第二部「破滅を照らす者:魂を映す鏡」その8
目次
第20章「己との戦い」
第21章「不確定なピース」
第22章「鏡よ鏡」
あとがき
第20章「己との戦い」
「ハッ…俺をぶち殺す?やってみろよ馬鹿が!永遠に自分と殺し合ってろ!!」
どうしたらいいんだろう…!
『彗星』を投げて戦うにしても…
また俺の分身が、俺と同じ様に『彗星』を投げるから意味がない!
しかも…分身を倒せたとしても、その分身のオリジナルも死ぬって…
こんな状態でどうやって…!
【皆が状況の打開策を考えていると、ジョゼフィーヌが口を開いた。】
「いま1度…皆さんに伝えておかなければならない事があります。」
「な…何ですか?」
「私はこれから…無力化よりも殺害を優先します。」
「さ…殺害…ッ!?」
「俺も賛成だ。アイツが後どれ位の『祝福』を持ってて、それがどんな能力なのかすら分かんねぇんだ。下手すりゃ一瞬で全滅しかねない状態で全力を出さねぇってのは…ただの自殺行為だ。」
「OKっす。」
確かに星次さんの言う通りだ…
人を殺すなんて考えちゃいけないけど…
相手は手加減してくれるわけが無いんだ…なら!
「わ…分かりました…!」
いつまでもわがままを言って皆の足を引っ張ってられない!
それに…今は俺にも戦う力があるんだ!
もう…怯えて逃げてばかりで…後悔はしたくない!
「皆さん…ありがとうございます。これでもう…遠慮は要りませんね。」
【彼女のその声からは、いつもの様な優しさと明るさが消えていた。そこにあったのは、全てを凍てつかせる様な冷たさと、機械の様に冷静で正確な殺意のみだった。】
「…ッ!?」
【それは声だけでなく、目にも表れていた。その目からは、相手に自らの死を悟らせる様な絶対的な恐怖を与える視線と、青色の淡い光が放たれていた。】
「すげぇプレッシャーだな…流石にビビっちまったよ…もっと死神らしくなったんじゃねぇか?」
こ…怖ッッッわ!?
え?雰囲気変わりすぎじゃないですか?
さ…殺気って本当に感じ取れたんだ…!
「…で?俺達の覚悟ができたうえに、あんたのリミッターも消えたのは良いが…どうやってアイツを殺すんだ?」
「まずは観察し、情報を整理しましょう。」
「確かにそうですね…そうしないと俺達の攻撃は絶対に届くわけないですし…」
「予想でもなんでも良い…とりあえずあんたの考えを聞かせてくれねぇか?」
「了解しました、5秒ほど時間を下さい。」
「えっ…5…!?」
さすがに今のは…聞き間違いだよね?
たったの5秒だよ?
【彼女は宣言通りに5秒で考えをまとめると、声を抑えて3人に話しかけた。】
「皆さん…聞いて下さい!」
マジで5秒じゃん!
思考回路どうなってるんですか!?
