★10話 意味★響side
次の日の朝。
オレはいつもの時間、いつものように学校に登校する。
いつもと変わらないようで、
少し、違う。
オレの頭の中には昨日の望月の言葉が何度も繰り返されていた。
…『滝沢サンのことが、好きです』…
頬が熱を帯びる。
そうだよ…
オレ、昨日望月に告られたんだ。
そしてオレも望月に告白して……
まぁあのときは勢いもあったんだが…
……どんな顔して望月に会えばいいんだ??
いつものようには顔合わせられねぇよな……??
考えているうちに、いつのまにか学校が見えてくる。
…まぁ、話しかけられたら話せばいいだろ。
とりあえずそう片づけてオレは校舎に入った。
そして教室の前まできて、ピタリと足が止まる。
「望月…??」
教室の扉の前に望月が立っていた。
何してんだ?あいつ。
「た、滝沢サン…」
望月は振り返ると、顔を真っ赤にさせた。
「あ…!お、おはようございますッ!!」
慌てたような声でそう言うと深く頭を下げる。
「…おはよ」
オレは望月の方を見ずに返事した。
まだ望月と顔を合わせる用意をしていなかったので、顔が熱くなっている。
あぁ…
だめだ。
こいつと話すと調子狂う…
「あの…滝沢サン…」
「なんだよ?」
「あ、あの、私達って…」
望月はためらいがちにそう言って、口をつぐんだ。
口を開きかけたと思うと、また閉じる。
何が言いたいんだ??
そう思って少しいらいらしかけていたとき、
「…お付き合い、していることになるんですよね??」
望月が小さな声で言った。
予想していなかった言葉に思わず顔が火がついたように熱くなる。
はっ??
ち、違うのか…??
オレ、両想いだったら普通そのまま付き合うことになるって思ってたんだけど…
「…そうじゃねぇの??」
さっきまで不安げだった望月の表情が一気に明るくなる。
望月はほっと息をついて言った。
「…そうですよね!」
そしてオレににこりと笑いかける。
ドキッ
ふいに向けられた笑顔に心臓がひと際強く鳴る。
「私、滝沢サンとお付き合いできるなんて、本当に夢みたいです…本当に…すごくうれしいです」
望月はにっこりと笑いながらそう言った。
こいつは…
なんでこんな恥ずいセリフを普通に言えるんだ…
けど、
それだけ望月がオレのことを想ってくれているんだと思うとうれしかった。
…まぁ、たまにはオレも素直に言ってもいいかもな。
「オレも…」
そうオレが口を開きかけた時…
「詩織ちゃーん!おっはよー!!」
中川がぽんっと望月の背中を叩いた。
「何朝から教室の前でいちゃついてるのよ!」
その後ろから鳥山がにやにやとしながらこっちにくる。
げっ…
オレ、こいつら苦手だ…
それに絶対にひやかされる…
そう思い、オレは望月達に気づかれないようにそっと教室に入った。
「なぁ、おまえと望月ちゃんって結局どうなったの??」
休み時間。
急に橋本が話しかけてきた。
こいつ…
なんで何もなかったような表情でオレに話しかけられるんだ??
オレは合宿のときにこいつにされた仕打ちを思い返してみた。
たしか…
望月に手だすみたいなこと言ってさんざんオレに神経使わせてくれたよな…
しかも人に如何わしい睡眠薬入りの飴なめさせるし…
思い出すだけで腹が立ってくる。
…無視だ、無視。
オレはそう思い無視を決め込む。
「…なんだよ。せっかく人がちょっと反省してお詫びにおまえらを応援してやろうと思ってるのに…」
おまえなんかに応援してもらわなくても結構だ。
だいたいオレはこいつに復讐されるようなことは何もしてないはずなのに、勝手に恨まれてたし…
こいつとはかかわらない方がいい気がする…
「はぁ…分かったよ。んじゃとりあえずオレからアドバイスをしといてやる」
橋本はため息をついて言った。
「…アドバイス??」
少し気になり、思わず口を開く。
橋本はオレがしゃべったのに満足したようで得意気な顔で言った。
「付き合ってるってことは印みたいなのにもなるんだぜ??」
「は?印??」
印って…
どういう意味だ??
