第二部「破滅を照らす者:鏡を映す鏡」その7
目次
第18章「自壊」
第19章「影と実体」
あとがき
第18章「自壊」
「さぁ…楽しい楽しいショータイムだ!ちゃんと驚いてくれよなァ!!」
黒い手鏡…へカーティアの『祝福』、カテゴリーは『魔道具』と推測。
使用方法、『対象を鏡面に収める』と仮定。
効果、攻撃方法は不明。
仮定より、影響は広範囲に及ぶものとする。
遮蔽物は無く、回避は不能。
ならば…!
「はぁッ!」
「えっ?ジョゼフィーヌさん…?」
「いや…黙ってろ。」
【ジョゼフィーヌは『死神の薔薇』を取り出すと同時に、全力でへカーティアに向けて『死神の薔薇』を投げた。】
「『魔武具』か…だ・が!この距離だぜ?10mくらいの距離がありゃあ…」
【彼女が投げた『死神の薔薇』の刃はへカーティアを切り裂くことは無く、彼の手前に落ちた。】
「そんな大振りなモンが届くわけねぇだろ!さて、準備は出来たぜ…」
確かに『死神の薔薇』を遠距離の攻撃手段として用いた投擲なら、結果としては最悪の一言に尽きるだろう。
だが…私にとっては完璧な結果だ!
「『影の霧《Trans Figuration》』!」
【彼女がそう呟くと同時に『死神の薔薇』と彼女の位置が入れ替わった。】
「は?」
目標との距離は約4m、『死神の薔薇』を再顕現して首を切り落とすのに必要な時間は約2秒…!
「戻れ!」
【彼女が走りながらそう言うと同時に、『死神の薔薇』は青い薔薇の花びらになって消えた。すると彼女の手の周りにその花びらが集まり、その手を中心に回転しながら宙を舞うと、一瞬にして『死神の薔薇』が現れた。】
このまま『死神の薔薇』を振り抜けば…首を落とせる!
「ハッ…」
へカーティアが笑った?
いや…あの笑い方と声は…勝ちを確信した者の嘲笑の声だ…!
何かが…来るッ!
だがその前に…
「貴方の首を頂きます!」
【彼女は助走のスピードを落とさずに、両手で握り締めた『死神の薔薇』を後ろから前へと、彼の首を目掛けて全力で振り抜こうとした。】
「『自壊の鏡像《Doppelgänger》』!」
【へカーティアがそう叫ぶと同時に、彼の前面の地面に4つの円形の影が現れた。するとその影は突然、噴水の様に勢い良く立ち上り円柱の様になると、それは人の形へと変形した。】
「はぁ!?」
【ジョゼフィーヌとへカーティアの間の地面で燻るように、そして不安定に蠢く影を除いて。】
何が起きているか分からないが…
今の反応からして、私と彼の間にある影がイレギュラーな動きをしているのは確実だ!
そのまま刃を首に!
「やめろジョゼフィーヌ!その鎌を消して下がれ!!」
【星次がそう叫ぶと、ジョゼフィーヌとへカーティアの間にあった影が突然、他の影と同じ様に動き出して人の形へと変形した。それはとても精巧で、まるで本物の人間かと勘違いしてしまう程に細部まで忠実に人間の特徴が再現されていた。そして彼女は、突然目の前に現れた人形と目が合った。】
「なッ…!?」
ありえない…この世でこんな事が起きるはずが無い!
あれは…あの人間は…!
私だ…ッ!
第19章「影と実体」
「ハッハハハハハ!いやぁ…本当に予想外だったぜ…一瞬で距離詰めてくるわ…お前の影の実体化だけなぜか遅れるわ…本当はもうちょい早く飛び出てくれるはずだったんだが…」
「あ…ああ…あれ…あれって…!?」
「鏡の前に立ってるみたいっすね。」
マジで何が起きてやがるんだ?
あの影だった奴らは…今じゃ間違いなく俺達じゃねぇか…!
顔、体、髪型、立ち方、服、肌の色、何もかも同じ…
完璧なコピーだ!
「あ〜…にしても危ねぇところだったなぁ!俺も…お前もよぉ!!まさか…ギリギリで『魔武具』の退去が間に合うとはなぁ…もうちょい退去が遅かったら…俺よりも先にテメェの首が飛んでたんじゃねぇか?まぁ実の所…助かったのは俺だがな…」
【へカーティアの首筋には線のように細い傷があり、そこから血が流れ出ていた。】
「あと1~2歩踏み込まれてたら死んでたな…」
「くッ…!」
【自分の分身の前に膝を着いてしゃがみこんでいたジョゼフィーヌは立ち上がると同時に、『死神の薔薇』をもう一度取り出しながら、2回のバックステップで星次達の元へと後退した。】
「はぁ…?何だよその脚力は…やっぱりお前…いや、魂でも見りゃあ1発で分かるか。どれどれ…?」
【へカーティアはそう言いながら黒い手鏡の中を覗き込んだ。】
「へぇ〜…お前…やっぱりバケモンだな。それも文字通りの…いや…混ざり物っつった方が正しいのか…?通りでコピーが遅れた訳だ…」
「いったい何の話を…ッ!」
「おいおい!自分の体のことは自分がよ〜く分かんだろ?まぁ…これに関してはテメェも分かってねえんだろうがな。細けぇ事はまだ分かんねぇが、一つだけ言えることは…」
【彼はそこで言葉を切ると、嘲笑うかのような声でまた話を続けた。】
「お・ま・え・は…『100%純粋な人間じゃねぇ』って事さ!お前は自分を人間だと思い込んでる怪物と変わんねぇよ!アハハハハハ!いやぁ…滑稽だなァ!」
「私が人外…?私がそんなふざけた事を信じるとでも?」
「いや?大真面目さ。魂の状態、淡く光り続けてる目、異常な身体能力などなどのデータに基づいた完璧な検査結果です…人間になろうとするのは諦めましょう!」
魂の状態…?