「OKだ。」
「OKっす。」
「は…はい!」
第21章「不確定なピース」
「まず、彼の『魔道具』の使い方についてです。使用方法は恐らく…『鏡面内に対象の姿を映し続けること』では無いかと思われます。」
「あぁ、そこは何となく分かるんだが…問題は能力だ。そこについては何か分かったか?」
「はい、あの『魔道具』の能力の数は恐らく…主に2つのはずです。」
「2つですか?」
「1つめの能力は…『鏡面内に対象の魂を映し出す』というものではないかと思われます。これは私の予想ですが…対象の『魂』を覗き見ることで、相手の情報を一部分のみ得ることができるのではないかと私は考えています。彼が全ての情報を得られていない証拠として、私達は『真名の支配』を受けていません。」
「何でこんな能力だって分かったんすか?」
「それは後でまとめてお話しいたします。今は2つめの能力…『自壊の鏡像《Doppelgänger》』についてが有先です。」
「まぁ、それが一番の問題だよな…あんたの意見を聞かせてくれ。」
「私の考えが正しければ、『自壊の鏡像《Doppelgänger》』の効果は…『対象の魂をコピーし、実体化させる』というもののはずです。」
「基本的に『魂』が関係してるんすね。」
「先程の春喜さんの質問の答えにもなりますが、私が…彼の『魔道具』そのものが『魂』に干渉するものであると考える理由は…私に対する彼の言動と、『自壊の鏡像《Doppelgänger》』によって実体化された私達のコピーが…私達の『祝福』を所持しているというのが大きな根拠になります。」
「え…?どういう事ですか?」
「マーリンさんの知識によると、『祝福』というものは個人の精神や魂を具現化したものです。」
「なるほどな…言い換えれば『祝福』は自分の精神でもあり魂でもある…つまり、あいつが俺達の『祝福』をコピーできてるってことは…俺達の『魂』もコピーされてるってわけか。」
「予想が正しければ…そうなるはずです。」
「あいつの『魔道具』がどんな物なのかは大体分かってきたが、あいつの弱点と肝心の殺し方が…」
「弱点と打開策ならあります。」
「えっ!?」
「作戦については即興のものですが…試す価値はあるかと思われます。そして、能力の弱点に関しては、明らかに私達に有利なものです。ですがこれはあくまでも私の予想なので…星次さんにお願いしたい事があります。」
「俺は何をすればいい?詳しく聞かせろ。」
「星次さんの『異能』…『隠された真実』で、これから私がお伝えする事の真偽を明らかにして頂けませんか?」
第22章「鏡よ鏡」
「おい!いつまで仲良くおしゃべりしてるんだ?そろそろ腕が疲れてコイツを落としちまいそうだ…」
「じゃあ、とっととそいつをしまえよ。それとも…それが無ぇと俺達の分身を保てねぇのか?」
「あぁ、ちょっと見て考えりゃ分かんだろ?」
【へカーティアがそう返事をすると同時に、星次の目が少しだけ緑色に光った。】
侮蔑、優越、楽観…嘘は着いてなさそうだな。
まぁ…俺達を見下して、『自分が負ける訳が無い』とかその方向の考えでもしてんだろうな。
「じゃあ…その分身をお前が殺すか、操って俺達を殺せば良いじゃねぇか。」
「そうだなぁ…やろうと思えばやれるんだが…アイツからお前らをなるべく殺すなって言われてるもんでなぁ…」
「いや…お前はやらないんじゃなくて、できねぇんだろ?」
「はぁ?」
「『祝福』ってのがどんだけ強かろうが…『魔法』の括りからは逃れられない。つまり何が言いてぇのかっつうとな…」
【彼はそこで言葉を切ると、へカーティアを挑発するかのように人差し指を左右に振りながら言葉を続けた。】
「お前が俺達の分身を殺すのは…『相手を直接的に殺す魔法を使えば、自分も死ぬ』っていうルールに引っかかるんじゃねぇか?ってことさ。」
「さぁ…それはどうかな?俺がお前らを…つまり、オリジナルを直接的な『魔法』で殺すならそのルールには引っかかるかも知れねぇが…俺はオリジナルのコピーを殺すんだぜ?これなら直接的じゃねぇだろ?」
「あぁ…そのコピーが俺達の『魂』じゃ無かったらな。」
