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純情恋模様  作者: karinko
41/78

☆★不器用な愛し方★☆大河side

『私、笹川美空!よろしくね!』


5歳の時。


そう言ってオレに手を差し出したあいつは、


とても、輝いていた。





美空はオレ達がまだ幼稚園児の頃に、オレの隣に引っ越してきた。


そのころ、友達が少なかったオレにとっての初めての友達。


それからオレ達はどんなときでも一緒だった。


他の友達を作ろうとせず、いつも2人で遊ぶ方法を考えては、笑いあっていた。


オレにとって、美空は親友だと思っていた。


だけど、あることがきっかけで、オレの気持ちは変わった。


…それは、中学1年のころ。


『富岡クン、付き合ってください!』


突然、クラスでも可愛い方の女の子に告白された。


別にその子のことが好きだったってわけじゃなかったけど…


そのときのオレには、付き合うということに対してわずかな興味があった。


『…うん。良いよ』


オレは好奇心に素直に従い、一応オッケーした。


それから、いつも美空といたオレの日常は変わっていた。


いつの間にか、オレは美空よりも、その女の子と一緒にいることが多くなっていた。


でもオレにとってそんな毎日は新鮮で…


美空が1人になっていることになんて、気がつかなかった。


そしてある日。


オレがいつものように、その女の子と一緒に帰ろうとすると、美空に呼びとめられた。


『大河!待って!』


その声が、なぜかあまりにも弱々しく聞こえた。


『何?オレ、早く行かないと…!』


オレが振り返ると、美空は目に涙をいっぱいためながらオレにすがりついた。


『なんで…なんで最近あの子とばっかりいるの…??』


『美空…??』


『大河は私だけの友達でしょ…??どうして他の子と話したりするの?』


美空はぎゅっとオレの制服を強くつかんだ。


『やめてよ…大河は私だけの友達なの…!!ねぇ!そうでしょ!?』


いつもの美空じゃなかった。


普通のやつなら絶対引いてしまうような言動、行動。


美空は完全におかしくなっていた。


そして、オレもおかしかったのかもしれない。


…そんな美空が、ひどく可愛らしく見えた。


必死にオレにすがりつく美空が愛おしく思えた。


『お願い…お願い…1人に、しないで…??』


オレはそっと美空の頭をなでた。


『うん…。ごめん、な?』


その時思った。


美空はオレがいないと何もできない。


美空はオレなしでは生きていけない。


オレはこのもろくて弱い少女をずっと守っていてやりたいと思った。


『…ねぇ、大河。彼女と、別れて?』


その日、すぐにオレは彼女と別れた。


美空の願いは、どんなことでも叶えてやりたいと思った。


そして、そう思ったその日から、オレは美空の親友じゃなくなった。


美空の言うことならどんなことでも聞く、ただの【操り人形】になり下がった。


美空のためならなんでもやった。


美空が誰とも口を聞くなと言ったら、その通りにした。


美空が気に入らないやつをいじめようと言ったら、周りの人間を使って容赦なくいじめた。


周りのバカなやつらはオレ達のルックスに騙されて、オレ達の言いなりになっていた。


そしていつしか、美空の『命令』はエスカレートしていった。


『ねぇ、大河。あの子と、して?』


そう言って美空が指差したのは、美空が好きになった男の彼女。


『え…?』


全然かかわりのない女。


なんでオレがそんなこと…


オレは、美空が好きなのに…


『私、あの子の彼氏がどうしても欲しいの。だから……ダメ??』


上目づかいでそう懇願してくる美空。


当然、美空が好きなオレは、断れるわけがない。


『…分かった』


オレは美空に言われたとおりにした。


その女はオレのことが好きになって、彼氏と別れた。


美空が狙っていた男は、美空のものになった。


だけど、美空はすぐにその相手に飽きてしまう。


そんなことが何度もあり、オレはそのたびに何度も美空の言うことを聞いてきた。


そしていつしかオレ達は高校生になった。


学校が離れても、オレ達はたびたび会っていた。


『大河。私、また好きな人できちゃった♪』


そう言って見せられたのは、一枚の集合写真。


美空が指差したのは、目つきの悪い、だけど男のオレが見てもきれいだと思ってしまう、そんな男。


『滝沢響クンって言うんだ!かっこいいでしょー??』


『…おまえは、こいつのどこが好きなの?』


そう尋ねてみると、美空は笑って即答した。


『そりゃ決まってるでしょ!このすっごいかっこいいところ!』


……いつも、そう。


美空は、いつも男を顔で選ぶ。


…オレの顔は、気に入らないの?


オレの顔が悪いから、美空はオレを好きにはなってくれないの?


そう言いたかった。


だけど、そんなの言えるはずもなく…


『…それじゃ、今度はこの男の彼女をとればいいんだね?』


オレはおとなしく、美空の命令に従った。


今回の相手はおとなしくて、可愛らしい女の子。


望月詩織。


純情そうで、こんな女ならすぐにおとしてしまえるな、と思った。


美空に紹介されて、とりあえず気がある素振りを見せる。


初めは『友達』ということにして、何日か電話したりした。


その会話にはいつも彼氏の話がでてきて…


この女は、本当に滝沢響のことが好きなんだなと思った。


だけど、きっとそれは美空と同じ気持ち。


きっとこの女も、顔であいつを選んだろう。


オレはずっと、そう思っていた。


そしてクリスマスが近くなったある日。


美空と打ち合わせて、オレは望月詩織と一緒に買い物に行った。


ちょうど、そこには美空と滝沢響もいて、2人がはちあわせするようにしていた。


作戦は成功。


予想どおり、望月詩織は美空と滝沢響が一緒にいるところを見て落ち込んでいた。


そんな望月詩織にキスをする。


どんな反応をしているんだろう?


