★21話 初詣★響side
「あけましておめでとうございます!響くん!」
望月がオレににっこりと笑いかけた。
「ああ、おめでとう」
オレも笑顔でそう返す。
今日は元旦。
今から望月と初詣に行く。
なぜか望月がにこにこと笑ってオレの顔をじっと見てきた。
……??
オレの顔になんかついてるのか…??
「…なんだよ??」
怪訝に思いそう言うと、望月はにぱっと笑った。
「いえ、なんでもないですよ!さぁ、行きましょう!」
「??」
なら、なんでそんなに見るんだよ?
あとで一応鏡見とくか…
そう思っているうちに、望月が歩き始めた。
慌ててオレも望月の隣に並ぶ。
それにしても…
オレはちらりと隣にいる望月を見た。
年があけても、まだ望月はオレの隣にいる。
オレはこうして望月と共に新しい年を迎えている。
それってすげぇ奇跡なのかもな…
でもなんとなく不安になる。
来年も同じように望月の隣にオレはいるのだろうか?
オレの気持ちは変わってないのだろうか?
そして望月の気持ちが他の奴へと移っていないだろうか?
この奇跡は、いつまで続くんだろうか…??
「響くん、今年もよろしくお願いしますね!」
不意に望月がオレにそう言って笑いかけた。
可愛らしい、望月の笑顔。
「ん、ああ」
オレも自然と笑顔で返した。
…まぁ、せっかく年があけたんだ。
そんなことうじうじ悩んでても仕方がないだろ?
どうせなら、今望月といられる時間を楽しもう。
そう思い、望月とたわいのない話をしているうちに目的地の神社についた。
「人多いな…」
あまりの人の多さに驚き、オレはぽつりとそう漏らした。
まぁ、元旦だからな。
オレ達みたいな奴は多いとは思うけど…
でも、この行列は長すぎるだろ…
長すぎて本堂が見えねぇ…
「なんだかはぐれちゃいそうですね」
望月が苦笑いしてそう言った。
たしかに…
これは下手をすればはぐれそうだよな…
…………
オレは少し考えてから、望月に手を差し出した。
「なんですか??」
望月はきょとんとして首をかしげる。
「…手」
うまく言えずに、一言ぼそりとつぶやく。
「えっ?」
けど望月は理解できなかったようで、きょとんとして聞きかえしてきた。
ちょっとは察しろよ……!
頬が熱くなっていくのが分かった。
なんとなく恥ずかしくて、オレは望月を見ずに言った。
「はぐれたらいけないだろ?」
横目で、望月の様子をうかがってみる。
望月は少し目を見開き、ほんのりと頬を赤く染めた。
「…はい!」
そしてはにかんだ笑顔でそう言うと、オレの手をとった。
望月の小さな手がオレの手をぎゅっと握りしめる。
望月って本当に子供みたいだよな…
でもそんなところも愛おしくてたまらない。
どちらも何も話さず、沈黙が続いたが、オレにはそれさえ心地よく思えた。
そんな時、
「滝沢クン!詩織ちゃん!」
突然ぽんっと肩を叩かれた。
驚いて、望月と同時に後ろを振り返る。
「さ、笹川サン!?」
望月が驚いたような声をあげた。
そこにいたのは、笹川と富岡。
うわ…
一番会いたくないやつらだ…
「なんでおまえらがいるんだよ?」
オレは語勢を強くしてそう言った。
無意識に、望月の手を強く握る。
きゅっと、望月もオレの手を握り締める。
オレ達は一度、こいつらのせいでさんざんな目に会ったんだ。
また何をしようとするかわからねぇ…
もしかしたらここで会ったのも偶然じゃないかもしれねぇし…
そんな風にオレ達が警戒していると、笹川はくすっと笑って言った。
「大丈夫だよ、詩織ちゃん!私もう、滝沢クンのこと好きなわけじゃないし!」
そして笹川は富岡の腕に抱きついた。
「私、今大河と付き合ってるの!」
「…へ?」
望月があっけにとられたようにぽかんと口をあけた。
オレも思わず目を見開く。
そ、そんな展開なのか…??
まぁその方がオレ達的にはいいけど…
オレは少し安心して、ほっと息をついた。
「あのときはいろいろとごめんな?なんか詩織ちゃんに嫌なこといっぱいして…」
富岡が申し訳なさそうな顔で望月に謝る。
…オレには謝らないのか?
それにそんな謝り方で望月が許すわけないだろ?
謝るんだったらもっと頭下げるとかいろいろ方法があるだろ「いいですよ。あまり気にしていませんから」
望月はそう言ってにっこりと富岡に笑いかけた。
……はっ?
そんなに簡単に許せるものなのか…??
あいつはおまえにキスしたりとかしたんだぞ?
それを気にしてないからって…!!
