☆27話 決意☆詩織side
一樹クンとお付き合いを始めてから2カ月程が経ちました。
それでも私の気持ちは変わらない。
私はずっと、響くんのことが好きなまま。
そしてその響くんは……
不思議なことに、あの日から一度も学校に来ることはなく、家に帰ってもいないらしい。
どうしても気になってしまうけど、できるだけ考えないようにする。
だって、気にしたってどうすることもできないのだから。
きっと、私には関係のない理由があるのだろうから。
一樹クンもすごく心配しているようだったけど、私達の間でその話題がでることはなかった。
だんだんと、響くんの存在がおぼろげになってくる。
響くんを忘れられるかもしれない。
そう思ったこともあったけれど…
一樹クンの顔を見るたびに、どうしても響くんに対する気持ちがあふれだす。
一樹クンは一樹クンで、響くんとは別の人間なのに……
私はどうしても、一樹クンに響くんを重ねてしまう。
だけど、一樹クンはそれでもいいと言ってくれた。
だから私は、一樹クンに甘えてしまう……
昼休み。
いつも屋上で響くんと過ごしていた時間。
だけど、今では一樹クンと過ごす時間……
「そのお弁当、望月センパイが自分で作ってるんですか?」
不意に一樹クンが私のお弁当をのぞきこんで言った。
「はい。お母さんは仕事が忙しいので……」
いつも、私が起きる時間にはお母さんは仕事にいってしまっているんですよねー……
「すごく上手ですね!そうだ、今度オレにも作ってきてくださいよ!」
「いいですよ。私なんかのでよければ」
私がそう言うと、一樹クンはうれしそうに笑った。
「ありがとうございます!本当に望月センパイ、大好きです!」
突然一樹クンに抱きしめられた。
いきなりのことに驚いて顔が熱くなる。
「か、一樹クン!いきなり抱きつかないでください!!」
「どうしてですかー??オレは望月センパイはオレのものなんだから、何しようと勝手でしょう??」
そう意地悪に言う一樹クン。
初めは積極的な一樹クンに翻弄されていたけど、今では少し慣れてきた。
「そ、そうですけど……」
私は恥ずかしくって、小さな声で言った。
「望月センパイ、照れてるんですか??…可愛いですね」
そっと耳元で囁かれる。
響くんと同じ声。
頭に血がのぼりすぎて、くらくらとする。
一樹クンは不意に私の耳たぶにキスした。
そして軽く甘がみする。
「か、一樹クン……」
一樹クンは肩を抱いて私の真っ赤になった顔を見ると、にっと笑った。
「望月センパイ、顔リンゴみたいですよ??」
「だって……」
私が目を伏せて言うと、突然キスされた。
「ん……!!」
一樹クンは角度を変えて何度もキスを繰り返す。
熱で、頭がぼんやりとする。
……目を開くと、うつるのは響くんの顔。
………響くん………
そう思った瞬間から、一樹クンは響くんになる。
私はぎゅっと強く一樹クンを抱きしめ、自分からキスした。
一樹クンは少し驚いたように目をあけて、そして私を受け入れた。
気持ちいい……
私は夢中になって、何度も一樹クンにキスした。
息をするために唇を離したとき、熱くなった息と共に、愛しい名前をつぶやく。
「響…くん……」
一樹クンは閉じていた目を大きく見開かせた。
そして突然私から離れる。
「……オレは、兄ちゃんじゃありません」
悲しそうな表情。
悲痛そうな声。
熱でぼんやりとしていた頭に、冷水を浴びせられたような気がした。
「す、すいません……!!」
私ったら……
なんてことを……
一樹くんはそっと私の髪に触れた。
「この髪にも、兄ちゃんは触れていたんですね……」
ぼそりとつぶやくと、私の髪にキスをした。
「全部、オレだけのものにしたいのに……」
一樹クンは悔しそうな顔で、ぎゅっと拳を握りしめた。
「一樹クン……」
一樹クンがそこまで私のことを思っていてくれたなんて知らなくて、そしてその気持ちを利用しているということに大きな罪悪感を感じる。
「オレ、望月センパイと付き合いたいって言った時、兄ちゃんのこと想ったままでもいいって言いましたよね?」
私は小さく首を縦に振った。
「でも、やっぱり嫌です。望月センパイにはオレだけを想ってほしい……」
その言葉に、思わず心臓が高鳴った。
たしかに響くんじゃなくて、一樹クンに対して心臓が強く反応した。
「……そう思うのって、やっぱり我がままですよね?」
悲しげな、無理に作ったような笑顔。
その笑顔で、一樹クンの気持ちが痛いほど伝わってきて、私まで悲しくなった。
「…我がままなんかじゃありませんよ」
好きな人には、自分だけを想っていて欲しい。
そう思うのはあたりまえのことだから。
私だって…
響くんに対して、そう思っている。
だけど……
一樹クンはいつのまにか、こんなにも私のことを好きになってくれている。
初めのころには、いつでもまわりに女の子がいたのに…
今はいつ見ても、一樹クンのまわりに女の子はいない。
一樹クンはきっと、本気で私を好きと思ってくれている。
そして、私もその気持ちに答えたいと思った。
「……私、もう響くんのこと、忘れます」
一樹クンは大きく目を見開いた。
「え…??」
私はそっと一樹クンを抱きしめた。
「だから……安心してください。一樹クン……」
そう……
私が一樹クンを好きになれば、楽になれる。
私も一樹クンも、幸せになる。
だからもう、絶対に一樹クンに響くんを重ねたりなんかしません。
私は、一樹クンのことが好きになりたい。
その日の放課後。
私は帰り道に、美容室によった。
「どうしますか??」
「…肩につかない程度に、短くしてください」
店員さんにそうお願いする。
今までのばしていた長い髪が、どんどんと切り落とされていく。
私は鏡に映る自分を見て、その様子をぼんやりと見つめていた。
今日決めたことを、少しでも形にしたい。
…今まで、何度も響くんに触れられてきた髪。
それを切り落とすことで、響くんへの気持ちも断ち切るつもりで……
気持ちが揺らいでも、鏡を見たらまた、強く決意できるように……
もう、響くんのことが好きでたまらなかった自分はいらない。
今日から、私は一樹クンのことが好きになる。
私は短くなった髪を見て、もう一度強くそう思った。
ええと……
詩織の髪を短くしたかっただけです!
すいません<m(__)m>!!