☆12話 初デート☆詩織side
「なぁ、望月」
終業式が終わり、駅に向かう途中。
ふと滝沢サンが言った。
「『バイオ・〇ザード』っておもしろそうだよな」
『バイオ・〇ザード』??
…あぁ、あのゾンビがいっぱいでてくる怖い映画ですか。
「そうですか??私ああいう気持ち悪そうなのはムリです…」
だって血がいっぱいでてきたりするんでしょ?
それにあのゾンビが夢にでてきそうで…
「そうか??おもしろそうなんだけどな…」
「なら見にいってはどうですか??」
そう言うと滝沢サンは小さなため息をついた。
「それが母親も弟も姉ちゃんも誰も一緒にきてくれねぇんだよな…」
そりゃ誰もそんな気持ち悪い映画見たくないですよね…
というか滝沢サンには家族以外に誘う人がいないんですか??
「それなら1人で行けばいいじゃないですか」
「そうだな…」
滝沢サンはなぜか真剣に悩み始めた。
冗談で一人で言ったらどうですかなんて言ってみましたけど…
なにやら本気で行きそうな勢いですね…
そう思って苦笑いしたとき、私ははっと気がついた。
そういえば明日からは夏休みです…!!
夏休みといえば私達くらいの女の子達がたくさん遊んでいます。
そんな中に滝沢サンを一人でほおりだしたら…
私は横目で滝沢サンを見た。
目つきは悪いけど、きれいで普通の人の中にいると絶対に目立つ顔。
…危険です。
「…滝沢サン、やっぱり1人で行くのは止めた方がいいですよ?」
「えっ?さっきおまえが1人でいけっていったんだろ?」
滝沢サンはそう言い怪訝な顔をする。
そ、それはそうですけど…
「でもやっぱり1人じゃ寂しいじゃありませんか」
「別にオレ、そんなの気にしねぇし…」
…ダメです。
これは本当に行くつもりです。
………それなら、仕方がありません。
「それじゃぁ私もその映画、見に行きます」
滝沢サンの目が少し見開いた。
「え?怖いんじゃねぇの??」
怖いですよ…
普通なら絶対に見に行こうとも思いません。
ですが滝沢サンのため。
私、がんばります!
「…こ、怖くないですよ。ぜんっぜーん怖くないです!!」
本当は逆です。
すごく怖いです。すっごくすっごーく怖いです。
「そうか?んじゃ行くか」
滝沢サンはそう言ってうれしそうに笑った。
初めてみた無邪気な笑顔のせいで、心臓の鼓動が少し早くなる。
そんなに『バイオ・〇ザード』が見たいんですね…
…こんな笑顔見せられてしまったら、もう絶対に断れません。
「それじゃ、さっそく明日行く?」
「あ、明日ですか!?それはちょっと…」
い、いきなりすぎませんか!?
まだそんなのを見る心の準備が…
けど滝沢サンは行く気満々で、表情はいつもと変わらないけど目がとてもキラキラとしている。
うぅ…
こ、これはとても断れません…
「…いや、明日、明日がいいです!明日行きましょう!!」
…と、そんなやりとりの結果。
今、私は滝沢サンと待ち合わせした駅の前にいます。
……あのあと気がついたんですけど…
もしかして、これってデートって言うんですかね??
だって私は滝沢サンとお付き合いしているんですし…
だとしたら、すっごくうれしいのはうれしいんですけど…
…初めてのデートが、『バイオ・〇ザード』…
それって、どうなんでしょうか…??
