☆★ホントの気持ち★☆美空side
富岡大河。
私の幼馴染。
5歳の時に出会ってから、私達は本当に仲が良い親友だった。
私は大河が大好きだった。
…その気持ちが歪んでしまったのはいつからだったんだろう??
はっきりとは分からない。
だけど、
それはきっと小学校の高学年になって、大河が女の子達に好かれはじめてからのこと。
かっこよくて、優しい大河。
そんな大河を女の子達がほおっておくわけない。
だけど大河のそばにはいつも私がいたから、大河の友達はずっと私だけだった。
私にも、大河しか友達はいなかった。
さびしいと思う??
でも私はそれでよかったの。
大河さえいれば、私は全然さびしくなんかなかった。
だけど、中学に入った時。
それまでおとなしくしていた女の子達が急に積極的になりだした。
みんな隙をついては大河と話そうとした。
みんな、私から親友を奪おうとした。
でも、絶対に私から大河を奪うことなんてできない。
だって私は大河の親友なんだもの。
大河はいつも、私と話しているときが一番楽しそう。
あなた達はきっとただの他人。
友達ですら、ない。
だって、大河には私以外に友達はいらないから。
どれだけ頑張ったって、あなた達は大河の親友の私には遠くおよばないの。
ずっとずっと、そう思って自分を安心させていた。
それなのに…
『富岡クン、付き合ってください!』
1人の女の子が、大河に告白した。
もちろん、大河は断ると思っていた。
だけど、違った。
『…うん。良いよ』
大河は、その子の告白をオーケーした。
少しだけショックだったけど、別にそれほどショックな出来事じゃなかった。
だって『カノジョ』より『親友』の方がずっとずっと大切なものだって思ってたから。
でも、大河はその日からあまり私の相手をしてくれなくなった。
いつも、『カノジョ』と一緒にいた。
その女の子は、まんまと私から大河を奪い去っていた。
私のたった一人の友達は、いつの間にか私だけのものじゃなくなっていた。
そんな毎日は、私にとって苦痛でしかなかった。
いつでも私の隣にいた大河は、今は違う女の子の隣。
私はそれを、ただ見ているだけ。
そんなの、とてもたえられなかった。
そして、ある日の放課後。
私はカノジョと帰ろうとする大河を呼びとめた。
『大河!待って!』
『何?オレ、早く行かないと…!』
少しうっとうしそうな大河の声。
そんなに、早くカノジョのところに行きたいの?
シンユウは、もういらないノ…??
嫌だ…
嫌だいやだイヤだイヤダ!!
私は必死になって大河にすがりついた。
『なんで…なんで最近あの子とばっかりいるの…??』
ドウシテワタシは、ヒトリでイナクチャいけないノ??
『美空…??』
『大河は私だけの友達でしょ…??どうして他の子と話したりするの?』
ヤメテ…
他の子とナンか話さないデ!!
カノジョなんかいらないデショ??
タイガにはワタシがいるんダカラ…
『やめてよ…大河は私だけの友達なの…!!ねぇ!そうでしょ!?』
勝手に他のトコなんていっちゃヤだぁ…!!!
タイガはワタシだけのモノなんだかラ!!!
『お願い…お願い…1人に、しないで…??』
ヒトリは…イヤ。
ヒトリはイヤなの…
大河の手がそっと私の頭に触れた。
『うん…。ごめん、な?』
優しい大河の声。
優しい優しい大河。
…ごめん、って、ホントに思ってるの??
心の底から、そう思ってるの??
…ちゃんと、そう思ってるなら…
もう、他の誰のものにもなっちゃだめだよ?
大河は私だけのもの…
『…ねぇ、大河。彼女と、別れて?』
そうお願いすると、大河はすぐにカノジョと別れてくれた。
これで、大河は本当に私だけのもの。
大河の体も心も、全部私のモノ……
あなたに私以外の人のことを考える心は必要ないの。
大河はただ、私の言うことだけを聞いてればいい…
私は、このときから狂っていた。
大河を自分だけのものにするために、私は大河にも、他の人にも、ひどいことをたくさんした。
大河は本当に私の言うことだけを聞いてくれるの?
