☆20話 クリスマス☆詩織side
気まずいままむかえた、クリスマス。
今日、響くんと駅で待ち合わせしている。
ずっと楽しみにしていた日。
なのに…
その当日の今日、私は行きたくないと思っていた。
こんな状態で、響くんと一日ずっと一緒にいられるかどうか不安だった。
だけど、約束は約束。
行かなくちゃ…
いけませんよね…??
私は小さなため息をついて家をでた。
そして少し早く駅につき、ぼんやりと響くんを待っていた時、
「詩織ちゃん」
不意に後ろから誰かに声をかけられた。
驚いて振り返ると、そこには富岡サンの姿。
「富岡サン??どうしてここに…!!」
突然何かで口を押さえつけられた。
えっ…!?
なん、ですか…?
これ…!?
だんだんと意識が遠のいていく。
富岡サンが、にっと薄く笑った。
その後ろには何人かの不良っぽい男の人達がいる。
嫌…
なにがなんだかわからなくって、とても怖かった。
助けてください…!!
「ひ…びき…くん…」
私はそのまま意識を手放した。
目を覚ますと、私は暗い部屋にいた。
ここ…は…??
私、どうしてこんな所に…
「目が覚めた??」
突然誰かが言った。
暗がりで姿は見えないけど、声はたしかに富岡サンの声。
そうだ…
駅で響くんを待っていたら、突然富岡サンに声をかけられて…
そして後ろから誰かに口を押さえつけられて…
気がついたらここに…
そこまで思い出して、私ははっと気がついた。
「響くん…響くんと待ち合わせを…早く、行かなくちゃ…」
きっと響くんは私を待ってくれている。
私はこんなところにいる場合じゃないのに…
「だめだよ。行かせない」
富岡サンが低い声で言った。
そして私の手首をつかむ。
富岡サンが私に顔を近づけてくるのが分かった。
キスされる…!!
私は直感的にそう思い、顔をそむけた。
もうこれ以上、響くん以外の人にキスなんてされたくなかった。
「止めてください…!!」
富岡サンの動きが止まった。
しばらくの沈黙の後、少し笑ったような声がふってくる。
「…それじゃ、唇にはしないようにするよ」
「え…?……やっ!!」
富岡サンが私の首筋にキスをした。
そして私のブラウスのボタンをあけながら、唇以外のいろいろな所にキスをする。
嫌…
嫌です…
響くん以外の人に、こんなことされたくない…
「止めてください…!!」
必死にそう言っても、富岡サンは手を止めようとはしない。
だんだんと目が慣れてきて、富岡サンの表情が見えてきた。
私にこんなことしてても何も思っていないような、全くの無表情。
私は、富岡サンが望んでこんなことをしてるんじゃないと悟った。
「なんで、やりたくもないことしようとしているんですか…??」
富岡サンの手がぴたりと止まった。
「富岡サンは、本当はこんなことしたくないんでしょう…??」
富岡サンは驚いたように、じっと私を見る。
「…なんで?なんでそう思うの??」
富岡サンが私に向かってつぶやくように言った。
「なんとなく…富岡サンが、そんな表情をしていましたから」
富岡サンは目を見開いて、口を閉ざした。
そしてしばらくの沈黙のあと、
「…詩織ちゃんは、あの滝沢ってやつのどこが好きなの??」
富岡サンは小さな声で私に問いかけた。
突然の予想していなかった質問に、私は少し戸惑ってしまった。
突然どこが好きなのかって聞かれましても…
「そんなの…いっぱいありすぎて、伝えきれません」
私は小さな声でそうつぶやいた。
「おまえも、あいつの顔が好きなだけだろ?」
富岡サンは軽蔑するような声でそう言った。
「ち、違いますっ!!」
少し腹が立って、私は少し荒らげた。
そんな私を見て富岡サンはふんっと笑った。
「無理しなくてもいい。…美空も、そうだから」
切な気な声。
富岡サンの表情が少し、変わる。
え……??
美空って…
笹川、サン…ですか??
笹川サンも…
響くんのことが好きなんですか…??
