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純情恋模様  作者: karinko
40/78

★20話 クリスマス★響side

12月25日。


今日はクリスマス。


オレは望月と待ち合わせている駅に向かって走っていた。


時計を見ると、すでに待ち合わせの時間から15分は遅れている。


絶対望月待ってるよな??


ったく、なんでこんな日にかぎって寝坊するんだよ、オレ!!


そして待ち合わせの時間から30分ほどの時間が過ぎたころ、やっと駅についた。


だけど、そこにはオレを待つ望月の姿はない。


「望月??」


オレはキョロキョロとあたりを見回して、望月を探してみた。


だけど、一向に望月の姿は見つからない。


もしかして…


オレが来るのが遅すぎたから、もう帰っちまったのか…??


でも、それなら電話くらいしてくれたらいいだろ?


……それとも、


嫌な考えが頭によぎる。


もともと、ここに来るつもりはなかった…


のかも、しれない…


なんで?


…富岡ってやつと過ごすから。


もう、オレのことなんて好きじゃないから…??


オレは首をふって、嫌な考えを振り払った。


そして大きく息を吸う。


いや、落ちつけよ、オレ。


もしかしたら望月もオレと同じように寝坊したのかもしれない。


もしかしたら急な用事ができたのかもしれない。


それで電話する暇もなかったのかもしれない。


それじゃ、とりあえずオレから電話してみればいいんだ。


そう思い、オレはケータイをとりだした。


そして望月の電話番号を押す。


プルルル…プルルル…プルルル…


何回かのコール音のあと、無機質な機械音がした。


『只今、電話にでることができません。ピーという発信音のあとに…』


オレは呆然としながら通話を切った。


出ない。


ますます嫌な予感が大きくなる。


今、富岡ってやつといるから?


だから、オレの電話にでられないのか…??


「…なんでだよ…!?」


オレはやるせない思いでいっぱいになって、たまらずぽつりとつぶやいた。




オレはとぼとぼと家路についていた。


もう、何もする気力がなかった。


ただ早く家に帰って眠ってしまおうと思っていた。


そのとき、


「あっ!滝沢クン!!」


不意に後ろから声をかけられた。


振り返ると、笹川が笑顔でオレに手を振っている。


そしてオレにかけよってきた。


「どうしたの?こんなとこで…」


オレの表情を見て、少し心配そうに言う。


「…別に、なんでもない」


オレは笹川に背を向けて足を進めた。


後ろから、オレを追いかけてくる足音が聞こえる。


オレは無視してそのまま歩いた。


だけど、いつまでたっても足音はついてくる。


…しつこい!


「なんだよ?」


オレは振り返って笹川を睨んだ。


「別に?滝沢クン、どこ行くのかなー?って思って」


「…家、帰るだけだよ」


オレがそう言うと、笹川は少し驚いたような表情をした。


「え?今日は詩織ちゃんとデートじゃないの?せっかくのクリスマスなのに…」


ズキッ…


胸がしめつけられる。


…本当は、その予定だった。


今頃、望月といるはずだったんだ…


だけど…


望月はこなかったんだ。


「…関係ないだろ」


オレはふいと笹川から目をそらした。


「…私、さっき詩織ちゃんと大河が一緒にいるところ見たよ?」


ピタッ


思わず、足が止まる。


「滝沢クンも知ってるよね?大河のこと」


大河って…


富岡、ってやつのことか…??


そいつが…


望月と一緒にいた…??


「もしかしたら、詩織ちゃんって大河のことが好きなんじゃないの?」


ズキッ!


鋭い痛みが胸を貫いた。


そう…なのか…??


望月は…


やっぱり、富岡ってやつのことが好きなのか…??


笹川はそっとオレの頬に触れた。


「落ち込まないで?大丈夫。詩織ちゃんはもう、滝沢クンのことが好きじゃないかもしれないけど…私は…滝沢クンのことが好きだよ??」


笹川が少し頬を染めて微笑んだ。


「滝沢クンは…どうしても、詩織ちゃんじゃなきゃダメなの??私じゃ…ダメ?」


笹川は上目づかいでオレを見た。


少し、瞳が潤んでいる。


ドキッ…


少しだけ、心臓が強く鳴った。


…笹川は、オレのことが、好き、なんだよな…??


なら…


望月を思っているより…


こいつを好きになった方が…


楽なんじゃないのか…??


