第二部「破滅を照らす者:魂を映す者」その6
目次
第15章「完全勝利《Perfect Game》」その1
第16章「完全勝利《Perfect Game》」その2
第17章「陽炎の暗幕」
あとがき
第15章「完全勝利《Perfect Game》」その1
「なぁ…」
「何だ?」
「コーヒーでも飲むか?アイツら全然戻ってこねぇしよ。」
「そうだな…ついでに他の奴らとへカーティア様も……あ?何だ…?今なんか飛ばなかったか?」
「は?ただの鳥か何か…!?いや、空中で浮いて…!!」
「お前ら!ライフルでアレ撃ち落とせ!!」
「は?あれって…」
【教団員が宙に浮く謎の物体に注目していると、突然、それは太陽の如く眩い光を放った。】
「うわぁぁあッ!?」
「クソっ!魔法だ!魔法使いが相手にも居るぞ!!」
「目が…あぁッ!何も見えねぇ!!」
「どこだ!どこから来やがる!!」
『まず、αチームに私と星次さんが、βチームには流輝さんと春喜さんで別れて行動します。αチームは左側から、βチームは正面からです!その理由と詳しい作戦内容は…まず2つのチームに別れる理由から話しましょう!』
『お願いするっす。』
『まず、2つに別れることでアサルトライフルによる射撃での全滅を避けられるうえに、敵の判断力を乱しながら分担して効率的に敵を無力化できるからです!』
『なるほどな…それで作戦の手順は?』
『先ずは、流輝さんに『彗星』を拠点の中心地に投げてもらい、上空で『星影』を発動してもらいます。そして、それと同時にαチームが左側から奇襲をしかけ、アサルトライフルを装備した敵兵を無力化します。』
『分かりました!』
『そして星次さんには突撃の際に、私の正面に立って頂けると…』
『何でだ?』
『それは…』
「『影の霧《Trans Figuration》』!」
「敵襲だ!おい、お前も構えろ!見えなくても適当に撃っちまえば…うぐぇッ!?」
「残念だったな…俺はお前の仲間じゃねぇよ。」
『私の異能、『影の霧《Trans Figuration》』で敵と星次さんの位置を入れ替え、入れ替わった敵の武装を解除し、後方から絞め落として気絶させる為です!』
『なるほどな…しかも、コイツらがまだ2人で並んでたら…俺は入れ替わった後にもう片方をぶっ飛ばすだけで済む…最高じゃねぇか…!』
「星次さん!こちらは無力化に成功しました!」
「あぁ、俺もだ!だがあと一人が見つからねぇ!」
「では1度βチームと合流しましょう!」
「OKだ!」
第16章「完全勝利《Perfect Game》」その2
「それでは…作戦通りに行きましょう!流輝さん、お願いします!」
「はい!それじゃあ…行けッ!『彗星』!」
【流輝はそういうと、手に持っていた『彗星』を敵拠点の中心を目掛けて投げた。すると、『彗星』は魔法の境界線に大きな波紋を広げた。】
後は…流石にクソ雑魚もやし君の腕力だけじゃ落ちちゃうから『霊操《Poltergeist》』で浮かしちゃおう!
魔法って最高!
ムキムキなお方からヒョロヒョロの皆さんの味方!
魔力と知識さえあればこの通りッ…てね!
「うーん…見えないから分かんないけど…これくらいかなぁ…?」
「では、皆さんは流輝さんが『星影』を発動する際には下を向いて下さいね!では私のカウントダウンで『星影』を発動して下さい!」
「はい!」
「3…2…1!」
今だッ!
「『星影』ッ!」
【彼がそう叫ぶと、『彗星』から放たれた光が境界線を通過した。】
「行きましょう!」
「あぁ!俺はあんたの前だろ?」
「はい!」
「ジョゼさん達が行っちゃったっすね。」
「上手くいくと良いんですけど…」
…ッてか上手くいくか!
戦闘のプロのジョゼフィーヌさんが居るし!
あと星次さんも強いし!
春喜さんは俺と一緒に来てくれるし!
後は…2人が境界線に入ってから3秒後に突撃…
うん!怖いッ!!泣きたいッ!!!
「2人が中に入ったっすね。」
「3…2…1…」
「行くっすよ。」
「はい!」
【彼等はそういうと、敵拠点に向かって全力で走り出した。】
「あ…『彗星』を取り忘れてた…戻れ!」
【彼がそう叫ぶと同時に、彼の手元に光が集まると、一瞬で『彗星』に変化した。】
いやぁ…恥ずかしいッ!
あと危なかった!
あっ!もう境界線が目の前に!
