表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純情恋模様  作者: karinko
36/78

★18話 帰り道★響side

11月の後半ごろのある日。


オレはいつものように望月と駅に向かって歩いていた。


いつものようにどうでもいいような会話をする。


ふいに望月の手がオレの手に触れた。


…近づきすぎたか??


そう思いオレは望月の手が当たらないように少し離れた。


すると、また望月はオレに手を触れさせてくる。


……??


何?


もっと離れろってことか??


そう思い、オレはまた少し望月の手から離れた。


だけどやっぱり望月はオレに手を触れさせてくる。


何度かそれを繰り返したあと、オレはやっと望月が意図的にしてるんだと気がついた。


「…何??」


そう尋ねてみると、望月はにっこりと笑った。


「い、いえ。なんでもありませんよ??」


「そうか??」


…なんだ。


オレの思いすごしか。


オレはそう納得し、他の話を始めた。


「……響くんは………すか??」


不意に望月が小さな声で何かを言った。


「…??なんだよ?」


望月はきっとオレを睨んで怒鳴った。


「響くんは私のこと、好きじゃないんですか!?」


「…!?」


…はぁ!?


こいつ、いきなり怒って何言いだすんだ…!?


「どうして私が手をつなごうとしていることに気が付いてくれないんですか…!?」


望月の目に涙があふれ、それがぽろぽろと望月の頬を伝った。


「望月…??」


「名字でなんか呼ばないでくださいっ!!」


……!!


オレは驚いて、思わず固まった。


「どうして、響くんは気持ちを言葉にしてくれないんですか…??どうして私に恋人らしいことを何もしてくれないんですか…??」


何も言葉が出なかった。


ただ、望月の言葉を聞くことしかできなかった。


「私…不安なんです。響くんと一緒にいて、すごく不安になるです」


望月は震える声でそう言うと、くるりとオレに背を向けた。


そしてオレから逃げるように走って行く。


後を追おうとすると、なぜか足がぴたりと止まった。


なすすべもなくその場に立ち尽くす。


…オレに、望月の後を追う資格があるのか??


望月に言われた言葉が何度も頭の中に流れた。


『響くんは私のこと、好きじゃないんですか!?』


なんだよ、いきなり。


オレ、別に望月のことを嫌いだなんて言ってないじゃないか。


『どうして私が手をつなごうとしていることに気が付いてくれないんですか…!?』


だって言ってくれないと分からないだろ?


オレは望月に気を使って…


『名字でなんか呼ばないでくださいっ!!』


なんで急にそんなこと言うんだよ。


それなら名前で呼んでくれって言えばいいじゃないか…


『どうして、響くんは気持ちを言葉にしてくれないんですか…??どうして私に恋人らしいことを何もしてくれないんですか…??』


そんなの、オレは十分していると思っていた。


なのに…


望月は、それ以上何を望んでいるんだ??


望月の言葉をすべて打ち消して、そしてそんな自分に腹が立った。


だからダメなんだ。


そんな考え方しかできないから…


だから望月を不安にさせたんだ。


こんなオレが望月の後を追ったとしても、望月を安心させることなんてできない。


『私…不安なんです。響くんと一緒にいて、すごく不安になるです』


最後の望月の言葉が胸をしめつけ、


そして望月の泣き顔が脳裏に焼き付いていた。




次の日の放課後。


オレはその日、望月と何も話さなかった。


望月と話すと、望月の不安を大きくさせてしまいそうで怖かった。


オレは望月に何も声をかけずに教室をでた。


校門をでようとしたとき、ふと足が止まる。


いつも、望月と待ち合わせている場所。


もし…


もしここでオレがずっと待っていたとしたら…


望月は、どんな反応をするだろう??


望月は…


……いや、ダメだ。


望月がオレといて不安になるんだったら…


オレはもう、望月と一緒にいない方がいいのかもしれない。


そう思い、足を進めようとした時、


ふと、筆箱を教室に置き忘れていたことに気がついた。


…取りに戻るのも面倒だよな…


でもまだ学校でてないし…


もしかしたら今日使うかもしれねぇし…


オレは一応筆箱を取りに戻ることにした。


さっさと済ませようと思いながら教室の扉をあけたとき、


オレは思わず息をのんだ。


「望月…!?」


望月が、机に顔を伏せて眠っていた。


まだ…


帰ってなかったのか…


そう思いながら、オレは望月の隣の自分の席に行く。


そして机の中から筆箱を取り出して教室を出ようとした。


だけど、扉をあけたところで足が止まる。


オレは無意識に望月のそばに向かった。


望月の目の前にしゃがみこむと、眠っている望月の顔が見えた。


そっと、望月の髪に触れてみる。


やわらかい髪がオレの指にからまった。


望月……


今、寝てるんだよな…??


