレは望月センパイに付き合おうと言った。
はじめは単なる同情心から。
兄ちゃんと似ているオレなら、望月センパイの悲しみをいやしてあげられると思ったから。
それに、兄ちゃんが好きになった女を自分の物にしてみたかったから。
はじめは、そんな理由で付き合ったはずだったんだ。
だけど…
望月センパイと一緒にいるうちに、いつの間にかオレはずっと望月センパイのことばかり考えるようになって…
他の女の子達といても全然楽しくなくて…
いつもなら二股とか余裕なのに、望月センパイ一筋になっていて…
廊下とかで望月センパイを見かけただけでドキドキして…
笑っているはずなのにどこか悲しそうな望月センパイの笑顔に胸がしめつけられて…
とにかく、すべてが今までに全く感じたことのない感情だった。
そしてオレは気がついた。
ああ、これが『恋』っていうのか…
それと同時に悲しくなる。
オレのせっかくの初恋の相手は、兄ちゃんのことが好きなんだ。
どんなにオレと一緒にいても…
どんなに望月センパイに触れても…
どんなに望月センパイにキスしても…
どんなにオレが望月センパイを思っていても…
望月センパイの気持ちは絶対に変わらない。
そんなの、オレが望月センパイに『恋』をしていると気がついたときから分かり切っていたこと。
だけど、オレはどうしても望月センパイの気持ちを手に入れたかった。
だからオレなりに一生懸命努力したんだ。
オレが今まで女の子達と付き合うなかで学んできた知識のすべてを使って。
そして、2か月ごろが立ったある日。
あいかわらず、兄ちゃんは学校にもこないし家にも帰ってこない。
心配で仕方がなかったけど、どこかで安心している自分がいた。
だから、そろそろ望月センパイの中の兄ちゃんの影も消えてきたころかと思ってた。
その日、オレが望月センパイにキスしていると、望月センパイがいつになく積極的にキスしてきた。
だから、やっと望月センパイの気持ちがオレの方に傾いてきてくれていると思っていた。
だけど…違った。
唇を離したとき、望月センパイがつぶやいた名前。
「響…くん……」
兄ちゃんの、名前。
心が痛いほどしめつけられた。
結局、オレは兄ちゃんの代わりだったんだ…
そんなの分かってたはずなのに…
いや、オレはもともと兄ちゃんの代わりでよかったはずなのに……
胸がはりさけそうだった。
…望月センパイにはオレだけを想っていて欲しい…
そんな風に言ってしまうなんて、オレはいつの間にこんなに我がままになっていたんだろう??
女の子なんて、適当に楽しむための道具だったのに…
オレはいつの間にこんなにもその道具に固執するようになったんだろう…??
次の日。
望月センパイは長い髪を切っていた。
「ちゃんと響くんのことを忘れようと思って…。その決意みたいなものです」
どうして髪を切ったのか、自分に言い聞かせるように言ってくれた望月センパイ。
それは…
望月センパイがオレを好きになるということを決意したということ。
望月センパイがそこまでしたことがうれしくて、オレは望月センパイを強く抱きしめた。
やった!
望月センパイがオレのことを想ってくれるんだ!
最高にうれしい気持ちの裏で、異様に冷めた声が聞こえた。
…無理だよ。どうせ望月センパイはオレのこと好きになったりしない…
そう。
そうだったんだ。
オレは最初から、その冷めた声を信じていればよかった。
なのに…
妙な期待なんてしてしまったから……
その日の放課後。
その日にかぎって、担任がオレにプリント運ぶの手伝えとか命令してきて、オレは望月センパイを待たせてしまうと思いながらも、しぶしぶとそれに従った。
そして用が済むと急いで望月センパイが待っている校門へと走った。
だけど、望月センパイが視界に入った瞬間、体が硬直する。
信じられない光景。
望月センパイが他の男に抱きしめられている。
ぎゅっと、強く、強く。
そしてその男は…
「にい…ちゃん…??」
望月センパイがどうしても忘れられない相手。
憎くて、憎くてたまらないのに…
なんだかんだいって小さい頃から大好きだった、大切な兄弟。
なんで…
なんでいるんだよ…!?
しかも…
なんで望月センパイを抱きしめてるんだよ…??
望月センパイのことをふったんじゃなかったのかよ!?
オレは怒りにまかせて兄ちゃんを怒鳴りつけた。
兄ちゃんは一言謝り、あとはただじっと黙っているだけ。
「オレは……「あら、滝沢クン。こんなところにいたの??」
やっと兄ちゃんが何か話そうとしかけたとき、不意に女の声がした。
声の主は、相当美人な女。
その女を怯えたようにみる兄ちゃん。
女はオレ達に一度軽く頭を下げると兄ちゃんをうながして、いつの間にか校門の前に止まっていた車に乗り込んだ。
そして兄ちゃんもそのあとに続こうとする。
…今日を逃したら、もう兄ちゃんはかえってこないかもしれない。
そう思い、オレは慌てて兄ちゃんを引きとめた。
兄ちゃんは少し足を止めて振り返る。
「一樹、………詩織、…ごめん」
オレ達に謝り、悲しそうに笑う。
兄ちゃんはオレ達に背を向けて車に乗り込んだ。
オレはそれをただ見ているだけしかできなかった。
…兄ちゃんのあんな顔、見たことない。
兄ちゃんが好きであいつの所にいってるわけじゃないってことくらいすぐに分かった。
兄ちゃんはオレ達を傷つけないために、1人で無理していることくらい。
そんなのすぐわかる。
だってオレは生まれた時からずっと兄ちゃんを見てきたんだ。
なんでもすぐに1人でかかえこもうとすることくらい知ってるんだ。
だからオレは…
兄ちゃんがまだ、望月センパイのことを好きだってことくらい分かってたんだ…
だけどそれを望月センパイに言いたくなかった。
言ってしまうと望月センパイはオレから離れて言ってしまいそうで。
次の日。
望月センパイにもうオレとは付き合えないと言われた。
自分はどうしても兄ちゃんのことが好きだから…と。
頭が真っ白になった。
そんなの絶対嫌だ…!!
