★5話 気持ち★響side
「それじゃぁ中間の答案返すぞー!」
担任の澤田がそう言い、出席番号の順に答案用紙がかえされていく。
そう、今日このまえの中間の結果がすべてかえってくるのだ。
自分の点数はまぁ安心だ。
だが、望月の点数が気になる。
せっかくあれだけの時間と労力を使って教えたんだ。
せめて平均以上はとって欲しい。
「滝沢響」
名前を呼ばれてとりあえず自分の答案をとりにいく。
点数はもちろん満点。
まぁここのテストは簡単だから当然だがな。
…いや、自慢じゃなくて。
そして望月の番がやってきた。
「望月詩織」
「は、はい!」
名前を呼ばれた望月はなぜか大きな声で返事をして答案をとりにいった。
…あいつ、小学生みたいだな。
「おい、望月」
オレは望月が席につくなり声をかけた。
「どうだった??」
オレの問いに望月は首をかしげて答えた。
「はい…よくわかりませんが…」
オレは望月に渡された答案用紙を見た。
点数は『64点』。
オレにとっては人生の終わりみたいな点数だが…
こいつにしては上出来な方だろ。
「んー…まぁ、いいんじゃねぇの?」
そう言うと望月は顔輝かせた。
「そうですか??ありがとうございます!これも滝沢サンのおかげです!」
そう言ってぺこりとオレに頭を下げる。
あれ?なんかこいつオレに頭下げてばっかりじゃね??
…まぁいいけど。
「あっ、そういえば、滝沢サンはどうだったんですか??」
「知りたい?」
望月は強くうなずいた。
見せるのってなんか自慢になりそうで嫌なんだが…
まぁ、いいか。
オレは望月に答案を見せた。
望月の目が大きく見開かれる。
「ひゃ、ひゃ、百点…ですか!?」
「まぁ、この学校のテストって結構簡単だし…」
家で軽く教科書とノートを読み直したら大体分かるだろ…
そのあとのテスト返しでもオレはすべて満点をキープ。
まぁ、当然だな。
…いや、本当に自慢じゃないぞ??
オレが答案用紙を片づけようとしていると、
「おまえオール100かよ!?すげぇな!!」
「滝沢クンって以外と頭いいんだね♪」
数人の男女がオレのまわりに集まってきた。
どうやらオレの答案をのぞきみたらしい。
「いや、別に…」
…オレ、こういうの苦手なんだけど…
ふと横を見ると望月が何かを話したそうな目でオレを見ていた。
あっ、そういえば望月に平均どうなったか聞いてなかったな…
そう思い、望月に話しかけようとするが、まわりのやつらがどんどんオレに話しかけてくる。
「やっぱり新入生代表ってのはだてじゃないんだな!」
「かっこよくて頭良いって最高だよね!」
い、いや…
オレ、望月と話したいんだけど…
そう思ってはっとする。
オレ…
なんで望月と話したいとか考えてるんだ??
望月に話しかけられるの…
嫌じゃなかったのかよ…??
望月はじっとオレの方を見ている。
その顔がなぜか悲しげに見えた。
「あの…オレ、あいつと…」
オレがそう言うとまわりに集まっていたやつらの一人がオレの耳元でこそっと言った。
「えっ?何?おまえって望月のこと好きなの??」
好き?
いや、そんなんじゃなくて…!!
「まぁたしかにな、あいつ結構可愛いもんな」
かわ、いい??
あいつが…??
オレは無意識に望月の方を見た。
望月はいつも一緒にいる女子2人と話している。
可愛いって…
別に…
ただ目がぱっちりしてて、まつ毛が他の女子よりも普通に長くて、真っ黒なきれいな髪で…
って…
普通に…可愛いってことじゃねぇか…
「えー??そう?あんな子、滝沢クンに合ってないよ!」
そばにいた女子がそう言った。
なぜかその言葉に怒りを覚える。
「…おまえよりは可愛いと思うけど」
オレははっきりと思ったことを言った。
言ったやつの顔が赤くなる。
「はっ!?何それ!せっかくかまってあげたのに、最悪!!いこっ!」
そいつはそう言うとオレのまわりにいたやつを連れてオレから離れていった。
…なんでオレ、さっき望月のことけなされてムカついたんだ…??
考えて見ても答えが見つからない。
ようやく見つかった答えも、否定する。
…いや、それは違う。
絶対に違う。
…あー!オレ、わけわかんねぇ…!!
頭をかかえたとき、今度は女子ばかりの軍団が集まってきた。
「滝沢クン!」
名前を呼ばれる。
望月に呼ばれる時は、またかよ…と思いながらも少しうれしかったりする。
でも、他の奴に呼ばれると答える気にもならない。
オレが返事をかえさないでいると、まわりのやつらは勝手に話し始めた。
あー…
うるさい…
どっかいってくんねぇかな…
そんな風に話を聞き流していたとき、
「た、滝沢サン!!」
たくさんの声が混じり合う中で、たしかに望月の声が聞こえた気がした。
望月??