「おまえも美空と同じだ。そうだろ?」
やっぱり、少し軽蔑しているような声。
違う…
私は、響くんの顔が好きなだけなんかじゃない…
私は、笹川サンとは違う。
「違います…私は、響くんのそんなところが好きなんじゃないです」
たしかに、響くんは他の人とは比べようもないくらいにきれいだと思います。
だけど…
それは、私にとっては響くんの好きなところのほんの一部でしかない。
「私は…響くんの優しい所や、照れ屋な所、その他にもいろんな所、…響くんの全部が好きなんです」
富岡サンが少し目を見開いた。
そしてふっと笑う。
「…そうか。オレも…そう、なんだけどな」
…??
富岡サンの言っている言葉の意味が分からなかった。
どういうことか尋ねようとした時、
「…!?」
ぐっと、口に布を押さえつけられた。
また、意識が遠のいていく。
「…あいつは、気がついてくれないんだ」
消えていく意識の中で、富岡サンの悲しそうな声が聞こえた気がした。
≪望月≫
夢の中で優しい声が私を呼んだ。
低い、私が一番安心できる声。
その声は…
響、くん…??
瞼を開くと、目の前に大好きな姿があった。
「望月!大丈夫か!?」
「響…くん…」
響くんを見て、響くんの声を聞いて、私はすごく安心できた。
「私は、大丈夫ですよ?」
だんだんと意識がはっきりしてきて、私はにこっと響くんに微笑みかけた。
「…良かった」
響くんは安心したような表情をして、私に笑顔を返す。
私は上半身をおこして、辺りを見回してみた。
以前にも見たことがある部屋。
「ここは…響くんの部屋ですか?」
「ん?ああ、そうだけど」
…あれ?
私さっきまで暗い部屋にいたはずなのに…
「どうしてここに??」
そう問いかけてみると、響くんは口を閉ざした。
「響くん??」
響くんは苦虫をかみつぶしたような顔をしながら言った。
「…おまえが約束の時間にこなくて心配になって電話してみたら、富岡が…」
そこまで言うと、響くんは言葉を止め、にこっと私に笑いかけた。
「まぁ、そんなのどうだっていいんだ。今、望月はここにいるんだから」
響くんはそうつぶやくと、私に言った。
「それよりオレ、おまえに言わなくちゃいけないことがある」
「言わなくちゃ…いけないこと…??」
なんとなく、私には響くんが言いたいことが分かった。
……それなら、私にもあります。
「オレ…」
「待ってください」
響くんが言いかけた言葉を、私は慌てて制した。
響くんが怪訝な顔で私を見る。
「私も、言いたいことがあるんですけど…先に言ってもいいですか?」
少しの間のあと、響くんは小さくうなずいた。
コクリと唾を飲み込み、勇気を出して言う。
「私、本当は日曜日、富岡サンとお買いものに行っていたんです。そして…」
次の言葉が、なかなかでてこなかった。
言ってしまうと、響くんを傷つけてしまいそうで。
だけど…
言わなくちゃ。
響くんには、嘘をつきたくないから。
「私、富岡サンと…キス、してしまったんです…」
響くんが大きく目を見開いた。
私は慌てて弁解をする。
「いや、その!望んでしたわけじゃなくって!無理やりされたというか…!!」
驚いて、私は言葉を止めた。
「良かった…!!」
響くんのうれしそうな声が、すぐ耳元で聞こえる。
響くんの香りが、私をつつんでいる。
響くんが、私を抱きしめている。
「え…??」
うれしくってたまらなかったけど、それよりも私は『良かった…!』という言葉の意味が気になった。
響くんはそんな私の気持ちに気付いたのか、ぎゅっと強く私を抱きしめながら言った。
「オレ、本当は見てたんだ。おまえが富岡ってやつとキスしてるところ…」
え…??
そう、だったんですか…??
響くんは、知っていたんですか…??
「オレも笹川と買い物行ってて…。おまえに、クリスマスプレゼントを買いたかったんだ」
……!!
クリスマス、プレゼント…??
私に…??
