★8話 合宿★響side
今日から2日間の合宿が始まる。
正直あまり気がのらない。
だいたい2日間も朝から晩まで団体行動だなんて体力がもたない…
しかも今日の朝だって集合すっげぇ早いし…
6時学校集合ってなんだよ!?
もうちょっと寝かせてくれよ!!
まったく…
学校ってやつは気がきかないもんだな…
集合するとすぐに校長の長い話や諸注意やなんとかをいろいろと聞かされる。
しかもその間、ずっと立ちっぱなし。
…拷問だ、これは。
やっとそれがおわってバスにのりこむ。
…よし、こうなったらバスの中でずっと寝ててやる…
そう決心したとき、オレは肝心なことを忘れてたんだ。
荷物を置いて席に座り窓にもたれて、さぁ寝よう、という態勢をとったとき…
「滝沢サン!今日から2日間、よろしくお願いしますね!」
横から望月の元気いっぱいな声が聞こえてきた。
…そういえば、望月と席隣だったんだ…
「…ああ」
短くそう返事する。
なんでおまえはこんなに早く起きてそんなに元気なんだ??
オレはもう瞼が鉛のように重いって言うのに…
「滝沢サン、大丈夫ですか??元気ないですよ??」
望月は心配そうにそう言ってきた。
「…眠たいんだよ。寝かせてくれ…」
本当に…
もう瞼をあけているのが限界に近いんだよ…
「そ、それは失礼しました!ど、どうぞごゆっくりお眠りください!」
望月はオレの様子に気がついたのか慌てたようにそう言った。
「そうさせてもらうよ」
そう言ってオレは望月に背をむけた。
寝顔を見られるのはなんか嫌だしな。
…よし、それじゃぁさっそくゆっくりと寝よう…
そう思い瞼を閉じた。
だが…
……寝れない。
いや、眠たくなくなったからじゃなくて、妙に後ろから視線を感じて眠れない。
オレは意を決して振り返ってみた。
思ったとおり、望月が悲しそうな顔でじーっとオレを見ている。
…こんなんで眠れるかっ!!
オレは寝るのをあきらめてまっすぐに座りなおした。
もういい。
今日は絶対に消灯と共に寝てやる…
「どうしたんですか??」
「眠たくなくなった」
オレは嘘をついた。
本当はものすごく眠たい。
本当の本当に目をあけているのがやっとだ。
望月が急にオレに笑いかけた。
普通ならオレがこんなに頑張ってるのに自分だけ笑うなよと思うところだが…
逆にオレは望月の笑顔で少しだけ目が覚めたような気がした。
「…何笑ってんだよ」
「いえ、滝沢サンって優しいなぁと思って」
…なんでそんなことさらっと言えるんだ??
「なんでそうなるんだよ…」
オレは顔をしかめた。
それに…
好きな女に優しくねぇ男なんてどこにいるんだよ…??
まぁ…
そんなこと、死んでもいえねぇけど…
それから目的地につくまで、オレはなんとか目をこじあけて楽しそうに話す望月の相手をしていた。
そして結局一睡もできずに目的地に。
…でも、だんだん目が覚めてきたような気がする。
まず最初の観光場所は『名古屋城』。
バスをおりてガイドについて城の中を見て回る。
…あ、オレ、名古屋城のことならもう知ってるのでバスで待っています。
よっぽどそう言いたかったが楽しそうにしている望月を見逃すのは惜しいのでしぶしぶと付いて回る。
それからバスを乗ったり降りたりしながらいろんなところを回り、
やっとホテルについたときにはもう体力に限界がきていた。
学年主任の伊崎がこれからの指示をだし、やっと各々の部屋に向かう。
男女、班別らしく、オレは中島と橋本と同室だ。
これといって話すこともないので荷物をおいて、さぁ今度こそ寝よう…と思った時、
「なぁ、滝沢!」
橋本に声をかけられた。
…なんでみんなオレを寝かせてくれないんだ。
まぁこいつはどうでもいい奴だし無視してやろうかとも思ったが、明日気まずくなるのもと思いしぶしぶ返事をした。
「…何だよ??」
「おまえってさ、望月ちゃんとキスしたことあるの?」
驚きで完全に目が覚めた。
「はぁ!?」
こいつはいきなり何を言いだすんだ!?
「そんなんするわけねぇだろ!?つき合ってもねぇのに…」
「えっ、つき合ってねぇの!?」
中島が驚いたようにそう言った。
…おまえはいきなり話に入ってくるな…
「へー、おまえ、望月ちゃんと付き合ってねぇの」
橋本がにやりと笑った。
どうもこいつの笑い方はあやしい気がする…
「オレはもういくとこまでいってると思ってたのに…」
そしておまえは何も言うな、中島。
「でもおまえ、望月ちゃんのこと好きなんだろ?」
「…好きじゃねぇよ」
そう言うと、橋本はにやりと笑った。
「んじゃ、オレ何してもいいよな?」
「…どういう意味だよ」
「別に。ただ、望月ちゃんのこといいなって思ってるだけだよ」
こいつ…
望月に手だす気か…!?
橋本はオレの表情を見てにっと笑う。
「なぁ、もうすぐ夕飯だぞ?」
中島の言葉で時計を見るとすでに夕飯の時間がきていた。
「ああ、んじゃはやくいかなくちゃな」
橋本はそう言って立ち上がり、オレの横を通るとき小さく耳打ちした。
「いっとくけどオレは好きなやつにキスもできない臆病者じゃないから」
「………!!」
こいつ…!!
絶対明日望月に手だすつもりだ…!!
いや、明日ともかぎらない。
もしかしたら今日…
そう思うと気が気でなくなる。
オレはそんな気持ちのまま宴会場へ行った。
宴会場にはすでに望月達がきていた。
オレ達はその向い側の席に座る。
橋本が何気なく望月の前に座った。
それだけでオレの心配は大きくなる。
これはずっと見はっとかねぇと…!!
全員がそろったところであいさつをし、食事に手をつける。
オレは一応食事に手をつけるが夢中になる場合ではない。
橋本の行動だけに注意を向け集中する。
「望月ちゃんってすごい幸せそうにご飯食べるよなー!」
橋本が望月に話しかけた。
望月は食べる手を止めた。
「そ、そうですか??」
「うん。なんか見てておもしろい」
そう言って橋本はくっくっと笑う。
別におもしろくなんかねーよ!
そんなどうでもいいことで望月に話しかけるな!!
オレはいらいらと天むすに手をつけた。
怒りの気持ちの方が大きくて全然味を感じなかった。
夕飯を食べ終わり、風呂に入った後、オレは橋本と口を聞くことなく布団にもぐりこんだ。
…まさか夜な夜な望月のところに行くとかは…
いや、それはないよな。
それにしてもあいつ…
明日、望月に何するつもりだ…??
オレは今日、絶対に早く寝ると思っていたつもりが、
望月のことが気になってなかなか眠れなかった。
中島くん…
話に入れない…
かわいそう…