☆26話 現実☆詩織side
昨日、私は響くんにふられてしまった。
悲しくて、信じられなくて、私は昨日、一晩中泣き明かした。
そして涙も枯れたころ…
私は思ったんです。
どんなに悲しくても、響くんの心が変わってしまったことはまぎれもない現実。
それなのに、私がいつまでも響くんのことを思っていても、響くんの迷惑になるだけ。
昨日はあんなに冷たかったけど…
きっと優しい響くんのことです。
私がずっと響くんのことを好きなままでいたら、響くんはまっすぐに新しい女の子を好きになれない。
私は響くんの恋の邪魔なんてしたくない。
響くんが他の誰かを好きになるなんて…
本当はすごく嫌です。
だけど、響くんにはずっと笑顔でいて欲しい。
困らせるなんて…そんなの、嫌。
だから…
私は素直に現実を受け入れて、響くんへの気持ちも忘れます。
そうすれば……
響くんの迷惑になんか、なりませんよね??
次の日。
私はいつものように学校に行った。
できるだけ普段と変わらないように。
響くんに会っても、普通でいられるように。
普通の友達として、響くんに笑顔を向けることができるように。
だけどその日、私は響くんに会うことはなかった。
笹川サンによると、どうやら響くんは学校を休んでいるらしい。
風邪でもひかれたのでしょうか…??
もしかして、またお母さんとお父さんがいない状態だったら……
どうしても、すごく心配になってしまう。
「詩織ちゃん、今日お見舞い行ってあげたらー??滝沢クンもきっと喜ぶよ♪」
笹川サンがからかうように言った。
そうですね…
お見舞い…行きましょうか…
そう思ったところで、はっと気がつき首をふった。
そうだ…
私はもう、響くんの彼女じゃないんですから…
そんなことしても、ただの迷惑です……
「いえ。行きませんよ。…私達、昨日別れたんです」
私が苦笑いで言うと、笹川サンは大きく目を見開いた。
「え…!?そうなの!?」
「はい。ふられちゃいました」
できるだけ、明るく言うように努める。
「そっか……。なんか残念だな。私、ずっと詩織ちゃん達って理想の恋人だなぁーって思ってたのに…」
笹川サンは少しうつむいて、ぱっと顔をあげた。
そしてにっこりと私に笑顔を向ける。
「まぁ、大丈夫だよ!詩織ちゃんだったらきっと新しい人見つけられるから!」
「…そうですよね!ありがとうございます!」
なんとなく、笹川サンに勇気づけられた気がした。
…不思議です。
笹川サンって、つい前までは響くんのことが好きで、私達の邪魔をしてた感じだったのに…
今じゃ、私を応援してくれている。
笹川サンはもう、私のお友達になってくださっているんですね。
私はうれしくて、笑顔になれた。
昼休み。
私は優香ちゃんと楓ちゃんにお昼を一緒にしてもらった。
「どうしたの?詩織。いつも滝沢クンとご飯してるんじゃないのー??」
優香ちゃんが驚いたように言った。
「いえ。…昨日、響くんにふられちゃいましたので」
私が笑顔で言うと、優香ちゃんと楓ちゃんは同時に大きく目を見開いた。
「えぇ!?なんで!?」
「響くんに新しく好きな人ができたそうなんです」
私がそう言うと、楓ちゃんは怒ったような表情をした。
「何それ!?そんなの勝手すぎるよ!ちょっとかっこいいからって調子のってるんじゃないの!?」
楓ちゃんが怒ったところなんてめったに見ないので、驚いてしまう。
だけど、それだけ私のことを思ってくれているんだと思うとうれしくなった。
「いいんです。私も早く新しい人を見つければいいだけですから」
私はそう言って笑顔を作った。
「そう…??でも…大丈夫?詩織??」
優香ちゃんが心配そうにそう言ってくれる。
「大丈夫ですよ!私、ふられちゃったくらいでそんなに落ち込むほど弱くなんかありません!」
そう言って強がってみせる。
すると優香ちゃんと楓ちゃんはにこっと笑った。
「…うん!そうだよね!よし、それじゃ早く新しい男作って滝沢クンを見返してあげよう!」
「そうだよ!詩織ちゃん、がんばれ!!」
「はい!」
優香ちゃんと楓ちゃんに励まされて、少し勇気がでる。
本当に、友達って大切なんですね…!!
笹川サンが…優香ちゃんと楓ちゃんが…
友達がいて、本当に良かった。
私はあらためて、友達の大切さを実感したような気がした。
そして放課後。
帰ろうとする私に一樹クンがかけよってきた。
「望月センパイ!」
「一樹クン??どうしたんですか??」
一樹クンは深刻そうな顔をしていた。
急いでかけよってきたらしく、息を切らしながらに尋ねる。
「あの…兄ちゃん、知りませんか??」
「えっ??」
響くんですか…??