………まぁ、望月が許すっていってるなら、それにオレが反対するのもだよな…
オレはなんとかそう苛立ちをおさえた。
「…それじゃ、今年もよろしくね♪ほら、大河。いこ!」
笹川はオレ達に手を振ると、富岡の腕をひっぱった。
「分かったからあんま引っ張るなよ」
そう言って苦笑いする富岡。
その目はまっすぐに笹川だけを見ている。
……あんな感じなら、もう望月がなんかされそうになるとかないよな。
まぁこれで安心ってことだ。
「望月、オレ達も行こう」
「あ、そうですね!」
オレは望月の手を引いて、行列の最後尾に並んだ。
そこから本堂に入るまで40分くらいの時間がかかった。
やっと賽銭箱の前にたどりつき、なんとか賽銭を投げいれる。
オレが手を合わせた時、隣で望月が願い事をつぶやく声が聞こえた。
「今年こそは響くんに名前で呼んでもらえますように…」
思わず心臓が強く鳴る。
な、なんだよ?
その願い事…
そんなの別に神様に頼むほどのものでもないだろ…
でもオレのことだったことが少しうれしくて、思わず頬が緩む。
「…おまえ、願い事って声に出したら叶わないんだぞ?」
オレは小さく笑ってそう言った。
「へっ!?そうなんですか!?」
望月は本気で驚いて、目を大きく見開いた。
「あと願いは一個までだ。よくばったら叶わないぞ?」
たしか望月が入れたのって10円玉だよな?
そんなんでたくさんの願いを叶えてもらおうなんてずうずうしいだろ…
ちなみにオレもいれたのは10円だけだから願いは一つだけにする。
オレは改めて、仏像に向かって手を合わせた。
……今年も奇跡が続きますように……
そして来年もこうして、望月が隣にいて欲しい。
神頼みってのはどうかと思うが、少しでも頼れるものには頼りたい。
…やっぱ10円じゃたりないか??
オレは財布から50円を取り出して、賽銭箱に投げいれた。
オレ達はとりあえず、参拝の行列をぬけて脇にでた。
そして両脇に出店が並ぶ道を並んで歩く。
「ちゃんと願いは一個だけにしたか?」
オレがそう問いかけると、望月は強くうなずいた。
「はい!ちゃんと一つだけにしましたよ!」
「何にしたんだ?」
「ええと……『今年も、ずっと響くんと一緒にいられますように』ってお願いしました!」
思わず目を見開く。
顔に熱が昇った。
な、なんでそんなのをオレのまえでさらっと言えるんだよ…??
「…ふーん」
「響くんはなんてお願いしたんですか?」
「さぁ」
おまえと同じようなことだよ…とは、オレにはとても言えない。
代わりにオレはにっと笑って言った。
「願い事っていうのは人に言っても叶わないんだぞ?」
望月が大きく目を見開いた。
「私のお願い…叶わないってことじゃないですか!」
まぁ…
そういうことになるけど…
「…まぁ、そんな願い事ならわざわざ神様にお願いしなくてもいいだろ」
「へっ…??」
望月がきょとんとオレを見た。
だって望月の願いはオレとずっと一緒にいたいってことだろ??
それなら…
「そんなのだったら、オレが叶えられるだろ?」
顔が熱くなり、オレは望月から視線をそらして言った。
そんな願い、望月の気持ちが変わらないかぎり、絶対に叶えられる。
オレはオレの気持ちが変わらないと断言できる。
「で、でも!もし、人に言ってしまったせいで叶わなかったら…」
望月は落ち込んだような顔をしてうつむいた。
な、なんでそんな後ろ向きなんだよ…!!
……どうすれば望月を安心させられるんだ?
そう思った時、不意に望月が声にだして言った願いを思い出した。
『今年こそは響くんに名前で呼んでもらえますように…』
…そうだ。
一つ、願いを叶えてやれば…
オレはぽんっと望月の頭を軽く叩いた。
「…大丈夫だよ。………詩織」
ほんの小さな声で、望月の名前を呼んでみた。
もしかしたら聞こえなかったかもしれない…
だが、幸か不幸か、望月にはしっかりと聞こえていたらしい。
「響くん…今、私の名前…」
カァァァ…
顔が燃えるように熱くなる。
「ほら、一個叶えただろ!?」
オレはそれを隠すように、わざと怒ったような声で言った。
「…はい!」
望月は頬を赤く染めて、にっこりとオレに笑いかけた。
そんな望月を見て、あらためて思った。
絶対に、オレはおまえの願いを叶えられる。
だってオレの気持ちは変わらないのだから。
でも、オレはまだ知らなかったんだ。
たとえ、オレと望月の気持ちが変わらなくても…
『ずっと一緒にいる』
そんな簡単なことができなくなることもあるということを。
でもそのことにオレが気付くのは、まだ先のこと。
何も知らないオレは、望月といられる幸せな時間を、ただなんとなく過ごしていた。
美空と大河がでてきていますけど…
この2人はこれからもなんとなくでてくると思います!
そして後3、4話くらいは幸せな感じの話です(^^♪