「詩織」


オレは思い切ってそう呼んでみた。


顔が熱くなる。


「…なんて、呼べたらいいんだけどな」


オレは大きなため息をついた。


やっぱオレにはとてもそんな風には呼べない。


望月が眠っている今だって、名前で呼んでみるとこんなに心臓の鼓動が速くなるんだ。


「…おまえ、オレが気持ちを言葉にしてくれないとか、オレが恋人らしいこと何もしないとか言ってたけど…オレ的には結構がんばってる方なんだけど」


もちろん、返事はない。


望月は変わらず目を閉じている。


……そうだよ。


オレはおまえに精一杯のことをしているつもりなんだ。


でも、おまえはそれ以上のことを望んでいるのか??


おまえはもっと、歯が浮くような甘いセリフや行動を望んでいるのか…??


……もし、おまえがそんなのを望んでたとしても、


オレにはとても、そんなこと言う勇気もなければする勇気もない。


やっぱ、オレといても物足りないだけだよな…


オレはじっと眠っている望月を見た。


長いまつ毛。


すべすべとした頬。


やわらかそうな唇。


「本当に、可愛いよな…」


ぽつりとつぶやいて、また望月の髪をなでた。


なんでこんなやつがオレのことを好きだなんて言うんだろう?


望月はオレのどこが好きなんだ?


オレにはいいところなんて一つもないだろ??


……『気持ち』を『言葉』に、か。


望月が眠っている今なら、できるかもしれねぇな。


「オレさ……」


そのあとの言葉がでてこなくて、口をつぐむ。


このあと、何を言えばいいんだ??


望月に伝えたいことは言いきれないほどにある。


望月が他の誰よりも可愛く見えること。


望月が他のやつと話していると嫉妬してしまうこと。


望月の仕草や表情で、一喜一憂してしまうこと。


望月の笑顔を見ると、オレも笑顔になれること。


他にも、まだまだいっぱいある。


その中で…


何を言えばいいんだ…??


少し考え、ふと気がついた。


そうだ…


結局全部まとめたら…


「おまえのこと、すっげぇ好きだから」


オレは、もうどうしようもないくらいに望月のことが好きなんだ。


ただ、それだけなんだ。


不意に体が何かに包まれた。


「はっ!?望月っ!?」


オレは望月に抱きしめられていた。


…って、寝てたんじゃないのか!?


「私も…私も、響くんのことが大好きです……!!」


望月はうれしそうな声でそう言った。


心臓の鼓動が速くなる。


もしかして…


さっきまでオレが言ってたこと、全部聞かれてたのか…??


顔が燃えるように熱くなった。


…でも、


ちょっと、いや、すっげぇ恥ずかしいけど…


オレの気持ちが少しでも伝わったなら…


それでも、いいか。




そして帰り道。


オレは望月と並んで歩いていた。


昨日と同じ。


……そういえば昨日、望月は手をつなごうとしていたとかなんとかいってたよな…??


オレは昨日、望月がやけにオレに手を触れさせてきたことを思い出した。


…望月はちゃんと行動してくれたんだ。


なら、オレも…


「手、寒くないか…??」


直接手をつなごうというのはためらわれたので、オレは遠まわしに言ってみた。


だけど意味は伝わらなかったようで、望月はきょとんとした顔でオレを見る。


「え…??別に寒くないですけど…」


こいつ…


全然分かってない……


「…じゃ、いいよ」


しつこく言うほどでもなかったので、オレはそう言って顔をそむけた。


「…やっぱり、少し寒いです」


しばらくしてから、ふと望月が言った。


少し驚いて望月を見ると、望月は少し頬を染めてオレに微笑みかけていた。


…やっと気付いたんだな。


そう思い、オレは望月に微笑み返した。


「そう」


オレは望月の左手を握った。


オレの手にすっぽりと収まる小さな頼りない手。


その手がぎゅっとオレの手を握った。


つないだ手にだけ集中してしまって、話すことにまで意識が回らない。


不意に冷たい風が頬をなでた。


不思議と、寒くは感じなかった。


全神経が手だけに集中して、寒いなんて感じてられなかった。


こんな小さなことが、すごく幸せに感じる。


望月も…


そう思ってくれているだろうか?


望月は今、オレといて安心してくれているだろうか??


だけど、


不思議と望月は今、オレと同じことを考えていると思えた。

ちょっとだけ詩織sideに文を追加しました。

多分響sideであれ?とか思うと思います…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