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純情恋模様  作者: karinko
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☆28話 揺らぐ気持ち☆詩織side

私は一樹クンのことが好きになる。


私はそれを、昨日心に誓った。


もう、響くんのことは忘れます。


そうすれば……


誰も、悲しまずにすむと思うから。


そう…


私自身も………





「はい、一樹クン。お弁当作ってきましたよ!」


私がお弁当を手渡すと、一樹クンはうれしそうに受け取ってくれた。


「ありがとうございます!ちゃんと覚えていてくれたんですね!」


一樹クンはお弁当を開いて軽い歓声をあげた。


「おー、うまそうです!」


「そうですか?うまくできたか分かりませんが…一度食べてみてください」


私がそう言っても一樹クンは食べようとせず、なぜかにこにこと私の方を見てきた。        


…??


「えっと…食べないんですか??」


私は不思議に思って尋ねてみた。


「望月センパイ、食べさせてください」


一樹クンはそう言って口をあける。


「えっ!?」


私は驚いて、目を大きく開けた。


ほ、本当に一樹クンはなんでも素直に言いますねー…


「い、いいですよ」


私はお弁当のエビフライをお箸でつかんで一樹クンの口に運んだ。


「えっと…おいしいですか??」


私が尋ねてみると、一樹クンはにっと笑った。


「すっげぇうまいです!」


無邪気な笑顔。


一年しか変わらないのに、私よりずっと小さな子みたい。


そう思い、思わず私はくすっと小さな笑みをこぼした。


「そういえば、望月センパイ髪切ったんですね」


お弁当を食べ終えた一樹クンは、ふと私を見て言った。


「ええ。ちゃんと響くんのことを忘れようと思って…。その決意みたいなものです」


「決…意…??」


一樹クンはきょとんとしてつぶやいた。


なんだか自分がおかしなことを言ったような気持ちになり、少し慌ててしまう。


「あ、その!すいません!私ったら大げさに言ってしま……」


驚いて、私は途中で言葉を止めた。


一樹クンがぎゅっと強く私を抱きしめている。


「うれしいです…!!」


本当にうれしそうな声色。


胸がドキドキとする。


一樹クンはそっと私の髪に触れた。


「髪、すっごい似合ってます。…これからは誰にも触れさせませんから」


一樹クンはそう言って、愛おしそうに私の髪を撫でる。


「…はい。誰にも触れさせなんかしませんよ」


私は笑顔でそう言って一樹クンの背中に手をまわした。


一樹クンはさらに強く私を抱きしめると、うれしそうにつぶやいた。


「望月センパイはオレだけのものです…。絶対に、離しません」


顔が熱くなる。


分かりやすい一樹クンの独占欲。


それがとてもうれしかった。


そしてこの時本気で思った。


…きっと、私は一樹クンのことが好きになれる。


だって、私はだんだんと一樹クンにひかれていっているから。


そう思っていたのに……


あなたが、また私の気持ちを変えてしまう……




その日の放課後。


私は校門でぼんやりと一樹クンがくるのを待っていた。


一樹クン…遅いですねー……


さっき一年生の人達も帰っていったというのに…


いったい何をしているんでしょうか??


そう思ってため息をついたとき……


「詩織…??」


不意に名前を呼ばれた。


一樹クン?


……あれ?


一樹クンって私のこと、名前で呼んでいましたっけ??


不思議に思いながら振り返る。


そして思わず目を大きく見開いた。


「……え??」


そこに立っていたのは一樹クンによく似た男の子。


だけど、一樹クンとは違う、黒い髪。


一樹クンよりも少し大人びた、きれいな顔。


きっとした鋭い目。


大好きで、だけど忘れてしまいたくって仕方がない人。


「ひ…びき…くん…??」


信じられなくて、私は目をこすった。


夢……じゃ、ないんですか……??


だけど、たしかに目の前に響くんがいる。


こらえていた気持ちがあふれだしそうになった。


忘れようとしていた感情が涙になってあふれそうだった。


だけど、私は必死で笑顔を作る。


「ひさしぶり…ですね」


「……そうだな」


響くんも小さく微笑む。


一樹クンと少し違う、本物の響くんの声。


「いままでどうして学校にも、家にも帰らなかったんですか?一樹クン、心配していましたよ?」


私が尋ねると、響くんはうつむいた。


「悪い、けど…言えない」


少し悲しそうな表情。


だけど、顔をあげたときにはもうその表情は消えていた。


「髪、切ったんだな」


代わりに、私を見て作り物の笑顔を張り付ける。


「…ええ」


気まずい沈黙が流れる。


私は無意識に自分の髪に触れた。


そしてふと思い出す。


この髪は……


ちゃんと一樹クンのことを好きになるために切ったんでした……


それなら、これは響くんにきっちりと私の気持ちを伝えるいい機会じゃないですか。


「滝沢サン」


私は沈黙を破り、響くんの名前を呼んだ。


響くんは驚いたように大きく目を見開く。


「私、今一樹クンとお付き合いしているんです」


響くんは少し黙って、小さな笑顔を作った。


「…知ってる。……彼女から、聞いた」


響くんの口からでた『彼女』という言葉で、少しだけ悲しい気持ちになる。


そうですか…


響くんは、もう新しい好きな人とお付き合いしているんですね……


あふれだしそうになる涙を必死にこらえて、私は笑顔を作った。


「だから……私のことは気を使わず、安心してその人に恋してください……!!」


響くんは少し目を見開いた。


そして小さく微笑む。


「ああ、ありがとう。…望月」


響くんは私と同じように、私の名前を名字で呼んだ。


ああ、これで本当に、私達の関係は終わるんですね……


そう思った瞬間、こらえていた涙があふれだした。


我慢しようとしているのに、次から次へとあふれだして止まらない。


響くんは驚いたように私を見た。


私は慌てて笑顔を張り付ける。


「ちがっ…その……」


涙で言葉が続かない。


どうしましょう……


響くんに気を使わせたくなんかないのに……


こんなんじゃ、気を使わせてしまう……


必死で涙を止めようとしていると、突然強く抱きしめられた。


驚いて、あふれる涙が止まる。


どうして……??


