☆14話 夏祭り☆詩織side
私は時計を見ながら神社に早足で向かっていた。
急ごう急ごうと思っているのにゲタは歩きづらくてなかなか足が前に進まない。
やっと鳥居が見えてくる。
私は滝沢サンを探した。
そしてすぐに鳥居にもたれかかっている滝沢サンの姿を見つける。
「滝沢サン!」
名前を呼ぶと滝沢サンは私に気がついたようで私に笑顔を向けてくれた。
私は急いで滝沢サンのそばにいった。
「遅れてすいません…浴衣を着るのに少し手間取ってしまって…」
「ああ、別に。全然待ってないから」
そういって滝沢サンはにこっと笑う。
私達がなんで神社なんかにきているかというと…
今日が待ちに待った夏祭りだからです。
ずっと楽しみにしてたんですよね!
滝沢サンに一緒にきてもらえるように無理やり頼み込んだんですよ?
滝沢サンは最初嫌って言ってたのに結局は折れてくださってこうしてきてくださいましたし!
「それじゃ、行きましょうか」
私達は鳥居をくぐった。
神社の中はたくさんの人がいて…
私達は人ごみをかきわけながら進んだ。
それにしてもすごくうるさいですね…
いろんな人の声であたりがザワザワとしています。
私はどんな屋台があるのかと道の両側に並ぶ屋台を見回した。
そしてふと金魚すくいの屋台に目が止まった。
「あっ!滝沢サン、あれやりましょうよ!」
私はそういってその屋台を指差した。
「金魚すくい??いいけど…」
私達は金魚すくいの屋台の前に言った。
そしておじさんに小さなボールとポイをもらう。
あっ、ポイっていうのは金魚をすくう道具のことですよ?
ちょっとした豆知識です。
私は比較的金魚がたくさんいそうな水槽の前にしゃがみこんだ。
滝沢サンも私の隣にしゃがみこむ。
「さぁ、たくさんすくいますよー!」
私はそう意気込んで金魚がいっぱいいるところを探し、ポイを水の中につけた。
その瞬間にさっきまでそこに集まっていたはずの金魚がさーっとはなれていく。
あれ??
おかしいですね…
私はまた金魚が集まっているところにポイを移動させる。
すると金魚はまたすーっと逃げていく。
むーーー!!
なんだかはらがたってきました!
私はむきになって1匹の金魚を追い、無理やりすくいあげてみた。
すると…
ビリッ
金魚が暴れまわり、ポイの真ん中がやぶれた。
や、やぶれてしまいました…!!
これ、破れやすすぎるんじゃありませんか…??
「おまえもう破れたのかよ…」
滝沢サンが私のポイを見てあきれたように言った。
「だってこれ、すぐにやぶけてしまうんですもの…」
「普通そんなにすぐやぶれねぇよ」
そういって滝沢サンは自分のポイを水につけた。
そして金魚を水槽の端に追い込みボールをそのそばにもってきてすばやく入れる。
「わー…滝沢サン、うまいですね…」
「いや、これくらい簡単だろ」
滝沢サンは驚いたように言う。
いやいや…
全然簡単なんかじゃありませんよ…
それからポイが破れるまでに滝沢サンは金魚を全部で6匹もすくった。
お店の人が金魚を袋に入れて滝沢サンに手渡す。
いいなぁ…
私も金魚欲しかったです…
そう思っていると、ふいに滝沢サンが金魚が入った袋を私の目の前にさしだした。
「やるよ」
「え…??いいんですか?」
滝沢サンは首を縦にふった。
私は滝沢サンから金魚の袋を受け取る。
「ありがとうございます!」
私がお礼を言うと滝沢サンはにこっと笑った。
「ああ、それじゃ次どこの店行く?」
「そうですね…やっぱり次は食べ物屋さんでしょうか?」
食べ物屋さんですか。
夏祭りの夜店っていろいろな食べ物屋さんが出てますけど…
「食べ物屋か…食べ物屋といったらやっぱり…」
あれですよね!
夏祭りに定番の…
「リンゴ飴ですよね!」
「ベビーカステラだよな」
私と滝沢サンは同時に言った。
そして顔を見合す。
えっと…
「やっぱり、リンゴ飴ですよね?」
「いや、ベビーカステラだろ」
…いえいえ、どう考えてもリンゴ飴でしょう!?