オレは頬に触れている笹川の手をとった。


「笹川…」


頭の中に、望月が富岡とキスしている情景が浮かんだ。


望月はもう、富岡のことがすきなんだ。


だから…


オレも…


プルルルル…


不意にケータイが鳴った。


望月…!?


直感的にそう思い、オレはすぐに電話にでた。


「もしもし!?望月!?」


『…〇☓区の廃校』


電話から聞こえた声は、望月の声じゃなかった。


知らない、男の声。


「おまえ…富岡…??なんでおまえが…」


なんでおまえが望月のケータイからオレに…!!


『そんなこと、どうでもいい。早く今いった場所にこい』


「はぁ!?何で…」


プツッ…


小さな音がして、通話が切れた。


しばらく、呆然と電話を見つめる。


「滝沢クン?どうしたの??」


笹川がオレに声をかけてきた。


「…悪い。オレはやっぱり望月以外、好きになんてなれない」


オレはそう一言言うと、急いでさっき富岡が言った廃校に向かって走った。


そこに望月がいるかもしれない。


望月が危ない目にあっているかもしれない。


そう思うと、オレの足どりは自然と早くなっていた。




廃校につくと、門の前に望月をかかえた富岡の姿があった。


望月はぐったりと眠っている。


オレはきっと富岡を睨んだ。


「おまえ…望月に何かしたのか??」


富岡は涼しい顔でふんっと笑った。


「安心しろ。何もしてないから」


「…なんで、こんなところにいるんだ?」


そう尋ねると、富岡は小さな声で言った。


「…あるやつに、頼まれたんだ。詩織ちゃんと襲えって」


襲えって…


やっぱり、何かしたんじゃ…!?


「大丈夫だよ。オレには詩織ちゃんを襲うことなんてできなかった」


富岡は望月をオレに差しだした。


オレはそっと望月を抱えた。


たしかに望月に、何かされたような跡はない。


オレはほっと安堵の息をついた。


「…おまえは、いいよな」


不意に富岡がつぶやいた。


「…何がだよ?」


オレが問いかけると富岡はせつな気に笑った。


「なんでもない。早く行けよ」


オレは少し、富岡の反応が気になったが、無視して富岡に背を向けた。




とりあえず、オレは望月をオレの家に連れてきて、ベッドに寝かされた。


ベッドのそばで、すやすやと眠る望月を見つめる。


軽く、髪に触れてみた。


やわらかい髪。


…富岡は、何が言いたかったんだ??


なんで、何もせずに望月をオレに返したんだ…??


「なぁ、なんでだろうな?望月…」


望月から返事はかえってこない。


なんとなく、望月がこのまま目を覚まさないような気がしてきた。


「望月?望月、望月…」


心配になり、何度も望月の名前を呼んでみる。


肩をゆさぶってみても、望月は目を覚まさない。


不安が、大きくなる。


もしも…


もしも、富岡が望月に変な薬を飲ませたんだとしたら…??


一生目を覚まさないような、そんな薬を…


いや、でもそんな薬、あるわけない。


ばかばかしい。


どうせただの睡眠薬だろ?


…………


「望月」


オレはもう一度、望月の名前を呼んだ。


望月の瞼が少し動く。


……!!


望月がゆっくりと目を開き、オレをとらえる。


「望月!大丈夫か!?」


「響…くん…」


望月はしばらくじっとオレを見て、にっこりとオレに向かって微笑みかけた。


「私は、大丈夫ですよ?」


そんな望月の声を聞いて、オレは安心して体から力がぬけていくのを感じた。


「…良かった」


そうつぶやいて、望月に微笑み返す。


「ここは…響くんの部屋ですか?」


望月は上半身を起こして、キョロキョロとまわりを見回しながら言った。


「ん?ああ、そうだけど」


「どうしてここに??」


オレは思わず口を閉ざした。


富岡に居場所を知らされて…


そこで、富岡に望月を渡されたなんて…


なんとなく、言いにくい。


「響くん??」


望月はきょとんとしてオレの顔をのぞきこんだ。


仕方なく、オレは口を開いた。


「…おまえが約束の時間にこなくて心配になって電話してみたら、富岡が…」


ふと、そこで言葉を止める。


富岡は、誰かに望月を襲えと言われたらしい。


そんなの、望月には言わない方がいいよな…??