そう思って誰とも口をきかないでと言ってみた。
すると大河はそのとおりに、私以外の人とは口をきかなくなった。
大河のことを好きだって言っている女の子の噂を聞いたら、すぐに大河にその子をいじめさせた。
まわりの人達を操るのは簡単。
男の子は、私がちょっとお願いするだけで、すぐに言いなりになる。
女の子は、大河にお願いさせればいい。
いつの間にか、私はその中学校の頂点みたいな存在になっていた。
初めは楽しかった。
私の隣にはいつも大河がいる。
そして誰も大河に手をだそうとはしない。
みんな私を恐れている。
だけど私には逆らえないの。
私には、腕力みたいな、純粋な力はまったくない。
でも、私にはルックスがある。
それは純粋な力よりも、ずっとずっと大きな力。
私がこの中学校の頂点。
みんなが自分よりも下の人間で、それを見下す生活。
だけど、だんだんそんな生活にも飽きてきた。
新しい刺激が欲しい。
どんなのがいいだろう??
そう思ったときに、ふと仲の好さそうなカップルを見つけた。
…へぇー。結構、カレシの方かっこいいな。
…私のモノにできるかな?
自信はあった。
だって、所詮恋なんて脆いもの。
あの男の子だって、すぐに私のものになるに違いない。
そう思い、私はその男の子にアピールしてみた。
だけどその男の子は本当にカノジョのことが大切だったみたいで、全然私のことなんか見てくれなかった。
どうして?
こんなに可愛い私にアピールされてるのに、どうして私を見てくれないの?
恋なんてちょっとつつけば壊れるものなんじゃないの?
私はそう信じて、どうやってもその男の子を奪おうと思った。
ただ、その子が欲しかったから。
でも、今思うと違うのかもしれない。
きっと、私は恋よりも友情の方が大きな気持ちだってことを証明したかったんだ。
どんなに想っていても、恋なんてすぐに壊れてしまうと証明したかったんだ。
『ねぇ、大河。あの子と、して?』
私はその男の子のカノジョを指差して言った。
『え…?』
少し目を見開く大河。
そりゃ驚くよね。
でも、言うこと、聞いてくれるでしょ?
大河に拒否権はないんだよ?
だって大河の体は、私のモノなんだもん。
『私、あの子の彼氏がどうしても欲しいの。だから……ダメ??』
上目づかいでそう懇願してみると、少しの沈黙のあと大河がうなずいた。
『…分かった』
大河は本当に言ったとおりのことをしてくれたみたいで…
気がついたら、あんなに仲の良かったカップルは別れていた。
そしてずっと欲しかった男の子は私のものになった。
だけど、なぜか満たされない。
なぜか胸がしめつけられる。
どうしてだろう…??
……心の奥では、分かっていた。
大河が、他の女の子に触れた。
それが、たまらなく嫌だったんだ…
本当に勝手な私。
私が命令したのに…
悲しいって思う私は本当に勝手。
でもバカな私は、そんな悲しいって気持ちに気が付いてなかったんだ。
だから、物足りない心を埋めようと、何度も大河に同じようなお願いをした。
そのたびに手に入る男の子。
だけど、私の心は埋まらない。
だって私が本当に欲しかったのは大河なんだから。
大河は、私だけのものなのに、私だけのものじゃない。
私は大河のすべてを手に入れてなかった。
そう、
私がまだ手に入れていないもの…
それは、大河の気持ち。
私がお願いしても、絶対に手に入らない、本当の気持ち。
でも、そんな簡単なことにも私は気が付いていなかった。
ただ、埋まらない心を埋めようと必死だった。
そしていつのまにか私達は高校生になっていて…
大河と私は別の高校に入った。
それでも私と大河は毎日のように会っていた。
そして新しい高校でも、私は自分の心の穴を埋めてくれるような人を探した。