ベビーカステラなんて全然夏祭りって感じしませんよ!!
「絶対リンゴ飴です!!」
私がむきになって言うと滝沢サンも言い返してきた。
「いや、絶対ベビーカステラだろ!!」
じーっと私達はにらみ合う。
けどやっぱりこういうのは滝沢サンの方が強くて…
私はつい、私を睨む滝沢サンを怖いと感じてしまった。
それを見るのに耐えきれず、私は滝沢サンに背を向けた。
「もういいですよ!滝沢サンなんて1人でベビーカステラでもなんでも食べてればいいんです!」
「はぁ!?なんだよ、それ!」
後ろから滝沢サンの怒ったような声が聞こえてくる。
私はそれを無視して滝沢サンから離れた。
「望月!」
後ろから滝沢サンが私を呼ぶ声がしたけれど、それも無視する。
しばらく歩いてから振り返ると、もう滝沢サンの姿は人ごみの中にのまれていた。
私は人ごみをぬけてはずれの木陰にしゃがみ込んだ。
…私、何やってるんでしょう。
たかが意見が合わなかったくらいで怒って…
でも…
滝沢サンがあんな風に私を睨んだから驚いたんです…
私、ひさしぶりに滝沢サンのことを怖いと思いました。
だって最近はいつも優しい表情をしているから…
怖いなんて気持ち、忘れてたんです…
でもだからって私、勝手すぎますよね…
「詩織?こんなところで何してるの?」
ふいに誰かに声をかけられた。
驚いて振り返ると、そこには優香ちゃんと楓ちゃんがいた。
「優香ちゃん…楓ちゃん…??」
「詩織ちゃん、滝沢クンと一緒にきてたんじゃないの?もしかして何かあった?」
楓ちゃんが心配そうにそう聞いてきた。
…私が勝手に怒って滝沢サンとはぐれたなんて、絶対に言いたくありません。
「…いえ、何もありませんよ?ここで滝沢サンに待ってろって言われたんです」
私は笑顔をつくってそう答えた。
「ふーん…」
とりあえず優香ちゃんと楓ちゃんは納得してくれたようなので私はほっと溜息をついた。
「それよりさ、詩織っていつまでも滝沢クンのこと『滝沢サン』って呼ぶつもり??」
「へっ…??」
急に優香ちゃんに言われて私は首をかしげる。
いつまでと言われましても…
滝沢サンは、滝沢サンですよ??
「そうだよ!もう一緒にお祭り来るくらい仲良いんだからそろそろ名前で呼んでみたら??」
楓ちゃんも笑顔でそう言う。
思わず顔が熱くなった。
えっ…
な、名前呼びですか…!?
「そ、そんなの恥ずかしくてできませんよ!」
だって…
そんなの…無理です…
「でも恋人なら普通よ?そんなんだったらいつまでもただの友達みたいな関係のままで終わるわよ!」
いや…
別にお付き合いしているのでただの友達の関係ではないのでは…
「まっ、とりあえず今日頑張ってみなさい!」
優香ちゃんがにこっと笑って言った。
「それじゃ私達もう行くねー!」
楓ちゃんがそう言って私に手をふった。
優香ちゃんもそれに続く。
私は2人に手をふって、2人の姿が人ごみに消えるのを確認してからうつむく。
名前呼び…ですか。
「響…くん…」
私は小さな声でそう呼んでみた。
それだけで顔が燃えるように熱くなる。
本人に向けて言ったわけじゃないのに…
それだけでこんな風になってしまう。
こんなのじゃ、名前呼びなんてできるわけありませんよね…
「ねぇ君、どうしたの?こんなところに一人で」
誰かに声をかけられて私は顔をあげた。
いつの間にか、私は3人の男の子にかこまれていた。
「え…その…」
どうしよう…
怖いです…
「オレ達といいことしようよ」
そう言って手を握られた。
……っ!
じわっと涙があふれる。
「…嫌っ!」
滝沢サン…!
助けてください…!!