「なんで…笹川サンと…??」
私がそう尋ねると、響くんは小さな声で言った。
「……オレ、何買ったらいいか分かんなかったし…笹川なら、女の好きなものとか分かるかと思って…」
私はあっけにとられて呆然とした。
そして思わず吹き出す。
響くんは抱きしめるのをやめて、怪訝な顔で私を見た。
「…何笑ってんだよ??」
「いえ…響くんも、私と同じこと考えてたんだなって思って」
私も、響くんに何を買えば分からなくて富岡サンに付き合ってもらった。
響くんも、それと同じだったんですね。
そう思うと、すごく安心できた。
そして、私が富岡サンとキスしたことを響くんに黙っていたことに対して、響くんがどう思っていたかを考えてみると、ものすごい罪悪感がわいてきた。
響くんは…
私が富岡サンとキスしたことを知ってたのに…
私は何も言わなくて、きっとそれですごく傷ついていたんでしょうね…
私…
響くんにひどいことをしてしまいました…
「響くん…ごめんなさい」
私は笑うのをやめて、響くんに謝った。
響くんは私が何に対して謝っているのか悟ったようで、優しい笑顔で私の髪をなでた。
「別に…。おまえはちゃんと言ってくれたんだし」
響くんはそう言うと、机から何かをとりだした。
そしてそれを私にさしだす。
「これ、そのとき買ったやつ」
私はその小さな袋を受け取った。
「あけてみても、いいですか??」
そう尋ねてみると、響くんは首を縦にふった。
響くんからの初めてのプレゼント。
うれしくて、ドキドキしながらあけてみる。
「わぁ…」
中身を取り出して、私は思わず感嘆の声をあげた。
淡いオレンジを基調にした、シンプルなブレスレッド。
響くんが私のために選んでくれた、ブレスレッド。
「すごくうれしいです…!!」
うれしくて、うれしくてたまらなかった。
私はそれを鞄の中に大事に入れると、代わりに響くんへのプレゼントを取り出した。
そしてそれを響くんにそれを差し出す。
「私も、響くんにプレゼントです」
私はそう言って響くんに向かって微笑んだ。
「…オレ、に??」
響くんは驚いたような表情で、私のプレゼントを受け取った。
そして中身を取り出す。
私はドキドキしながら響くんの反応を見ていた。
響くんは…
喜んで、くれるでしょうか…??
響くんは時計をみると、大きく目を見開いた。
「これ、高かったんじゃないのか??」
「いえ、それほどでもありませんでしたよ」
私はにっこりと笑って言った。
本当は少し高かったですけど…
ここは言わない方がいいですよね!
響くんはしばらくまじまじと時計を眺めると、にこっと私に笑いかけた。
「…ありがとう。大事にする」
どうやら喜んでくれたようです。
私は安心して、響くんに笑顔を返した。
「…オレな?」
響くんは突然真剣な声で言った。
自然と、私も真剣にその言葉に耳を傾ける。
「文化祭の時、オレが笹川と事故でキスしちまったの見て、おまえは初めてがなんとか言ってたけど…オレ、正直そんなのどうでもいいだろって思ってたんだ」
…えっ??
そうだったんですか??
たしかに響くんはそこまで重大に思ってない雰囲気でしたけど…
「でも、おまえが富岡ってやつとキスしてるのを見た時、すげぇショックだった。それでおまえも同じ気持ちだったんだなと思った」
響くんは少し間をあけて、小さな声で言った。
「それでオレ、思ったんだ。あいつに先こされるなら、オレが先にしとけばよかったって」
ドキッ…
心臓が強く鳴る。
「今さら、遅いけど…でもオレ、おまえにキスしたい」
響くんは頬を真っ赤に染めて、熱っぽい目で私を見た。
それがあまりにも魅力的で…
どうしましょう…
心臓がドキドキしすぎて…
つぶれてしまいそう…
顔に血がのぼりすぎて、頭がくらくらしてくる。
「…いいか?」
響くんの黒い瞳がまっすぐに私をとらえて、吸い込まれそうになる。
私は小さく首を縦にふった。
響くんがゆっくりと私に近づいてきた。
私はそっと目を閉じる。
唇に、やわらかいものが触れた。
そっと、触れる程度のキス。
すぐに、響くんの唇は私から離れる。
ほんの短いキスだったけど、私にとっては永遠のように長く感じた。
富岡サンに何度もキスされたときよりも…
すごく長くて、心地よく感じた。
目をあけると、響くんが顔を真っ赤にしてそっぽをむいていた。
それがすごく響くんらしくて、私はくすっと小さく笑った。
…クリスマスは、キリストが誕生した日。
神様が生まれた日。
きっと、この幸せは神様からの贈り物なんでしょうね。
それとも、サンタさんからのプレゼントなのでしょうか??
サンタさんなんていないって分かったつもりでしたが…
案外、サンタさんはいるのかもしれません。
ちょっと急展開すぎますかね?
あと、響を美化しすぎたかもです…(←いつもです(-_-;)




