☆22話 風邪☆詩織side
新学期が始まり、1か月くらいがたった今日。
私はぼやーっと窓の外を見ていた。
……退屈です。
どうしてですかって?
それはですね…
響くんが学校にきていないからですよー…
響くん、いったいどうしたんでしょうか…??
うーー…
心配ですぅ……
さっきメールしてみたのですが、何の返事もありませんし…
もしかしたら何か大変なことにまきこまれてしまったのかも…!!
ダメです!
私、こんなところでぼーっとしている場合じゃありません!
…でも、やっぱり学校を途中で抜け出すというのは私にはとてもできないので…
放課後、響くんのうちに行ってみましょうか…
そして放課後。
私は響くんの家まで行ってみた。
迷惑になったらどうしましょう…
そう思いながらも、インターホンを押す。
『はい』
インターホンから響くんの声が聞こえた。
少し安心して、ほっと息をつく。
「あっ、あの…望月ですけど…」
『望月…??』
突然プツッと音がして、インターホンが切れた。
ドアがガチャリと音を立てて開く。
そして中から栗色の髪の、響くんに良く似た男の子がでてきた。
へっ…??
えっと…
どなたでしょうか…??
男の子はつかつかと私に歩み寄ってきて、じっと私の顔を見つめた。
「あんたが兄ちゃんのカノジョ?」
兄ちゃん…??
ということは、この男の子は響くんの弟サンでしょうか…??
それにしても…
顔、近いです…
男の子はまじまじと私を見て、突然にっと笑った。
「ふーん。あんた、可愛いね」
「へっ…??」
響くんとほとんど同じ声。
そして同じ瞳に見つめられて、胸が高鳴る。
男の子は私の耳元に口を近づけて囁いた。
「ねぇ望月サン、兄ちゃんなんか止めてオレの女になりなよ」
…はい?
なんですか?
とても響くんの弟とは思えません…
でも…
響くんと同じ声だから、ドキドキしてしまう…
「あ、あの…私…」
「…なーんて!冗談だよ!」
男の子は笑いながら私から離れた。
「兄ちゃんに会いにきたんだろ?入りなよ!」
「は、はぁ…お邪魔します…」
私は呆然としながらも、その男の子に連れられて玄関をくぐった。
そして響くんの部屋に行く。
「兄ちゃん!望月サンがきたぞ!」
私が部屋に入ると、ベッドで寝ていたらしい響くんが驚いたように上半身をおこした。
「詩織!?なんで…」
「そ、その…先生からプリントを預かってきましたので…」
本当は響くんが心配できただけなんですけど…
一応先生からプリントは預かっていますので嘘じゃありませんよ?
「それじゃ望月サン!オレ隣の部屋にいるから帰るときまた言ってよ!オレ、送るからさ!」
男の子はそう言って部屋を出て言った。
私は部屋に取り残されて、響くんと二人きりになる。
「えっと…すごく性格の違う弟サンですね…」
「ああ、一樹っていうんだ…あいつは女好きだから気つけろよ」
響くんはそう言うとゴホゴホと咳をした。
「あっ!無理しないで寝ていてください!」
「ん…いや、大丈夫だよ」
そう言いつつも響くんの目はぼんやりとしてて、頬が赤くなっている。
響くん、今日風邪をひいていて学校を休んでいたんですね…
なんとなく辛そうです…
「大丈夫じゃないです!寝ていてください!」
「じゃ…悪いけどそうする…」
響くんは弱々しい声でそう言うとベッドに横になった。
私はそのそばにひざまずく。
そして響くんの額を触ってみた。
…!!
すごく熱いです…!
「響くん…大丈夫なんですか!?すごい熱ですよ!?」
「大丈夫だって…大げさだな」
響くんはそう言って私に小さく笑いかけた。
いや、全然大丈夫なんかじゃないです!
というか、響くんのお母様は響くんがこんななのにほおっておいていいんですか!?
「あの…失礼ですが、お母様は…??」
「ああ、今母親も父親も出張してていないから」
「え?出張ですか!?」
それじゃぁ…
今、この家には響くんと一樹くんの2人だけってことですか!?
そんなの…
ダメですよ…
響くんが死んじゃいます…
……よし。
「響くん、今日私、泊ってもいいですか?」
響くんは少し目を見開いた。
「はぁ…??何言ってんだよ…無理だよ。オレ多分起きられないし、つまんないだけだぞ?」
「いいんです!今日は私が響くんの看病をしてあげます!決めました!」
こんな響くんをほおっておくわけにはいきません!
私はとりあえずお母さんに今日は友達の家に泊まらせていただくと連絡をした。
「おい…おまえ、勝手に…」
「いいから寝ていてください!」
私がぴしゃりと言うと、響くんは顔をしかめながらも反論しようとはしなかった。
「一樹クン、ご飯ができましたよ」
「お!ありがとうございます!」
一樹クンはそう言ってにっと笑った。
そして私が作った料理をおいしそうに食べてくれる。
「うまいですよ!ホント、今日望月サンが泊ってくれてよかったです!もう、兄ちゃんも風邪でダウンしてるから、オレ1人でまずい飯食わないといけないとこでした」
「そうですか?そう言っていただけるとうれしいです」
私が一樹クンに笑いかけると、一樹クンはじっと私を見つめた。
「ホント…望月サンって兄ちゃんにはもったいないですよね」
「へっ??」
「だって…望月サンって可愛いし、性格もいいし…完璧じゃないですか」
真剣な声で言われて、思わず顔が熱くなる。
「そ、そんな…!!あっ!私響くんにおかゆ持っていきます!」
私は逃げるように作っておいたおかゆを持って2階にあがった。
びっくりしました…
本当に響くんと一樹クンは全然性格が違いますね…
兄弟なのにどうしてあんなにも違いがあるんでしょうか…??