しばらくして、見つけた新しい男の子。
滝沢響クン。
すっごくかっこいい男の子。
でも、滝沢クンにはカノジョがいた。
望月詩織ちゃん。
こっちも、すごく可愛い女の子。
2人は誰が見てもすっごく仲がよかった。
滝沢クンが詩織ちゃんにだけ見せる、優しい表情。
それを、詩織ちゃんから奪いたくなった。
そして、滝沢クンを自分のモノにしたら、私の心の穴は埋まるかもしれないと思った。
文化祭のとき。
私は滝沢クンに告白してみた。
だけど、本当にきっぱりと断られた。
…まぁ、わかってたけど。
だって簡単に手にはいってもおもしろくない。
私は大河に詩織ちゃんを滝沢クンからとるようにお願いしてみた。
大河を使えば、絶対に滝沢クンは私のモノになる。
今までもずっとそうだったから。
クリスマス前のある日。
私は滝沢クンとでかけた。
大河も詩織ちゃんとでかけることになっていた。
あらかじめ2人で打ち合わせていたこと。
滝沢クンと詩織ちゃんをはち合わせさせる。
きっと、滝沢クンが他の男の子と一緒にいる詩織ちゃんを見れば、2人の間に亀裂が入ると思った。
作戦は大成功。
滝沢クンは詩織ちゃんと大河がキスしてるところを見て、すっごくショックを受けたみたいだった。
これで、2人の間に亀裂が入るはず。
作戦は成功したんだ。
うれしいはずなのに…
私の胸はしめつけられた。
私、大河に詩織ちゃんとキスしろなんて頼んでないのに…
初めて、目の前で大河が他の女の子に触れているところを見た。
悲しいという気持ち。
だけど私はその気持ちを振り払った。
そして変わりにうれしいという気持ちを作る。
そう、私は今うれしいはず。
だって、もうすぐ滝沢クンが私のモノになるんだから。
もうすぐ、この心の穴は埋まる。
そしてクリスマスの日。
大河からうまく詩織ちゃんを廃学校に連れていけたと連絡が入った。
ってことは…
滝沢クンは今、家に帰る途中だってことだよね?
滝沢クンの家の近くに行ってみると、予想どおり下を向いて歩いている滝沢クンを見つけた。
待ち合わせの場所に詩織ちゃんがこなかったことに落ち込んでいるらしい滝沢クン。
でも、それは当然。
だって今詩織ちゃんは大河といるんだから。
きっと、今頃は大河と…
なぜか、胸がしめつけられる。
私はそんな気持ちを振り払い、滝沢クンに必死でアピールしてみた。
「もしかしたら、詩織ちゃんって大河のことが好きなんじゃないの?」
そう言ってみると、滝沢クンの態度が変わった。
私はそんな滝沢クンの頬にそっと触れた。
「落ち込まないで?大丈夫。詩織ちゃんはもう、滝沢クンのことが好きじゃないかもしれないけど…私は…滝沢クンのことが好きだよ??」
滝沢クンが少し目を見開く。
もうすぐ…
もうすぐだ。
もうすぐ滝沢クンは私のモノになる…
「滝沢クンは…どうしても、詩織ちゃんじゃなきゃダメなの??私じゃ…ダメ?」
私は少し目に涙をためて、上目づかいで滝沢クンを見た。
滝沢クンが、頬に触れた私の手に触れる。
「笹川…」
そして低い声で私の名前を呼んだ。
おちた…!
そう思った時、
プルルルルルル…
急に滝沢クンのケータイが鳴った。
滝沢クンははっとして、すぐにケータイをとる。
「もしもし!?望月!?」
すぐに詩織ちゃんの名前を呼ぶ。
…詩織ちゃん?
おかしいな。
詩織ちゃんは今、大河と…
滝沢クンは少し目を見開いた。
「おまえ…富岡…??なんでおまえが…」
思わず目を見開く。
…大河??
滝沢クンは、今大河と話してるの…!?
「はぁ!?何で…」
電話が終わったようで、滝沢クンは呆然とケータイを見つめた。
「滝沢クン?どうしたの??」
そう滝沢クンに問いかけてみる。
大河は何の用事で滝沢クンに電話したの?
今ごろ、詩織ちゃんとしてるはずなんじゃないの…??