「まぁ、そんなのどうだっていいんだ。今、望月はここにいるんだから」


オレはそうつぶやいて、望月に微笑みかけた。


うまくごまかせたようで、望月はそれ以上詮索しようとはしてこなかった。


そう、今望月はここにいる。


何事もなく、オレのそばにいるんだ。


ふと、頭の中に望月と富岡がキスしていたときの情景が浮かんできた。


…オレ、望月が富岡とキスしてたところ実は見てたって、望月に言おうかな。


オレから言ったら、望月はちゃんと事故だったって言ってくれるかもしれない。


多分、望月は富岡のことが好きなわけじゃなさそうだし…


「それよりオレ、おまえに言わなくちゃいけないことがある」


「言わなくちゃ…いけないこと…??」


望月はオレの言葉を繰り返した。


やっぱり、少し勇気がいる。


どうしても、心のどこかで、もしかしたら望月は富岡のことが好きなのかもしれないと思うオレがいるんだ。


だけど…


言わないと、どうなるかわからないもんな。


「オレ…」


「待ってください」


オレが口を開きかけた時、望月がオレを制した。


…??


なんだよ…


人がせっかく勇気だして本当のことを言おうとしたのに…


「私も、言いたいことがあるんですけど…先に言ってもいいですか?」


………


なんとなく、望月が言いたいことがわかった。


多分、それはオレと同じこと。


オレは小さくうなずいた。


望月がコクリと喉を鳴らす。


「私、本当は日曜日、富岡サンとお買いものに行っていたんです。そして…」


望月はそこで言葉を止めた。


とまどうように視線をさまよわせる。


そして、小さな声で口を開いた。


「私、富岡サンと…キス、してしまったんです…」


………!!


オレは思わず目を大きく見開いた。


望月が…


自分から、本当のことを言ってくれたんだ……!!


「いや、その!望んでしたわけじゃなくって!無理やりされたというか…!!」


望月はオレの反応を勘違いしたようで、慌てて弁解しだした。


だけどそんな弁解、オレの耳には入らなかった。


オレはただうれしくて、気がついたら望月を抱きしめていた。


「良かった…!!」


やっぱりあれは事故だったんだ。


望月がしようとしてしたわけじゃなかったんだ。


望月はオレを裏切ったわけじゃなかったんだ…!!


「え…??」


「オレ、本当は見てたんだ。おまえが富岡ってやつとキスしてるところ…」


オレも本当のことを言わないといけない。


オレが望月達がキスしてるのを見ていたことを。


…オレも、笹川と出かけていたことを。


「オレも笹川と買い物行ってて…。おまえに、クリスマスプレゼントを買いたかったんだ」


「なんで…笹川サンと…??」


望月は驚いたように言った。


「……オレ、何買ったらいいか分かんなかったし…笹川なら、女の好きなものとか分かるかと思って…」


オレは小さな声でそう言った。


こんなの、望月にとってはただの言い訳に聞こえるかもしれない。


でも、本当なんだ。


オレは、ただ…


おまえに少しでも喜んでもらいたかっただけなんだ…


望月はしばらく黙っていた。


そして突然ぷっと吹き出す。


……??


何で今笑うんだ…??


絶対今は笑い時じゃないだろ?


オレは怪訝に思い、抱きしめるのを止めて望月を見た。


「…何笑ってんだよ??」


「いえ…響くんも、私と同じこと考えてたんだなって思って」


……??