オレは必死になって別れまいとした。
望月センパイは優しいから…
オレは望月センパイの優しさにつけこんで、結局オレ達は別れないことになった。
正直、もう望月センパイの気持ちなんてどうだって良かった。
ただ、望月センパイがオレのそばにいてくれるだけでよかったんだ。
その次の日。
望月センパイが桜井ってやつと昼飯を食べるといいだした。
桜井って…
あの、兄ちゃんといた……
ふと思い浮かぶ兄ちゃんの怯えた表情。
初めてみた悲しそうな笑顔。
きっと…
全部、あの女のせいだ。
オレもあの女に兄ちゃんの居場所を聞きたい。
兄ちゃんに何しているのか聞きたい。
だけど…
これ以上兄ちゃんの話はしたくない。
望月センパイを兄ちゃんにかかわらせたくない。
心の中で二つの気持ちが葛藤する。
そして、オレは結局兄ちゃんのことを知りたいという気持ちをとった。
望月センパイに頼み込んで、オレも一緒に昼飯を食べることにさせてもらう。
そして昼休みに屋上で桜井ってやつを見た時、怒りがこみあげて、止まらなくなった。
だけどその感情を必死でおさえる。
怒っていたら、もらえる情報ももらえないかもしれない…
でも、そう思う必要なんてなかった。
「大体おまえ、兄ちゃんに何したんだよ!?なんで兄ちゃんは一度も学校にこず、家にも帰ってこないんだ!?おまえなら知ってるんだろ!?」
オレが我慢できずに怒鳴るように言った問いに、簡単に返事が返ってきた。
「滝沢クンは私の家にいますよ?」
オレと望月センパイは同時に大きく目を見開いた。
なんで…こいつの家なんかに…
オレが尋ねる前に、望月が先に尋ねた。
桜井があびせる言葉に、必死になって対抗する望月センパイ。
「あなたはもう滝沢クンの彼女じゃないんだから、響くんなんて呼ばないで欲しいですわ」
だけどそう言われた時、望月センパイの瞳に涙がたまった。
こみあげてくる感情をおさえられず、オレは桜井の胸倉をつかむ。
けど桜井はおびえもせずにただ微笑して言った。
「私にこんなことしていいと思っているの??」
「…あっ!」
突然望月センパイの小さな悲鳴が聞こえる。
驚いて望月センパイの方を見ると、望月センパイが黒い男に手をおさえつけられていた。
助けようとして、桜井から手をはなす。
それとほぼ同時に、頭に強い衝撃と痛みが走った。
そのまま地面がちかづいてきて、意識を手放す。
気がついたら、オレは保健室にいた。
隣には望月センパイ。
望月センパイと桜井の話をしていると、望月センパイが突然オレに謝りだした。
「一樹クン…私、もう桜井サンと響くんにかかわろうとするの、止めます」
そしてつぶやいた言葉。
それになぜかかっとして、望月センパイを怒鳴りつける。
さっきのことで桜井ってやつがひどいやつってことは十分に分かった。
あんな奴の所に兄ちゃんはいるんだ。
絶対にひどい目にあわされているに決まっている。
それなのに…
望月センパイが兄ちゃんのことあきらめたら、兄ちゃんはどうなるんだよ……!!
「だけど…響くんは本当に桜井サンのことが好きなのかもしれないじゃないですか…」
望月センパイはぽつりと言った。
その言葉にぎくりとする。
そうだ…
オレは、望月センパイに兄ちゃんがまだ望月センパイが好きだってこと言ってないんだ…
……このことを言ってしまったら、オレは望月センパイをあきらめなくちゃいけない。
そんなの…嫌だ…
だけど…
兄ちゃんが苦しむのは、もっと嫌だ。
オレは望月センパイに、兄ちゃんがまだ望月センパイのことが好きだということを話した。
そして、オレが望月センパイのことをあきらめるということも。
悲しそうにオレを見て、小さな声で謝る望月センパイ。
そんな望月センパイの頬にそっとキスする。
オレが、初めて恋した人。
可愛くて、優しくて、兄ちゃんの一番大切な人。
…これだけは、たしかに伝えたい。
「…オレ、望月センパイのことが本当に好きでした」
あなたは、オレに初めて恋を教えてくれた。
ほとんど悲しいことしかなかった短い恋だったけど…
オレは、たしかにあなたのことが好きでした。
オレは…
あなたと過ごした、ほんの少しの短い時間を一生忘れません……
…あれ??
詩織を中心にするはずだったのに、響が中心になっている気がする…
いつの間にやら一樹がお兄ちゃん大好きのすっごいブラコンに……(汗