「望月」
不意に後ろから名前を呼ばれた。
「滝沢サン?」
振り返るとそこにはやっぱり滝沢サンの姿があった。
「悪い。待ったか??」
「いえ、全然待ってませんよ!」
私だってさっききたばっかりですし…
それに、今はまだ待ち合わせの時間の10分前。
別に謝らなくてもいいですのに…
「んじゃ行くか」
滝沢サンはそう言ってさっさと歩きはじめた。
私は慌ててその後ろに続く。
そして滝沢サンの後ろ姿を見ながらふと思った。
そういえば…
今日の滝沢サンはいつもの制服姿じゃなくて、私服姿ですね…
まぁ学校に行くわけではないので当然ですか。
たしかさっき正面から見た感じでは、滝沢サンの服装はとてもシンプルでした。
紺のシャツに黒いジャケット。
そして濃い色のジーンズ。
そんなシンプルすぎる服装でもすごくきれいに着こなせる滝沢サンはとてもすごいと思います。
「望月」
ぼんやりとしていた私は滝沢サンに名前を呼ばれてはっと我に帰った。
「は、はい!なんですか??」
「着いたぞ」
「そうですか…って、えぇ!?」
滝沢サンの言うとおり目の前には映画館。
えっと…
少し近すぎませんか…??
「ここ駅の近くにあるから便利なんだよなー。さ、行こうか」
た、たしかに便利ですね…
いや、それよりも!
私まだ心の準備が…
滝沢サンは私の気持ちなんておかまいなしでささっと映画館に入っていく。
うぅ…
仕方ないです…
がんばります…
席は昨日のうちに滝沢サンがパソコンでとってくださっていたようで、私達はすぐにスクリーンに入ることができた。
時間も滝沢サンがうまく合わせていたようでぴったりの時刻。
…どれだけ楽しみにしていたんですか??
そんなにゾンビの気持ち悪いのが見たいんですか…??
そんな風に考えているうちに、急に部屋の中が薄暗くなる。
そして映画の予告が始まった。
へぇ…
こんな映画が上映されるんですか…
私としてはどちらかと言うとこちらの方が見に行きたい気もするのですが…
そして予告の中に一つ恋愛物の映画があった。
予告なのに、主人公の2人は熱烈に口付けをする。
私は見ているだけで思わず顔が赤くなった。
す…すごいです。
こんなの子供が見ているかもしれないのに…
予告でしていいんでしょうか…??
そう思っているうちに部屋が完全に暗くなる。
こ、これは…
ついに始まってしまう感じです…
思ったとおり、本編が始まった。
最初はまだ大丈夫です。
ゾンビがでてくるわけではなく、ただの外国の映画みたいな感じです。
前半の途中…
ゾンビが登場。
この変でそろそろやばいです。
後半。
ゾンビの大軍が襲ってきます。
何やらボス的なゾンビまででてきました。
そろそろ限界です…
目に涙がたまる。
た、滝沢さぁん…
滝沢サンの方を見てみると、滝沢サンはとてもわくわくとした様子でスクリーンに見入っていた。
な、なんでそんなにも集中できるんですかぁ…??
私はこのまま見ていたら本当に泣きだしてしまいそうでとりあえず目をつぶって耳をふさいだ。
うぅ~~~~!!
早く終わってくださーい!!
……そして死闘の末、映画は終了。
「あー、すっげぇおもしろかったな!」
滝沢サンは珍しくにこにこと笑いながら言った。
「そ、そうですね…」
すごくこわかったですね…
おかげ様で私、後半ほとんど見ていませんよ…
「特にあそこの場面はハラハラしたな!あれはもう絶対無理かと思った!」
滝沢サンは楽しそうに映画の感想を言う。
だけどほとんど私が見ていないところばかり…
すいません…
私ほとんど耳と目、ふさいでたんです…
そして滝沢サンは一通り感想を話し終えたあと言った。
「よし!それじゃぁ映画も見たことだし…帰るか!」
「えっ?もう帰るんですか??」
私が言うと滝沢サンは不思議そうな顔で私を見た。
「いや…だって今日の目的は映画だろ?それが終わったんだからもう帰るだろ」
えっ??
そういうものなんですか??
滝沢サンは映画が見たかっただけなんですか??
他に買い物したり歩きまわったりしなくていいんですか??
これって…
デートじゃないんですか??
