★23話 バレンタイデー★響side
2月のある日の放課後。
いつものように詩織と帰ろうとした時、詩織と笹川が話しているのが目にうつった。
ん…??
なんで笹川と話してるんだ…??
…なんか心配だ。
笹川と富岡はもう付き合っているから安心だと分かってても、やっぱ嫌な感じがする…
オレは笹川が詩織から離れてから詩織に声をかけた。
「何話してたんだ?詩織」
詩織はびくっと震えた。
「いえ、なんでもないですよ!さぁ帰りましょう!」
慌てたようにそう言い、教科書やらノートやらを鞄に詰め込みはじめた。
…??
やっぱなんか怪しい。
…まぁ、無駄に深く聞いても何もいわねぇだろうし…
オレは特にそれ以上聞かなかった。
それにしても…
オレはぶるっと震えた。
なんとなく詩織から変な気を感じる気がするんだが…
…気のせい、だよな?
「そういえば、明後日ってバレンタイデーだよな!」
富岡がポテトを口に運びながら言った。
「そういえばそうだな…」
……まぁ、それはどうでもいいとして…
「で、何の用??」
なんでオレが今、富岡なんかとマクドで向かいあって座ってるんだ??
「何の用って…暇だったから」
富岡はきょとんとして答えた。
暇だったからって…
どんな理由だよ!?
「それなら笹川でも呼んで遊んでればいいだろ!?」
オレが言うと、富岡はため息をついた。
「オレも最初はそうしようと思ったんだけど…美空、今日用事あるみたいでさ」
「用事??」
そういえば、おとといくらいに笹川と詩織が何か話してたよな??
それに関係あるのか??
…まぁ、多分心配することじゃないと思うけど…
「それよりさ!」
富岡は少し身を乗り出して言った。
「おまえ、詩織ちゃんとどこまでいったんだよ?」
「はぁ!?」
思わず顔が熱くなる。
なんでいきなりそんなの聞くんだよ!?
しかもそんなのおまえなんかに教える必要ねぇし!
「おまえには関係ないだろ??」
オレはふいっとそっぽを向いた。
そんなオレを富岡はにやにやしながら見てくる。
「何?照れてんの?もしかして最後までいっちゃった??」
「いってねぇよ!!」
オレは慌てて否定した。
富岡は驚いたように目を見開く。
「え…??いってないの…??おまえら、たしかもうすぐ1年になるんじゃ…」
そ、そんなに驚かれることか…??
「そうだよ、悪いか?そういうおまえはどうなんだよ?」
「オレはもういってるぞ?」
富岡はさらっと言った。
…あれ?
こいつらって付き合い始めて結構短くないか…??
まぁ…
それは人の勝手だと思うけど…
「だって美空がうるさいから…オレはもうちょっと大事にしたかったんだけどなー」
富岡はそう言ってまたため息をついた。
「…まぁ、オレ達のことはいいや。じゃぁさ、いくらなんでもキスはしたよな??」
「まぁ…な」
1回しかしてねぇけど。
しかもかなり短い感じの。
で、でも一応したことはした!…あれってキスになってるかわかんねぇけど…
「それってどんな感じの?深い感じ??」
富岡は興味津々の顔で聞いてくる。
な、なんでそこまで聞きたいんだよ!?
「そ、その…触れる感じ??」
…でも思わず答えてしまうオレもオレだな……
「触れる感じって…どんな感じだよ?」
「どんな感じって…一瞬?」
富岡は目を見開いて、はぁと大きなため息をついた。
「おまえ…全然ダメなんだな」
「なっ!ダメってなんだよ!?」
別にそういうことしなくても、好きってだけでいいじゃねぇか!!
「全然ダメダメだ。こりゃ詩織ちゃんも不満たまってるだろうな…」
ふ、不満…!?
そ、そうなのか…!?
「詩織ちゃんも純情だから何も言わないけど…でもそのうちおまえ、ふられるぞ??」
な…
ふられる…!?
ショックをうけて、頭の中でゴーンと鐘が鳴り響いた。
「ど、どうすりゃいいんだよ…??」
「そうだな…オレもよくわからないけど…とりあえずもう一回キスしてみたら?今度は深い感じで」
ふ、深い感じ??
「それってどういう感じだよ…??」
「んー…そうだな…」
それからオレは2時間ほど、富岡にいろんなことを話された。
……で、なんでオレはこんなに素直に富岡の話を聞いてるんだろう…??
そして月曜。
「おはようございます!響くん!」
いつものように詩織が笑顔でオレにあいさつする。
「ああ、おはよう」
オレもあいさつをかえして、あらためて詩織を見た。
やっぱり…
富岡が言うように不満がたまってるのか??