「…何の話だ?」
動揺、困惑、焦燥…
「図星だな。」
「さっきから何を…!」
「お前のソレ…『魂に直接作用するタイプ』の能力だろ。ジジィに教わらなかったか?『魂』を直接殺すのも…肉体を直接殺すのと同じか、それ以上にやべぇ事だってな。」
「クソ野郎が…お前ら…一体どこまで知ってやがる!」
「いや?何も?我らがエースであり、お前を1番ビビらせたこのお方がほぼ1から予想して出した答えを俺が代わりに言ったら…お前が採点してくれたってだけだ。100点つけてくれてありがとな、先生?」
『星次さんの『異能』…『隠された真実』で、これから私がお伝えする事の真偽を明らかにして頂けませんか?』
『あぁ…お易い御用だ。それで?何を確かめる?』
『私が皆さんにお伝えした予想に加えて、彼が分身の操作と殺害を行う事は可能なのか、そして、『自壊の鏡像《Doppelgänger》』の効果が…』
「このクソッタレ共が…ッ!」
怒り、焦燥、憎悪、殺意…その他の負の感情。
「おいおい、ガキみてぇな怒り方すんなよ。そんなに悔しかったか?」
「ククッ……んな事知ってどうする!状況は結局変わんねぇんだよ!!お前らの前に立つコピーが消えるか?それともコピーを回避して俺を殺せるのか?お前らの行動は何もかも無意味なんだよ…」
怒り、殺意、憎悪…それと優越に確信。
感情の変化が忙しい野郎だな。
これじゃますますガキだな。
だが…そういう奴ほどボロを出しやすくて助かる。
「俺の鏡にお前らの姿が映り続けてる時点で詰みなんだよ!この雑魚がァ!!」
「じゃあ…その鏡に映りさえしなけりゃいいんだろ?」
「あぁ、やってみるか?隠れる場所もねぇだだっ広い場所で隠れられるってんならなァ!」
『鏡面から私達の姿が消える事で、無効化されるのかを確かめて下さい。』
「詰みだな。」
「おっと…やっとそのスッカスカの脳みそで理解出来たみてぇだな!」
「あぁ、そりゃもちろんスッカスカの脳みそでも理解出来るさ…」
【彼はそういうと、へカーティアに見せつけるように立てていた人差し指を折りたたむと同時に中指を立てながら言った。】
「今のでお前が詰んだってな。」
「はぁ?」
「『骸に咲く花《Corpse Flower》』!」
【ジョゼフィーヌがそう叫ぶと同時に蔓が地面から一瞬で飛び出し、彼等の前面を覆い隠す壁となった。】
「嘘だろッ!?」
【へカーティアの持つ鏡面から彼らの姿が消えると、分身は徐々に色を失いながら形が崩れていき、最終的には黒い影となって消滅した。】
「分身が消えたからって何だ…?そんな壁の後ろから攻撃できんのかよ…?何とか答えてみろよ…この馬鹿がよォ!!」
【彼のその言葉に応えるかのように、音も無く放たれた1つの銀の弾丸が蔓の壁を裂き、彼の目と鼻の中心を貫いた。その瞬間、彼の頭から鮮血と脳の一部が飛び散り、彼の頭は原型がほぼ分からない程に粉々になっていた。】
「貴方に『骸に咲く花《Corpse Flower》』と『深淵の夜《Night of the Abyss》』をお見せするのは初めてでしたね。これが貴方の…私達への問いの答えです。」
【彼女はそう淡々と話しながら、倒れているへカーティアのもとへゆっくり歩いて行った。彼女が『深淵の夜《Night of the Abyss》』を回転させると、『深淵の夜《Night of the Abyss》』が霧散し、『死神の薔薇』が現れた。】
「さようなら。」
【彼女はそういうと、『死神の薔薇』の刃を彼の心臓に突き立てた。すると、彼の胸からは血が大量に吹き出し、『死神の薔薇』に咲いている青い薔薇が赤色に染まった。】
「ターゲットの死亡を確認…戦闘終了です。皆さん!お疲れ様でした!」
【彼女はいつもの明るい声で、蔓の壁の裏にいる3人に戦いの終わりを告げた。】
あとがき
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました!
今回も真剣に悩んでへカーティアとの戦闘を書きましたがお楽しみ頂けたでしょうか?
感想・コメントもお待ちしております!
次回もぜひお楽しみに!