☆13話 海☆詩織side
「………」
私はじーっとケータイ電話を凝視した。
だけど、ケータイ電話は何の変化もない。
私は小さなため息をついた。
…滝沢サンから全然連絡ないんですけど。
滝沢サンと映画に行ったあの日、滝沢サンもケータイ電話を持っていると知ってメールアドレスと電話番号を交換したのはいいんですけど…
あれから一週間。
まったくメールも電話もありません。
私はまたため息をついてベッドに横になった。
どうして滝沢サンは何の連絡もしてくれないんでしょうか?
私は一週間も滝沢サンに会えなくてこんなに寂しくて、夏休みも全く楽しめていないというのに…
私はできることなら夏休み中も毎日滝沢サンと会って、毎日お話したいくらいなんですよ?
それなのに…
……滝沢サンは一週間も私と会えなくても、全然平気なのでしょうか…??
そしてケータイ電話を手に取って見たとき、
私はふとあることに気がついた。
あ、そうだ。
私から連絡すればいいじゃないですか。
なんでもっと早く気がつかなかったんでしょう…??
私は自分の鈍感さ加減にあきれながらアドレス帳を開く。
えっと…
メールか電話…
どちらの方がいいんでしょうか…??
ふとケータイ電話の画面の右上にある時計に目が止まった。
時刻はちょうど10時半。
電話するには少し遅い時間帯ですか??
ですが一応起きてはいらっしゃると思いますし…
いや、もしお休み中で起こしてしまったら申し訳ないですよね?
それならやっぱりメールにしますか??
そう思い、滝沢サンのアドレスを押してみる。
そして本文を打とうとしたところでふと手が止まった。
ですけど…
やっぱり、滝沢サンの声が聞きたい…
【突然すいません。今から電話してもよろしいでしょうか?】
確認してからなら…
電話してもいいですよね?
送信ボタンを押そうとして手が止まる。
ですけど…
やっぱりお休み中ならメールの音でも起こしてしまうかも…!!
…だけど、そんなこと言ってたら連絡なんて絶対とれませんよね…!!
私は意を決して送信ボタンを押した。
しばらくして、送信完了の画面がでる。
…お、送ってしまいました…
迷惑になってはいないでしょうか…??
私はそう思いながらケータイ電話を胸の前で握り締めた。
返事、返ってくるでしょうか…??
ドキドキしながらただケータイ電話が鳴るのを待つ。
そして10分程したとき…
プルルル……
着信音が鳴り、ケータイ電話がブルブルと震える。
へ、返事がきました!!
私は慌ててケータイ電話を開いた。
画面には新着メール一件という表示。
私はおそるおそるメールを開いてみた。
【いいよ】
たった三文字の短いメール。
うれしくて、私はすぐに滝沢サンの電話番号を押した。
プルルルル…プルルルル…
『もしもし』
コール音が二回鳴り、聞きなれた低い声が聞こえてくる。
ドキッ
一週間ぶりの滝沢サンの声に胸が高鳴る。
「滝沢…サン??」
『そうだけど…』
電話の向こうにいるのは本当に滝沢サンなんだ…
そう思うと安心して笑顔になった。
「うれしいです…」
私が思わずそう言うと、滝沢サンの怪訝そうな声が返ってきた。
『何が??』
「滝沢サンとお話できて、うれしいんです」
私は素直にそう答えた。
『…なんだよ、それ』
滝沢サンはそっけない声で言った。
それを聞いてくすっと笑う。
知ってますか?
滝沢サンがそっけなく言うときは照れているときなんですよ??
「だって本当にうれしいんですもの。あ、滝沢サン今何してたんですか??」
『今?今は弟の勉強教えてた。弟今年受験なんだよ』
電話の向こうから小さなため息が聞こえてくる。
「そうなんですか…でも、滝沢サンが教えるのなら弟さんは余裕で高校に受かりますね!」
だって滝沢サンは教えるのがとてもうまいですから!
『いや…弟、かなり頭悪いから無理かもしんねぇ…』
いやいや…
弟さんのことなのに頭悪いなんて言っていいんですか…??
と、そんな風に私はしばらく滝沢サンとたわいのない話をして楽しんだ。
そしてある話がきっかけで、海の話になった。
「海ですか…やっぱり夏ですもんね」
夏なんですからやっぱり海行きたいですよね。
…あ、そうだ!
「滝沢サン!今度、一緒に海行きましょう!!」
『え゛……』
電話の向こうからすごく嫌そうな声が聞こえてきた。
「えっと…嫌ですか…??」
滝沢サンの声が少し止まる。
そしてしばらくしてから滝沢サンは言った。
『えっと…単刀直入に言うと、嫌だ』
…すごくはっきりと言い切りましたね。
「どうしてですか?海、楽しいですよ?」
やっぱりこんなに暑いんですから海に入って涼しくなりたいところです…
『嫌なものは嫌なんだよ』
滝沢サンはそうきっぱりと言った。
「…そうですか」
嫌と言っている人に無理を言ってはいけませんよね…??
私滝沢サンと一緒にすごく海に行きたかったんですけど…
あきらめるしかないですよね…
私が何も言わないでいると、ふと滝沢サンが言った。
『…やっぱ行く』
「えっ…!?」
『だからやっぱ海行きたくなった!』
滝沢サンは少し大きめの声で言った。
で、でも…
さっきはすごく嫌そうな声で…
そう思い、ふと気がついた。
…滝沢サンはきっと、私に気を使ってくださっているんだ。
思わず、笑顔になる。
やっぱり滝沢サンはとても優しいんですね。
せっかくの好意なんですから…
甘えても、いいですよね?