意味がよくわからなかった。


でも、望月が楽しそうに笑っているので、まぁいいかと納得する。


望月が不意に笑うのをやめ、真剣な声で言った。


「響くん…ごめんなさい」


何に対して謝っているのか分からなくて、一瞬戸惑う。


だけど、すぐに理解した。


望月は、富岡とキスしてしまったことに対して謝ってるんだ…


「別に…。おまえはちゃんと言ってくれたんだし」


オレは笑顔を作って望月の髪をなでた。


なんとなく、オレと望月の間にできていた微妙な距離がなくなった気がした。


…そうだ。


もう、望月に渡しとくか。


オレはそう思い、机から小さな袋をとりだした。


そして、それを望月に差し出す。


「これ、そのとき買ったやつ」


望月はそれを受け取って、まじまじと見つめた。


「あけてみても、いいですか??」


オレは首を縦にふった。


望月はそっと中身を取り出した。


なんとなく、緊張する。


もし、気に入らないと言われたらどうしようか。


まぁ、望月にかぎってそんなこと言わないともうけど…


「わぁ…」


望月はブレスレッドを取り出して、小さな感嘆の声をあげた。


まじまじとそれを見つめて、にっこりとオレに向かって微笑んだ。


「すごくうれしいです…!!」


その素直な言葉が、たまらなくうれしかった。


望月はそれを大事そうに鞄にしまうと、代わりに中から何かを取り出した。


そしてその袋をオレに差し出す。


「私も、響くんにプレゼントです」


望月はそう言ってオレに微笑んだ。


「…オレ、に??」


まさか望月も用意してくれているとは思っていなかったので、オレは驚きながらそれを受け取った。


そして中のものを取り出してみる。


それは少し高そうな、黒い腕時計。


「これ、高かったんじゃないのか??」


オレが訪ねてみると、望月はにっこりと微笑んで言った。


「いえ、それほどでもありませんでしたよ」


…本当に?


オレはまじまじと時計を見つめた。


望月が、オレのために買ってくれた腕時計。


多分、本当は高かったんだと思う。


それでも、オレのために買ってくれたんだ。


「…ありがとう。大事にする」


オレはそう言って望月に微笑みかけた。


望月からもらったものなんだ。


これから絶対に、肌身離さずつけていよう。


望月は安心したような表情でオレに微笑みかえした。


そんな望月を見て、不意に望月がたまらなく愛おしく感じた。


「…オレな?」


オレ、何言いたいんだろう?


よくわからねぇけど…


口が、勝手に動く。


「文化祭の時、オレが笹川と事故でキスしちまったの見て、おまえは初めてがなんとか言ってたけど…オレ、正直そんなのどうでもいいだろって思ってたんだ」


だって初めてだって、そうじゃなくたって、どうせキスするなら同じだろ?


別に、順番なんて関係ない。


そう思っていた。


「でも、おまえが富岡ってやつとキスしてるのを見た時、すげぇショックだった。それでおまえも同じ気持ちだったんだなと思った」


それでオレは気付いたんだ。


たしかに、順番なんてどうだっていい。


でも、好きなやつが他のやつにキスされるのは、すごく嫌だ。


そして、望月も多分、あのときそんな気持ちだったんだと思う。


「それでオレ、思ったんだ。あいつに先こされるなら、オレが先にしとけばよかったって」


どうせなら…


どうせあいつに望月がキスされるって決まってたんなら…


オレが初めにしとけばよかった。


あんなどこの誰かもしらねぇやつに先をこされるなんて、悔しくてたまらない。


「今さら、遅いけど…でもオレ、おまえにキスしたい」


自分で言ったことに驚いた。


顔が燃え上がる。


だけど、それがオレの正直な気持ちだった。


オレ以外のやつが望月にキスしてるのに、彼氏のオレがキスしたことないなんて、絶対に変だ。


望月は顔を真っ赤にさせて、じっとオレを見た。


オレもその瞳を覗き込んで、了承をとってみる。


「…いいか?」


望月は熱に浮かされたような表情で、小さく首を縦にふった。


……!!


まさか、いいと言われると思わなくて、少し驚く。


心臓がドキドキと早鐘のように脈打つ。


オレがゆっくりと望月に顔を近づけると、望月はそっと目を閉じた。


オレは変な所にキスしてしまったらいけないと思い、ギリギリまで目をあけていた。


望月の唇まで、ほんのあと一センチくらいまで近づいた時、ぴたりと動きを止める。


ほんのすぐそばにせまった望月を見て、おかしくなりそうになる。


……本当に、いいのか?


オレは一瞬戸惑って、そして覚悟を決めて目を閉じた。


唇に、やわらかい感触を感じる。


オレはすぐに唇を離した。


顔が燃えるように熱い。


まともに望月の顔が見れない。


望月がそっと目をあけた。


オレは慌ててそっぽをむく。


望月がそんなオレを見て、小さく笑う声が聞こえた。


…どうせ、オレはキスくらいでこんなになる根性無しだよ…!


オレは心の中でそうつぶやいた。


そしてにっと笑う。


今年のクリスマス。


6年の頃にいなくなった赤服のじいさんは、最高のプレゼントをくれた。

最後の文がおもいっきり詩織とかぶってます…

でもクリスマスっぽいとこ全然なかったので…

ちょっとでも、と思いまして(^-^)

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