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純情恋模様  作者: karinko
26/78

★13話 海★響side

夏休みが始まって一週間程。


はじめの日に望月と映画に行ってから、会ってもいないし、連絡もしていない。


あの日、望月もケータイを持っていると聞いて一応アドレスと電話番号を交換したのはいいんだが…


まったくメールしたり、電話したりしてないんだよな…


一応しようと思っていることは思っているんだ。


だけど…


「兄ちゃん!ここってどうやんの??」


一樹がノートと参考書を交互に見ながら言う。


オレは大きなため息をついた。


なぜかオレは、この夏休み中一樹の勉強を見てやることになった。


あ、ちなみに一樹っていうのはオレの一つ下の弟で…


中学3年のいわば受験生だ。


しかもこいつ、頭はとてもいいとはいえない。


いや、はっきりと言ってかなり悪い。


そして塾とかに行かせてお金を使うのも面倒だということでオレがこいつの面倒を見ることになった。


「だからここはさっき教えただろ!?同じこと言わせんな!」


ったく…


こいつは望月よりも教えるのに苦労する…


というわけで、オレには望月に連絡をする暇がないんだ。


もしこいつの前でしてしまったら、絶対になんか言われるに決まってる。


オレがまたため息をついたとき…


プルルルル…


ふいにケータイの着信音が鳴った。


…望月?


メールを開いて確認しなくても、すぐにその名前が浮かんだ。


一樹が問題に集中しているのを確認してから、そのメールを開いてみる。


やっぱりそのメールは望月からだった。


【突然すいません。今から電話してもよろしいでしょうか?】


それを見てふっと笑う。


なんでメールまで敬語なんだよ…??


…今、からか。


一樹の勉強が終わってから…なんて、待っていられるわけがない。


オレは今すぐにでも望月の声を聞きたかった。


「今日はこれで終わりだ」


オレは一樹にそう一言言ってから一樹の部屋をでた。


【いいよ】


オレはすばやくそう打ち、送信ボタンを押した。


プルルル…


すぐに着信音が鳴る。


「もしもし」


オレはすぐに電話をとった。


『滝沢…サン??』


望月の可愛らしい声が返ってくる。


一週間ぶりの声がなぜかとても懐かしく感じた。


「そうだけど…」


オレがそう言うと、電話の向こうからほっとしたような声が聞こえてくる。


『うれしいです…』


「何が??」


理由がわからなくて、オレはそう尋ねた。


『滝沢サンとお話できて、うれしいんです』


望月の返事に思わず顔が熱くなる。


なんでこいつはさらっとこんなことが言えるんだ!?


…まぁ、オレも望月と話せてうれしいけど。


「…なんだよ、それ」


だけどオレはそんな気持ちなんて言わずにそっけなく答えた。


電話の向こうで、望月の小さな笑い声が聞こえてくる。


『だって本当にうれしいんですもの。あ、滝沢サン今何してたんですか??』


「今?今は弟の勉強教えてた。弟今年受験なんだよ」


あいつ、受検のわりに全然緊張感ないけどな…


まぁオレも別になかったけど。


『そうなんですか…でも、滝沢サンが教えるのなら弟さんは余裕で高校に受かりますね!』


…まぁ、受からせてやりたい気持ちは山々なんだが…


「いや…弟、かなり頭悪いから無理かもしんねぇ…」


オレがそう言うとまた電話の向こうで望月が笑う声がした。


それからオレ達はどうでもいいことをいろいろと話した。


そしてある話題から海の話になり…


『海ですか…やっぱり夏ですもんね』


望月がそうつぶやく。


しばらくの間があったあと、望月はふいに言った。


『滝沢サン!今度、一緒に海行きましょう!!』


「え゛……」


思わず変な声がでる。


こいつはいきなり何言ってんだよ…


『えっと…嫌ですか…??』


望月がうかがうような声で聞いてくる。


そんな声で聞かれてもな…


オレは少し悩んでから正直に答えた。


「えっと…単刀直入に言うと、嫌だ」


理由は少し言えないが…


とりあえず、海は遠慮したい。


『どうしてですか?海、楽しいですよ?』


そう言われてもだな…


「嫌なものは嫌なんだよ」


オレはきっぱりとそう言った。


『…そうですか』


電話の向こうから望月の悲しそうな声が聞こえてくる。


そしてそれから黙り込んでしまった。


………なんで急に黙り込むんだよ………


それにそんな声で言われたら…


「…やっぱ行く」


『えっ…!?』


望月は驚いたような声で聞き返してくる。


「だからやっぱ海行きたくなった!」


本当はすっげぇ行きたくねぇけどそんなに落ち込まれたら行くしかねぇだろ!?