そうは見えねぇけど…
「あ、あの!滝沢クン!」
不意に数人の女子に声をかけられた。
ん…??
オレがそっちを見ると、1人の女子がオレに小さな袋を差し出した。
「これ、受け取ってください…!!」
え…??
なんでいきなり??
そう思い、ふと思い出す。
ああ、そういえば今日ってバレンタイデーだったな。
「えっと…悪いけど、オレ甘い物嫌いだから」
オレはとりあえずそう言って断った。
その前に詩織がいるまえで受け取れねぇし。
「え…?で、でも…!!」
女子達はショックをうけたようにおろおろとしだした。
んー…
なんか言い方まずかったかな??
まぁ、いいか。
それより…
オレは横目で詩織を見た。
…なんでこいつまでショック受けた感じの顔してんだろ…??
そして昼休み。
オレはいつものように詩織と屋上に行った。
そして昼食を食べようとしたとき。
「あ、あの!わ、私もチョコ作ってきたんですけど!」
詩織が突然そう言って、オレにチョコを差し出した。
「えっと…受け取って、いただけますか…??」
??
受け取ってくれるかって…
そんなの受け取るに決まってるだろ??
不思議に思い、そしてふと気がついた。
ああ、そうか。
さっきオレが甘い物嫌いって言ったこと、気にしてるのか。
オレは詩織に微笑みかけて、チョコを受け取った。
「ありがとう」
別に…
甘い物嫌いだけど、詩織からもらえるものならうれしいし…
気にする必要なんてないのにな。
「あの、良かったら今食べてみてください」
詩織はおずおずと言った。
「ああ」
オレは袋の中から一粒チョコを取り出した。
小さなハート型のチョコ。
オレのために作ってくれたのか…
なんかうれしいな。
そう思いながら食べてみる。
「うん、うまいよ…ちょっと甘いけどな」
オレはそう言って詩織に微笑みかけた。
ちょっとというか、だいぶ甘いけどな……
詩織はなぜか肩を落として、はぁと大きなため息をついた。
「…??なんだよ、ため息なんかついて…」
オレ、うまいって言っただけなんだけど…
それともちょっと甘いって言ったことがダメだったのか??
「いえ…別にたいしたことではないのですが……そのチョコに、料理酒を入れてみたんです」
「料理酒??」
詩織はこくっとうなずいた。
「笹川サンが、滝沢クンも酔ったらおもしろいことになるかもよ?って言ってましたから…」
酔う…??
おもしろいこと…??
オレは土曜日に富岡に言われたことを思い出した。
お、おもしろいことって…
『こりゃ詩織ちゃんも不満たまってるだろうな…』
そ、そうなのか…??
詩織もそういうこと、して欲しいのか…??
…………
「響くん?どうしたんですか??」
詩織はきょとんとした顔でオレを見た。
「おまえもちょっとこれ食べろよ」
オレは小さな声で言って、詩織からもらった袋を差し出す。
「??」
詩織は不思議そうな顔をしながらも袋から一粒チョコを取り出して口に運んだ。
……すげぇ恥ずかしいけど…
詩織が望んでるならやるしかねぇよな……
オレは軽く息を吸って、詩織に口付けた。
「んっ!」
詩織は驚いたように目を見開く。
オレは詩織のあいた口に舌をいれて、詩織の口の中のチョコをからめとった。
甘い味と、熱が口の中に広がる。
自分がしていることが恥ずかしくて、顔が燃えるように熱くなった。
だけど、心地よくなってきて、唇を離して角度を変えてもう一度キスする。
そして今度は微妙に残ったチョコをからめとった。
全部を食べ終えて、唇を離す。
「響、くん…??」
詩織が真っ赤な顔でオレを見た。
やばい…
かなり恥ずかしい…
まともに詩織が見れなくて、オレは目をそらした。
「ホントにこのチョコ…甘いな…」
照れ隠しにそう言うと、詩織はくすっと笑った。
「ずるいですよ。私にも食べさせてください」
詩織はそう言うと、チョコを一粒オレの口に運んだ。
そして今度は詩織からキスをする。
詩織の舌がオレの口の中のチョコをからめとった。
驚いて固まってしまい、されるがままになる。
詩織はオレの口の中のチョコをすべて食べ終え、唇を離した。
そして詩織は顔を真っ赤にさせてうつむいた。
オレも恥ずかしくなってそっぽを向く。
びっくりした…
まさか詩織からされるとは思わなかった…
………
オレ、甘い物嫌いだけど………
たまには、甘い物もいいかもしれない…
オレはそう思い、ふっと笑った。
大河の話をおとなしく聞いてしまう響。
大河はこれからも響のアドバイザーみたいな感じでよくでてくると思います。
響って友達少ないですからね(*_*;