私はため息をついて響くんの部屋に入った。
「響くん、大丈夫ですか?」
返事は帰ってこない。
心配になって近づいてみると、変わりに小さな寝息が聞こえてきた。
なんだ…
眠っていただけですか…
ほっとして眠っている響くんの額に触れる。
やっぱりまだ熱いです…
眠っている顔も心なしか辛そうに見えますし…
「ん……」
響くんは気だるそうに瞼をあけた。
「詩織…??」
響くんの瞳が私をとらえる。
そして手をぴたりと私の頬に触れさせた。
「気持ちいい…」
響くんはぼんやりとそう言った。
熱っぽい瞳に、心臓の鼓動が速くなる。
「あ、あの!おかゆ持ってきたんですけど!!」
私は慌ててそう言った。
「おかゆ…??ああ…」
だんだんと目が覚めてきたようで、響くんは上半身をおこした。
「悪いな。ありがとう」
「いえ、それじゃ口あけてください」
私がおかゆをスプーンにすくってそう言うと、響くんは少し目を見開いて頬を赤く染めた。
「いや、オレ自分で食べれるから…」
「ダメですよ!こぼしちゃったらどうするんですか!?弱ってるときくらい甘えてください!」
私がそう言うと響くんはなんとも言えないような顔をして、おとなしく口をあけた。
それがなんとなく可愛くて、私はくすっと笑ってスプーンを響くんの口に運んだ。
「どうですか??」
「ん、うまい…でも、やっぱ自分で食べる」
響くんはそう言って私からおかゆとスプーンをとりあげた。
むーーー……
なんだかお母さんみたいで楽しかったんですけど…
…まぁ、こんなときは1人でいる方が落ち着きますよね。
私がいても気を使わせてしまうだけかもしれませんし。
私はそう思い、立ち上がった。
「それじゃぁ、響くんが食べ終わったころにまたきますね」
「え…??あ、ああ…」
さて、そろそろ一樹クンも食べ終えているところでしょうし…
お片づけでもしましょうか。
そう思い響くんから離れようとしたとき…
ガシッ
不意に腕を掴まれた。
「…??響くん?」
驚いて振り返ると、響くんは自分でも驚いたように目を少し見開いていた。
そして慌てたように私を掴んでいた手を離す。
「あ…いや、なんでもない」
………
私はため息をついて響くんに笑いかけた。
「大丈夫ですよ。そばにいますから」
私は響くんのそばに座りこんだ。
やっぱり風邪の時というのは心細くなるものなんですね。
響くんもいて欲しいならはっきりと言えばいいのに…
…まぁ、はっきりと言わないのが響くんなんですけど。
そう思い、私はまたくすりと笑った。
…でも、こうして響くんが私を頼ってくれていることが、すごくうれしいです…
響くんはおかゆを食べ終えると、またベッドに横になった。
「ごめん…オレ、また寝るけど…」
「ええ、いいですよ」
私はそう言って響くんの手を握った。
響くんは安心したように目を閉じる。
それを見て、小さく微笑む。
ゆっくり眠ってくださいね、響くん。
響くんがいないと私、学校に行ってもつまらないですから…
「おい、詩織。起きろよ」
突然響くんの声がして、私は目をあけた。
「ん…??」
視界に、制服姿の響くんが映る。
あれ…??
どうして響くんがいるんですかぁ…??
私は目をこすりながら上半身をおこした。
たしか…
昨日響くんの看病してて…
って…
あれ?
どうして私が響くんのベッドで寝ているんですか??
というか…
「響くん、風邪は…??」
「もう治ったよ。それよりはやく準備しろ。遅刻するぞ?」
へ…??
学校…??
学校……
だんだんと目が覚めてきた。
…そうです!
私、昨日勢いで泊るとか言ってしまいましたけど…!!
今日は学校があるんでした!
私は飛び起きた。
「じゃ、オレ先下おりてるから」
響くんはにっと私に笑いかけて、部屋をでていった。
私は慌てて制服に着替える。
…あ、そういえば私…
今日の教科の用意とか何も持ってきていませんよ…
今からうちに戻ってもきっと間に合いませんし…
私は落ち込みながら用意を終えて下に降りた。
「望月サン、おはようございます!」
一樹クンは私を見て、にこっと私に笑いかけた。
「あ、おはようございます。一樹くん…」
一樹クンは落ち込んでいる私を見てきょとんとし、そしてふと気がついたように私に鞄を差し出した。
「これ、兄ちゃんが望月サンに渡しとけって言ってましたよ?」
「え…??」
響くんが…??
これって、私の鞄ですよね…??
もしかして…
私は鞄を開いてみた。
予想通り、今日の時間割分の教科書やノートがきっちりと入っている。
もしかして…
私の家まで行ってとってきてくれたんですか…??
うれしくて、私は思わず笑顔になった。
しかも…
それを一樹クンに渡させるところがまた、響くんらしいです。
玄関をでると、家の前で響くんが立っていた。
「詩織、早く行くぞ!」
少し苛立ったような声。
私は声の方にかけよった。
「はい!」
良かった…
今日は響くんが学校にきてくれる。
今日は、楽しい1日になりそうです♪
実はこの話、一樹を登場させるためだけに作りました。
一樹はこれからすごい重要人物になります!
あと、響がいきなり『詩織』ってよんじゃってますが、初詣の時から結構時間たっている設定なんで、もう慣れたってことで…