「だから、望月ちゃんはオレのだから気安くしゃべったりすんな!って言う印だよ!」
「そ、そうなのか…??」
な、なるほど。
たしかに普通人の彼女には手ださないよな…??
へぇ…
それって結構便利だな。
「…まぁ、それでも手だすやつは手だすけど」
そう言って橋本はにやりと笑う。
こいつ…
まだ、あきらめてないな…
「おまえには絶対無理だよ」
オレはそっけなく言った。
「は?何が??」
そうやってとぼけて裏ではまた望月をくどこうとするつもりかしらねぇが…
オレが絶対、望月におまえの方が良いなんて思わせないようにするからな。
「いや、別に?」
オレは橋本に向かってにやりと笑った。
昼休み。
オレは屋上で望月と並んで昼飯を食べていた。
「滝沢サンは、お付き合いするってどういうことだと思いますか??」
急に望月が真剣な顔で変なことを言いだす。
「なんだよ…いきなり…」
こいつ、たまにわけわかんねぇところあるよな。
…まぁ、そんなとこもいいんだけど。
「いえ、ふと気になってしまって…」
望月はなぜか本当に深刻な表情だ。
これはやっぱりオレも真剣に考えた方がいいのか…??
けど、付き合うってどういうことだと言われてもな…
考えてみたところで、ふとさっきの橋本との話を思い出した。
「…印」
たしか、そんな話だったと思う…
「えっ??」
望月が聞き返してくる。
「印なんじゃねぇの??」
自分が所有してるって証…
そう言うことだよな…??
「どういう意味ですか??」
どういう意味って聞かれても、なぁ…
「なんて言ったらいいのかわかんねぇけど…ただ一緒にいるだけだったら他の奴に手だされても何も言えない。だけど『付き合ってる』って言うんなら他の奴は簡単には手だせなくなるだろ?」
自分で言って、その言葉にあらためて納得する。
だけど望月はまだ納得できていないような顔だ。
「だから…簡単に言ったら『自分のだから触れるな』っていう印なんだよ」
この言い方なら分かりやすいか??
望月は少し目を見開いた。
「そ、そうなんですか…」
そして小さな声でそう言ってうつむく。
その顔が少し赤くなっているように見えた。
??
なんでこいつこんなに照れてるんだ??
理由を考えてみて、すぐに気がついた。
ま、待てよ…??
さっきオレが言ったことって、まるでオレが他の奴に望月に触れて欲しくないって言ってるみたいじゃねぇか!!
顔が熱くなってくる。
「い、いや!別にオレがそう思ってるわけじゃねぇぞ!?他の奴だとそう思うかなと思っただけだ!」
オレは慌てて弁解した。
「は、はい…」
望月が頬を染めたまま言う。
あー…
絶対説得力ねぇな…
それからオレ達は何も話さず、沈黙が続いた。
…まぁ、別に思ってないわけではないけど。
そう思い、横目で望月を見た。
まだ少し頬を染めたまま、小さな口に一生懸命飯をつめこんでいる。
その動作一つが愛らしい。
オレ、他の奴が望月に触れるなんて絶対に許せねぇ。
それ以前に、望月が他の男と話すことにさえいらいらとするかもしれない。
そう考えている自分に驚いた。
…オレ、いつの間にこんなに望月のことが好きになってたんだろう??
最初は苦手な奴って思ってたのに…
いつの間に『苦手』が『好き』に変わったんだろう??
…まぁ、いいか。
そんなことはどうだっていいんだ。
今、隣に望月がいる。
それだけでいいじゃないか。
オレはそう思って小さな笑顔をうかべた。
橋本さん、なんかでてきました。
…他に使う人がいなかったので…