マップ通りにあの人達が居たら…入ってすぐに…
戦いが…は…始まっちゃう…
「構えるっすよ。」
「は…はい!」
【彼等は『魔武具』を構えて戦場へと足を踏み入れた。するとそこには、焚き火の前にハンドガンを持った教団員とナイフを持った教団員が立っていた。】
「おーい!何があった!?」
「おめぇは馬鹿か!アイツらが敵襲って言ってたじゃねぇか!!」
「クソッ…目がまだちゃんと見えねぇってのにどうすりゃいいってんだ!?あっちの方に適当にぶっぱなすか!」
2人ともジョゼフィーヌさんと星次さんの方を向いてる…
しかも見えてないこともありがたく自己申告してくれた!
「春喜さん!ナイフの方を!!」
「こっちっすよ。」
「はぁ!?左から…」
【ナイフを持った教団員が振り替えった瞬間に、春喜は『先立つ者《Predecessor》』で側頭部を殴りつけた。すると、教団員は勢い良く左側に倒れて気絶した。】
うっわ…痛そう…!
…ってあれ?
形が変わってるし…棘が無くなってる!?
「クソッ!」
【ハンドガンを持った教団員は『星影』による目眩しから完全に立ち直り、すぐ近くまで迫っている流輝ではなく、『先立つ者《Predecessor》』を振り上げて無防備になった春喜に銃口を向けた。】
あっ!まずい!
そんなこと考えてる暇なんて無いッ!!
「うぉおぉぉぉああぁああ!ごぉめぇんなさぁぁあぁぁあいッ!!」
【流輝は『彗星』を逆手に持つと、柄の部分で教団員の側頭部を殴りつけた。すると、教団員は中型のテントの方へと飛んでいき、そのままテントを崩しながら気絶した。】
「ホームランっすね。」
「うわぁぁあ!焦って力加減ミスったァ!?星次さんのアレの効果凄すぎるって!!」
『じゃあ少し時間をくれ…コイツを使う。それじゃあ…戦の前に神頼みといこうか。別に信じちゃいねぇけどな。』
『ゲームの種類はどれにするんですか?』
『HIGH & LOWだ。』
『なるほど!それなら出目によっては成功確率がとても上がりますし、至って簡単なのでとても良いですね!』
『あんたはギャンブルもいけるのか?』
『そうですね…数回程度ですが、部隊の皆さんが暇つぶしにプレイしている際に私もお誘い頂きましたので!』
『それで…何回勝ったんだ?』
『5回中4回ですね!』
『強っよ!?』
『お前は本当になんでも出来るな…機会が有れば…あんたとも色んなヤツをやるのも面白そうだ。』
『ふふっ…そうですね!皆さんと遊ぶのも楽しそうです!』
『うーん…俺、勝てる気しないんですけど…』
『じゃあ試しにお前がカードを引いてみろ。』
『え?』
『お前の運と実力を測る…ってのは建前だが、アイツの負担を減らすためのゲームだ。』
『僕っすか?』
『相手は目が眩んでるとはいえ…片方をあんたがぶっ飛ばしてもだ。下手すりゃ片方がいきなり刺してきたり撃ってきたりするかもしれねぇ。だから…できるんなら2人同時に殴り倒しゃあ早ぇだろ?』
『あ…確かに…』
『だからお前が勝てば、1発殴るだけで相手がぶっ飛ぶ力をお前は貰える。だが負けりゃあ…少しの間はお前の攻撃力は完璧に無くなっちまう。まぁ…負けたところでお前は力が無さすぎてほぼ変わんねぇだろ。』
『酷い言われようだけど事実なのが辛い!』
『星次さんの『天国と地獄《Eden & Hell》』の能力は…自分自身だけでなく、第三者にも適用されるのですか?』
『あぁ。便利だろ?ほら…どうする?お前が嫌なら無理強いはしねぇが…』
『とりあえずやってみます!デメリットはあっても無い様な物だし!』
でも…やっぱり引いてて損は無かった!
何か分からないけど勝っちゃったし!
「お前らのとこも終わってるみてぇだなぁー!」
「皆さーん!大丈夫ですかー?」
「はい!俺と春喜さんは大丈夫ですよ!」
「大丈夫っすよ。あと流輝君も何もされてなかったんで大丈夫だと思うっす。」
あれ?
何で同じ言葉繰り返してるんだろう?
「あの…ところで、流輝さんはどちらに居らっしゃるのでしょうか?」
「えっ!?俺は目の前に…」
「あ〜…おい、どうせ近くに居るか目の前に居てわめいてるんだろ?さっさとお前の『異能』を止めろ!」
「あっ!」
『彗星』投げる前から『幻影』使いっぱなしなの忘れてた!