「そうですか!なら、行きましょう!」
そして、私達は今週の土曜日に電車で近くの海に行くことにした。
土曜日。
「うわー!きれいですね!!」
目の前には真っ青な海。
それは太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
やっぱり海っていうのはきれいですねー!
朝早くから電車で苦労してきたかいがありました!
「さぁ、滝沢サン!さっそく泳ぎましょう!」
「あ、ああ…」
滝沢サンがそういってぎこちなく笑う。
??
滝沢サン、なんだか朝から様子がおかしいですね…
「滝沢サン…やっぱり海、嫌だったんですか??」
「えっ、い、いや!そんなことねぇって!」
滝沢サンは首を横にふってそう言った。
「そうですか?あっ、じゃぁとりあえず私着替えてきます」
私はそういって近くに見つけた更衣室に入った。
下に水着を着てきたので上にきていた服をぬぐだけですんですぐに着替えは終わった。
「滝沢サン!」
外に出て見ると、ちょうど滝沢サンが砂浜にシートをひいている途中だった。
「ああ、望月。早かったな…」
滝沢サンは私を見てすぐに視線をそらした。
その顔が少し赤くなっているように見える。
「滝沢サン?どうしたんですか??」
「いや、別に…」
滝沢サンはそう言って、シートを整えだした。
その後ろ姿をじっと見る。
滝沢サンは水着の上にシャツをはおっていた。
滝沢サン…
泳ぐ気なさそうですよね…
いや、それともただの日焼け防止でしょうか?
ですけど半そでのシャツですし…
滝沢サンはシートを整え終わるとそこに腰をおろした。
「よし、んじゃ海行ってこいよ。オレ、ここで見てるから」
「…はい?」
この人は何を言っているのでしょうか??
「だからオレはここにいるから、泳いできていいよって」
…この人は、
私に一人で泳げといっているのですか??
「どうしてですか?滝沢サンも一緒に泳ぎましょうよ!」
「いや…オレは…」
滝沢サンは一向に動こうとしない。
なんで滝沢サンはそこまで海で泳ぎたくないんですか??
そしてふと気がついた。
もしかして…
「滝沢サン…泳げないんですか??」
滝沢サンの顔が一気に真っ赤になる。
「ち、ちがっ…!」
滝沢サンは一度否定しかけて、途中で止まった。
そして小さく首を縦にふる。
…なんだ。
だからそんなに海に行きたくないと言っていたんですね。
私はそんな滝沢サンがなぜか可愛く思えて、小さな笑顔をうかべた。
「…それなら、砂浜で遊びましょうか!」
「えっ…でもおまえ、泳ぎたいんじゃないのか?」
私は首を横にふった。
たしかに泳ぎたかったのは泳ぎたかったですけど…
それ以前に私は…
「私は滝沢サンと一緒に遊べたらそれでいいんです」
そう、
私は滝沢サンと2人で楽しめたらと思って滝沢サンを海に誘ったんですから。
滝沢サンが楽しめないのなら意味がないんですよ?
「…よし、んじゃ、そうするか」
滝沢サンはそういって小さく笑った。
そして私達は砂浜で大きなお城をつくってみることにした。
私、一回やってみたかったんですよね~♪
「やっぱ砂固めるのって水いるよな…」
「あっ!私バケツ持ってますよ!ちょっとくんできます!」
私はそういって砂遊びをしようと持ってきていた小さなバケツを持って海へ向かった。
そして水をバケツにいれて滝沢サンのところに戻る。
「ほら!くんできました!」
「それじゃそれ、ここにかけて」
「はい!」
私は滝沢サンに指示されたところに水をかけていく。
滝沢サンはそれを手でパンパンと叩いた。
すると砂はみるみると固まっていく。
そして滝沢サンに指示されてつくっていくうちにだんだんとそれはお城の形になってきた。
滝沢サン…
すごいです!
滝沢サンは砂のお城づくりの才能があります!
「ちょっと…暑いな」
滝沢サンは手の甲で汗をぬぐうと上にはおっていたシャツをぬいだ。
ドキッ
思わず鼓動が高鳴る。
だって滝沢サンの露出した肌があまりにもきれいだったから。
とても男の人とは思えない、白い肌。
私は見ているだけで恥ずかしくなって下を向いた。
「た、滝沢サン!次はどうすればいいんですか!?」
「ん?ああ…んじゃ次は…」
というふうに、作業していくうちについに結構大きな砂のお城が完成した。
「す、すごいです!滝沢サン、できましたよ!」
「ああ、結構いい出来だな」
滝沢サンはそう言って私に笑いかけた。
私も滝沢サンに笑顔を返す。
そして完成したお城を見てふと思った。
でも…
これだけ頑張って作ったお城も…
満潮になったら、海にのまれて一瞬で消えてしまうんでしょうね…
そう思うとなんだか悲しい気持ちになった。
ふと滝沢サンを見る。
この砂のお城と同じように、私の恋も何かのきっかけですぐに終わってしまうんでしょうか??
いつかは…
滝沢サンが私じゃない女の子のそばにいるところを見なくちゃいけない日がくるんでしょうか…??
そんなの…
絶対に、嫌です。
「望月?」
滝沢サンが不意に私の名前を呼んだ。
「どうかしたか?」
そう尋ねられて、私は笑顔をつくる。
「いいえ、何でもありません」
…だけど今、私は滝沢サンの隣にいる。
来年、滝沢サンの隣にいるのは私じゃないかもしれない。
でも、今滝沢サンの隣にいるのはたしかに私。
なら今滝沢サンと一緒にいられるこの一瞬一瞬を大事にしましょう。
そう、
滝沢サンといる時間は、
私にとって一番幸せで、一番大切な時間。
最後かなり無理やりです;