『そうですか!なら、行きましょう!』


望月はうれしそうにそう言った。


その声を聞けただけで行くといって良かった気になる。


…まぁ、望月が喜んでくれるなら、行ってもいいかな。


オレはそう思ってしまう自分にあきれて苦笑いした。




そして土曜日。


「うわー!きれいですね!!」


望月は海を見て感嘆の声をもらした。


たしかに海は空と同じ澄み切った青で水平線がよく見える。


まぁ、きれいなことはきれいなんだけどな。


「さぁ、滝沢サン!さっそく泳ぎましょう!」


思わずギクッとしてしまう。


「あ、ああ…」


オレは無理やりに笑顔をつくって言った。


すると望月が気遣うような顔でオレを見てきた。


「滝沢サン…やっぱり海、嫌だったんですか??」


「えっ、い、いや!そんなことねぇって!」


オレは慌てて首を横に振った。


「そうですか?あっ、じゃぁとりあえず私着替えてきます」


望月はうれしそうに笑うと近くにあった更衣室に入っていった。


よし、一応オレも着替えとくか…


海パンは下に着てきている。


というか、普通にズボン代わりにしてきたし。


…一応着替えることは着替えるけど…


オレはTシャツをぬぎながらため息をついた。


……オレ、実はカナヅチなんだよな。


だから海なんてきてもすることねぇし行きたくなかったんだよ…


すぐに着替えが終わり、シートをひきはじめたとき。


「滝沢サン!」


望月が更衣室からでてきた。


「ああ、望月。早かったな…」


望月の姿を見て、思わず言葉を飲み込む。


そしてすぐに視線をそらした。


顔が熱くなっていく。


望月は普通のシンプルな水着を着ていた。


だけど普段の服とは違ってやけに体にくっついていて望月の体のラインをそのまま表している。


望月は着やせするタイプのようで、意外と大きな胸が目だってどこに視線をおけばいいのか分からない。


オレ、水着くらいでこんなにドキドキしてどうするんだよ!?


「滝沢サン?どうしたんですか??」


望月は何も気が付いていないらしくきょとんとした顔で聞いてきた。


どうしたも何も…


…望月の水着姿が可愛くてドキドキしてるなんて死んでも言えねぇ…


「いや、別に…」


オレはとりあえずそう答えた。


そしてまだしっかりとひけていなかったシートを整える。


手早くシートを整え終え、オレはそこに腰をおろした。


そして海に行きたそうでうずうずしている望月に言った。


「よし、んじゃ海行ってこいよ。オレ、ここで見てるから」


「…はい?」


望月はかなり怪訝な顔で聞き返してくる。


…まぁ、そんな顔にもなるわな。


「だからオレはここにいるから、泳いできていいよって」


オレ、泳げないし。


まぁそんなこと、正直に言うわけないけど。


「どうしてですか?滝沢サンも一緒に泳ぎましょうよ!」


望月は必至な顔でそういってくる。


う……


そんな顔で言われても…


「いや…オレは…」


どうしよ…


やっぱ正直にいわねぇとダメか…??


そう思った時。


望月がはっとしたような顔で言った。


「滝沢サン…泳げないんですか??」


顔が一気に熱くなる。


「ち、ちがっ…!」


オレは否定しようとして言葉を飲み込んだ。


いや…


やっぱ正直に言っといた方がいいか…


そう思い、首を小さく縦にふる。


望月は驚いたような顔でオレを見ていたが、急に小さく笑った。


「…それなら、砂浜で遊びましょうか!」


望月はにっこりとした笑顔でそういう。


「えっ…でもおまえ、泳ぎたいんじゃないのか?」


だってさっきあんなに泳ぎたそうにしてたし…


望月は首を横に振った。


「私は滝沢サンと一緒に遊べたらそれでいいんです」


ドキッ


心臓の鼓動が高鳴った。


「…よし、んじゃ、そうするか」


オレはそういって小さく笑った。


オレは…


望月が楽しんでくれるなら、オレが嫌なことでもなんでもしようと思ってた。


だけど、望月はオレと一緒に楽しもうと思っててくれたんだな。


そう思うとすごくうれしかった。


そしてオレ達はなぜか砂で大きな城をつくることになった。


…まぁ、やるからには結構すごいのを作ろうと思う。


「やっぱ砂固めるのって水いるよな…」


「あっ!私バケツ持ってますよ!ちょっとくんできます!」


望月はそういって子供の砂遊びようのバケツを持って海に走って行った。


…なんであんなの持ってるんだ?


「ほら!くんできました!」


望月はすぐに戻ってきた。


「それじゃそれ、ここにかけて」


そんな望月に指示をだす。


「はい!」


望月はオレの言うとおりに動いた。


だんだんと城の形ができてくる。


よし、順調、順調。


…それにしても、


「ちょっと…暑いな」


オレは手の甲で額の汗をぬぐった。


やっぱこういうときに夏だってのを実感するよなー…


とりあえずこれ、ぬぐか。


オレはそう思い、上に羽織っていたシャツをぬいだ。


なんとなく少し涼しくなった気がする。


「た、滝沢サン!次はどうすればいいんですか!?」


望月がなぜか慌てた様子でそう言った。


その顔が少し赤く見える。


望月もすっげぇ暑そうだな…


オレも顔赤くなってるかもな。


「ん?ああ…んじゃ次は…」


オレはまた望月に指示をだしていった。


そしてそんなふうにつくっていくうちに、ついに砂の城が完成した。


「す、すごいです!滝沢サン、できましたよ!」


「ああ、結構いい出来だな」


結構というよりかなりいい出来だ。


オレ達、よくここまで頑張ったよな。


オレはそう思い、望月に笑いかけた。


すると望月からも笑顔が返ってくる。


そして急に望月が黙りこんだ。


なぜか、悲しそうな顔をする。


「望月?」


オレが名前を呼んでみると、望月は切なそうな表情でオレを見てきた。


その表情に思わずドキッとする。


「どうかしたか?」


そう聞いてみると、望月は作り笑いをして言った。


「いいえ、何でもありません」




そして帰りの電車。


それまで元気そうに話していた望月が何も話さなくなった。


どうしたんだろうと思いながらもそのままにしておくと、不意に肩に何かがのった。


それは望月の頭だった。


ねてる、のか…??


望月はオレの肩の上で規則正しい寝息を立てている。


望月の髪から、潮の香りがした。


心臓の鼓動がドキドキと早くなる。


「滝、沢サン…」


不意に望月がオレの名前を呼んだ。


一瞬起きているのかと思ったが、それは寝言のようだった。


「なんだ?」


聞こえていないとわかりながらも尋ねてみる。


「ずっと…そばに…いてください…ね…??」


返事が返ってきたことに少し驚いて、そしてふっと笑う。


「ああ」


オレはそういって軽く望月の髪をなでた。

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