第17章「陽炎の暗幕」
「お前…ぷッ…そ…それはッ…クククッ…」
「仕方ないじゃないですかぁ!なんか独り言が奇跡的に噛み合っちゃったし…焦ってあの人を思いっきり殴ったらあのテントのところまでピューンッ!って飛んでパニックになっちゃったんですから!!」
「まぁ…アイツの言う事聞いてたお陰で上手いこといったじゃねぇか。」
『やった!勝ちましたよ!』
『よし…これで上手くいきそうだな。相手ぶん殴る時は頭の横か顎狙えよ?』
『は…はい!でもちょっと怖いなぁ…』
『では、ここで1つ流輝さんに提案があります!』
『え?提案ですか?』
『流輝さんの能力、『幻影』を使用してより奇襲を確実にするのはいかがでしょうか?そうすることで相手の方達は春喜さんのみに意識を集中し、1人だけで立ち向かってくる春喜さんを見て油断するはずです!』
『良いですね!』
「ところで…お2人が接敵した敵兵は2人のみですか?」
「そうっすね。」
「なるほど…皆さん!構えて下さい!」
「えっ!?」
私達が山道で接敵した教団員の数は8人…その内の1人を尋問して得た敵兵に関する情報によると、警備部隊の総人数はへカーティアを含めた13人。
さらに…尋問によって得た情報と偵察の際に得た情報を照合して考えると、この拠点に居た敵兵は確実に5人の筈だが…その内の1人は居場所が不明。
その1人が拠点に潜伏していると仮定して考え、山道と拠点に居た敵兵の数を合計すると13人。
そして…私達が無力化した敵兵の数は12人…
だが、その12人の中にへカーティアは存在していなかった…!
つまり…居場所が分からない最後の一人は!
「この拠点に居る教団員は5人ですが、私達αチームとβチームが無力化したのは2人…合計で4人…つまり…残り1人のへカーティアがこの拠点のどこかに潜伏しているはずです!」
「で…でも、確かに俺がここに偵察しに行った時は5人でしたけど…それっぽい人は…」
「あと隠れる意味もあんまり分かんないっすね。」
「いや…確かあの爺さんは…へカーティアって奴は『外見的な特徴は、シルバーリングのネックレスを掛けていることくらいで、それ以外は普通の教団員が来ている格好と完全に一緒だ。』ってたはずだ。だから…ネックレスにもよるが、お前が見落としちまう可能性は十分ある。」
「はっ…確かに!」
「そして…教団員とロキの化身は世界各地に分散しており、城を守るための兵力は少なく、このような場所に兵力を割くことは避けるはずです。なので、援軍を要請したり退却するのは非合理的です。」
それに…教団員は皆が教祖に忠誠を誓っており、『真名の支配』を受けている可能性が非常に高い。
ならば、自分の命惜しさに隠れ続けるようなことはしないだろう…
「つまり…へカーティアが潜伏している理由は…私達を迎撃する為です!」
「ご名答!」
「なッ!?」
「うわっ!?」
【彼等が声の聞こえた方を見ると、そこには1人の男が立っていた。その男は首からシルバーリングネックレスを下げ、右手には鏡面が割れた黒い手鏡を持っていた。そして、それ以外の外見はマーリンから聞いた通り、普通の教団員の服とは変わらなかった。】
「だが…気付くのがちょいと遅かったなァ!!」
「お前がへカーティアか!」
遂に…ターゲットの内の一人。
そして…『ロキの化身』の内の一人が私達の目の前に!
ということは…右手に持っている手鏡は恐らく『魔道具』のはずだ!
「これまた正解だ!俺の名前は『ロキの化身』の1人、『へカーティア』。そんな優秀なお前らに敬意を表して…俺がここを殺り合うのに相応しい場所にしてやるよ!お前らはそこで突っ立ってな…!」
【彼がそう言うと同時に、キャンプ場の空間が全体的に揺らめき、歪み始めた。それはまるで真夏のアスファルトや炎に立ち昇る陽炎の様に空間がもやもやと揺らめいた。そしてしばらくすると、すぐそこにあったはずのテントや木の家は跡形もなく消えており、気絶していた教団員も初めから居なかったかのように消えていた。】
「綺麗に片付いたな、お前らにビビってコソコソ隠れながら魔法使った甲斐が有るってもんだ!これでお前達の姿がはっきり映せるぜ…」
【彼はそういうと、右手に持っていた手鏡の鏡面を彼女達に向けた。】
「さぁ…楽しい楽しいショータイムだ!ちゃんと驚いてくれよなァ!!」
あとがき
ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!
今回は主人公チームの能力を活かした完璧な戦いと、へカーティアの初めての登場を書きましたがいかがでしたか?
感想・コメントもお待ちしております!
次回は遂にへカーティア戦になりますので、是非お楽しみに!