どうして私は今……


響くんに、抱きしめられているんですか…??


響くんには新しく彼女がいるんでしょう…??


響くんは、その人のことが好きなんでしょう…??


それなのに…


どうして私なんかを抱きしめているんですか…??


「オレ…本当はまだ…!!」


響くんは痛いくらいに私を強く抱きしめて、悲痛そうな声で言った。


ドキッ……


心臓が少しだけ強くなり、ほんの小さな期待を抱く。


もしかして……


いえ、だけど響くんは他の人が好きだと……


「にい…ちゃん…??」


不意に、後ろから驚いたような声が聞こえた。


この声は……


「一樹……」


響くんはぽつりとつぶやいた。


「…何してるんだよ!?望月センパイに触れるな!!」


後ろから一樹くんが怒鳴る声が聞こえた。


その声とともに、私は響くんの腕から解放される。


一樹クンは私を後ろに隠すように前にでた。


「今までどこで何してたんだよ!?家にも帰ってこずに……!!オレや母さん達がどれだけ心配してたか分かってんのか!?」


「悪い……」


響くんはうつむいて小さくつぶやいた。


一樹クンはそんな響くんの頬を思い切り殴る。


「か、一樹クン…!!」


私は驚いて間にはいろうとした。


だけど一樹クンに強く睨まれて、何も言えなかった。


「謝ったって許すわけないだろ!?しかも……!!」


一樹クンはぎゅっと拳を握りしめた。


そして震える声で言う。


「おまえは…望月センパイをふったんだろ……!?それなのに、なんで抱きしめたりするんだよ…!?」


響くんは何も言わなかった。


ただ、うつむいて地面を見つめている。


「せっかく望月センパイはおまえのこと忘れかけてたのに……!なんでまた思い出させるようなことするんだよ………!!?」


悔しそうに震える声。


一樹クンの気持ちが痛いほど伝わってくる。


そして、もうその気持ちに答えられそうにない自分がいることに気がついた。


まだ体に残っている、響くんのぬくもり。


ごめんなさい…


やっぱり、私は響くんのことを忘れることなんかできない……


少しの沈黙のあと、響くんが口を開いた。


「オレは……「あら、滝沢クン。こんなところにいたの??」


響くんの言葉を遮るように、女の子の声が聞こえた。


響くんは驚いたように振り返る。


私もその声の方を見た。


そこにいたのは、髪の長いきれいな女の子。


あれ??


この子ってどこかで見たことがあります……


「桜井……!!」


響くんは少し怯えたような声でその女の子の名前を呼ぶ。


桜井……??


それって…


たしか………


そして気がついた。


この女の子は……


響くんのクラスに入ってきた転校生……!!


桜井サンは私と一樹クンに軽く頭を下げた。


そしてにっと響くんに笑いかける。


「探していたのよ。さぁ、早く行きましょう」


「あ、ああ……」


響くんは女の子にうながされて、そのあとについていく。


「待てよ!まだ話は終わってない!!」


一樹クンは慌てたように響くんを呼びとめた。


響くんは少しだけ足を止めて振り返ると、小さな声で言った。


「一樹、………詩織、…ごめん」


そして悲しそうに笑った。


その悲しげな声に、笑顔に、なぜか胸がしめつけられる。


響くんはすぐに私達に背中を向け、校門の前に止まっていた黒い車に乗り込んでしまった。


ゆっくりと、響くんをのせた車が動き出す。


私達はその車が消えていくのをただ見ているだけしかできなかった。


「…くそっ…!!」


車が私達の前から消えたあと、一樹クンがポツリとつぶやいた。


私はただ、ぼんやりともう見えない車を見送っていた。


あの響くんの表情が脳裏にやきついてはなれない。


響くんの新しく好きになった人って……


きっと、桜井サンのことですよね??


それなのに、どうしてあんなに怯えていたんですか…??


私は響くんに幸せになってもらいたくて……


ただ響くんに笑っていて欲しくて……


必死で響くんのことを忘れようとしていたのに……


どうして、あんな風に悲しそうに笑うんですか??


もしかしたら、ただ私達に申し訳ないことをしたと思っていただけなのかもしれない。


そこまで、深い理由はなかったのかもしれない。


そうであって欲しいと思う。


だけど……


どうしても、そうは思えない。


抱きしめられたときに、響くんが言いかけたこと。


最近学校にもこないで、家にも全く帰っていない理由。


そして、あの悲しそうな笑顔。


もしかして……


何か、深い理由があるんですか??


それを、響くんは誰にも言えずに1人でかかえこんでいるんですか??


1人で…


傷ついているんですか…??


「響くん……」


頬に涙が伝った。


分からないです……


私には、もしあなたが苦しんでいるんだとしても何もできない。


あなたのことが何も分からない……


ねぇ、教えてください……


私は、あなたのことを好きでいていいんですか……??

すごく重くなってしまった…(汗

ここまで重くするつもりはなかったのに……(-_-;)


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