「滝沢サン…ただ、映画見たかっただけなんですね」
「えっ?いや、別に…」
なぜか怒りがこみあげてくる。
私が勝手にかんちがいしていただけなのに…
私ってすごく勝手です。
それでも、なぜか悲しくて腹が立つ。
「勝手にデートなのかもって思ってた私がバカでした」
私はそう言って滝沢サンに背を向けた。
「おい、望月!」
後ろから滝沢サンが私の名前を呼ぶ。
けど私は無視して駅の方向に向かった。
だんだんと早歩きになっていく。
…いいんです。
もともと滝沢サンは1人で行くつもりだったのに…
私が無理やりに一緒に行かせていただいただけですから。
別に映画だけでも滝沢サンと一緒に行けるってことだけでうれしかったはずなんですから。
だから、別に映画だけでもいいです。
だけど…
なぜでしょうか??
滝沢サンにとっては今日は別に特別でもなんでもない。
ですけど、
私にとっては滝沢サンとの初めてのデートだと思っていた。
その小さな違いがすごく悲しいんです…
「待てよ!」
滝沢サンに腕をつかまれた。
私は足をピタリと止める。
「何怒ってんだよ…??」
「…別に、怒ってなんかいませんよ?」
だって怒る理由がありませんから。
怒ってないですけど…
「なぜか、悲しいんです…」
返事が返ってこなかった。
後ろにいる滝沢サンの怪訝な表情が目に浮かぶ。
けど、しばらくしてから返ってきた返事は以外だった。
「ごめん」
…へっ?
私はびっくりして振り返った。
滝沢サンは申し訳なさそうな顔で私を見ている。
「どうして滝沢サンが謝るんですか??」
「いや…なんか無理やり見たくもない映画に連れてきちまって…」
ああ…
そのことですか…
「いいですよ。もともと行きたいと言ったのは私ですから」
「それと…」
滝沢サンは何かを言いかけてとどまった。
そしてほんの少し頬を染める。
「オレも、これってデートなのかもって思ってたぞ…??」
滝沢サンは小さな小さな声でそう言った。
私は思わず目を見開く。
えっ…??
そうだったんですか…??
「で、ですけどさっき目的は映画だって…」
「いや、普通に目的は映画だろ?映画行くだけじゃデートにならないのか?」
そう言った滝沢サンの言葉で私は気づいた。
あ………
そうですよね。
私は普通デートっていうのは2人でいろいろなところを回ったりするのがデートというのだと思っていましたけれど…
滝沢サンと私は違う人間ですから…
考え方が違ってて当然ですよね。
「…そうなんですか」
だけど…
私の考えじゃ、これだけじゃものたりません。
私は、もっともっと滝沢サンと一緒にいたいです。
「でも、私はまだ、他の所もいってみたいです」
滝沢サンと一緒に買い物もしたいですし…
お茶もしたいですし…
したいことがいっぱいあるんです。
「あと少しだけ、お付き合い願えませんか??」
「…ああ」
滝沢サンはそう言って小さく笑った。
それから私は滝沢サンに少しの買い物に付き合っていただいた。
時間はあまりなかったから少ししか見れませんでしたが…
私にとってとても楽しい時間だった。
そして帰り道。
「今日は楽しかったですね!」
私がそう言って滝沢サンに笑いかけると滝沢サンも笑顔を返してくれた。
「そうだな」
本当に楽しかったです。
滝沢サンと(無理やり)お揃いのキーホルダーを買いましたし!
ですけど…
これで終わりだと思うと、少しさびしいです…
そんな私の気持ちを見透かしたのか、不意に滝沢サンが言った。
「…これから夏休み始まるし、またどっか行こうぜ」
「は、はい!」
私はそれを聞いてうれしくて、大きく首を縦にふる。
やった…!!
また滝沢サンと一緒にどこかへ行ける。
学校がなくても、滝沢サンと同じ時を過ごせる。
…よし!
いっぱいいっぱい遊びますよ!!
夏休み、滝沢サンとの思い出をいっぱいいっぱい作ります!
一応『バイオ・〇(←強調)ザード』です。
私結構好きな映画なんですよねー(*^_^*)
それにしても最後らへんがまたあまりよく分からない(汗