☆31話 理由☆詩織side
「あいつ!絶対ヤバいやつですよ!!」
保健室で一樹クンは後頭部をおさえながら言った。
私達はあのあと保健室に運ばれていたようで…
目が覚めたら一樹クンと並んでベッドの中にいました。
「いくら財閥のお嬢だからって…オレ達が通報したらどうすると思ってるんですかね!?」
…たしかに。
命令しただけとはいえ、あきらかに傷害罪ですよね……
まぁ軽いケガですからそこまでならないとは思いますが……
「…ですけど、きっとあの人ならなんとかしてもみ消すんだと思います…」
私はケータイを片手に私を見下ろして笑う桜井サンの姿を思い出した。
思い出すだけでもぞっとするような笑顔。
あの人にどんなことをしても、全部無駄になる気がします……
『いい??もうこんなこと嫌でしょう??だから、もう私と滝沢クンにはかかわらないで』
最後に桜井サンに言われた言葉。
きっと、あれは警告。
……これ以上私が響くんのために何かしようとしたら、あの人は私達にもっとひどいことをするつもりなんです。
…もっとひどいことって??
想像するだけでも怖くなる。
しかも…
私のせいで、一樹クンまでまきこんで……
「一樹クン、ごめんなさい…」
手がふるふると震える。
「私のせいで…一樹クンまで……!!」
私が桜井サンにかかわろうとしなければ……
一樹クンまで痛い思いをすることはなかったのに……!!
「…望月センパイ」
一樹クンは黙って私を見て、ふいににっと笑った。
「望月センパイのせいじゃありませんよ。悪いのは全部あいつです」
「ですけど…私が桜井サンのことを調べようとしたから…」
私がつぶやくと、一樹クンは小さなため息をついた。
「…もう、なんでそんなに気にするんですか??そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。オレ、こんなの全然平気ですから!!」
だけど……
一樹クンが後ろから殴られた瞬間。
私は息が止まるかと思った。
頭が真っ白になって、恐怖でわけがわからなくなった。
………だから、もう私と滝沢クンにはかかわらないで………
頭の中に桜井サンの言葉がこだまする。
…私は別に響くんのためなら、どんなことをされたって平気です。
だけど…
私のせいで一樹クンが傷つくのは嫌……!!
「一樹クン…私、もう桜井サンと響くんにかかわろうとするの、止めます」
私がぽつりと言うと、一樹クンは大きく目を見開いた。
「え…??どうしてですか??」
「だってこれ以上かかわろうとしたら…一樹クンがまた、ひどい目にあうかもしれない…!!」
私はあふれだしそうになる涙をおさえながら言った。
そうなったら…
私は…私は…!!
「ふざけるなっ!!」
突然一樹クンが大声で怒鳴った。
思わずびくっと体が震える。
「…そんなんじゃ、兄ちゃんはどうなるんですか…??」
一樹クンはぼそっとつぶやく。
「桜井ってやつはあんなひどい奴なんですよ…??」
…たしかに。
桜井サンが響くんに何をしているかなんてわからない。
でも…
「だけど…響くんは本当に桜井サンのことが好きなのかもしれないじゃないですか…」
もしかしたら響くんは好きで桜井サンの所にいるのかもしれない。
私が勝手に響くんが辛い思いをしていると思っているだけなのかもしれない。
そう思うと…
私のしていることって…
ただ、一樹クンを無駄に傷つけて、響くんの邪魔をしているだけ…
「……そんなわけないでしょう??」
一樹クンはぽつりと言った。
「そんなの分からないじゃないですか」
「いえ、絶対にそんなわけないんです」
一樹クンははっきりと言った。
「…始業式の次の日、オレ、すっごいケガしていたでしょう?」
「…はい」
私はうなずいた。
だけど…
それと響くんにどんな関係が……
「実は始業式の日、帰り道にヘルメットかぶったよくわかんない奴らに襲われたんですよね」
一樹クンは苦笑いした。
そして話を続ける。
「家帰ったら、兄ちゃんがオレ見て蒼白して…なんでか謝られたんです。なんでそんなに謝るんだよって聞いたら…」
一樹クンはためらうように口を閉じた。
「…聞いたら、響くんはなんて言ったんですか??」
私が尋ねてみると、一樹クンは目を伏せた。
「…転校生に告白されて、断ったら変なこと言われたって」
変な、こと…??
「…『あなたの大切な人達の身のまわりに気をつけて』って言われたそうです」
「………!!」
それって…
遠まわしに、付き合えないんだったら大切な人を傷つけるって言ってるみたいなものですよね…??
私は響くんの不自然な態度を思い出した。
『おまえは…オレが守るから』
そう言って突然抱きしめられた。
…あれは、一樹クンの次は私だと思ったから??
帰り道、やけに響くんが辺りを見回していたこと。
工事現場の木材が私に倒れ掛かってきた時、響くんが一瞬見せた険しい表情。
そして次の日、突然別れを告げられた。
……もしかして、私を傷つけないようにするため…??
一樹クンは目をあげて、悲しそうに笑った。
「…だから、兄ちゃんはまだ望月センパイのことが好きなんだと思います。兄ちゃんが望月センパイ以外に好きな女ができるなんてありえません」
「……本当、に??」
一樹くんは小さくうなずいた。
うれしくて、頬に涙が伝う。
よかった……
響くんは私に飽きたわけじゃなかったんですね…??
響くんは桜井サンのことを好きになったわけじゃないんですね…!?
私は…
響くんのことを、好きでいていいんですね…!?
「…ごめんなさい。オレ、ずっと言えなくて」
一樹クンは震える声で謝った。
「でも…言ったら、望月センパイが兄ちゃんの所に戻ってしまいそうで……」
「…一樹クン」
一樹クンはうつむいて、顔をあげようとしない。
私はベッドからおりて、そっと一樹クンを抱きしめた。
「…言ってくださって、ありがとうございます」
一樹クンは何も言わず黙り込む。
私はそんな一樹クンの頭をなでる。
「でも私…響くんともう一度お付き合いしようなんて思っていませんから」
私には一樹クンを傷つけてまで戻りたいなんて思いません。
私はただ、友達として響くんのそばにいられるだけでいい…
「…気を使わなくてもいいです」
一樹クンは突然ぽつりとつぶやいた。
そして私の肩を持って、私を押しかえす。
「オレ、望月センパイのことあきらめますから」
一樹クンはそう言ってにこっと笑った。
悲しそうな笑顔。
だけど、必死になって笑おうとしてくれている。
「え…??」
私は驚いて口をポカンとあけた。
「望月センパイを困らせたくないんです。オレ今まで、望月センパイに甘えすぎていました」
「一樹クン…」
一樹クンが甘えていたんじゃない…
甘えていたのは、ずっと私の方……
「ごめんなさい…」
私が謝ると、一樹クンは苦笑いした。
「どうして望月センパイが謝るんですか??」
そして頬にキスされる。
一樹クンは悲しそうに私を見て言った。
「…オレ、望月センパイのことが本当に好きでした」
さっきとは違う涙がこぼれおちる。
私はそれを手でぬぐい、笑顔を作った。
「…ありがとうございます…!!」
なんか気持ちいい感じで終わってしまいました。
次は一樹sideの話書きます!!