そう思い、少し反応をうかがってみると、


望月詩織は、泣いていた。


驚いて、キスをやめる。


そして思わず謝った。


『どう…して…??私の…私の、ファーストキスを…なんで、そんなに簡単に奪えるん…ですか…!?』


そう言われて、驚いた。


今まで一度もそんなこと言われたことがなかった。


いつも、オレにこんなことされた女は、いつの間にかオレのことが好きになっていた。


…こいつ、今までの女と少し違う。


そう思ったが、きっとすぐにおちるだろうと思った。


だって、今までに一度も、オレが美空の命令をしくじったことはないのだから。


クリスマスの日。


オレは美空に望月詩織を襲えと命令された。


オレはその通りに、駅で滝沢響を待つ望月詩織を眠らせ、廃校の一室に連れて行った。


さっさと終わらせようと、目が覚めた望月詩織にキスしながら、ブラウスのボタンをあけていく。


その時、


「なんで、やりたくもないことしようとしているんですか…??」


不意に望月詩織がそう言った。


思わず、手が止まる。


「富岡サンは、本当はこんなことしたくないんでしょう…??」


ドキリとした。


オレ、それっぽい仕草を見せた…??


だけど、心あたりはない。


「…なんで?なんでそう思うの??」


そう尋ねると、望月詩織は首を少しかしげた。


「なんとなく…富岡サンが、そんな表情をしていましたから」


……!!


心の奥を、見透かされた気がした。


そうだよ。


オレだって、本当はこんなことしたくない。


でも、願いを叶えないと…


美空に役立たずと思われて捨てられるのが怖いんだ。


美空の願いを叶えていれば…


オレは、美空のそばにいれるんだ。


「…詩織ちゃんは、あの滝沢ってやつのどこが好きなの??」


ふと気になってそう尋ねてみた。


望月詩織は少し目を見開いて戸惑うと、小さな声で答えた。


「そんなの…いっぱいありすぎて、伝えきれません」


「おまえも、あいつの顔が好きなだけだろ?」


そうだと言って欲しかった。


女はみんな、男を顔で選んでいる。


そう思えば少し安心できるような気がした。


「ち、違いますっ!!」


だけど望月詩織は少し声を荒らげて反論した。


そんな望月詩織を見て、ふんっと鼻で笑う。


「無理しなくてもいい。…美空も、そうだから」


美空も、滝沢響の顔が好きだから。


オレがどんなに美空のことを思っていても、オレの顔じゃ無理なんだ。


「おまえも美空と同じだ。そうだろ?」


そうだと…


そうだと言ってくれ。


オレに、女は誰でも同じなんだと、そう思わせてくれ…!!


「違います…私は、響くんのそんなところが好きなんじゃないです」


望月詩織ははっきりとそう言った。


「私は…響くんの優しい所や、照れ屋な所、その他にもいろんな所、…響くんの全部が好きなんです」


驚いて、少し目を見開く。


…全部??


顔だけじゃ、なくて…??


やっぱり、望月詩織は他の女と違っていた。


望月詩織は、本気で滝沢響のことが好きだったんだ。


オレはふっと笑った。


「…そうか。オレも…そう、なんだけどな」


オレだって…


本気で美空のことが好きだ。


だけど、どうすればいい??


オレが美空のそばにいるためには、望んでないことも平気でしなくちゃいけないんだ。


でも、オレはどうしても望月詩織を襲えなかった。


望月詩織を汚したくなかった。


オレとは違う、素直に好きな人を愛せる人間を、汚せなかった。


「…!?」


オレは望月詩織の口に睡眠薬をしみこませたハンカチを押し付けた。


「…あいつは、気がついてくれないんだ」


望月詩織が眠りにつく瞬間、オレはそうつぶやいた。


そう、


あいつは何も気付いてくれない。


オレの気持ちに、何も……


オレは望月詩織のケータイから滝沢響に連絡を入れた。


滝沢響はすぐにかけつけてきた。


望月詩織を抱えたオレを、きっと強く睨む。


怒りのこもった目。


オレが望月詩織を差しだすと、滝沢響は壊れ物を扱うように、そっと望月詩織を抱えた。


そしてほっと息をつき、愛おしそうに望月詩織を見つめる。


それを見て、こいつも本当に望月詩織のことが好きなんだと思った。


この2人の間に、美空が入る間なんてない。


自然とそう思った。


お互いがお互いを真剣に好き合っている、本当の恋人。


「…おまえは、いいよな」


そんな2人がうらやましくって、オレはぽつりとそうつぶやいた。


オレだって、美空とそんな風になりたかった。


もっと美空を素直に愛していたら、美空もオレの気持ちに応えてくれたのかもしれない。


……いつから、オレはこんなに不器用になってしまったんだろう?


なんで美空を素直に愛することができないんだろう?


初めは、すぐ近くにいた大好きな親友。


今は、遠く離れた好きな人。


もう、今からじゃこの2人のようになれない。


だから、オレはオレなりに美空を愛そう。


美空の望みを叶えること。


そして、美空のそばにいること。


それがオレなりの精一杯の愛し方。

ちょっと大河の話が書きたくて書いてみました。

本編にはあんまりでてきてないんですけど…

こんな風に思ってたってことで。

また、美空sideもしてみたいです(^^♪

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