何言ってやがるんだ?このイカレたモブ野郎は…
「そもそも…お前が人間だったとしてもまともじゃねぇよ。それに何だ?その魂の残滓の数は!首切り役人でもそこまで血濡れてねぇぞ…?何千何百は下らねぇ数の人間殺してる奴がまともな人間?ますます笑えてくるな!お前はただの…いや!イカれた殺人鬼か死神だな!その大鎌…よぉく似合ってるぜ!!」
何千何百の人間を殺してる…?
いや…コイツはただの見習いの傭兵だ。
自分の命を捨ててまで…死に際でも誰かを助ける様な奴がイカれた殺人鬼な訳がねぇだろ…!
「ジョゼフィーヌさんを…」
「は?何だって?」
「ジョゼフィーヌさんをッ!馬鹿にするな!!」
【流輝はそう叫ぶと、手に持っていた『彗星』を上空に投げた。】
「行け、『彗星』!あいつに思いっきり突き刺され!!」
「おっと!怖いなぁ…キャー!助けてぇ!!お坊ちゃまがかんしゃく起こして投げたナイフで殺されちゃう〜!!」
【流輝が投げた『彗星』が彼の怒りに共鳴したのか、かつて無い程のスピードでへカーティアの胴体を目掛けて斜めに急降下した。】
「…な〜んちゃって!」
「え?」
【そのままへカーティアに突き刺さると思われていた『彗星』は、突然、金属同士がぶつかり合った様な甲高い音が鳴り響くと共に、空中で弾かれるようにして地面に落ちた。】
「な…何で…」
「嘘だろ…?」
「星次さん…気づきましたか!?」
「あぁ…!」
「何が起きてたんすか?」
「まさか…バリアとか透明な壁とか…!?」
「そんなもんじゃねぇ…今のは…『お前の分身が投げたナイフが完全に同じ軌道で飛んで、お前が投げたナイフとぶつかった』んだよ…!」
「はい…!その様子を…私も見ていました!」
「確かにあっちの方にも流輝君のナイフと同じのが落ちてるっすね。」
「大正解!じゃあ、ついでにもう1つ問題を出してやるよ…」
【へカーティアはそういうと、彼等の分身を指さして話した。】
「この分身をぶち殺したら…どうなるでしょうか!」
「まさか…!」
「どうした?」
「皆さん…私が『死神の薔薇』を退去させた際に彼が言っていた言葉を思い出して下さい!」
『あ〜…にしても危ねぇところだったなぁ!俺も…お前もよぉ!!まさか…ギリギリで『魔武具』の退去が間に合うとはなぁ…もうちょい退去が遅かったら…俺よりも先にテメェの首が飛んでたんじゃねぇか?』
確かこう言ってたな…
いや…何かが引っかかる…
『俺もお前も…』
『俺よりも先にテメェの首が…』
「マジかよ…!」
「おっと!気づけたみてぇだな!さて…答えは?」
「その分身を殺したら…俺達も死ぬんだろ?」
「ピンポーン!大当たりだ!だから無駄な抵抗はやめて降参しろ。レイは良い奴だからな、大人しく降参したら…お茶でもしながら少し話でもしてテメェらの家に帰してくれるだろうよ。だが…まだやるってんなら…誰かが死ぬかもな?」
「あぁ…だろうな。その誰かの中にお前も含まれてるんだ。もちろん…確実に死ぬ奴が居るに決まってる。」
「良いねぇ…お前、気に入ったよ…!」
「あぁ、俺もお前の事が気に入ったよ…あんたもそうだろ?」
「はい…そうですね。」
「アイツみてぇに頭がお粗末で、明らかにカモに出来そうなふざけたクズ野郎ほど…やり易いやつは居ねぇしな。」
「あの方の様に礼儀知らずで、他人を侮辱する様な方ほど…心を痛めることなく容易に無力化できますので。」
あとがき
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!
今回はへカーティアの能力が初めて判明し、戦いが始まる前までの内容でした!
本来は戦闘の部分まで書きたかったのですが、そうするととても長くなってしまうので次回の方へと分けました!
感想・コメントもお待ちしております!
それでは次回をお楽しみに!