「えっと…知りませんけど…」
「…そうですか」
一樹くんは小さなため息をついてうつむいた。
「響くんがどうかしたんですか??」
私が尋ねてみると、一樹クンは目を伏せて、ためらいがちに言った。
「実は…兄ちゃんが昨日から帰ってきていないんです。……望月センパイなら、何か知っているかもしれないと思って」
ズキッ…
少しだけ胸がしめつけられる。
私は何も知らない……
だって、もう響くんの彼女じゃないから。
私はその悲しい気持ちを隠すように笑顔を作った。
「すいません。…私、昨日響くんにふられちゃったんですよね!だから…昨日は響くんとお話していないので……」
「え…??」
一樹クンは大きく目を見開いた。
「そ、そうなんですか…えっと…すいません…」
申し訳なさそうに謝る一樹クン。
私はそれを見て、できるだけ明るい笑顔を一樹クンに向けた。
「謝らなくてもいいですよ。私、そこまで落ち込んでいませんし!」
そうです。
落ち込んでなんかいません。
だって私は大切なお友達に励まされて、もう立ち直っていますから。
「全然気にしてなんかいません。もう、響くんはただのお友達ですから…」
自分に言い聞かせるように言うと、不意に体が何かに包まれた。
「一樹…クン…??」
なぜか、私は一樹クンに抱きしめられていた。
いきなり…
どうして……??
「望月センパイ…無理して、笑わなくてもいいですよ??」
優しい声。
それは、響くんの声に似ていた。
思わず、涙があふれる。
だけどそれを必死でこらえた。
「む、無理なんかしていませんよ?私は…別に……響くんのこと…!!」
やっぱり涙がおさえられない。
次から次へとあふれだして止まらない。
だって…だって…
無理してなくちゃ……
笑っていなくちゃ………
こんな悲しい現実、たえられない……!!
涙と一緒に、我慢していた気持ちがあふれだした。
「…私、本当は響くんと別れたくなんかないですよ……!!でも、我慢しなくちゃ、響くんを忘れなくっちゃ…!!そうしないと、ダメなんですよ…!!」
響くんに迷惑かけちゃいけないのに…!!
響くんを忘れなくちゃいけないのに…!!
どうしても、気持ちだけは変えられないんです……!!
だって…
響くんと過ごした愛おしい日々を忘れられるはずがないじゃないですか……!!
一樹クンは優しく私を抱きしめていてくれた。
「…大丈夫ですよ。我慢なんてしなくていいです」
私はしばらく一樹クンの胸の中で泣いていた。
そしてそろそろ落ち着いてきたころ、一樹クンは私を腕の中から解放する。
「……ごめんなさい。ありがとうございます」
私がお礼を言うと、一樹クンはにっこりと笑った。
「ええ。…それより」
一樹クンは突然真剣な顔をして、まっすぐに私の目を見た。
響くんと同じ瞳が、私の瞳をとらえる。
心臓の鼓動が強くなる。
「望月センパイ。…オレと、付き合いませんか??」
「……え??」
そんな…
突然言われましても…
そういえば、初めて会った時にも同じようなこと言われた気がします。
その時は冗談でしたし…
今回もきっと冗談かも……
だけど、一樹クンの目は以前の時とあきらかに違っていた。
本当に真剣な目。
そこから一樹クンの気持ちが伝わってくるよう。
「でも…私は…響くんが…」
きっと、私は一樹クンとお付き合いしても、響くんのことを忘れることなんてできない。
「いいんです。兄ちゃんのことを思ったままでも」
……!!
一樹クンの真剣な声に、思わず心が揺れ動いた。
…だ、だけど…
「たしか、一樹クンには彼女がいたんじゃ…」
「あんなの、ただの遊びです。望月センパイがOKしてくれるのなら、すぐに別れます」
あんなのって…
彼女のこと、そんな風に言えるんですか…!?
…そうですよ。
一樹クンは女好きだって響くんが言ってましたし…
どうせ私のこともただの遊びかもしれない…
………だけど………
「…それなら…お願いします」
私は小さな声で言った。
一樹クンは響くんと本当にそっくりなんです。
そんな人の告白を、断れるはずがない。
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
うれしそうに笑う一樹クン。
本当に、響くんにそっくりなきれいな笑顔。
ああ、私は本当に悪い人間です……。
きっと、一樹クンのことを利用してしまう……。
一樹クンを響くんの代わりにしてしまう……。
でも、許してください。
やっぱり、私はどうしても響くんを忘れることなんてできないんです……。
サブタイトルがよくわからない…
思いつきませんでした<m(__)m>