心の中でそう叫んだ時。
「望月!」
私を呼ぶ声がした。
男の子達が声のした方を見る。
そこには、やっぱり滝沢サンがいた。
滝沢サンはきっと私を取り囲んでいる男の子達を睨む。
さっき私と睨みあったときよりも、ずっとずっと鋭い目。
「おまえら…何やってんだよ…」
滝沢サンはすごく低い、怒りのこもった声でそう言う。
男の子達は少し後ずさった。
だけど対抗しようとしたらしく、男の子達は滝沢サンを睨み返す。
でもやっぱり滝沢サンの鋭すぎる目にはかなわなかったようで、チッと舌を鳴らすと私から離れていった。
「滝沢サン…」
私が滝沢サンの名前を呼ぶと滝沢サンはきっと私を睨んだ。
「おまえ、何やってんだよ!?」
そして思いきり私を怒鳴りつける。
思わず体がびくっと震えた。
「す、すいません…」
泣きそうになりながらもそう謝る。
滝沢サンは私の目の前にしゃがみこんだ。
私はまた思わず体を震わせてしまう。
だけど滝沢サンは怒るわけでもなく、ただ優しく私の髪をなでた。
「もしオレがこなかったらどうなってたか分かってんのか…??」
滝沢サンの声にはまだ少し怒りがこもっていた。
だけどすごく優しい目。
私は滝沢サンがさっき私を怒鳴った理由に気がついた。
そうだ…
滝沢サンは私を心配してくれて…
涙が頬を伝う。
「ごめんなさい…」
私はまた謝った。
私は勝手に怒って勝手に滝沢サンから離れてこんなことになったのに…
全部全部私が勝手なことしたせいなのに…
滝沢サンはこんなに私のことを心配してくれていたんですね…
滝沢サンは私の涙をぬぐった。
「泣くなよ。別に怒ってねぇから」
そう言った滝沢サンの声は優しかった。
そのせいでまた涙があふれだす。
滝沢サンは困ったような表情をした。
そしてはっと気がついたように鞄の中から何かをとりだす。
「ほら、これでも食べて元気だせ」
そう言って手渡してくれたのはリンゴ飴だった。
「えっ…これ…」
「おまえさっき食べ物屋って言ったらリンゴ飴って言ってただろ?」
そう言って滝沢サンは鞄からもう一つリンゴ飴を取り出して封を開ける。
滝沢サンはベビーカステラが食べたかったんじゃ…
そして私は滝沢サンがまた私を気遣ってくれたことに気がつく。
…どうして滝沢サンはそんなに私に優しくしてくれるんですか??
だから私はまた、滝沢サンに甘えてしまうんです…
滝沢サンはリンゴ飴をかじった。
そして私に優しい笑顔を向ける。
「これ、以外とうまいな」
私の涙は止まっていた。
滝沢サンの優しさが、
私の涙をぬぐってくれた。
私を包んでくれた。
私は滝沢サンに貰ったリンゴ飴の封をあけて、かじってみた。
甘くておいしい…
滝沢サンが私のために買ってくれたと思うだけで、余計においしく感じた。
『そんなんだったらいつまでもただの友達みたいな関係のままで終わるわよ!』
急に優香ちゃんの言葉が頭に浮かんだ。
ただの友達みたいな関係…
そんな風に、私達はいつか終わってしまうんでしょうか…??
そんなのは…嫌です。
私はもっともっと滝沢サンに近づきたい。
たしかにこのまま名字で呼んでいたら、滝沢サンとの間にほんの少しだけ溝があるような感じがする。
それはきっとほんの小さな小さな溝だと思うけど…
私はそんな小さな溝でさえ踏み越えたいと思う。
ほんの少しでもいいから滝沢サンに近づきたい。
「ありがとうございます……響、くん」
私は勇気を出してそう言った。
滝沢サンが目を見開く。
暗がりの中でよくわからなかったけど、滝沢サンの頬が少し赤く染まった気がした。
「おまえ、なんだよ…その呼び方」
「すいません…でも、名前で呼んでみたかったんです。…これからもそう呼んでいいですか?」
滝沢サンはほんの少し間をあけて小さな声で言った。
「…別にいいけど」
一瞬驚いて、そしてうれしくなって、笑顔になる。
ほんの小さなことだけど、
滝沢サンとの距離が縮まったような気がした。
この人達、すっごいどうでもいいことでケンカしてますよね(;一_一)
あと『金魚すくい』が何度も金魚救いになりそうになりました(T_T)/~~~
なんとなく意味は合っている気がするんですけどね…