「…悪い。オレはやっぱり望月以外、好きになんてなれない」
滝沢クンはそうはっきりと言った。
そして走って私の横を通りすぎていく。
私は呆然とその場に立ち尽くした。
…どうして?
滝沢クンはそんなに詩織ちゃんのことが好きなの?
詩織ちゃんもたしかに可愛いけど…
それでも、私の方が……!!
私のどこがいけないの?
どうして私のものになってくれないの??
恋なんて脆いものなんじゃなかったの…!?
ねぇ…
どうして…??
その日の夜、私は大河を家に呼びだした。
すぐに、家のインターホンが鳴る。
私は大河を家に入れて、自分の部屋に連れ込んだ。
「美空…??こんな夜に、オレなんか家にいれてもいいの?」
少し不安気にそう聞いてくる大河。
私はそんな大河に向かってにっこりとほほ笑んだ。
「いいの。今日はお父さんもお母さんもいないから」
私は大河に歩み寄った。
「ねぇ、今日滝沢クンと電話で何話してたの?」
ビクッ。
大河の体が少し震える。
「もう少しで滝沢クンは私のモノになったのに…大河のせいでダメになっちゃった」
「…ご、ごめん」
私は大河の頬に手を触れた。
「いいの。…もう、滝沢クンはいいや。だから…」
上目づかいで、じっと大河を見る。
「今日、私として?」
大河の目が少し見開かれた。
こんなお願い初めて。
でも、大河はきっと聞いてくれる。
そんな自信があった。
「……ごめん、それはできない」
だけど、大河はうつむいてそう答えた。
……!!
「…どうして…!?」
どうして…??
どうして私とはできないの…!?
大河は私のことが嫌いだから??
他の子とはできるのに…
そんなに、そんなに私のことが嫌いなの!?
「どうしてよ!大河は私のお願いならなんでも聞くじゃ…!!!」
私の言葉は、途中で遮られた。
……えっ??
唇にやわらかい物が触れていた。
たい…が…??
それは、大河の唇だった。
「ん…っ!」
大河は深く、深く私にキスした。
角度を変えて、何度も、何度も。
心臓がドキドキとして、顔が熱くなる。
自分が自分でなくなりそうで、怖かった。
でも、気持ちよくって夢中になる。
このまま…
大河としたい…
そう思った時、
大河が唇を離した。
そしてじっと私を見つめる。
「オレ、好きなやつは大切にしたいんだ。だから…これで我慢して?」
……!?
私は耳を疑った。
あれ…??
今…
「今…なんて…??」
大河が顔を耳まで赤く染める。
だけどしっかりと私の目を見て言った。
「オレ、中学のときからずっと、美空のことが好きだった」
「……!!」
大河が…
私の、ことを…??
「な、んで…??私、大河にひどいこと…いっぱいしたのに…」
私、大河に無理なお願いいっぱいしたんだよ?
ずっと、大河を利用してたんだよ?
それなのに…
なんで…
大河は苦笑いした。
「確かに。…でも、好きじゃなかったら美空の言うことなんて聞くわけないだろ?」
大河がそっと私の髪に触れる。
「美空を喜ばせたかったんだ…オレ、美空のためなら何でもやれる」
真剣な目。
大河は、本当に私のことが、好きなんだ。
ずっと満たされなかった心が埋まっていくような気がした。
そうだ…
「私も…」
私も…
ずっとずっと前から、大河を求めていた。
いつの間にか、歪んでしまっていた、私の本当の気持ち。
「私も…大河が大好きだよ…!!」
大河は少し目を見開いて、うれしそうに微笑んだ。
そしてぎゅっと私を抱きしめる。
ずっとずっと欲しかった、大河のホントの気持ち。
やっと、手に入れられたよ。
私達はもう、『親友』じゃないよね?
今日から、私は大河の『カノジョ』になるの。
すっごい、すっごいうれしい。
私、今すっごく幸せだよ?大河。
最後がすっごいあっさりとなってしまいました(-_-;)
本当はどっちも報われない感じにしようと思ったんですけど…
やっぱり私は悲しいのよりも幸せな感じの方が好きなんで(^^♪