まわりを探してみると、集まっている女子軍団の後ろに、たしかに望月がいた。
「…何??」
オレは望月の方を見て言う。
望月は驚いたような顔をして、そして続けた。
「ちょっとお話したいことがあるんですけど…」
望月はとまどいながら言った。
「少し、きてくれませんか??」
その声は望月にしてははっきりとした声だった。
「ちょっと、今滝沢クンは私達としゃべってるんだけど」
群がっている女子の一人が望月にそう言う。
いや…
オレ、しゃべってねぇし。
望月は少しびくっと震えた。
このまま引き下がるだろな…
そう思った。
だが望月はふるふると首をふった。
そしてオレの手をつかむ。
「望月??」
望月はオレの手をぐいぐいとひっぱる。
いつもおとなしくしてる望月がこんな行動をとるとは思わなかった。
オレは驚きながらも立ち上がり、望月に手をひかれるままついていく。
「どこ行くんだよ??」
そう問いかけても望月は何も答えない。
ただ、オレの手をひっぱるばかりだった。
オレはあきらめて、ただ望月についていく。
そして望月は屋上で足をとめた。
望月はオレの手をはなし、背を向ける。
「おい、望月…」
名前を呼んでみても何も答えない。
どうしたんだよ…??
オレは望月の肩をつかんで名前を呼んだ。
「もちづ…」
しかし、思わず途中で止まる。
「おまえ…」
泣いてる…のか…??
望月は振り返った。
ドキッ
心臓の鼓動が強くなる。
だって…
涙に濡れた望月の顔があまりにも頼りなげで、可愛らしく見えたから。
「滝沢サン…お願いがあるんです…」
望月はふるえる声でそう言い、涙をぬぐった。
おね…がい…??
「…私以外の人と、お話しないでください…」
オレは望月の言葉に驚いて思わず目を見開く。
「は…??なんだよ、それ…」
何言ってんだ?こいつ。
「おまえ、オレがいつも1人だからって気つかってたんじゃねぇの??それなのに他の奴としゃべるなって…矛盾してるだろ…」
オレがいつも1人だったから…
おまえはオレのこと、怖いと思ってんのに無理して話しかけてたんだろ…??
それなのに…
わけわかんねぇ…
「分かってます!でも!」
望月がまっすぐにオレの目を見てくる。
なぜか、オレの鼓動ははやくなっていた。
「私、滝沢サンが他の人と話してるのを見るのは嫌なんです!滝沢サンは私だけのお友達でいて欲しいんです!!」
え…??
それって…
思わず都合のいいことを考えてしまう。
だけどすぐに打ち消した。
「滝沢サンは…私の大好きなお友達ですから…」
望月はしばらく間をあけてから、ためらうように言った。
「なんだよ、その理由…」
大好き…
その言葉が頭の中で鳴り響く。
望月がオレのことを…??
また都合のいい解釈をしそうになる。
いや、でもそれは友達としてだろ??
望月から見て、オレはただの友達なんだから…
…いや、オレにとっても望月はただの友達だろ…??
だけど、なぜか胸が誰かに鷲掴みされたように痛くなる。
なんでだよ…
…いや、分かってる。
なんでオレがこんな気持ちになるかなんて。
オレは…
「オレも…好きだよ」
素直な気持ちをぽつりとつぶやいた。
そしてすぐに自分の失言に気が付き慌てて言い訳をする。
「い、いや!友達として、だ!」
「えっ、あ、はい。わかってますよ…」
そう言われて、やっぱりオレは友達としか思われてないんだな、と思う。
悲しい気持ちをごまかすようにオレは望月を見ずに言った。
「まぁ…はっきり言っておまえ以外のやつとしゃべるなとか言われても、それは嫌だ」
そんなことない。
オレはほかの奴と話さなくても、おまえと話せればそれでいいんだ。
望月が悲しそうな表情をうかべる。
だから、オレは言葉を付け加えた。
「でも…………」
ほんの小さな声だったが、自分で言ったことに驚いてしまった。
「…もー、いいだろ!」
オレは逃げるように屋上をでる。
ドアをしめて、その場に座り込んだ。
「オレ、何言ってんだよ…?」
顔が燃えるように熱くなる。
『でも、オレの一番はおまえだから』
自分で言ったことを思い返すと恥ずかしすぎて死にそうになる。
あー…
オレ、バカだ…
あの言い方じゃ、別の意味に聞こえるじゃねぇかっ!!
ほんとオレバカみたいだ…
しかも気づきたくないことに気づいちまうし…
オレは大きなため息をついた。
そして1人、小さな声でつぶやく。
「オレ、望月のことが好きだ…」
あらすじに『素直じゃない』って書いてるわりに響って意外と素直ですよね…
…実はあまり響の性格って決まってないんです。
とりあえず心の中ではよくつっこみいれてる人ってことで(;一_一)